113話 掛け軸
「禁属性、だと?」
「まさか……貴方はその魔法を使えるのですか?」
ププとチヨの二人が驚愕の表情を浮かべる。
「え、ええ……というか……」
俺はシャロンとアレスの方に目をやる。
この二人も使えるし、四人中三人がそれを使えるんだよなあ。
「ま、まさか存在していたというのか?」
「あり得ない話ではありません。この神社を設立したというリキューも、使えたと記録が残っております」
「誇張された伝承だと思っていたが……」
なるほど、リキューも使えたらしいのか。
となると異世界人は最初から、禁属性なんてチートみたいな魔法が使えると考えていいのか?
けどそうなるとアレスやシャロンの場合も、転生者って考えになるが、そんな反応はない。
前世の記憶がなくとも魂が異世界出身なら使えるとも考えられるが……確かめる術はない。
俺とリキュー以外にもいれば確証になるが、あいにくそんな話は聞いた事がない。
そもそもリキューなんて存在も初めて知ったからな。
それを前提に考えると、アルカイドで過去に存在したという魔法使いも転生者だったのかもしれないな。
文献もほとんど残っていないらしいから、調べるのは難しいだろう。
「……ところでそいつは誰なんだ?」
「俺の従魔です」
「われは……フィリアじゃ」
フィリアは渋々と言った様子で今の自分の名を名乗った。
ようやく言うことを聞くようになってきたか、いやたった今、勝手に影から飛び出して来たし、そうでもないか。
「魔族を従魔にしているのですか?」
「「「「!?」」」」
チヨの発言に俺を含め、全員が驚愕する。
「魔族、だと!?」
「む、そこの女、キサマは中々見る目があるようじゃな」
「少し黙れ」
「嫌なのじゃ」
やっぱ言うこと聞かねえわコイツ。
「マジで言ってるのか?お前、本当に魔族なのか?」
「そうじゃ。われは⬛︎⬛︎⬛︎なのじゃ」
首輪の効果で真名のところだけノイズがかかる。
危ねえなオイ、こんなところで六魔天将の名を出すんじゃねえ。
「あ?何つった?」
「だからーー」
「すみませんがとある事情でコイツには本名を名乗らせないようにしてるんです。魔族であるのは事実ですが、それ以上は明かせません」
これ以上はマズイと判断し、この話題を終わらせる事にした。
「フィリア、これ以上俺の命令に従えないなら制約を厳しくするぞ」
「はん、その程度造作もーーのじゃああああ!?」
首輪の制約条件をより厳しいものに設定し、その効果で電流がフィリアの全身を駆け巡った。
「ぐぬぅ……」
「さっさと影に戻れ」
そう言うとフィリアはズブズブと俺の影に沈んでいくように消えてった。
「随分と厳しいのだな」
「色々と因縁がありましてね」
「ま、お前がそう言うなら詳しくは聞かんが、ちゃんと手綱は握っとけよ」
万が一があれば俺の責任になる。
本当に、本当に勘弁してくれよ、頼むからさ。
「皆さん、もう少し詳しい話をしたいのでどうぞお上がりください」
そう言ってチヨが俺たちを神社の建物の中へと上げてくれる。
中はやはりというか、前世で見たような本殿といった内装で、非常によく作り込まれており仏像や仏壇が存在して、転生した事を忘れそうになる。
「どうぞお座りください」
チヨにそう言われて、俺たちは畳の上に好きに座る。
そしてチヨは仏像の置いてある方へ向く。
「*€〒×>○*%☆」
チヨが理解できない言語を呟いたと思うと、部屋の中が何かの結界で包まれた。
「念の為に盗聴防止の結界を張りました」
「今の言葉は?」
「代々伝わる呪術の呪文です」
呪術、魔法とは違う何かか。
そんなものまであるなんてな。
「さて、まず先程クーラスさんに見せた掛け軸の写しですが、アレは全てを写したものでありません」
やはり、そうか。
明らかに気になるところで終わっていたからな。
「今、奥に保管してある掛け軸を持って参りますので少しお待ちを」
そう言ってチヨは退室していき、襖を閉めて行った。
リキューとやらは建築士とかだったのかな。
ここまで精巧な造りがされてるなんて、ただの一般人が転生したとは到底思えないぞ。
仏像に関してはこの世界特有の、天使の像になっているがポーズや見た目以外は完全に仏像を連想するものだ。
仏教とかキリスト教なんてものでなく、この世界は天使を信仰しているようだし、間違ってはいない。
あの天使の像は七大天使の誰になるのだろうか。
そんな事を考えているうちにチヨがいくつかの箱を持って戻ってきた。
「まず皆さんに、というよりクーラスさんに見てもらいたいのですが……」
そう言ってチヨが取り出したのは先ほど俺に見せた掛け軸の写し、ではなくその掛け軸本体だった。
そして広げられた掛け軸には先ほど俺が読んだ日本語だけでなく、絵も描かれていた。
何の絵かは分からないが、俺の解釈ではこんな感じだ。
『天使が一人の人間を引き連れ、空からやってくる悪魔の軍団を迎え撃とうとしている』
そんな感じの絵が描かれていた。
そして文字の方は俺が先ほど読んだ文章の続きらしきものが書かれていたが、所々掠れていたり、破れていたりで読めない。
『その穴から他世界の・・・・・が漏・・・・・
目的・・・人間・根・・し・・・・世界を支配す・こと・・・閉じる方法は・・・通常の・・・存在しない・・・・私はどうにか生き残・・・もう一つの方法・・七・天使・・堕・・・・・・六魔・・・・・・・・・・・・・・その力・・・禁属性・・・・無しに・・不・能である・・どうか転移、転生者は・・・・・・後世に伝える。
サウザン=リキュー、改め・・孝太郎』
かろうじで読めたのはこんな感じだ。
内容は大まかであるが想像できる。
俺やリキューといった異世界出身者がこの世界に来たことによって、世界の境界に穴が空いた。
その穴を閉じる方法は通常は存在しない、だが七大天使、六魔天将、禁属性の力を使えば閉じられるかもしれないといったところか?
そしてリキューは災厄でどうにか生き延びたが、後世に現れるだろう転生者にこの事を伝えるためにこれを残した。
そんな感じかな。苗字は分からんがリキューの本名は孝太郎というらしいな。
「これを読まれてどう思いますか?」
「……ところどころが掠れて肝心なところは分からない。だが天使や禁属性を使えば救えるやもしれない、ということだけは分かった」
そう言うとチヨやププの顔色が変わった。
「そうか、それなら一安心……と言いたいところだが、天使サマの力を借りねばならん、というのか……チヨ、神主に至急話をつないでくれ」
「わかりました。皆さんは今日、この後の予定は?」
「あたしはコイツらを他の場所に案内しようと思ってたが、お前らはどうしたい?」
「俺は特に行きたいと思ってる場所はないが……」
俺はシャロン達の方を見る。
「私も特にないかな?」
「私も」
「僕も特に行きたいところはないかな。ププさんに案内してもらって、それについて行ってるだけだし」
アレスの言ってることはもっともだ。
元々右も左も分からない土地で、たまたまププと知り合いになって、ついでに案内してもらってるだけだし。
「分かりました。今日はこのまま神社に滞在ください」
そう言ってチヨは再び部屋を出ていき、神主とやらを呼びに行った。