表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの星間大戦  作者: 鳥海秋生
2/16

第2話/闇夜の散策

「おーい、ロリコン、どーだー?」

「ロリコンじゃない。ロボコン。それにしつこいよ、いつまでも。」

「ギャグは三回繰り返せって、お笑いの基本じゃねーかー。」

「お笑いは番長の顔だけにしてほしいなあ。」

「な! 何言ってんだ? ロリコン! 痛い目に遭いたいのかー?」

「しっ! そこうるさいよ!」


闇夜に三人の声がこだまする。


「そんな事言ったって、番長がわけわかんない事言って、からんでくるからだよー。」

「うるさいよ、マザコン! くだならい事言ってないで、どうなってるか、見に行ってこいよ!」

「だからロボコンだってば! それに、何で俺だけが見に行かなきゃいけないわけ?」

「いいから見に行ってきなさいよ! そうしないと、シバクわよ!」


なんだい、なんだい!

なんで俺がまるでパシリのように、偵察にいかなきゃいけないんだよ。

時はそう、夜の十時を回ったくらい。

薄暗くなった夜空に、シルエットのように校舎が浮かび上がる。

かすかに見える校舎の時計が、夜の十時過ぎを示していた。


俺と不良番長とスケバンの三人は、夜の校庭をほふく前進していた。

なぜ、ほふく前進をする必要があったのか謎であったが、とにかくほふく前進をしていた。

俺は、不名誉な気持ちで言われるまま、ほふく前進で校舎の前まで進む。


何が肝試しだ!

何で俺がこんな事やってなきゃいけないんだ!


本当だったら「チャペック一号」の最終仕上げ、終わってるはずだったのに!

「チャペック一号」は、俺の所属する「ロボコン部」が自信と威信をかけて、現在製作中の「汎用人型機動ロボット」だ。

「チャペック一号」を完成させて、まもなく開催される「全国ロボコン選手権東北地区予選」に出場する予定だったのに。


あっ、言っとくけど俺が所属しているのは「ロボコン部」だ。

「ロリコン部」でも「マザコン部」でもないぞ。

まあ、実際は似ているかも知れないけど。


こんなくだならい事につきあったせいで、予定が狂った。

予定が狂って、少し頭にきたので、ほふく前進を途中でやめ、中腰で歩き出した。


すると、俺の頭に小石が命中した。

コーン!

それは乾いた音であった。

それもそのはず、俺はヘルメットをかぶっていた。

不良番長もスケバンもヘルメットをかぶっている。

なぜ、ヘルメットをかぶっているかって?


そうそう。

さっきも言ったけど、俺たちが住む町は田舎。

田舎と言えば、通学時にヘルメットは、定番だろ?

自転車通学じゃない、歩行通学の時もヘルメット、かぶるんだぜ。

なんとかして欲しいよ。


そんな怒りもこめて、俺は後ろを振り返った。


「なーにすんだよ。いてーじゃないか。」


見ると、番長が暗闇の校庭にへばりつきながら、小声で叫んでいた。


「バカ! 立つんじゃねーよ! 見つかっちまうだろ?」


番長の、地面に張り付いた無様な格好を見て、つい俺は笑ってしまった。


「ははっ。」

「ははっ、じゃねーよ、ははっ、じゃ!」


車につぶされたカエルのような姿の番長。

たしかに夏になると、よくカエルが道路に二次元化している。

大昔のマンガかなんかであったな、そう言うの。

オヤジの愛読書だったな、そう言えば。


俺はそんな不良番長に小声で話しかけた。


「もう大丈夫だよ。学校には、誰も残っていないみたいだ。」

「そのようね。」


気がつくと、いつのまにか手を払いながら、スケバンが仁王立ちして校舎ににらみをきかせていた。


「なんだよ、早く言えよ!」


最後まで地面にへばりついている不良番長は、まるでカエルのようにピョーンと元気よく起き上がった。


「よーし、これで肝試しができるって言うもんだ!」


「ところでさー、肝試しって、何よ? どんな事するの?」


俺の素朴の問いかけに、不良番長が矢のような早さで接近し、俺の口を指で押さえた。


「しっ! 静かに! 火の玉ボーイに聞かれたら、どうする?」


なんか最近、俺の口が狙われる。

不良番長の指が、俺の口に押しささる。

指についている校庭の土が、俺のくちびるに付着する。


「ちょっ、汚いなあー。......ところでなんだよ、火の玉ボーイって? 隣町の暴走族みたいだな。それって人魂の事かぁ?」


人魂? 

