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REAL‐LINK‐GAME  作者: 柘榴木鰐鯨
デザート&プレデター
4/7

総長&実りあるロマン


 水のあるオアシス。泉というには浅そうに見えるが、それは俺から見て左手側へと伸びている。途中、砂丘の陰に隠れてはいるが、まだ先まで水がありそうだ。これはまだまだ枯渇しなさそうだぞ。


 一際目立つねじれた螺旋状の大木が、天辺に青々とした葉をつけている。それを鐘の声の主、あのデカブツが食べていた。そこで知った新事実は、俺が初めてみたデカブツは、まだ成体じゃなかったってことだ。


 どれだけ高いのか分からない。だが六本足に襲われていたデカブツより、1.5倍くらいでかい。これが成体か!? デカいなんてもんじゃない、生物というか怪獣だぜこいつは。


 なるほど。このデカブツ、砂漠で何食ってるんだろうとは思ってたが、多分この砂漠の各地にこういうオアシスがあって、そこに生えてるこの螺旋樹(らせんじゅ)を主食としてるわけか。ここにはデカブツは二匹、群れというかはつがいだろうか? 多分、家族だけで生きる生き物なんだろう。


 デカブツの足元には、あのトカゲ魚の他、また見慣れない生き物がいる。


 ぱっと見た感想は、一本角のシカ。初めて出会った獣らしい獣だ。頭頂から斜め前に伸びた角は、500mlのペットボトルくらいの長さ。体格は細身で日本のシカより小柄だ。体色はクリーム色。角と尻尾の毛だけが純白で、尻尾の毛は上向きに伸びている。


 その一角ジカの足元に、もっと小さなものがいる。別種かと思ったが、寄り添っているところを見ると親子なのか? 一角ジカの子供は羊のようなもこもこの白い毛に覆われていて、角はない。なにあれ可愛い。可愛さを求めるならやっぱり哺乳類だよ!


「マフッ」


 媚びたような鳴き声しおって、うわあ可愛い! 癒しだよ! 今すぐ毛をもふもふっと触りたい!


 思わず近付くと、一角ジカの親に阻まれる。俺を見て警戒しているらしく、角を振って威嚇してきた。あまり近付くとグサッとやられそうだな。


 さすがに可愛い我が子か、そう簡単にもふらせてはくれないらしい。まあでも、近付き過ぎなければ大丈夫だろう。あの親ジカも強そうには見えないしな、いずれあのもふもふに触れる機会もあるだろう、ははははは!


「ブルァア」


 荒い鼻息が首筋に掛かった。なんか、背後に強烈な存在を感じる。そしてあの可愛い子ジカの鳴き声とは似ても似つかない低音ボイス。


 硬いなにかで頭を叩かれている。こっち向けよと言わんばかりに。


 錆びたのかと思うくらい、硬くなった体を動かして後ろを確認する。


 そこには、一角ジカ――らしき生き物がいた。らしきというのは、サイズが違う。シカというかは馬に近い大きさで、角はペットボトルサイズじゃない、中世の騎士が持ってるロングソードのように伸びている。体色に変わりはないが、四肢は筋肉が張り裂けんばかりで、同じ生物と思えないほど屈強だ。


「ブルァァァア!?」


 シカだというのに、眉間に深く皺を寄せ、喧嘩を売るような強い眼力、なにより、そのロングソードばりの角はリーゼントのように斜め上に向かって伸びている。


 なるほど、一角ジカはメスとオスで体格と角の長さが異なるらしい。俺の前にいるこいつは間違いなく、一角ジカの総長(ボス)だ!


 よくよく見れば、体格は劣るものの、総長の側には他のオスらしき一角ジカがおり、それぞれ角の形が違う。一頭は真上を向いていて、一頭は角が背中側に向くように湾曲していたりと、形状がまったく異なる。


 そんな角を振りかざす奴らを見た感想としては、世紀末の荒くれに絡まれた気分だ。


 多分、角の形がオスにとってのシンボル。メスへのアピールポイントであり、自分の強さの象徴的なものなんだろう。


 待てよ、あのもふもふがどう間違ったらこんな世紀末に生息していそうな生き物になるんだ。ああ、知りたくなかったこんな事実!


