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57話 新しい義母は野生系

 アヴァンクヌギの提案で、スクーイヴァテディナは対外的にテフランの第三の義理の母になった。

 三人目ともなれば、テフランも慣れたものかと思いきや、実はそうではなかった。


「ちょっと、スヴァナ。止めてってば……」


 困惑するテフランをよそに、スクーイヴァテディナは彼に抱き着いて頬ずりをしている。

 無言ながら、その表情は愛おしそうかつ幸せそうで、事情を知らない人が見たら微笑ましい光景だった。

 そんな二人の様子を、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは、にこやかに見守っている。


「よほどテフランのことが気に入ったんですね」

「我々のように、事前に役目を教えられていない様子なのに、ああいう状態を取るということはだ。テフランを本当に主として、認めているということなのだろうな」

「テフランは命懸けで、スクーイヴァテディナを従魔にしましたからね。その行動への敬意もあるはずです」

「だが、見た目の幼さと行動の仕方が、我々と違って人の親っぽくはないな」

「少し動物っぽい感情と行動基準を持っているようですしね」


 ファルマヒデリアの評価の通り、スクーイヴァテディナが飽きることなくテフランに頬ずりしているのは、猫が臭い付けを飼い主にやっているように見える。

 一方で、やられているテフランの方は、たまったものではなかった。


「スヴァナ。ちょっと離れてって」

「…………」


 スクーイヴァテディナは無言ながらも、抱き着く腕を強め、当てる頬の面積を増やして、提案を拒否する構えを見せた。

 テフランが心を鬼にして引き剥がそうとすると、純真無垢な瞳に悲しい色を湛えて訴えかけてくる。

 ファルマヒデリアやアティミシレイヤとは違う反応に、テフランの気概が削がれてしまった。

 そして、鬼にしたはずの心が揺らぎ、ため息と共にスクーイヴァテディナのしたいようにさせてしまう。


(ううぅ、耐えろ。頬の滑らかな柔らかさや、抱き着きながら押し付けてくる小さな胸の感触とか、気にしないように……)


 テフランは恥ずかしさと緊張から赤い顔をしながら、なるべく平常心を心がけた。

 スクーイヴァテディナの肉体は、ファルマヒデリアやアティミシレイヤと比べて、やや未熟な感じがある。

 そのため、危うい均衡ながら、長時間くっ付かれて頬ずりされえても、テフランはどうにか気絶せずにすんでいた。

 しかし、いくら経っても、スクーイヴァテディナは行為を止めない。

 段々と鬱陶しさが増し始め、テフランは救いを求める目を、ファルマヒデリアとアティミシレイヤに向けた。

 すると二人は、テフランが独占され続けることが少々不満だったようで、すぐに助けに入ってくれた。


「スクーイヴァテディナ。ほら、テフランを放してくださいね」

「…………」


 スクーイヴァテディナは言葉を発しないまま、ムッとした顔をファルマヒデリアに向けた。

 それを受けて、アティミシレイヤも口を挟む。


「離れがたい気持ちはわかる。だが、いつまでもそんな『つまらない格好』をしているのは、どうかと思うぞ」


 指摘に、スクーイヴァテディナはアティミシレイヤ、ファルマヒデリアの順に目を向ける。

 彼女たちの服装が、告死の乙女特有の青い衣ではなく、人間が作った服装だと今更ながらに気付く。

 そして、テフランにものを問いたそうな瞳を向けてくる。


(服装について、なにか意見を言った方がいいのかな?)


