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53話 転調の切っ掛け

 テフランたちの戦法は、テフランは防御主体、アティミシレイヤは攻撃偏重、ファルマヒデリアは万能型の対応力を生かしての戦いだった。

 告死の乙女は、目標であるテフランが前に来たことで、他の二人より重点的にテフランを攻撃してくる。

 だがテフランは、剣同士を打ち合わせ、さばき切れなかった分は鎧の硬い部分であえて受けることで、防御に成功する。

 そうして告死の乙女がテフランばかりを狙うことで、アティミシレイヤは攻撃に集中できるようになった。

 そこで、一発当たれば相手を戦闘不能に出来る大技を仕掛けて、相手に避けるか防御するかの選択を強制的に迫る攻撃を行う。

 そんな攻撃が一発一発放たれるたび、告死の乙女の攻撃がほんの短い間でも止むため、テフランはひと呼吸入れて心肺に新鮮な空気を入れることができた。

 しかし告死の乙女は攻撃は、剣による直接攻撃だけではない。

 テフランを狙って、魔法攻撃が準備される。

 告死の乙女の体にある魔法紋からだけではなく、その片手に握る杖に刻まれている魔法紋からも魔法を出現させて、火、水、土など様々な属性の攻撃を放つ用意をしていく。

 直接攻撃の対応で手いっぱいのテフランに、それらの魔法を防ぐ余裕はない。

 アティミシレイヤにしても、攻撃に重きを置いているため、テフランのフォローに回る余力はない。

 だが、二人の後ろに控えているファルマヒデリアは、戦いの状況をつぶさに観察していた。

 告死の乙女が魔法の準備を始めた瞬間、その魔法の出かかりを潰すために、ファルマヒデリアは魔法を連続して射出する。

 空中で魔法同士が衝突、消滅し、残滓の煌めきを残して空中に溶け消えていく。

 死中に活を求める、一歩間違えれば破綻しかねない、テフランたちの攻防。

 だが、テフランはしっかりとした手ごたえを感じていた。


(やっぱり、俺が間に入れば、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは連携が取れる! そして、それはこの告死の乙女にも負けない力を発揮している!)


 ファルマヒデリアとアティミシレイヤは共に、お互いに連携を取ろうとは、傍目からもしていない。

 だが二人は常に、防御に徹するテフランを助けようと行動している。

 その結果、うまい具合に息が合った連携が取れていて、告死の乙女の行動を邪魔することに繋がっていた。


「ぐっ……」


 鎧の胸部を杖で叩かれ、その衝撃によろめくテフラン。

 告死の乙女は好機を得て、魔法紋が輝く剣でなで斬りにしようとする。

 しかし剣が振られる直前、アティミシレイヤは剣の柄の部分を殴りつけて行動を阻止。

 テフランが態勢をを戻そうと苦慮する間、告死の乙女が杖で攻撃できないように、ファルマヒデリアが魔法を杖頭にぶつけて阻害する。

 そうしてテフランの構えが整うと、今度は二人して告死の乙女に手傷を負わせようと、それぞれの方法で戦いだす。

 アティミシレイヤは手足による渾身の一撃を狙い、ファルマヒデリアは攻撃魔法で打撃しながら相手の魔法の出かかりを潰す。

 二人の攻撃のお陰で、告死の乙女の戦い方に陰りが生まれることで、テフランにもどうにか対応できる戦闘速度に落ちる。


(この調子でいけば、打倒できる!)


