第5話/そして、いきなりミステリアス
「何なにナニ? あいつは何?」
俺の横で声がした。
校庭に、呆然と立ち尽くす俺のすぐ横で、声がした。
声の主は、不良番長であった。
真っ暗な校庭。
真夜中の校庭。
先ほどまでの大ピンチは、どこへやら。
俺と不良番長は、真夜中の校庭にいた。
呆然と立ち尽くす俺のすぐそばに、地面に手をつき、不良番長がばたついている。
と、言う事は、俺は夢を見ていたわけではない事になる。
さっきまでの展開は「現実」であった事になる。
俺は同意を求めるため、口を開いた。
「...いったい、何だったんだ? おい、どう思う?」
「...どう思うって、シンちゃん! いったいどういう事だよ?」
俺に質問されても困る。
そう思ってあたりを確認する。
校庭だ。
俺たち二人以外、誰もいない、真夜中の校庭。
その時、はたと気がついた。
二人同時に気がつき、二人同時に口を開いた。
「スケバンさんは?」
「姉御がいない!」
そう思って、二つの首がキョロキョロしながら、付近を探す。
だが、どこにもスケバンの姉御はいなかった。
「携帯、携帯!」
そう言って不良番長は胸元から携帯電話を取り出した。
俺も、同時に学生服のポケットから携帯を取り出した。
だが、二人同時に驚いた。
何度も電源を入れようとするが、携帯電話はうんともすんとも言わなかったのだ。
「あれあれあれー? 家出る時、ちゃんと充電しといたのにー! おいっ、ロリコン! お前のはどうだ?」
「...いや、俺のもダメだ。電源が入らない。ちゃんと毎日、バッテリーチェッカーで確認してたのにな。」
「ああんああんああん! これでは、スケバンの姉御と連絡とれないじゃん! マリコー!」
不良番長にしては、情けない。
普段の強気はどこへやら。
スケバンさんの事、やっぱり好きだったのかなあ?
涙目で校舎の方を見つめてる。
俺も、スケバンの事が気になって校舎の方を見つめてみる。
すると、二人の四つの瞳に、光る物が飛び込んで来た。
それは「火の玉コロボックル暴走族」ならぬ、「光る妖精」であった。
「あれあれあれー? おい、シンちゃん!
ロリコンのお前を追いかけて、火の玉暴走族が追いかけてきたぞー!」
そう言って不良番長は俺の身体にしがみつく。
不良番長にしがみつかれて、俺は不満であった。
だが「光る妖精」が俺の後を追いかけて来たとするなら、俺はちょっとだけ幸せであった。
追いかけてきた「光る妖精」の姿を見て、俺はじょじょにうれしくなってきた。
なぜなら、必死にこちらに向かって飛んでくる「光る妖精」は、あの時、ロボコン部の部室の中で、俺の顔の直前まで接近遭遇した、俺好みの子であったからだ。
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深い暗闇の中から、私は目をさました。
私は、誰?
ここは、どこ?
私の名前は、大河内マリコ。
東北湘南長崎高等学校の、普通科三年生だ。
部活には入っていない。私は帰宅部だ。
まあ、あえて言うなら、「スケバン部」なのかも知れない。
東北なのに、なんで湘南? なんで長崎?
知らない。そんなの知らない。
私が生まれ住んだこの村は、昔から湘南地区の長崎村と呼ばれていた。
もちろん、近くに海はないし、出島もない。
私は、なんで寝ていたのだろう?
ここはいったいどこだろう?
そう思って目を開けるとまぶしかった。
昼間?
真っ昼間?
私はどこで寝ていたのだろう?
起き上がってあたりを見たら、私はぶっ飛んだ。
ぶっ飛んだ私の表情は、とてもスゴい物であったであろう。
私は屋上にいた。
自分が通う、高校の屋上にいた。
そして私の目に入った物。
それは、まぶしく光る「白い円盤」であった。
「えええええーっ! まじかよぉ、おいっ!」
高校の屋上に白く光る円盤が着地している。
え? これ、何?
エイリアン?
そう思った瞬間、瞬時に記憶が蘇った。
そうだ! 私は学校の中で肝試しをしてたんだ!
光るコロボックルに遭遇したんだ!
ぶよぶよと気色悪いスライムに襲われたんだ!
そして、...そして!
私はすかさず立ち上がり、あたりをキョロキョロうかがった。
そうだ!
浮浪者だ!
いや、違う、鎧武者だ! それとも忍者?
バカ馬鹿ばかっ!
自分の目の前に、円盤があるだろう!
エイリアンだよ、エイリアン!
あの、鎧武者で浮浪者の忍者は、異星人なんだよ!
それを確認すべく、私は身構えながら、あたりを注視した。
いっしょにいたはずの、マザコンと不良番長がいない。
私は何だか怖くなってきた。
私は何だか不安になってきた。
ふと、白く光る円盤の方を見上げる。
大きさは、うちの父ちゃんのダンプより大きい。
そりゃあ、そうだろう。
円盤だ。
宇宙船だ。
たぶん何万光年先の星からやってきたのだろう。
何万光年先って、火星のあたりか?
白く光る円盤は、まるでうちの父ちゃんのデコトラのようにキラキラ光っている。
下の方を見ると、タラップのような物がある。
ああー、よく映画やテレビの特集で見る円盤のタラップそっくりだ。
やっぱりあれらは本当だったんだ。
そうこう関心していると、そこから降りてくる足が見えた。
そう、あの「浮浪者」で「鎧武者」で「忍者」のような黒い人影だ。
まぶしく光る円盤をバックに、余計に身体が黒いシルエットで見える。
おおおっ!
黒い人影が、私をここに連れてきた「彼」が私の方へ近づいてくる。
止めて!
来ないで!
私に近づかないで!
私の元へ来ないで!
何をするの?
とっても怖いわ!
怖すぎて、身体が動かない。
身体が固まって、動けない。
襲われる!
やられちゃう!
十七年守ってきた操!
十七年守ってきた、私の身体!
やられちゃう?
汚されちゃうの?
どこの誰か、わからない謎の黒い人影に!
どの星から来たか、わからない異星人に!
まてまてまて!
それはない!
ありえない!
無理だろう!
だって相手は、異星人だ。
男か女かわからない、どこかの星の人だ。
ひょっとしたら、サイボーグか、ロボットか何かかもしれない。
ひょっとしたら、技術が進歩していて「あれ」が退化してるかも知れない。
できるわけないだろう!
やれるわけないだろう!
だって、異星人だよー!
人間じゃないんだよー!
いやいやいや、まてまてまて!
違うぞ!
そう言えば昔、雑誌やテレビで、「エイリアンとあんな事した」とか、「エイリアンとこんな事した」と言うのを見聞きした事がある。
やばい!
まずいじゃん!
やれちゃうじゃん!
子供生まれちゃうじゃん!
どうしよう、足が八本もあったら!
どうしよう、目玉が無茶苦茶大きかったら!
そんな通常ではありえない妄想にあけくれる私の考えを吹き飛ばす事態が発生した。
それまでの変な妄想は、一瞬にしてどこかへと吹き飛んでいった。
なぜなら、私に近づいてきた、黒い人影の異星人は、驚いた事に、私好みのイケメンであった。