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72話 対策探し

 テフランが適う限界の地区にすら、襲撃者はやってきた。


「倒してもお金にならないんだから、面倒だなッ!」


 テフランは鞘に入れたままの剣を振って殴打し、襲撃者の一人を昏倒させた。

 その間に、アティミシレイヤは手足での攻撃で三人を打ち倒し、スクーイヴァテディナは杖での打撃で二人を地に這いつくばらせる。

 ファルマヒデリアは活躍の場なく、警戒を含めて周囲に視線をめぐらす。


「これで終わりですね。どうやら迷宮の奥に行けば行くほど、襲撃者の数は少なくなるようです」

「強いならず者だったら、ショギメンカの町なら渡界者になれるから、そんなに数はいないだろうし」


 テフランは鞘を腰に巻きなおした後、ルードットとその仲間の腕利きに目を向ける。

 ここまでに来た襲撃者たちを渡界者組合に連行する付き添いで、腕利きたちの数は減りに減り、いまは先導役リーダーの男性しかいない。襲撃者たちを送り届けた後に戻ってくる予定だったのだが、それが追い付かない頻度で襲撃があったためだ。

 もし、いま倒した襲撃者をルードットたちに任せると、テフランたちの様子を見守る人がいなくなってしまう。

 テフランはルードットたちが組合長から依頼を受けていることを考えて、少し憂鬱な気分を言葉に乗せる。


「この人たちを連れて、俺たちも地上に戻った方がいいですよね?」

「そうだな。想定外の人数が襲ってきたからな。組合長に対策を聞かなきゃならない。ここで引き揚げてもらえたら助かる」


 テフランは当然の判断と理解はしたが、思うように迷宮探索ができなかったことに腹立たしさを感じていた。

 その鬱憤をぶつけるように細縄で襲撃者たちを後ろ手にきつく縛り上げ、迷宮の外へと続く道を歩き始めたのだった。




 テフランたちは渡界者組合に到着すると、さっそく襲撃者たちの身柄を引き渡した。

 続いて、全員で組合長室へと向かう。

 そこには笑みを浮かべるアヴァンクヌギと冷静な表情のスルタリア、そして魔遣いの集いのネヴァクとその従魔のマブロが居た。

 不思議な取り合わせに感じて、テフランは目を瞬かせる。


(ここにいるってことは、襲撃者の件に魔遣いの集いも関係しているのかな?)


 テフランは疑問を抱きつつ、アヴァンクヌギに向かい合った。


「組合長。俺が襲われること、知ってたんですよね」


 険を含んだ言い方で問いかけると、アヴァンクヌギの笑顔が深まった。


「そりゃな。だが、迷宮内へ追手をけしかけるような輩が多くいるとは思わなかったがな」

「数の予想が外れたとしても、襲ってくる人がいるかもと警告ぐらいしてくれても」

「おいおい。告死の乙女三人に勝てる戦力を持つヤツが、お前以外にいるわけがねえだろ。それに、襲撃してきた奴らは、別に殺してしまっても良いんだぜ」


 アヴァンクヌギの物言いに、テフランは鼻白んだ。


「人に襲われても、可能なら殺すなって、父親から教わったんですよ。後々に、難癖をつけられる材料になりかねないからって」

「ほほう。人造勇者どもを殺した人間の言葉とは思えないな」

「あの人たちは、魔法紋の影響で魔物化したんです。ああする以外に、救える道がなかっただけですよ」


 テフランは言いながら、チラリと一緒に入ってきていたルードットに視線を向けた。

 あのときの出来事がまだ胸につっかえているのか、微妙に顔をしかめている。

 テフランは少し申し訳ない思いを抱きつつ、会話の流れを元に戻す。


「とにかく、このままじゃ迷宮探索になりません。どうにかできませんか?」

「元を断てないかって意味なら、難しい。どうも襲撃者の後ろには、強い権力を持つ輩がいるようでな」


 アヴァンクヌギが手を振ると、スルタリアが静々と語り始めた。


「このショギメンカの町を要する国、その重鎮の血筋に通じる方が、告死の乙女の三方の誰かを見初めたそうで。どうにか手に入れたいと、権力と金を用いているようです。そんな相手ですので、組合としましては全面的な衝突は避けたいところ。かといって、テフランくんたちを見捨てる判断も、今後の『約束されたも同然』の活躍を捨てることになるため惜しいです」

