第11話/駆け抜ける壮絶バトル
「熱い熱い熱いよ!」
真っ黒になりながら不良番長が部室に走り込んできた。
今や、このロボコン部の部室は脅威の宇宙大戦の司令室となった。
ベースに駆け込むや、口からエクトプラズムのような煙を吐き出して息をつく不良番長。
「なんだよなんだよなんだよ、あの導火線! 火をつけた瞬間、まるで導火線が花火のように火花散らしやがって!誰が火薬調合したんだよ!」
そんな不良番長の様子を見て、俺好みの青い目の妖精さんが心配そうにかけよる。
「大丈夫ですか、長一郎様。」
青い目の妖精さんは、小さな背中の羽根をしきりに羽ばたかせて不良番長の顔に新鮮な空気を送り込んでいる。
なんかちょっと、うらやましいなあ。
不良番長は、青い目の妖精さんにとぼけた表情を見せた。
「ありがとう、ミミィ。いや、でも、キツかったー。まるではじめてセブンスターに火をつけた時のような気分だったー。...いや、わかばだったかな?」
なんでこの二人、こんなに気が合うんだ。面白くない。
気を取り直して俺は、チャペック一号に取り付けられた「モノアイ」の画像をデスクトップパソコンのモニターで分析する。
「番長、すごいよ、よくやったよ。宇宙忍者モンハンのボディに直撃だ。意外とやつら、弱いかも?」
「そうだな。連射花火と言うローテクが、やつらのハイテクを粉砕したんだ。ざまを見ろ! 種子島をなめるなよ!」
「極悪凶悪宇宙最強ハンターからの鋼の巨人さんへの攻撃は、ハナコが身をもって防御してくれます。安心してください!」
見事なコラボレーション! 見事な共同作業。
だが、俺は不満であった。本来であったら俺が青い目の妖精さんとラブラブになるはずであったのに。
なぜだか、スライムお化けのハナコが俺の事を気に入っているらしい。
まあ、今はそんな事言ってる場合じゃないのだけれど。
「次はどうする? また強力花火連射砲をぶっ放しにいこうか?」
「いや、同じ手は二度使わない方がいい。次は、これで行こう。」
パソコンのモニターに表示されている「鋼の巨人チャペック一号」の使用可能な攻撃兵器のアイコン。その中で、俺は「弓矢」を選択した。
「...弓矢。弓道部から拝借したやつだな。」
「そうだ。宇宙忍者モンハンが意外と殴る蹴るの物理接触に弱いとなると、意外と超アナログな弓矢なんかが最強かもしれない。」
「呪文とか通用しそうにないしな。でもなんだな、これネットゲームみたいな感じだな。」
「大丈夫だ、番長! 俺はネットゲームを不眠不休で一週間ぶっ通した事がある。まかせてくれ!」
ここぞと言う場面で、せっかく見栄を切ったのに、青い目の妖精さんは俺の事をちっとも気にしてくれない。
テレパシーで俺の意気込みを感じとったのか、廊下にいるはずのハナコのラブラブの百目の視線が背中に感じとれる。俺はちょっとだけ凹んだ。
しかし、いつまでも落ち込んでは入られない。
なんだかわけのわからない展開で、未曾有の宇宙大戦に参加してしまった以上は、せっかくの体験なので、かっとばすだけだ。
きっといつかこの経験が、未来の扉を開く事に、なる、のかな?
「よおーし! ウルトラスーパー超パワフルアローの発射体制だぁ!」
「...その、ウルトラスーパーって、何?」
「いや、ただ単に、弓道部の弓。」
「おおげさだな。」
「だってその方が、盛り上がるじゃん。」
俺は不良番長のとぼけた問いかけを軽くいなして、チャペック一号の操縦に集中した。
「全エネルギーをチャペック一号の両腕に集中。左腕は弓の掌握コントロール、右腕は握った矢を水平方向に展開!」
机の上に置かれたパソコンのモニターにマルチウインドウが表示される。
各画面に各稼働部分の作業状況が点滅している。
「エネルギーのゲージが上がった! エネルギー充填百十五パーセント!」
見る見るうちに、マルチウインドウのエネルギーゲージが上がっていく。
各可動部分の負荷熱反応が上がっていく。
ついでに俺のテンションも上がっていく。
「エネルギー充填、百七十五パーセント! 二百パーセントにいったら、発射するぞ!」
我々の作戦を読み取ったのか、弓矢を構えて立つチャペック一号に向けて、宇宙忍者モンハンはすぐさま応戦行動をとった。
宇宙忍者モンハンの身体から、シュワシュワと緑色の光が強烈に点滅しながらあたりに拡散している。
ん、緑色の光?
違う。
あれは違う。
緑色じゃないな。あの色は、青かな?
