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異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第二章 スピカ王国編
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105話 重なる不運


『無理ってどういうことだ!?』


『とにかく俺は無理なんだ!』


『何言ってるんだ!』



姿は見えないが、明らかにアレスの様子がおかしかった。何か取り乱しているかのように無理と繰り返す。



『お前一人でも戦えるだろ!?俺は無理だ!絶対に無理だ!』


『だから何で無理なんだ!理由を説明しろ!』



俺はアレスの態度に苛立ち、言葉を荒らげながら説明を要求した。



『俺……泳げねえんだよ』


『……は?』



アレスの言葉に一瞬ピンとこなかった。



『だから、俺は海が苦手なんだよ!ここを動きたくない!』


『……船の上から魔法で支援することも出来ないのか?別に海上に出て戦えとは言ってないぞ』


『できない!』



即答かよ。



『船は割と安全な乗り物だぞ。嵐とかにも耐えられる設計のはずだし、沈まないだろ』


『現に今襲われてるだろ!それで沈んだらどうするんだ!』



全くもって正論である。

まあ確かに船員の反応からしてリヴァイアサンは想定外のような感じみたいだし、下手したら沈むかもな。



『わかったよ。お前もお前でそこでじっとしながら祈ってろ』


『もとよりそのつもりだ』



そう言って《思念会話(テレパシー)》を切る。

まさかアレスがカナヅチだったとは、それで部屋から出たくないとか言っていたのか。


とりあえず、さっさとリヴァイアサンを片付けるぞ。でないとせっかくの旅行が台無しになる。






「でりゃああああ!!」



クーラスがアレスと《思念会話(テレパシー)》を介して会話をしている最中、サエモンは剣をひたすらに振り斬撃を飛ばし続ける。



「グルオオオオ!!」


「くっ、全然効かない!」


「なんで、当たらないの!?」


「奴は非常に硬い鱗を持つ上に、海では最速といわれる魔物だ。生半可な攻撃は通らないんだ」



斬撃はリヴァイアサンに命中してもかすり傷にもならなかった。


現在、リヴァイアサンと戦闘をしているのはサエモンだけで、シャロンとアクリーナは魔法を当てようと試みるも、ほとんどが避けられる上に当たっても傷一つつかなかった。


そしてその他のほとんどの冒険者や船員たちはその様子を傍観していたり、祈ったり、絶望に打ちひしがれていた。



「グルアアアアア!!」



そのときリヴァイアサンの様子が一変した。

リヴァイアサンはサエモンたちに向けて大きく口を開いた。



「くっ!」



とっさに防御態勢をとるサエモン。しかしその動作よりも早く、リヴァイアサンは船を破壊する威力のブレスを放った。



「食らいやがれ!!」



ドドドォォォ!


ブレスが船に到達する瞬間、サエモンの横を巨大な落雷がかすめリヴァイアサンのブレスと激突したのち、打ち破りリヴァイアサンの口の中へと命中した。





「グルアアアアア!!」


「へ?あ……」


「大丈夫ですか?」


「クーラス!」



俺はサエモンにそう声をかけながら彼の横まで歩いて行く。



「い、今のは君がやったのか?」


「ああ。初撃が遅れたが、船が破壊されずに済んでよかった」


「クーラス、アレスはどうしたの?」


「アイツは無理だ、ここは俺たちだけで倒そう」



リヴァイアサンは俺の攻撃で苦しんでいるようだった。なんせ自ら攻撃を放った箇所に特大のモノをブチ込んだからな、ダメージはデカいだろう。


だがこの程度で致命傷には当然至らない。すぐにでも反撃をしてくるだろう。


そんな暇は与えない!



「もう一発だ!」



俺は再び膨大な魔力を集め、特大な落雷をリヴァイアサンの口元を目掛けて放つ。



ドドドォォォン!


「グギャアアア!!」



よし、今度は手応えあったぞ。さっきと比べてかなり苦しんでいるようだ。このまま一気に畳み掛けるぞ。


リヴァイアサンは二度の攻撃を受け、動きがかなり鈍くなっていた。先ほどまで攻撃的な動きを見せていたが、今はこちらを警戒しているようにこちらを睨んでいる。


三発目を放とうと構えた瞬間、船に大きな衝撃が走った。



ドドォォン!!


