第1話/せまりくるイヤな予感
「うりゃー!」
ドーン、と言う衝撃的な音が教室に響き渡った。
いつものように不良番長が、スケバンと張り合っている。
迷惑な事だ。
だいたい、今の時代「不良番長」と「スケバン」は似合わない。
あって欲しくない。
存在してほしく、ない。
ファッションも、絵に描いた展開だ。
「不良番長」は応援団風の学ラン。
しかも応援団ではない。
「スケバン」は、今の時代にはとてもはずかしい、長いスカート。
とってもダサダサだ。
なのに、なぜそんなファッションが通用するのか?
ここが田舎だからである。
通学時には「ヘルメット」着用だ。
徒歩通学の生徒までも、である。
なんとかしてほしい。
それ以前に、渡り廊下でいつものように不良番長とスケバンが争うのも、
本当になんとかしてほしい。
渡り廊下が崩壊したらどうするつもりだ。
休校になっちゃうじゃないか。
次の授業は、俺の大好きな科学の時間なのに。
とにかくあの二人は、実は愛し合ってるんじゃないか、といつも思う。
ひとつ問題なのは、二人が争っている場所は渡り廊下だ。
渡り廊下は五階にある。今は休憩時間で、あと数分で次の授業が始まる。
次の授業は、俺の大好きな科学の時間だ。
少しでも早く科学教室に行って授業の準備をしたい。
なのに、不良番長とスケバンが通路を邪魔している。
渡り廊下を使わずに、一階に降りて科学教室のある隣の校舎に行く方法もあった。
だが、時間がない。こんな事で授業に遅れるなんて、どこかおかしい。
だが、あの二人には関わりたくない。
だが、そんな事を考えているだけで時間が過ぎていく。
俺は決心した。
「おい。」
不良番長が俺に声をかける。
俺は無視して渡り廊下のはじを歩き続けた。
「おい、ロリコン部。」
その言葉に、俺はつい反応してしまった。
「違う、ロリコン部じゃない! ロボコン部だ!」
「えっ? マザコン?」
今度は別の、反対方向から声が飛んできた。スケバンである。
「お前、マザコンだったんだ。」
「ちーがーうー! ロボコン部だ!」
あかん。
俺が馬鹿だった。
結局俺は、不良番長とスケバンを無視できず2人に相手をしてしまった。
「おい、ロリコン部!」
「違う! だからロボコン部だっつーの!」
「同じだろ。」
「だから何だよ? 俺は早く次の授業の準備したいんだって。」
「そう冷たく言うなよ。シンちゃん。友達だろ?」
そうなんだ、
そうなんだ。
このやんちゃで無骨な不良番長は、俺の友達だ。
この村唯一のお寺の幼稚園から、ずーっと、同じ学級だった。
なぜなら、ここは田舎。
俺が通った小学校には、一学年一クラスしかなかった。
「おい、マザコン!」
「だーかーらー、ロボコンだって!」
「そう冷たく言わないでよ。私は、あんたと同じ学校の先輩でしょ?」
そうなんだ、
そうなんだ。
この、時代がずれまくった、ファッションセンスのスケバンは、俺の一つ上の先輩。普通なら、そんなに関わる事はないのだけれど、俺の住む町は田舎。
俺が通った小学校には、二学年で一クラスの時期もあった。
だから、このファッションセンスのずれたロングスカートのスケバンとも深く交流があってしまった。
「だから、何すか? 俺は早く授業に行きたいんですけどー。」
「マザコン、今晩ヒマか?」
「えっ?」
俺はドキッとした。
結構真剣に、ドキッとした。
「何すか、先輩。ぼ、ぼ、僕を、この僕をくどいてるんすかー?」
驚いた事に、横からケリが入った。
ケリ自体はそんなに痛い物ではなかった。
だが、あまりに予想外だったので、余計に痛かった。
ケリを入れたのは不良番長であった。
「何だよ? お前! いてーじゃねーか!」
激怒に怒る俺に、顔を赤くした不良番長はまくしたてた。
「バーカ! バーカ! このスケバンの姉御は、おめーなんかくどいてねーよ!」
「じゃ、なんだよ! イテーな!」
無邪気にじゃれる俺と不良番長に割って入ったスケバンは、これぞスケバンと言うような見切りで止めに入った。
「あたいの事が原因で二人がケンカするのは止めてくれ。
あたいの事が原因で、二人が争うのは、止めなほしいな。
照れるじゃねーか。」
違う。
何か違う。
て言うより、全然違う。
俺が不満そうな顔をうかべていると、スケバンが俺の目の前まで顔を近づけて、言った。
「いーか、聞け! あたいが言いたかったのは、今晩肝試しをやることになったんだよ!」
「へっ?」
「肝試しだよ!」
「きも、だめしぃー?」
スケバンの顔が、俺の顔にグングンせまる。
急接近だ。
十五センチぐらいだろうか?
このままでは、俺のくちびるが奪われてしまいそうだ。
て言うより、ニキビ、すごいな。
そう観察していたら、不良番長が、さっきよりも顔を赤くして割って入ってきた。
「近い! ちかい! ち・か・い! なにやってんだ? シンちゃん!」
助かった!
不良番長のおかげで、せまり来る月面クレーターから介抱された。
いや、水星、かな?
気を取り直した不良番長が、背筋をのばして俺に説明しはじめた。
「いいか、聞いて驚くなよ? シンちゃん。
そう! そうなんだ! 今晩、ここで肝試しをする事になったんだ。
みんなが帰っていなくなった学校の校舎内で肝試しをやるんだよー!」
そうなんだ、
遭難だ。
これじゃ、まったく、災難だ。