102話 冒険者時代の二人
「魔族が!?」
「ああ、俺たちは無事だったが結構な死傷者が出たらしい」
「それでも、よく倒せたね……」
「まあな、禁属性を使えるのもあったが、何より父さんたちからアレだけシゴーー指導されてたからな」
少し言葉に恨み節を込めたつもりでラルスの方を見る。
「はっはっは、流石は俺の息子だ!魔族なんぞ相手にもならないか!」
ラルスは夜なのにも関わらず声高にそう自慢するように言う。ま、実際しごかれてなきゃ死んでいたかもしれないしな。
六魔天将のサタン相手には死にかけたしな。今じゃそんな面影もなくシーナの着せ替え人形と化してるが。
こうして男三人で会話をしている最中にも向こうからフィリアやステラの悲鳴に近い叫び声が聞こえてくる。
「それから学園の校舎が建て直されるまでシエル学園ってところに通うことになったんだよね」
「シエル学園?」
ラルスがその単語に反応する。
「うん、王都の三大学園の一つ、魔法に力を入れてる学園だよ。母さんが通ってたんだっけ?」
昔、冒険者の話を聞いていたときにシーナが学生時代に通っていたと語っていた。首席で合格し、卒業して冒険者になったと。ちなみにラルスは剣術が主なグラディウス学園の次席だったらしい。
「……なぁクーラス、その学園でクロエという人族の教師に会ったりはしたか?」
「ううん、会ったことはないよ」
というかシエル学園に来てからゴットハルトを除いてエルフの教師しか見たことない。亜人が多いしな、あそこ。
アレ?そういえばクロエってどこかで聞いたような……
「……もしかして父さんたちの昔のパーティメンバーだった人?」
「そうそう!そいつだよ、冒険者を引退した後そこから声がかかって教師になったって聞いて以来、会っていなくてさ、元気にしてるかなと思ってな」
クロエ=シュリツィア
ギルドにて見た、プレートに刻まれていたラルスたちのパーティメンバーの一人。会ったことはないが、あれだけの功績を残しているパーティなんだ。相当な実力の持ち主だろう。
「そういえばギルドで父さんたちの名前を見たよ。すごい功績だったね」
「いやぁ、確かに傍目から見りゃそうかもしれんが、実際は母さんに手柄を横取りされてなあ……」
そういえば以前にそんなこと言ってたな。どちらにしても高ランクなのだから、実力は折り紙付きだろう。
「ねえ、父さんたちの冒険者時代の話、もっと聞かせてよ」
「僕も聞きたいな。兄さんの話も面白いけど、父さんたちの話も聞かせてほしい」
「よし、いいぞ!何から聞きたい?」
「せっかくだし、ギルドに飾られてた功績のやつを聞きたい」
「よーし、それならまずはドラゴンの話だな!」
意気揚々とラルスは語り出す。ドラゴンの話というと、双龍フレアバランシュドラゴンの件だな。
「クーラスは知ってるかもしれんが、そいつは首が二つあるドラゴンで、相反する属性のブレスを吐くやつでなーー」
今夜はまだまだ眠れそうにない。
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女子部屋side
「ふふふー、ステラちゃん相変わらず可愛いわねぇ〜。フィリアちゃんも、似合うわぁ〜!」
「いい加減、離しなさいよぉ!」
「のじゃあ!妙なもん着せるでない!」
「あ、あはは……」
フィリアはシーナの手によって、昔ステラに着せていたメイド服を着せられていた。それも露出度が高く、際どいところが見え隠れしている。
「これを着せて戦闘に参加させてたんですか……」
「そうよ〜、ホシ……ステラちゃんは海での戦いは大活躍だったのよ」
シーナは昔、冒険者時代でのステラの活躍を語る。だが、その内容が全て風によってスカートがめくれパンツが丸見えになったとか、貝殻が流されポロリをしたとか猥談及びステラの黒歴史発表会であった。
「他にもねぇ〜」
「もうやめなさいよぉ!!」
ステラは真っ赤になって激昂する。だがシーナの口は止まらず、次から次へと恥ずかしい話が暴露されていった。
「あの……シーナさん」
「何かしら、アクリーナちゃん?」
「シーナさんは、冒険者時代は主にどんな活動をしていたのですか?」
いい加減にステラのことが可哀想だと思ったアクリーナは話題を逸らそうとシーナ本人の話を尋ねる。
「そうねぇ、学園を卒業してすぐにギルドに登録したら、なぜかいきなりCランクでスタートしたわね」
「「し、Cランク!?」」
シャロンとアクリーナは同時に声を上げる。驚くのも無理はない、冒険者においてCランクというのはベテランレベルなのである。
「え、昇級試験はあったんですか?」
「なかったわね。あ、でも卒業試験で私だけ内容が他の子よりも難しかったらしいわ」
「らしい?」
「ええ、終わったあとに他の子に聞いてみたら、そんな内容は無かったそうなのよ」
このときの二人は同じことを考えていた。
この人の実力は計り知れないと、この人あってクーラスのような実力者が生まれたのだと。
「それで、不思議に思って先生方に聞いてみたら、そんなはずはないとかはぐらかしてきたのよね。今思えば私は当時から強くて『美しかった』みたいねぇ〜」
美しかったのところを強調し、自慢するようにシーナは言う。美しいというのはまあ間違ってはいないとして、自分で言うのはどうなのだろうと全員が考えていた。
「自分で美しいって言うのか、魔法で肌を保っているだけじゃろこの年増おん……のじゃあああああああ!?」
「なんですってぇ?」
この場の誰もが思っていたことを、余計な一言をつけてフィリアは口に出した。それによりシーナは軽く怒り、初級魔法の電撃を放った。
「のじゃあ……、初級魔法でこの威力……流石はあやつの母親じゃあ……」
そう言ってフィリアは気を失った。
「あ、あはは……」
「そ、そこまで実力があるのなら、魔法師団に入らなかったんですか?」
「確かに在学中に何度も声がかかったわね。でも私は組織なんかに縛られるより、自由に生活したかったから断ってたわ」
魔法師団も騎士団も公務員であるため、収入は冒険者より安定している。そのため志望する者も少なくはない。だが国の組織であるが故に、王族の護衛など重要な任務を任されるため優秀な者しか入ることはできない。
「それで冒険者になって、最初はステラちゃんやクロエちゃんと一緒に様々な依頼をこなしたわ」
「クロエ?」
「ええ、学園生のときからライバルであり友人のクロエちゃん。入学して直ぐ何かと勝負をしかけてきたのだけれど、いつも私が圧勝しなわね。ちなみに彼女は次席で入学して次席で卒業したわ」
「そういえばその名前、ギルドで見なかった?」
シャロンが思い出したかのようにアクリーナへ問いかける。
「確かギルドのプレートに書いてあったわね」
「あら、二人ともそれを知ってるのね。よーし、せっかくだからその辺りを中心に今夜は語っていくわよー」
どちらの部屋も、この日はギルドに飾られていた功績に関する話で夜が更けていった。