第8話気分はモンモン初めての夜?
ヌメヌメと暖かい。
普通なら、ぬくぬく、と表現するところだが、身体中がヌメヌメする。
ふと気がつくと、身体に着ているはずの衣服の感触がない。
よく気がつくと、衣服だけでなく、下着もつけていないようだ。
どういう事?
私はふと思い出してみた。
身体全体が、ほんわり暖かく、ぬるぬるとした液体が身体をなめ回す。
これって何だろう?
私って、どうしたんだろう?
ふと思い出した。
ふとピンと来た。
私は、そう!
私好みのロン毛のイケメンの宇宙人?に胸ぐらをつかまれ、制服をはぎとられ、そして身につけている物すべてはぎとられた!
下着も、ブラジャーも、そしてヘルメットも!
やられた?
やられちゃった?
私は自分の記憶をよみめぐらせた。
私は自分の記憶を思い出していた。
自分の身体に問いかける。
どう?
どうよ?
自分自身の身体の記憶によると、そのような事は身に覚えはない。
大切な部分の変な圧迫感はない。
大丈夫だったのかなあ。
私は無傷だったのかなあ。
そう一人、必死に思考していると、私の頭の中にあの声が聞こえてきた。
「目をさましたようだね。気分は、どう?」
その声の主は、ハネをパタパタさせて飛んでいた、あの「ヘイハチ」の声であった。
だが、自分の目の前は真っ暗だ。
ヘイハチのパタパタと飛ぶ、羽根の音も聞こえない。
「そう、ゆっくり。ゆっくりとね、痛くはないからね。」
どうやら私は目を閉じていたらしい。
寝ていたのか。
でも、どうせだったら、すべてが寝ていて見ている夢であって欲しい。
だが、どうやらそれは、夢ではなかったようだ。
私はその声につられて、ゆっくりと、目を開けてみた。
次の瞬間、驚いた。
黄緑色の光と、謎のヌメヌメした液体が、私の目の中に入ってきたからだ。
「いたっ、いたいっ!」
「大丈夫。初めてのときは、ちょっと痛いかもしれないけれど、だんだん身体が慣れてくるよ。最初はみんなそうなんだ。気持ちいいだろう?」
私はヘイハチのその声が、だんだん不愉快になってきた。
気がつくと私は何かの中にスッポリと入っているようであった。
最初は、自分の身体にポリエチレンか革製かなにかのスーツがタイトに着せられている、と思っていた。
だが、それは違ったようだ。
何かカプセルかのような、少し大きい着ぐるみの中に自分がスッポリと入っている事に気がついた。
だが、私の身体は「裸」だ。カプセルのようなスーツと裸の身体の間に、黄緑色のドロドロした液体がヌメヌメと動き回っている。
不快だ。
ドロドロした液体が、耳や指の間、身体の穴のあちこちに挿入してくる。
「慣れてきたかい? 君が今装着してしている物は戦闘ポッドだ。」
はっ? 銭湯ポッド?
なんじゃ、そりゃ?
「テレパシー」は便利だ。
口で開くまでもなく、相手とコミュニケーションできる。
「デバイスが起動した。今、君の目の前に、君自身の全方位ビジュアルが展開されたと思うが。」
どうせ関わるのであったら「ビジュアル系」の方が良かったのだが。
脈打つ血液のように、身体をなめ回す黄緑色の液体が、全身を一巡したかと思うと、とつぜん、私の目の前が開けた。
まあ、いわば、パソコン画面のように、さまざまなウインドウが、フラッシュのように開きまくった。
私はパソコン、好きじゃないのよ。キーボード打てないし。
ま、スマホの操作ぐらいだったら、マスターしてるけどさ。
私の目の前に展開された無数のウインドウ画面により、自分は何とも変わった形の
「乗り物」に乗っている事がわかった。
それは「バイク」のようであり、されとて「人型」のようでもあった。
まあ、いわば、異形の着ぐるみみたいなもんだ。
気がつくと、「自分」は立っている、と言うより「ふわふわ」と浮いているようであった。
場所は、先ほどと変わらず、学校の屋上にいる。
そう言えば、みんな、どうしたのかな?