やだなー。

俺はあんまり非科学的な事は好きじゃないんだ。

だって俺は科学的な「ロボコン部」だし。


俺はちょっとだけ、怖くなった。怖さを隠すため、俺は力強く不良番長の指を払い、口についた土を不満そうにふき払う。


すると今度は、スケバンが俺の顔に接近してきた。


「なに言ってんだ、おまいら。人魂ボーイって、なんじゃそら? あたいが聞いた話では、光るコロボックルのはずだよ!」


近い。

近い、近すぎる。

薄暗い夜の校庭でも、スケバンのクレーターははっきりと確認できる。


「光る、コロッケ? そんな食べ物、あったっけ?」

「バカじゃないの? コロボックル! コロボックルよ! このボケオタ!」


普通そこまで言われたら、怒り心頭に至るはずだが、俺はいたって冷静であった。

なぜなら、スケバンの顔が俺の目の前まで接近していて、彼女の口が、俺の口のすぐそばまでせまっていたからだ。


意外と、カワイいかも?


そう思った俺のヨコシマな考えを、不良番長が見事に切り離してくれた。


「だからー、近いって!」


そう言って俺をスケバンから引き離すと、不良番長が真ん中に入ってくれた。

とりあえず、良かったー。


「俺が聞いた噂では、火の玉ボーイのはずだぁ。夜な夜な、誰もいなくなった教室の中を、火の玉ボーイが集団で学校内を暴走しているって。」


俺は思わずつぶやいだ。


「本当に暴走族みたいだ...。」


だが、二人は俺のつぶやきなんか聞いてはいなかった。


「あんた、誰に聞いたの?」

「...誰だったかなぁ...。忘れた。...て言うか、みんな噂してたぞー。」

「学年が違うからじゃないのかー? あたしが聞いた話では、光るコロボックルが夜な夜な校舎の中で集会を開いて、廊下を走り回ってるって聞いたぜ?」

「そりゃ、姉御、学年が違うからじゃねえのか?」

「そうか?」

「そうだぜ。」


おかしい。

この二人の会話は、おかしい。


たぶん、深夜の学校の中でお化けのような物が出没している、と言う事だろう。

同じ物を見て、違う表現をしているだけなのだろう。

俺は、あまりにバカバカしくなって、言い争っている2人を止めようと、ふっと視線を送った、その時である。


「...あれ、あれなんだ?」


バカバカしくて、視線をそらした俺が見た物。

校舎の方を見て、俺の目に飛び込んできた物。


それは校舎の一階の部分、おそらく職員室の中で光る、小さな点であった。


「....おっ! ....って、あれ、俺が聞いた火の玉ボーイと違うっぽいなあ。」

「...あれは、懐中電灯? 警備員かなんかじゃねーのか?」


せっかく俺が、光る点を見つけたのに、不良番長とスケバンは否定的であった。


「いや、姉御。こんな時間にガードマンは徘徊してねえよ。」

「じゃ、なんだよ? 誰かがタバコ、すってるのか?」

「いや、姉御。職員室も禁煙だ。もちろん教室もだが。」

「じゃ、なんだよ? 誰かが隠れてタバコ、すってるのか?」


おかしい。

この二人の会話は、おかしい。


俺の住む町の財政は、真っ赤っか。

赤字だらけの地方行政だ。

だから、学校の警備はガードマンに発注できるほど、余裕はない。

俺のオヤジがよく、こぼしていた。


それに、職員室で隠れてタバコをすう。

こんな時間に? わざわざ職員室で?