「それで、その人と俺たちが接触しないように、水面下で妨害工作をしていたと?」


 そう口にした後で、テフランはネヴァクの役割に気付いた。

 彼の従魔であるマブロの鼻は、ファルマヒデリアたちが告死の乙女だと判断できるほどの精度を誇る。

 その嗅覚を生かして、その権力者の息がかかった者たちを探し当てていたのだ。

 そしてテフランは、迷宮内に襲撃者が来たことを考えると、マブロの鼻も万能ではないようだとも理解した。


「たびたび妨害したことで水面下工作がばれて、向こう側に対策を立てられたんですか」


 その疑問に答えるのは、スルタリアではなくネヴァクだった。


「どうやらマブロの鼻から逃げるために、仲介者を何人も間に挟んで襲撃を依頼したようなんだ。流石にそこまで念を入れられると、移り香も薄れすぎちゃって追えなくてね。申し訳ない」

「いえ、ネヴァクさんのせいじゃないです。むしろ向こうの狡猾さに舌を巻くというか」

「組合としちゃ、人を攫う程度のために仲介者を何人も立てても問題ない財力が羨ましいぜ」


 アヴァンクヌギの軽口に、テフランは白い目を向ける。 


「その財力と権力がある相手に、俺たちはどう対処すればいいんですかね?」


 苛立ち混じりの言葉に、アヴァンクヌギは肩をすくめる。


「俺としちゃ、ファルマヒデリアたち三人に排除依頼をしてもいいんだが――」


 アヴァンクヌギが言い淀みながら視線を向けるのは、スルタリアだった。


「――この判断は、止めたほうがいいんだよな?」

「血筋の者を傷つければ、大本がやってきます。そうなったら、この国の一大事になってしまいます」

「そいつもぶっ殺せばいいだろ?」

「国の重鎮が殺されたら、大軍が動く理由ができます。そして告死の乙女の三方がそれらを撃ち滅ぼせば、この国の屋台骨が壊れてしまいます」

「つーわけで、安易な方法はとれねえってわけだ」


 人一人の命で大軍が動く可能性があると知って、テフランはうんざりした表情になる。


「それじゃあ、俺は襲撃者を相手にし続けろってことですか?」

「そういうことだな。まあ、襲ってくる奴らを返り討ちにし続け、こうして組合に連行してくれれば、どんなに大金を積まれても割に合わねえって食い詰めものでも理解するだろよ」

「迷惑なんですが」

「手っ取り早い解決もできなくはないんだがなあ、スルタリア」

「問題の人物が、この町で病死したり、町中でテフランくんに関係ない暴漢に襲われて死んだり、迷宮内で魔物に殺さたりすれば騒動は収まります。ですが、当の人物は臆病かつ慎重でして、口に入るすべてを毒味役が確認しますし、常に魔法を使える医者が横に付き添ってます。移動は馬車で、護衛付き。万が一にも死ぬような状況はないでしょう」

「八方ふさがりに聞こえるんですけど?」

「そうでもありませんよ。実は、面白い報告が上がってます」


 スルタリアは少し微笑みを見せ、続きを話す。


「いままで欲したものがすぐ手に入らなかったことがなかったらしく、だいぶ焦れているようなのです。このまま状況を引き延ばしに引き延ばせば、ファルマヒデリアさんたちに興味を失うか、無謀な手段に打って出るかするだろうと、使用人が陰口を叩いていたそうです」

