第6話/ファーストコンタクトは、ハードかソフトか?
金髪したカールの髪型がかわいい。
クリッとした青い瞳の目がかわいい。
俺は、こちらに近づいてきた光る妖精に目を奪われていた。
俺のすぐ横で、不良番長が何か叫んでいたが、俺は聞く耳を持たなかった。
俺の耳は今、目の前でキラキラ飛び回る、青い瞳の光る妖精に奪われていた。
うふんうふん、うふん。
あはんあはん、あはん。
よくわからないけど、なんだか気持ちがよくなってきたぞー。
俺の気のせいかと思ったが、俺のすぐ後ろに立つ不良番長も、気持ち良さそうに目をとろけさせて、あはあは言っている。
これはいったい、どういう事なんだろう?
よく見ると、俺の目の前で、青い瞳の光る妖精がしきりに飛び回り、背中の羽根からキラキラ光る粒子をあたりにまき散らしている。
これかー?
なんだかよくわからないけど、気持ち良くなった理由は、これなのかー?
と思った。
そうこうしていると、はるか遠くの方から声が聞こえてくる。
何だろう?
誰だろう?
耳をすまして、はるか遠くから聞こえてくる、その声に集中する。
すると、その声は、全方位、三百六十度ぐるぐる回りながら、だんだん大きくなっていく。
まるでハリウッド映画の五・一チャンネルみたいだ。
もっとも、俺の住む村には映画館、ないけれど。
気がつくと、いつのまにかその声が、自分の頭の中から聞こえてくる。
おおおっ! これってよく聞く、第二種接近遭遇?
頭の中でこだまするその声は、やがてはっきりと何を言っているのかわかるようになる。
おおおっ! これってよく聞く、テレパシー?
「すみません、ちょっとすみません。ちょっとうかがいたいんですけど。」
カールした金髪の髪がかわいい、青い瞳の光る妖精の言葉が明瞭に聞こえる。
「はい、はいっ! なんでございましょう!」
俺は思わず大きな声で答えてしまった。
テレパシーなのだから、口を開けて答える必要はない。
考えるだけでいいんだ。
テレパシーに、とってもシンパシー。
彼女の声が、俺の頭に響く。
隣に立つ不良番長にも聞こえているかも知れないが、そんな事は関係ない。
俺は今、ちょっとだけ幸せだ。
青い瞳の光る妖精の声が、続けて俺の頭の中で響き渡る。
「すみません、そこの方。鋼の巨人さんを起こし方って、知ってますか?」
「へっ?」
口にしたのは「へっ?」と言う言葉だが、俺の心の中で「鋼の巨人?」と考えた。すると青い瞳の光る妖精は、すぐさま答えてきた。
「そうです! 鋼の巨人さんです!鋼の巨人さんを起こしていただけませんでしょうか?」
俺は続けて「鋼の巨人って何?」と思った。その言葉を口で開くより先に、彼女の声が再び俺の頭の中で響き渡った。
「知らないのですか! 力強く頼りがいがありそうな、あの鋼の巨人さんの事ですよ!」
テレパシーと言う物はスゴい。頭で考えている事が、お互いの頭の中でつながっていく。
画像イメージのような物も、お互い転送されてくる。
jpegかgifかわからないが、何かの画像が俺の頭の中に転送されてくる。
転送速度はどのくらいかな?
二十五mbpsくらいかな?
青い瞳の光る妖精がイメージした画像がだんだんはっきりと見えてくる。
どんな形か、しっかりと実像化する。
その画像がはっきり見えた時、俺より先に、不良番長の驚きの声が俺の頭の中で響き渡った。
「おおおおっ! これは!」
俺も不良番長に負けじと頭の中で叫び声を上げた。
「...い、いや、こ、これって、...まさか、ひょっとして...?」
--------------------------------------------------------------------------
「凶悪宇宙犯罪人第二一MM三九二号。それが私のターゲットだ。」
イケメンだ。
私好みの、イケメンだ。
どうしよう?
