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俺たちの星間大戦  作者: 鳥海秋生
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第7話/現れる伝説の鋼の巨人

「鋼の巨人」。

それは「チャペック一号」の事であった。

そりゃ、そうだ。この光る妖精たちは、チャペック一号の名前など知らない。

仮に、機体に「チャペック一号」と書いてあったところで、光る妖精たちに、その文字が読めるわけはない。


金髪のカールした髪の毛のかわいい、俺好みの青い目の妖精は、真摯なつぶらな瞳で俺の顔を見つめる。うるうるした、その目がすてきだ。


「鋼の巨人さんを起こす方法を知らないでしょうか?」


そりゃ、そうだ。このチャペック一号は、まだ作業途中だ。

あともう少しで完成するところだったが、今日と言うか、昨日も部活に専念できなかった。

それもこれも、みんなこの訳の分からない「肝試し」のせいだ。

でも、そのおかげで青い瞳の妖精さんと出会えたから、ま、いいか。


先ほどのアメーバー状のスライムお化けは、幸いな事に現れなかった。

どこかに行ってしまったのか、再び校舎に入って、この「ロボコン部」の部室に来るまで、襲撃を受ける事はなかった。

夜だから、もう寝てるのかな?

それはそれとして、ラッキーだった。


「おいおい、ロリコン、何やってんだ?」


俺は「鋼の巨人チャペック一号」を完成させるべく、夜の部室で作業を始めた。

その様子を、横に立つ不良番長と、光る妖精たちが見守る。

アメーバー状のスライムお化けが再び襲って来ないよう、部室の電気はつけずに作業していたが、近くにパタパタいって飛び交う妖精たちの光のおかげで手元は明るい。


「番長、そんな事言ってないで、少しは手伝ってくれよ。」

「そうか? でも俺はオタクじゃないから、機械の事、ようわからんのじゃ。」


お前は年寄りか?

とにかく、早くチャペック一号を完成させなければ!

とにかく、すぐにこの鋼の巨人を完成させよう。

さもないと、あのアメーバー状のスライムお化けがまた、現れるかも知れない。


「ちょっと、番長。そこのカメラ取ってくれないか?」

「へぁ? カメラ? どこだぁ?」


俺はバカだった。

俺は間抜けだった。

やっぱり不良番長に頼むんじゃなかった。

薄暗いロボコン部の部室の中。毎日ここを使っている俺なら、暗闇の中でもだいたい物の配置は把握している。

だが不良番長は、ロボコン部の室内なんてわかるわけはない。


俺がバカだった。

ものすごい音をたてて、不良番長がすっころぶ。

とてもやかましい。

スライムお化けに聞かれたら、どうするつもりだ。

幸いであったのは、不良番長が手に取ったカメラは無事であった。

空中を三回転半したカメラは、転んだ拍子にすっぽり脱げたヘルメットの中に見事に入った。

いつもなら、毎日通学時に頭にかぶるヘルメット、ださいからイヤだったのだが、今回はそれが幸いした。と言うか、いつでも常にヘルメットをかぶる事がクセになっている自分が、ちょっとだけ悲しかった。


「おいおい、カメラ、壊すなよ。」

「なんだよ、取ってやったんだから、少しは俺をいたわれよ。」


俺は不良番長のグチをスルーして、ていねいにカメラを手に取った。

このカメラは、鋼の巨人チャペック一号の目になる大切な物だ。

ネットオークションで買った、中古のデジカメだ。

残念なのが、チャペック一号の目になるデジカメは「単眼」だ。

お約束の「モノアイ」になってしまうのはご愛嬌か。


デジカメモノアイをチャペック一号の頭部に接続した時、また物音がした。

先ほどではないが、物が落ちる物音だ。


「おいおい、番長。何やってんだよ、やかましい。」


俺の語りかけに、すぐ横に立つ不良番長が、首を激しく左右に振ってアピールした。


「違うちがう、俺じゃない。」

「えっ、それじゃあ.....。」


お約束の展開の、その時はついにやってきた。


ズゴゴゴゴ!

シュワシュワシュワ!

ヒュードロロ!


これでもか、と言わんばかりの怪奇音があたりに響いた。


やつだ!