 テフランは少し悩み、本音半分、離れて欲しい気持ち半分の言葉を放つことにした。


「その青い衣も似合うけど、着飾ったらもっと綺麗になると思うよ」

「――――」


 ふんふんと頷き、スクーイヴァテディナはテフランを解放した。

 そして、じっとファルマヒデリアとアティミシレイヤを見つめる。


「ふふっ。テフランに言われて、オシャレする気になったようですね」

「それなら、こっちの部屋にこい。我々の服の中から、良さそうなものを見繕ってやるぞ」


 二人に伴われて、スクーイヴァテディナは一室へ入っていった。

 居間に一人残されたテフランは、安堵から息を吐きつつ、赤い顔を冷ますために水を飲むことにした。

 コップ一杯では収まらず、二杯目を水甕から注ごうとする。

 そのとき、三人が入っていった部屋から、物音がした。

 音は少しずつ大きくなり、人の声も交じり始める


「――これも気に入らないんですか」

「傾向としては、ファルマヒデリアのものより、私のものの方がウケはいいようだが」

「動きやすい服装が好みのようですね。けど、アティミシレイヤの格好をするにも、下着を受け付けないんじゃ着せられませんよ」

告死われ乙女われが青い衣を着ていたときは、下着はつけていなかったとはいえ、嫌がるとは思わなかった」

「新品を出しても来たがらないってことは、着けること自体がダメってことでしょうから」

「事前に知性を入れられてないと、そういう部分も獣っぽい感性なのだなと興味深くはあるが」


 漏れ聞こえてきた声を耳にして、テフランは思春期な妄想力を発揮して、つい想像してしまう。

 スクーイヴァテディナが下着をつけないままに、ファルマヒデリアとアティミシレイヤに着せ替えられている姿。

 先ほど抱き着かれていた感触から、服の下にある肉体の形が予想がつくため、なかなかに真に迫った姿かたちを妄想できていた。

 しかしここでテフランの初心うぶな性質が現れ、冷ましていたはずの顔色が、再び真っ赤になってしまう。

 そして、ぶんぶんと頭を横に振って、テフランは妄想を脳内から追い出した。

 そんなことをしていると、唐突にファルマヒデリアたちが入っている部屋の扉が、大きな音とともに勢いよく開く。

 出てきたのは、脱いだ青い衣を片手に持った、全裸のスクーイヴァテディナだった。

 彼女はあ然としているテフランに近づいて抱き寄せると、不満感を紛らわせるように頬や体をこすりつけ始めた。

 煽情的な光景と仕草に、テフランの興奮の許容量が限界に迫り、くらりと眩暈を引き起こす。


「ちょ、ちょっと! 抱きつくなとは言わないから、せめて服を着てよ!」

「…………」


 ムスッとした顔で、スクーイヴァテディナは拒否する。

 むしろ、部屋から続いて出てきたファルマヒデリアとアティミシレイヤに見せつけるかのように、体を押し付ける強さを上げた。

 テフランは混乱しながらも、事情を尋ねることにした。


「ちょっと、なんでこうなっているの!?」

「それがその、わたくしたちの服装は、気に入らなかったみたいで」


 ファルマヒデリアが困ったように言たことに、アティミシレイヤが補足説明を入れる。


「どうやら、体にぴったりとくっつく服――下着のようなものが気持ち悪いようだ」

「スクーイヴァテディナは人間らしさは構築途中で、いまは野生動物のような感性をしていますから。服を着ること自体が、ストレスになっても変ではないんです」


 二人の説明を受けて、テフランは嫌な予感がした。


「……まさか、裸で過ごさせる気じゃないよね?」

「いえいえ、そんなことはしません。人の世でそういう真似はいけないことだと、ちゃんと理解してますから」

「青い衣を着る分には不満はないようだからな。あれと似た服装を用立てればいい」


 ちゃんとした解決策に、テフランはホッとした。


「それじゃあ、そういった服装を買いに――」

「買っても、下着はつけたがらないと思いますが、それでもいいですか?」


 ファルマヒデリアの言葉に、テフランは『その問題があったか』と頭を抱えた。


「――告死の乙女は学習するんだから、いまはダメでも、すぐに来てくれるようになるんじゃない?」

「徐々に慣らしていけば、いつかは着けてくれるとは思いますよ」

「だが、そう簡単ではない。スクーイヴァテディナが好きなのは、動きやすい服装だ。下着に慣れるまでの間、気をつけないと色々と見えてしまいかねないぞ?」


 アティミシレイヤの補足に、テフランは相変わらず頬ずりしてくるスクーイヴァテディナを見やる。

 そして、つい胴体の肌色が見えてしまい、慌てて目を逸らす羽目になった。

 そのせいで思考が混乱し、あまり深く物が考えられなくなり、やがて思索を頬り投げる結果を選ぶ。


「とにかくスヴァナには、この青い衣を着させて、そして服屋で着れる服を買おう。店員に聞けば、下着を着ずに済む服ぐらいあるはずだし!」


 テフランの決断に、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは『そんな服があるのかな?』と疑わしげな顔になりつつも、それ以外に方法はないと納得することにしたのだった。

アース・スターノベルさまのHPにて、刊行予定の欄に当作品の書籍化情報が載りました。


題名は、web版から少し変わりまして――

『敵性最強種が俺にイチャラブしたがるお義母さんになったんですが?! 』


イラストはイチケイ様。

発売日は二月十五日を予定しております。


題字なしの表紙絵――テフランとアティミシレイヤの姿が見られますので、ご確認くださいますようお願いいたします。

http://www.es-novel.jp/schedule/


これ以上の詳しい情報は、また発信があり次第、報告させていただきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読める。 [気になる点] 名前が長い上に覚えにくいし発音しにくいものばかり。 多分作者も名前把握できてないんだろうなっていう 名前ミスがある。 切羽詰まったタイミングで「ファルリアお…
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