うちの父ちゃんのデコトラのような、白く光る宇宙船のタラップから降りてきた、浮浪者で鎧武者で忍者の彼は、無骨で黒く大きいヘルメットを取ると、その中から本当の素顔を表した。
酸素かなにか、注入してたのだろう。
ヘルメットを外す時、プシューッと言う音をあたりに響いた。
鎧兜のような黒いヘルメットからのぞかせた「彼」の素顔は、私たちとあまり変わらない物だった。
少し肌が浅黒いかな?
顔に、いれずみのような物が掘ってある。
それが模様だか、文字なのかはわからないけれど。
「耳」にあたる部分に、金属製か、何かの骨のようなイヤリングをしている。
髪の毛は、ロン毛。
おまけに金髪ときてる。
いいなあ。
すてきだなあ。
私が住むこの村、東北湘南長崎高等学校ではほとんど見かけない、都会的で少しワイルドな風貌がとてもすてきに思えた。
「彼」は続けた。
「私はインターステラ全銀河宇宙ユニバーサルユニオンとその恒星系および惑星群による構成された議会連邦国家連合指揮下の武装警察軍の捜査員だ。」
長い。
とにかく長い。
何を言ってるのか、さっぱりわからないけれど、彼の言っている名称が、とっても長い。
よくそんな名前を憶えられるなあ。
採用試験、大変だったんだろうなあ。
「ま、簡単に言えば、宇宙刑事、だな。」
おいおい、おい。
だったら早く言えよ。
私の頭は、その名称を確認しようと、必死に考えていたんだから。
ひさびさに頭を使っちゃったので、知恵熱、出ちゃうじゃないか。
そこまで話していて、私は驚いた。
何で、彼の言葉がわかるのだろう?
何で、宇宙刑事の言葉がわかるのだろう。
私は学校で英語とかの授業を受けているが、「宇宙語」の授業は受けた記憶はどこにもない。
その時、第三者の声が聞こえてきた。
「トカマレグ、もう時間がないぞ。」
その声の主は、白く光る宇宙船の中から飛んできた。
そう、「飛んできた」のである。
二つの小さな羽根をパタパタさせた、七色に光るボール状の「物体」が飛んできたのだ。
「それ」は続けた。
「トカマレグ、我々の追いかけているターゲットを早く確保しないと。」
私好みのイケメンの宇宙刑事は、ボール状の物体に答えた。
「わかっている、ヘイハチ。ちょうど今、現場で遭遇した原住民に説明をしていたところだ。」
ヘイハチ?
平八?
塀鉢?
なんて名前。
それに、何?
原住民?
私はバーバリアンや海賊じゃないぞ。
何と失礼な。
イケメンロン毛の宇宙刑事が私の顔を見る。
思わず目と目が合ってしまった。
ちょっとはずかしい。
そうか!
その時私は気がついた。
これは、これは運命の出会いなのだ、と。
宇宙語もわからないのに、会話できるって言う事は、
私と彼が赤い運命の糸か何かでつながっている、って事ね!
宇宙と宇宙をつなぐ、赤い糸。
銀河と銀河をつなぐ、赤い糸。
すてき!
だから、お互い会話できるのね!
きっとこれは、愛のテレパシー。
テレパシーにシンパシー。
ラッキーだわ!
「今、こうして君と言葉で交い合えるのは、ヘイハチの異星間言語交渉同時翻訳システムがうまくいっているからだ。」
交じ合う!
異性間!
交渉!
す、ステキ! ...じゃない!
早い、まだ早いわ! 出会ったばっかりじゃない!
イケメンロン毛の宇宙刑事は、スケバンが全く自分の言っている事を聞いていないのに少しあきれた。
だが、あきれている場合ではない。
宇宙刑事はスケバンの手を取り、自分のそばへ身を寄せた。
「...あああ、いけない、いけないわ! 私はあなたの事を、まだよく知らないし...。」
のろけるスケバンの腰のあたりに手をあてた宇宙刑事が、次に取った行動は、スケバンにとって、全く予想外、あるいは期待の範囲内であったかも知れない。
次の瞬間、宇宙刑事はスケバンの学生服の胸元に手をかけると、豪快にそれをはぎ取った。