ありえない。


我々の出した結論は、早かった。


「よっし! おまいら、見に行くぞ!」


そう言って強がりをみせたスケバンであったが、三人の中で一番後ろを歩いていた。


「お前早く歩けよ!」

「そんな、押すなよ!」


なんで俺が先頭にたたなきゃいけないんだ?

先頭に立つのは、毎週月曜日の朝礼だけにして欲しい。

いくら身長が低いからって、いいかげんにして欲しい。

ちょうど朝礼の時に自分が立つ付近を通過した。

職員室は目の前だ。


「おいっ! ロリコン、見てこいよ!」

「て何で、俺が見に行くんだよ? 番長行けよ!」

「そもそもはお前が見つけたんだろ? だから、お前の責任だ! 見てこいよ!」

「そうよ、マザコン! あんたが見に行きなさいよ!」

「ええーっ、それって何か違うと思うすけどー。」

「うっるさいわね! シバクわよ!」


俺はちょっと別の事を想像してしまった。

それもいいかと思ったけど、俺は不良番長に押し飛ばされ、フラフラと職員室の近くまで到達していた。


ふと見ると、職員室の窓が見える。

ああ、やだなー、職員室。

俺はここにいい思い出はあまり、ない。

だが、今はそんな事は関係ない。

文句ばっかり言ってる先生たちは、今はいない。


なぜか地べたに身を隠し、ほふく前進で職員室に接近する。

こういう時に限って、かぶっている通学用ヘルメットが前を隠す。

大きすぎるんだよなー。どうして俺の頭に合うサイズ、ないんだろう。


そう思いながらも、職員室の窓の下まで到達した。

顔をゆっくりあげて職員室の中をのぞき込む。


反対側から見たら、こっけいだろう。

職員室の中から見たら、ヘルメットがゆっくりと浮上して、中を注視する俺の表情が見えるわけだ。


ま、中から俺の姿を見ている者がいるとすれば、

それは火の玉ボーイか、光るコロボックルちゃんのどちらかだろう。

俺はどちらでも良かったけれど。


ゆっくりと職員室内をのぞく。

暗い。

真っ暗だ。

職員室の中は暗くて何も見えない。

なんだ、火の玉ボーイも、光るコロボックルちゃんも、いやしない。

俺は気が抜けて、振り向いた。


「いないよ、何も。」


振り向いて、俺は驚いた。

振り向いた、俺の後ろには誰もいなかった。

そこに、不良番長と、スケバンはいなかった。


「えっ?」


暗い校庭のあちこちを探してみる。

すると、俺たちがほふく前進でスタートした地点に、おびえて立ちすくむ二人を見つけた。

不良番長とスケバンは、いつのまにはスタート地点の校庭の中央まで戻っていた。

俺はあきれた。


「おいおいおい、何やってんだよ? そんなところで。

俺だけに偵察にいかせて、二人で何やってるんだよ?」


二人の様子がおかしい。

しきりに口を押さえて、校舎の上の方を指差していた。


何やってんだか、二人とも。

本当に不良番長にスケバンかよ?

なさけない。


俺は二人が指差す校舎の上の方を見上げた。

見上げた俺は、驚いた。

驚いたあまり、その場に腰を抜かしてしまった。


俺の見上げた方向。

はるか頭上の校舎の上の方。


昼間に不良番長とスケバンにからまれた渡り廊下があるのは、校舎の五階。

俺が見て、驚いたのは、その下の四階であった。

四階の教室の一角が、猛烈に輝いている。

もはや、それは火事の様。

だが、それは火事ではなかった。

火の玉ボーイだか、光るコロボックルだか、なんだか知らないが、まるで強く輝く光の集団が、四階の教室の一角で走りまってる。

これじゃ、まるで光る玉の暴走族だ。

そして、何よりも俺が驚いたのは、光る玉の暴走族が謎の集会をやっている場所であった。

それはー。


「あ、あ、あそこは、俺のロボコン部の部室! お、お、俺のチャペック一号がぁーっ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