 テフランは重たい剣の一撃を逸らしながら、そう確信めいた気持ちを抱いた。

 その確信が本当だったと証明するかのように、状況がすぐに動きを見せた。

 ファルマヒデリアが放った魔法が、告死の乙女が準備していた魔法に衝突し、魔法の煌めきが散る。

 その光が、運悪く告死の乙女の目の前へ飛び、ほんの一瞬だけ片目の視界が遮られた。

 常人ならば、見過ごすしかないほどの隙。

 だが、アティミシレイヤはすぐに反応した。


「そこッ!!」


 短い気合の声と共に、肩から先が消えて見えるほどの速さで、魔法の煌めきを突き通して貫き手が迫る。

 揃えられた指先にある魔法紋が強く輝き、手甲の隙間から光が漏れ出ることから、当たれば決着の一手であることが伺えた。

 しかし、相手も告死の乙女である。

 咄嗟に反応して、体を傾けつつ頭を横に振って避け、どうにか黒と金の髪がいくつか切り裂かれた程度に被害を押えてみせた。

 見事な対応だが、その体勢は先ほど以上に隙が多い。


「これで決める!」


 アティミシレイヤは決意の言葉と共に、逆の手で再び貫き手を放つ。

 不十分な体勢で避けられるほど甘くない一撃に、告死の乙女は剣でアティミシレイヤの貫き手を防ぐことを選択する。

 刃先と手甲をはめた指先の衝突。

 金属が軋む音が響き、そして手甲のみに亀裂が入る。

 それを見ても、アティミシレイヤはうろたえない。


「所詮は魔法紋を隠すための手甲。壊れようと戦力の低下とはならん!」


 アティミシレイヤの咆声通りに、割れた手甲の下から現れた魔法紋が輝く指先は、告死の乙女の刃に突き入れられているにも関わらず傷一つない。


「…………」


 告死の乙女は無表情に状況を観察した後、剣を握る腕の魔法紋をより一層輝かせて、膂力を増強させた。

 上がった腕力で剣を押して、アティミシレイヤを下がらせようとする。

 刃と指先で鍔迫り合いする一方で、告死の乙女は反対の手にある杖を顔の横に上げた。

 一瞬後、最接近したテフランが抜け目なく押し付けようとした剣の刃が、杖の表面を噛む。


(ちッ。視線は完全に、アティさんの方に向いていたのに!)


 防がれていなければ、剣は告死の乙女の首筋を深く斬りつけていたはずと、テフランは悔しがる。

 それでも、剣を引き戻して防御態勢に入った。

 その構えを取る間の隙は、ファルマヒデリアが攻撃魔法を放って牽制し、潰してくれた。

 そして再び、三対一の攻防が始まる。

 告死の乙女はテフランたちの行動を学習して、それに対応した動きを取ろうとしている。

 だが、ファルマヒデリアとアティミシレイヤも同じ存在。

 急速に連携攻撃という物を学習し、毎秒事に精度が高まっていく。

 唯一テフランだけ、目に見える成長はない。

 しかしその変わらなさが、逆にファルマヒデリアとアティミシレイヤの連携の上達を助ける。

 ここでテフランまで急成長を見せた場合、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは先に、テフランの伸びる技量に合わせようと努めたはず。

 その成長がないからこそ、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは、テフランを間に挟みはしているが、お互いに連携を取るべく学んでいるのだ。

 そうした学習と成長の果てに、徐々にテフランたちの連携が、告死の乙女の対応速度よりも上回ってきた。

 ファルマヒデリアの魔法や、アティミシレイヤの手足によって、告死の乙女にかすり傷が生まれ始めたのだ。

 優位に立ちつつあることは、テフランの防御に間が開くようになったことからもうかがえる。

 それだけでなく、告死の乙女の全身にある魔法紋から出血が見られた。

 魔法紋の酷使によって生じる、肉体の変異現象だ。


「限界が早いな! やはり、一つの体にそれだけの魔法紋を詰め込むのは、無理筋だったようだな!」

「さしずめ、彼女の形態は『短期決着型』と言ったところですね」


 アティミシレイヤとファルマヒデリアが攻撃しながら放った言葉に、テフランは確信を抱く。


(よし、戦いの流れは確実にこちら側に来ている!)


 テフランが相手を打倒し始めたと思った瞬間、不意に告死の乙女が肩のみの軽い体当たりをテフランに行ってきた。

 よろめいて触れたようにしか見えない攻撃。

 その弱々しさに、ファルマヒデリアとアティミシレイヤは脅威度が低く、テフランでも対応可能と見逃した。

 だがテフランが感じた衝撃は、大人に手で突き飛ばされたかのようで、思わず二歩後ろに下がってしまう。

 そうして、不意に両者の距離が空いた。

 攻撃するには十分な空間ができた瞬間、告死の乙女は杖を振り上げ、テフランへ振り下ろす。

 ファルマヒデリアとアティミシレイヤが反応して妨害し、多少攻撃の速度と威力を減じることに成功する。

 だが、妨害された際に怪我を負っても、告死の乙女は杖を振り下ろすことを止めなかった。

 テフランは踏ん張って剣で防ぎ、その重さに苦悶の息を漏らす。


(二人のお陰で手振りに近い殴り方になっていたっていうのに、衝撃で地面に膝を屈しそうだ!)


 テフランは口を噛みしめ、根性で全身の力を総動員することで、衝撃に潰されることだけは回避する。

 しかし、そうやって意思で無理がきくのは、生命があるものだけだ。

 テフランの剣が、度重なる重い攻撃を防ぐことに音を上げ、破断してしまったのだ。


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