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61話 組合長の憂慮

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 テフランがスクーイヴァテディナと暮らし始めてから、十数日。

 彼らを監視する者たちから上がってきた報告書を、アヴァンクヌギは組合長室で読んでいた。


「スクーイヴァテディナは、他の二人と『製造法』が違うって話だったが、あいつ自身に関しては特に問題はないな」


 『テフランと良好な関係を築いている』と、報告書の末尾に添えられていることから、心配は杞憂だったことが分かる。

 アヴァンクヌギが肩の力を抜くと、スルタリアも安堵した様子を見せた。


「従魔になった初日に、こちらの監視者の一人が引っ張り出されたことは予想外でしたが、それ以外はおおむね問題はないようです」

「あいつら、相手が告死の乙女ってことを忘れ始めてたようでな、あの一件で気を引き締め直したそうだぜ」


 アヴァンクヌギは苦笑いしつつ、報告書に別添えで添付されていた数枚の紙を摘む。


「そのお陰で、この新たな問題に気付いたのだから、『失態も功徳なりえる』ってやつだな」

「はい。まさか、組合以外の監視者がテフランくんたちについているとは思いませんでした」

「報告によれば、一つの組織からじゃなく、複数のとこからきているって感じらしいな」

「生憎、訪問するという類いの報せは、こちらにはありません。極秘行動のようですね」

「その『こちら』ってのは、渡界者組合にってだけじゃなく、スルタリアの伝手の方からもってことでいいのか?」


 アヴァンクヌギが意味深な言葉で尋ねると、スルタリアの表情が幾分冷たいものに変わる。


「そちらの情報は漏らせません。ですが、『ない』とだけは言っておきます」

「そうか。なら、俺が気にしなきゃいけない相手の手駒じゃねえってことか……」


 アヴァンクヌギは腕を組み、可能性としてあれこれと考えていく。


「あり得るとしたら、俺が上げた『告死の乙女と名乗る存在がいる』って報告書を真面目に受け取ったやつか、単純にファルマヒデリアたちの見目麗しさに参った馬鹿かだな」

「お忘れかもしれませんが、人造勇者の研究機関の縁者という線もあります」

「あー。あったな、そんなことも。そう考えると、テフランのヤツ、意外と敵が多いのかもしれねえな」


 アヴァンクヌギは、生意気な小僧が候補の誰かに苦労かけられる光景を想像して、口元をニヤリと歪めた。

 スルタリアは、しょうがない人だと、肩をすくめる。


「それで、テフランくんの監視者たちに対して『組合長として』どうなさいますか?」


 一部分を強調しての質問に、アヴァンクヌギは口のにやけを消した。


「告死の乙女が護衛してるんだから放って置け――と言いたいところだが、最近のテフランは、渡界者としては稼ぎ頭の一つなんだよなぁ……」


 テフランの実力は防御に限定すれば、全力の告死の乙女の直接攻撃に数秒耐えられるぐらいに高水準だ。

 攻撃においても、防御に数段劣るとはいえ、新米渡界者の中では群を抜いて優秀である。

 そのうえ、ここ最近は多数の魔物の素材を持ち込んできて、組合への貢献度も強くなってきた。


「ようやく小さな金の卵を産み始めたニワトリを、他所にくれてやる理由もねえんだよな」

「では、テフランくんに不利益が現れる前に、排除するということで良いですね?」


 スルタリアの確認に対して、この日のアヴァンクヌギは慎重だった。


「待て。なんか嫌な予感がありやがる。その怪しい奴らに『お話してもらう』ほうがいい気がする」

「組合長の野生の勘ですね」

「野生は余計だ。どうしても冠をつけたいなら、渡界者の勘にしろ」

「はいはい。その勘で、当組合が敵に回すことが得策とならない相手がいる気がするのですよね」

「俺への対応が雑なことに文句を言いたいところだが――まあ、そういった感じだ。スルタリアの伝手から話が来てねえってことは、それと匹敵する相手な可能性もあるってことでだしな」

「……そんな大物が相手が後ろにいると、『質疑応答を強要する』ことすら、はばかられますね」

「そこらへんは上手くやってくれや。穏便に話し合いができる符丁ってのがあるんだろ?」


 アヴァンクヌギが気楽に頼んできたことに、スルタリアは嫌な顔をする。


「組合長は俗な物語を嗜みすぎですよ――同国の相手なら、合図はなくはないのですけれど」

「そう重苦しく考えようとするな。適当につつけばいいだけだ。相手がこちらに接触したがるぐらいにな」

「それぐらいでしたら――畏まりました」


 スルタリアは一礼すると、組合長室から出て行った。

 彼女がどこに向かうのか知らないまま、アヴァンクヌギは背もたれに体重を預ける。


「こちらに新しい情報がくるか、人物が尋ねてくるか、もしくはテフランの方に強行的に接触してくるか。なんにせよ、相手の反応を見てみたいことにはどうしようもねえか」


 口調は面倒臭そうに、表情は荒事の予感に笑みを浮かべつつ、アヴァンクヌギは背伸びをし、机の上にある書類仕事へと戻る。

 その紙にペンを走らせる手つきは、普段よりも軽やかに見えたのだった。



キリがいい場所なので、短いですがご容赦ください。



そして、告知です!


アース・スターノベルさまのHPにて、試し読みが解禁されました!


http://www.es-novel.jp/newbooks/#tekiseisaikyo01


序盤におけるWeb版との違いの確認や、

表紙を含むカラーイラスト、数点のモノクロイラストも見ることができます。


是非お試しあれ!




ちなみに、店舗特典情報がまだ出ていないようです。

でも、一つだけ情報があります


書泉さまにて、フェアをやるようです。

https://www.shosen.co.jp/fair/70485/

チェックしてみてください。


他の書店でも特典があるはずですので、詳しい情報はいましばらくお待ちください。

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