 気が付くと、オスの一角ジカに囲まれている。あれ、これ非常にまずい状況なのでは? 敵と見定められているのでは?


 総長がガンをつけながら俺の周りを回っている。さながら「兄ちゃん、なに俺らの縄張り(シマ)に勝手に入っとんじゃ。いい度胸しとるのぉ? アァン?」みたいな絡まれ方だ。


 突然、総長が角を思い切り近くの岩に振り下ろした。すると、岩が割れて亀裂が入る。とんでもない硬さだ。あれに突き刺されたら骨が砕けるどころか体を貫通するかもしれない。


 岩が砕けると、一角ジカのオス達が一斉に喊声を上げるように鳴き始めた。さすが総長、みたいな声に脳内変換される。


 総長がゆっくりと俺に近づいてくる。ああ、これやられる。間違いなくあの世往きだ。せっかく水を見つけたのに、まさか六本足でもなくこんな厳ついシカにやられるなんて思いもしなかった。


「ブルァァァアアア! ア?」


 吠えたと思った総長が、足元に視線を落とす。そこには、いつの間にかもこもこの子ジカがいた。


「マフッ」


 子ジカは状況が分かっていないのか、総長の足に絡んで遊んでいるらしい。じゃれているようだ。おいおい、あんな総長に絡むとか、子供は純心だな。いや、あれ危ないんじゃないのか? 蹴とばされたり角で薙ぎ払われたりするんじゃ――!?


「ぷるぁあ」


 明らかに総長の声が変わった。今まで重低音の声だったのが嘘のように、猫撫で声のような甘い声だ。眉間の皺も離れて、優しいというかでれたような顔つきになっている。子ジカの頭を口で撫でまくり、とにかく可愛がっているようだ。


 総長は俺の方を一瞥すると「ブルル……」とやや口惜しそうな眼差しを向けたが、子ジカと遊ぶことを優先したのか、仲間と共に俺への包囲を解いて離れていった。


 なんというか、親バカなやつだな。ありがとうもこもこ……お前のおかげで命拾いしたよ。


 いや、待てよ? 親バカってことは、もしかして俺が敵だと思われたのって、メスとあの子に不用意に近付こうとしたからじゃないか? あり得るというか、そうとしか考えられない。


 急を脱した俺は、ひとまず水辺に移動し、手で水を掬って飲んでみる。ああ、喉が潤う。この際、汚れとかそんなん気にしてられない。腹下さないことを祈るばかりだ。


 水は少し塩分を含んでる。周りの砂がしょっぱいから、それが溶け出して塩味を足してるのだろうか?


 いや、そうだ。最初にしょっぱさを覚えたけど、この砂漠の砂ってもしかして砂じゃなくて塩なんじゃないか? 昔は海だったから、トカゲ魚やエビカニみたいな生物がいるんじゃ?


 うーん、俺は専門的な知識はないから、そんな思い付きの発想しかできないけど、結構いい線いってると思うんだけどな。


 まあ、塩っぽさも混じってるならよりいいだろう。汗を流すと水分以外も出るからな。海水ほど塩分濃度も高くないし、ちょっと塩味を感じる程度だ。飲むのに問題はない。でも、飲みすぎには気を付けたほうがいいか?


「それにしても、俺以外に人はいないのかな」


 今のところ、隣で水を飲んでるトカゲ魚、離れたところで草を食む一角ジカ、螺旋樹の側に佇むデカブツくらいしかいない。さすがに砂漠、広い中で生物に会えるだけマシか? 水にありつけた俺は相当ラッキーかもな。


 もし俺以外に人がいても、会えるのはどれぐらいの確率なんだろう。宝くじ当てるのとどっちが可能性あるんだろうか。でも、俺と同じ状況だったら水を求めると思うんだよな。なら、ここにいればいずれ誰かに会えるんじゃ?