「「「うわあああああああ!!」」」



俺やシャロンたちを含め、船上にいた誰もが何が起こったのかわからなかった。


目の前のリヴァイアサンは一切、攻撃行動を取ろうとしていなかった。


では一体何が起きたのか。


俺は後ろを振り向くと、何やら白い触手のようなものが数本伸びているのが見え、そのうちの一本がマストに絡み付いた。



「うわあああ!」


「船が沈むぅぅぅ!!」


「落ちるううう!」



マストに絡み付いた触手のせいで船は大きく傾き、甲板にいたほとんどの人間はそちらへ滑り落ちて行った。



「きゃああああ!」


「シャロン!」



俺は咄嗟に手すりに捕まり、滑り落ちそうになったシャロンの手を掴んだ。



「大丈夫か?」


「う、うん……アクリーナは!?」


「私も無事よ」



アクリーナもまた手すりになんとか捕まって滑り落ちるのを耐えていた。



「くっ、なんでこんな時に奴まで……!」



サエモンは剣を甲板に突き立て、それに捕まりながら滑り落ちるのを耐えていた。



「奴ってなんですか?」


「アレはクラーケンだ。奴もまた南方海域にしか生息していないはずの魔物のはずなんだがね。触手の長さからして、おそらくあのリヴァイアサンよりも大きいんじゃないか?」



クラーケン、またも前世で聞き覚えのある海の怪物の名前だ。こんなところで神話級の化け物に二体も遭遇するとは、不運としか言いようがない。


このままでは船はいずれ破壊される。リヴァイアサンだけでも厳しいのに、その上クラーケンが出てくるとは、一体どうすればいい!?



「グルオオオオ!!」


「ま、マズい!」



俺たちの様子を好機と見たのか、リヴァイアサンは再びブレスを放とうとしてきた。



「グルアア!?」


「キュオオオオ!!」



するとクラーケンの触手がリヴァイアサンの首元に巻きつき、そのまま絞め上げた。



「奴らは天敵同士でね、互いに捕食対象になる魔物なんだ」


てことはあんな化け物が南方の海域にウヨウヨ生息してるってことか?絶対に行ってたまるか。


俺たちは手すりに捕まったまま何もできず。海上で繰り広げられる大海獣バトルを眺めていた。



「キュオオオオ!!」


「グギャアアア!!」



ドガァァァァン!


首を絞められ苦しそうに暴れるリヴァイアサンが船に激突した。その衝撃で船上にいた何人かが海上へと放り出されてしまった。



「うわああああ!」


「た、助けっ……!」



このままだと二体が戦っているだけで船が破壊されてしまう。だが俺たちは文字通り手も足も出ない、どうすれば……


そのとき一つの名案が浮かんだ。



「……そうだ!アクリーナ、ステラだ!ステラを呼び出すんだ!」



ステラはセイレーンと呼ばれる種族だ。彼女なら海を自由に動けるだろうし、俺たちより戦えるかもしれない。



「あ、そうね!『我が前に馳せ参じよ、ステラ』!」



アクリーナはそう叫ぶと、海上にステラがポンと現れた。



「呼ばれて飛び出てーーがぼぼぼ!」



この間と違って海上であったため、現れた瞬間ボチャンと海の中へと落ちた。



「ぷはっ、ちょっと!いきなり水の中に呼び出すなんてーー」


「ステラ!アイツらをどうにかして!」


「アイツらってーーうぇ!?」



ステラは巨大な二つの姿を見て驚いた。


当然だ。大きさが違いすぎる、あんな巨大な魔物に対し小さな人魚一体で何ができるんだと思った。


提案した俺が言うのはアレだが、無謀としか言いようがない。



「ステラ、お願い!」


「……まさかあたしの初戦闘がこれなんてねぇ」



呆然としていたステラはすぐに冷静になり、自信を持ったようにそう呟く。



「まさか、いけるのか?」


「あたしを誰だと思ってるの?あたしはセイレーン、星海の歌姫と呼ばれる種族であると同時にーー」



ステラはそこで言葉を切って、溜めるように言う。



「ーー海の悪魔とも呼ばれる、種族なのよ」



ステラはリヴァイアサンとクラーケンを睨みつけ、物々しい雰囲気を放っていた。

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