「ということは、その人物がそのどちらかの行動を起こすまで、俺たちは襲撃者の相手をしろということですか?」


 この状況に終わりがくることは分かったが、解決には程遠い話に、テフランはうんざりする。

 そこにアヴァンクヌギから提案がやってきた。


「襲撃者が来ないようにすればいいだけなら、方法は簡単だぜ」


 アヴァンクヌギは執務机の引き出しから、数枚の紙を引き出して掲げる。

 それは、最新の迷宮地図だった。

 テフランはそれらを目にして、首を傾げた。


「その地図と襲撃者に、何の関係が?」

「関係はない。だが、この地図を使ってテフランにやって欲しいことが、そのまま襲撃者避けになるってことだ」

「やって欲しいって、なにをですか?」

「『転移罠探し』だ」


 アヴァンクヌギの要望を聞いて、テフランは納得半分、嫌な気持ち半分になる。


「転移罠をわざと発動させて、迷宮のどこに飛ぶかを調べる仕事ですよね、それ。転移先がどこに通じるかわからないから、襲撃者たちもやってこないでしょうが、俺としては転移罠にいい思い出がないので、遠慮したいんとこです」

「おいおい。その罠のおかげで、ファルマヒデリアと出会えたんだ。いわば記念するべき罠といえるから、お前にとっては幸運の象徴だろ?」


 アヴァンクヌギのにやけ顔を見て、テフランはハッとした。


(俺が乗り気じゃないと知って、ファルマヒデリアを抱き込もうとしている!)


 ファルマヒデリアの様子を見ると、嬉しそうな笑顔をしていた。


「転移罠の調査、面白そうです。やってみませんか、テフラン」

「いや、転移ってどこに飛ぶから分からないから危ないんだよ。うっかり最深部に飛んだら、俺なんてすぐ死んじゃうよ」

「それなら平気ですよ。わたくしたちが守りますから」


 それなら安全と頷きかけて、テフランは寸前で顔をしかめた。


「三人に守ってもらうことを当てにするのは、情けないんだけどなぁ……」

「母親が子供を守るのは、当然なことです。そんな気持ちにならなくてもいいんですよ」


 慈愛を湛える笑顔のファルマヒデリアにそっと抱き寄せられて、テフランの顔が真っ赤に染まる。


「ちょっと、放してよ!」

「それに、テフランが自分の実力を知るためにも、これはいい機会だと思います。どうやらテフランは、自分の評価が低いように見受けられますから」


 よしよしと頭をなでられて、さらにテフランの顔の赤さが強まる。

 助けを求めようと手をさまよわせるが、誰も彼もが助けに入ろうとはしない。

 アティミシレイヤとスクーイヴァテディナに関しては、ファルマヒデリアの意見に同調する有様だった。


「そうだな。手加減しているとはいえ、我々の攻撃を受け止められる技量が、どの程度の魔物に通じる技術なのかを、テフランは正確に把握する必要があるだろう」

「自分の力、知る、大事なこと」


 転移罠の調査にファルマヒデリアたちが乗り気と知り、アヴァンクヌギはいい笑顔を見せた。


「どうやら意見は固まったようだな。じゃあ『転移罠探し』の依頼は、テフランたちに任せる。前金で金貨を二枚。転移罠一つ発見すれば金貨一枚、転移先を把握すればさら三枚、後払いで報酬を払う。もちろん、迷宮深部の魔物から得た素材を持ってくることも歓迎だからな」

「お願いしますね。転移罠で飛ぶ先が判明し、移動が簡略化できれば、より迷宮探索が楽になりますから」


 味方のいない状況に、テフランはついに悲鳴を上げる。


「わかったよ、やるから! やるから、放してってー!!」

「はい。そうしますね」


 ファルマヒデリアは、意外なほどあっさりと解放する。

 テフランは自由になれてひと心地ついたが、すんなりと解放されたことに、どこか一抹の寂しさがあった。

 そんな心の動きを見抜き、ファルマヒデリアは笑顔で両腕を広げる。

 しかしテフランは、さっきのは気の迷いと断じ、ファルマヒデリアの腕の中に飛び込む真似はしなかった。


「転移罠を探すなら、必要な物があるんだ。買いにいかないと」


 あからさまな話題転換に、ファルマヒデリアは微笑みながら腕を元の位置に戻す。

 その他の面々も、テフランの維持の張り方が微笑ましいようで、笑顔を浮かべていた。

 

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