八つ目ウナギもびっくりの、千の数を超える目を持った不気味なアメーバー状のスライムお化

けの出現だ。気がつくと、俺たちの周りは、スライムお化けに取り囲まれている!


もう、これでお終まいなのか?

鋼の巨人、チャペック一号の勇姿はついに見れずじまいか?

(でも本当に動くかどうか、わからないけど。)

最後にアキバ、行きたかった!

最後にいい事、しておきたかった!


俺の脳裏に、そんな様々な悔やみが交差する。

地面から、天井から、背中の黒板から、スライムお化けの触手が伸びてくる。

もうだめだ!

そう思った時、強烈で高圧な命令口調の声があたりに響いた。


「おすわり!」


その声で、スライムお化けが固まった。

その声で、俺は思わずその場に座り込む。

気がつくと、俺の隣で不良番長も同じように座り込んでいた。


その声の主は、誰であろう?

その声の主は、彼女であった。

その声の主は、俺好みの、金髪のカールした髪の毛がかわいい、青い目の光る妖精さんであった。


「え?」

「え?」


俺と不良番長は思わず同時に同じ表情で同じ体型で同じ反応で答えてしまった。


「ハナコ! おすわり! 

この者たちはわたくしたちの敵ではありません!

この者たちは、鋼の巨人様を起こしてくださる協力者です!」


「花子?」

「鼻粉?」


先ほどまで凶暴な目つきと無数の触手で襲いかかろうとしていたスライムお化けのハナコが、千の目を細め、無数の触手をシュンとさせ、みるみる小さくなっていく。


「すみません、理解ある協力者さん。この子は、わたくしたちを守ってくれるガーディアンなのです。」

「へっ? そ、そうなの....。ならば、早く言ってよ。驚いて、俺もらっしゃった。」


俺の横で不良番長が腰を押さえている。

臭い。

におう。

俺のすぐ隣で、なさけない、そんな。

だが今はそんな事を問いただしている場合ではない。

俺は、すぐちかくで済まなそうにしている俺好みの青い目の妖精に話しかけた。


「.... そうだったんだ。へえ、彼が、いや、彼女が君たちを守るガーディアンなんだ。」

「そうです! 力強く、すてきで、かっこ良く、どんな時でも、どこにいても私たちを守ってくれます。」


青い目の妖精さんは、目をキラキラさせ、自慢げに説明していた。


「力強く」は、まあいい。

「すてき」で「カッコイイ」?

そう、かなあ。

やっぱり違う生き物だと、好みも主観も違うのかなあ。

俺はちょっとだけ自信を持った。


「それならそうと言ってくれればいいのに。最初にここで、あのスライムお化け、いや、ガーディアンのハナコさんが現れた時、てっきり君たちを襲う悪い生き物だと思っちゃったよ。」

「すみません...。あの時はまだ、あなた方がどなたか存じ上げなかった物ですから。」

「でもさ、あれがさ、あのスライムお化けのハナコがさ、君たちを守るガーディアンだとしたらさ、なんで、あれが、チャペック一号が必要なわけよ? まさか、あの鎧武者が相手なわけ?」


股間をおさえた不良番長が、俺と妖精さんの間に割って入ってくる。

質問内容は的確だと思ったが、におうんだよなあ。

そう思いながらも、俺も的確な質問を青い目の妖精さんに投げかけてみた。


「そうそうそう! いろいろと事情はわかったけど、何で君たちに、このチャペック一号が、この鋼の巨人が君たちに必要なの? あの謎の浮浪者だったら、このスライムお化けのハナコさんで充分相手になるんじゃない?」


そりゃ、そうだ。

このスライムお化けのハナコさんが「味方」で、あの小汚い謎の浮浪者が「敵」なわけだったら、そんなに苦労なんかしそうにない。

だいたい、スライムお化けのハナコさんの方が見た目怖そうで実際凶暴だし。

身体だって、ハナコの方がでかいじゃん。

そもそも「鋼の巨人チャペック一号」は未完成。見た目だって、そんなに強くはないと思う。


俺と不良番長は、青い目の妖精の答えを聞いて、ぶっ飛ぶしかなかった。


「違います! あの時、あなたたちが遭遇した、あの野蛮な人影は、ああ見えて、凶悪で凶暴なストーカーなんです! わたくしたちの命を狙う、極悪非道宇宙最強凶悪ハンターなんです!」

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