 ただ、水を求めるのは草食獣や人ばかりじゃない。六本足なんかの肉食獣だって、水を求めてここに来るだろう。どうする? 待つか、移動するかだ。


「うーん」


 移動するにしても、危険なのは結局どこに行っても変わらないし、水を得られるここを拠点にして周辺を探るって方がいいかもしれない。


「どうすりゃいいかなぁ?」


 トカゲ魚に語りかける。トカゲ魚は俺を見上げるが、なにも言ってはくれない。まあ、これで突然流暢に話されたらたまげるんだけど。


 そういや、こいつエラあるけど水に潜るとか、泳ぐわけじゃないんだな。他にもトカゲ魚がいるが、そいつらも地上でボーっとしている。


 俺が捕食者なら率先してこいつら狙うな。俊敏でもなければ、強力な武器も持ってなさそうだし。実はものすごく身がまずいとか、硬いとか食感と味で攻めてる生き物なのか?


「ブオッ」


 トカゲ魚を眺めていた俺を、邪魔だと言わんばかりに一角ジカのオスが角で押しのけてきた。総長でないとはいえ、パワーがあって俺は抵抗も出来ずにどかされてしまった。


 どかされた先は、トカゲ魚の上だ。背ビレに寄りかかる形になったが、背ビレは非常に弾力と伸縮性があって、破れるどころか容易に俺を支えてしまった。中々心地いい。


 だが、俺はそう思ってもトカゲ魚は大層嫌だったらしく、口を開け「シュー」と蛇のような声で威嚇している。さらに、用途不明だったエラを開いて、顔を大きく見せて怒りを露わにしている。


 広げて大きく見せる。威嚇としてはスタンダードな方法だ。


 さらに、エラから赤い毛のようなものが飛び出てきた。髭のように並んだその毛は、さらに顔を大きく見せる役割――ではなく、その赤い毛こそ、トカゲ魚が誇る最凶の武器であることを瞬時に理解する。


「クッッッサァァァァア!?」


 赤い毛から放出されたであろう臭い。鼻をドリルで抉られたような、痛みすら伴うとんでもない悪臭が辺りに満ちる。俺を小突いた一角ジカは声ならぬ声を上げて全力で離れていく。


 俺はあまりの臭いに、その場で悶えていた。なんだこの臭い!? 生ゴミと便器と煙草、どぎつく付けた香水、下水の臭いをブレンドしたような……とにかく尋常じゃない臭さだ。


 うおお、目にも沁みてきた! 痛い痛い! み、水で洗う――いやとにかくこいつから離れろ! 近くにいたら洗ってもまた沁みるから意味がない! 水辺を駆け抜けて離れたところで顔を洗うしかない。


 潤んで霞む視界、付きまとう悪臭、水辺を我武者羅に走って、最早足にかかる水で自分の走る方向を確認しているような状態だ。この際六本足に会おうが構わん、とにかくこの悪臭をなんとかしてくれぇ!!


「うがああああ!」


 目をこすりながらとにかく全力疾走して離れる。やがて目の端に水の少し深そうな部分が見え、ついに痛みに耐えきれずに思いっきり水に飛び込む。すると水は思った以上に深く、容易に俺を飲み込んでしまった。


 足が着かない!? 浅瀬から突然溝のようになっていて、溝の部分は極端に深い! まずい、走りながら飛び込んだから、呼吸が……! このままじゃ溺れる!


 手足をばたつかせ、とにかく浅瀬を目指す。水中でも目が痛くてうまく前が見えないが、酸素、酸素が足りない! はやく浮上しないと息が持たない!


 水に抗いながらも懸命に浮上していると、なにかの生き物の足が見えた。あそこだ! あそこは浅い!


「ぶはぁ!」


 浅瀬に辿り着き、目を擦る。ああ、生きてる。もう臭くない。目はまだ少し霞むけど、時間が経てば治りそうだ。


 そういえば、俺なんの生き物の足を見たんだ? 一角ジカか?


 振り返ると、そこには二つの巨峰。Eか、Fだろうか。形のいい大きな胸だ。ショートヘアの黒髪、少し筋肉が付いた肉付きの良い――人間の(・・・)女性が立っていた。


 そう、全裸で。


「き」


「き?」


「きゃあああああ!?」


 飛んできたのはビンタ――じゃなくて、キレのいいハイキックだった。俺の頭を完璧にとらえたそれは、見事なものでへぶっ。

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