不良番長と、マザコン、どうしてるのかな?
連絡取りたくても、携帯は今持ってないし、自分は今こんな格好だし。
「大丈夫。君の同伴者の二人は、他の場所へ転送しておいたから。」
突然、イケメンの声が私の頭の中に聞こえてきた。
そう、私の衣服を、制服をはぎとって、私を裸にした、あのイケメンロン毛の「宇宙刑事」の声だ。
うちの父ちゃんのデコトラに負けないくらいのキラキラとした宇宙船のタラップから降りてきたイケメンロン毛の宇宙刑事は、これまた、ゴージャスでデリーシャスなコスチュームで決め込んでいた。
「我々はこれから凶悪宇宙犯罪人第二一MM三九二号の確保にあたる。すまないが、君には捜査に協力して欲しいんだ。」
普通だったら、やるわけない。
普通だったら、速攻でお断りする。
だが今、自分は変なスーツを着せられている。
だが今、自分の目の前には、好みのイケメンが。
これは一発、乗るしかない。
て言うより、逃げ場ないし。
「戦闘プランを説明しよう。」
そう語りかけながら、ゴージャスな「衣装」で近づいてくるイケメンロン毛の宇宙刑事のすてきな姿に、私の目は奪われていった。
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ドンガラガラ、ガッシャーン!
強烈な物音があたりに響いた。
「おいおい、番長、気をつけろよー。」
「だってさー、しょうがないじゃん。重いんだから。」
俺たちは、夜の校舎の中の運動部の部室付近を徘徊していた。
野球部や剣道部、弓道部やアメラグ部の部室に潜入し、武器として使えそうな物を拝借して回った。
「て言うか、大きな音たてるなよ。もし、宇宙凶悪ハンターに見つかったら、どうすんだよ?」
「いやいやいや、当初はあのスライムお化けが俺たちの敵だと思ってたからさ、ビクビクしてたけど、今じゃ、あのスライムお化けのハナコちゃんは俺たちの味方だろ? だったらさ、あの宇宙忍者、そんなに怖くないよ。」
そう言いながら、不良番長はテニス部の部室に潜入する。
俺の手にはバットやら竹刀やら弓矢などがいっぱいだ。
おまけに背中には特大のピッチングマシーンを背負い込んでいる。
それが部室の入り口のドアに引っかかったので、中に入らない事にした。
「そうかなあ。あのハンター、結構、無頼漢で強そうに見えるけどなあ。だって彼女たちが恐れてるんだよ。」
俺のつぶやきに、小次郎のようにラケットを背負い込んだ番長がフルスイングしてタンカを切った。
「ロリコン、お前考え過ぎだよ。ハナコちゃんに比べれば、あの宇宙忍者みたいなハンターは人型だろ。だーじょうぶだよ、人型だったら! タイマン、俺、できるぜえ!」
そのタイミングに、女子テニスのスカートが番長の胸元からポロッと落ちた。
「あっ。」
「あっ。」
二人の間に、フリルのテニススカートが、ヒラヒラと落下していく。
「...いいーじゃねーかっ! このくらい! これから天下分け目の一戦に臨むんだからよ!」
フリルのテニススカートが、音もなく二人の間に、ピタッと落ちる。
「...スケバンさん、どこ行っちゃったのかな...。」
俺のつぶやきに、不良番長の表情が一瞬曇る。だがそれも、やがていつもの強気の表情に変化していった。
「大丈夫! たぶん、あいつは大丈夫だ。きっと彼女は、あの宇宙忍者に、宇宙凶悪ハンターにさらわれたんだと思うけど、スケバンの彼女の事なら大丈夫! きっと無事にいるに違いな
い!」
それは根拠のない勇気である事は俺もわかっていた。
だが俺は、不良番長の根拠のないカラ元気にあえて反応はしなかった。
「見てろよー! 宇宙忍者だか、宇宙凶悪ハンターだか知らないが、この不良番長の俺様が痛い目に見せてくれる! かかってきやがれ! 宇宙忍者モンハンめ!」