よく信号の「青」を「緑」って言う事がある。
そんな事でお母ちゃんと昔、ケンカした事ある。
どうせだったら、信号の色が「青」なのか「緑」なのか、はっきりして欲しい。
RGBの数値ではっきりして欲しい。
sRGBの数値でもいいんだけど。
そんな事は今、いいんだけど。
「青緑色」した光の雲が、宇宙忍者モンハンの身体を包む。
たぶん、電磁バリアか磁気フィールドか、なんかだろう。
話で聞いていただけで、実際そんな物、いじった事なんかないんだが。
浅い!
浅いぞ! 宇宙忍者!
宇宙忍者の名が泣くぞっ!(たぶん)
そう俺が心の中でブツブツ言っていたら、俺の頭の中と耳の中へと同時に不良番長の叫び声が響き渡った。
「早く! そんなことたぁ、いいから、早くぶっ放せよ! お前さんの自慢の一発を!」
うるさいなあ、わかってるよ。
そう思って不良番長の方をチラ見すると、俺の好みの青い目をした妖精さんのミミィが、キラキラした瞳で「早くぅ」って訴えている。
はるか先、一大星間大戦の戦場となっている、廊下に陣取るスライムお化けのハナコからも、同じような一千もの瞳のあつーい視線が反射衛星砲のように伝わってきたが、例によってやっぱり無視した。
ゲージが上がってる。
チャペック1号のアルティメット・パーソナル操縦機となっている、我らがロボコン部のラップトップ・パソコン(中古)のディスプレイの表示に、エネルギー充填二百十パーセントのマックスになっている。
二百十。
まるで消費税みたいだ。
パソコン上のゲージがマックスになって揺れているのと同じように、チャペック1号の弓を持つ右腕と左腕がキシキシ言って揺れている。
まるでシンクロの選手みたいだ。
来たっ!
時は来たっ!
俺が、
このロボコン部の部長の俺様が心血注ぎ、つい今さっき完成させた、
チャペック1号の必殺兵器を見せる時がきたぁ!
もっとも、その必殺兵器は、弓道部から、つい今さっき拝借した物だが。
「対ショック、対閃光防御! ウルトラスーパー超パワフルアロー発射ぁーっ!」
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叫んでいた。
私は叫んでいた。
目から涙があふれる。
私の目の中に、戦闘ポッド内の黄緑色の液体が入り込んでいたが、私の衝撃の涙は、それをも押し出す程の勢いで流れ出していた。ついでに、私の目の中に見えるコンピューターのディスプレイも流れてしまえばいいと思っていた。
だが、それどころではない。
そんな流暢な事、言っている場合ではない。
「トカマレグッゥー!」
そう叫んだのは、残念ながら私ではなかった。
私より早く、
私より小さく、
私より軽装備の金属ボールのヘイハチは、左右の小さな羽根をパタパタさせて猛ダッシュした。
「させるかーっ!」
そう、お約束。
こう言う時のお約束。
まさに、全銀河、全宇宙共通のお約束のセリフである。
このお約束のセリフを、ほぼ同時に、まるでシンクロ選手のように見事に2人してシンクロして、口と心で叫んでいた。
いや、一人と一個、かも知れない。
私は、私が着ている戦闘ポッドの左右のツインキャノンを連発させて猛ダッシュした。
えっ? 何で「ツインキャノン」だって?
お約束だよ、お約束。
私の戦闘ポッドのツインキャノンで、自分たちが待機していた校舎の屋上の壁を撃破する。
あーあ、やっちゃった。でも、仕方ない。
これでは、明日から前代未聞の学校閉鎖になる事は、わかっていた。
今まで、誰も体験した事のない事態におちいるのは、わかっていた。
だが今は、今はそうするしかない。
それに、学校閉鎖になった方がいいかも知れないし。
ツインキャノンの砲撃で見事に穴のあいた屋上のその下、世紀の全宇宙銀河大戦が行われている学校の廊下めがけ、戦闘ポッドを着ている私と金属ボールのヘイハチは猛ダッシュした。
なぜって?
彼を、彼を助けるために。
遥か遥か何億光年の宇宙銀河の先からやって来た、彼を、
赤い糸が何億光年の宇宙銀河に渡り繋がっている、彼を助けるために。
...何億光年って、土星ぐらいの距離か?
そう思いながらも叫んで突っ込んだ。
心と口で叫びながら、戦場へと突っ込んだ。
「私の、私の男に何をするーっ!」
皮肉な事に、金属ボールのヘイハチも同じようなセリフを叫んでいた。少し意味は違うが、どう言う意味でヘイハチがそう叫んだのか、私はあんまり詮索はしたくなかった。
ヘイハチは叫んだ。
「俺の、俺の男に何をするーっ!」と。




