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50話 前哨戦

 テフランたち三人と、二人組の告死の乙女との戦いは、比較的穏やかに始まる。

 テフランたちは身構えつつも様子見に徹し、告死の乙女たちは武器を手にゆっくりと近づいてくる。

 その様子を見ていたテフランは、あることに気付いた。


(黒髪で剣を持つほうの陰に、金髪で杖を持ったほうが隠れて見えない。けど、見えないのは『俺にだけ』だよな)


 テフランが考えたように、事実、ファルマヒデリアとアティミシレイヤには、後列にいる金髪の方の個体が見えている。


(ってことは、あの二人は確実に俺だけが目的だ)


 告死の乙女二人に標的にされている状況に、テフランは剣を持つ手に汗が浮かび、ぎゅっと柄を握ることで誤魔化す。

 その緊張を感じ取ったのか、ファルマヒデリアが微笑みを向ける。


「心配しなくても、テフランだけは生還させます。そう緊張しなくてもいいですからね」


 優しく幼子に語り掛けるような声色に、テフランの男性としての矜持が刺激された。

 同時に、渡界者としての冷静な判断が働く。


「悪いけど、その言葉に甘えるわけにはいかない。三人で協力して戦わなきゃ、勝てない相手だって、俺にでもわかる」

「そんなことないと思いますよ。わたくしの見解では、私とアティミシレイヤだけで、対処可能だと思いますよ?」

「倒すだけなら、二人でも可能だと思うよ。けど、『三人で迷宮を出る』ことはできないでしょ」

「……見抜かれてましたか。そうですね。私かアティミシレイヤ、どちらかか双方とも、あの二人組を撃破する際に行動不能に陥ってしまうでしょう」

「悪いけど、そんな方法を取ることは、許さないから」

「私としては、テフランが傷つくほうが、行動不能に陥るよりもイヤなんですよ」


 子供の我がままに困る母親の顔で、ファルマヒデリアは諭してくる。

 しかしテフランは、その方法を受け入れる気はない。


「悪いけど、二人に守ってばかりなのはイヤだし、二人が死ぬ状況になるのはもっとイヤなんだ」


 テフランが決意を語ると、ファルマヒデリアは困り顔で何かを言おうとして、横からアティミシレイヤに止められた。


「テフランがこうも言うのだ。聞き入れることが、我々の責務ではないか?」

「ですが……」

「ファルマヒデリアだって、こんな場所で行動不能に陥ることは、不本意なのだろう?」

「それはそうです。末永く、テフランの成長を見守って行きたいんですから」

「ならば、テフランと共に、あの二人組を打破すればいい。それこそが、こちら側の誰もの願いが叶う、唯一の道だろう?」

「むぅ……。わかりました。けれど、テフランの安全は確保して欲しいです」

「ふむっ。言い分は分かるが、それはファルマヒデリアの頑張り次第だろう」


 アティミシレイヤはニヤリと口元を歪めると、急に前へ駆け出した。

 そして口から、魔法紋を強く起動させる旋律が走る。


「Luraaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 両手と両足に魔法紋が密集して輝くと、アティミシレイヤの走る速さが上がった。

 常人であるテフランの目には、残像が映り、その走る姿が二重三重に見えてしまうほどだった。

 急接近するアティミシレイヤに、二人組の告死の乙女が対応を始める。

 まずは、前に立つ黒髪の個体が、剣を構えて振りかぶる。


「Naoooooooooooooooooo~」


 歌声と共に振るわれた剣に、びっしりと魔法紋が浮かび上がった。

 すると、剣の軌道に沿って見えない刃が発生する。

 直後にその刃は射出され、真っすぐにアティミシレイヤに向かって行く。


「そのような、こけおどし!」


 アティミシレイヤは気合を入れて、右の腕を振るって不可視の刃を叩き割る。

 その対応は二人組の側も見越していたようで、金髪の個体が杖の先をアティミシレイヤに向けていた。


「Mauuuuuuuuuuuu~」


 歌声に杖に刻まれていた魔法紋が起動し、金髪の個体の周囲に様々な色の魔法で作られた球体が浮かび上がった。

 戦闘面に関してファルマヒデリアの上位互換な存在だけあり、その数はかなりのものだ。

 アティミシレイヤは数の暴威に対する心を決めると、さらに走る速さを上げる。

 その行動に呼応して、空中に浮かんでいた多数の球体が射出された。

 赤い球が走る軌道にある空気を焼き焦がし、青色の球が空気中の水分を凍結させ、茶色い球が砲弾のような唸りを上げながら迫る。

 アティミシレイヤは直撃弾だけを、魔法紋が浮かび上がっている腕で弾き飛ばし、至近弾は無視して走り続ける。

 そして、二人組の前衛である、黒髪の個体へ最接近した。


「Naooooooooooooo!」


 黒髪の個体は剣を振るって、アティミシレイヤを下がらせようとする。


「甘い!」


 アティミシレイヤは相手の判断を断じながら、一歩分横に跳び退くことで避け、さらに前へと走る。

 そして、黒髪の個体に遠慮して魔法の射出を止めていた金髪の個体に、タックルで抱き着いた。


「ファルマヒデリア! テフラン! 黒髪の方は任せる!」


 アティミシレイヤは言葉を残すと、金髪の個体を担ぎ上げて走り出す。

 そして壁を蹴りで破壊して、その向こうに現れた通路へと出て行った。

 残された黒髪の個体はアティミシレイヤを追いかけようとせずに、あ然としているテフランへ走り出す。

 それを阻止するため、ファルマヒデリアは体の周囲の空中に炎の球を複数出現させると、すぐに射出した。

 黒髪の個体は炎球の一つを剣で切り払い、少し後ろへ跳んで距離を空ける。

 足止めに成功したファルマヒデリアは、魔法で新たな球体を出現させて警戒を続ける。


「それにしても、アティミシレイヤったら。各個撃破を狙うなんて、戦闘型らしい作戦をとったものですね。しかも要領よく、こちら側の経験が生きる形に分断するだなんて、良く頭を使いましたと褒めてあげたいです」


 ファルマヒデリアが気楽そうに微笑む姿に、テフランは我に返った後で疑問顔になる。


「経験って、なんの話?」

「テフラン、この状況をよく見てみてください。なにか、既視感を覚えませんか?」


 問われて、テフランは状況を改めて確認する。

 テフランとファルマヒデリアが対峙する相手は、近接戦闘型の告死の乙女。

 三者が立っている場所は、安息地のように小部屋状である、魔物部屋モンスターハウスだ。

 それらを確認し終えて、テフランはピンとくるものがあった。


「あっ。アティさんを従魔にするときと、似た状況だ」

「その通りです。なら、あのときの経験を生かせるとは思えませんか?」

「なるほどね。でも『あのときと同じことをする』じゃなくて、『あのときの経験を生かす』んだね」

「あの告死の乙女が狙うのはテフランですし、手に剣を持っていますからね。同じことはできませんから」

「それに、俺もあのときよりは実力がついたしね。それを加味して考えろってことか」

「はい、よくできました」


 ファルマヒデリアが大変に嬉しそうに笑ったことを受けて、テフランは誇らしさと気恥ずかしさで赤面してしまう。

 しかしすぐに、照れている状況じゃないと思いなおし、表情を引き締めている。


「じゃあ、俺が前衛で抑えるから、ファルリアお母さんは魔法で攻撃をお願い」

「わかりました。けれど、危険だと判断したら、すかさず魔法障壁を張りますからね」

「お願いするよ。けど防御するだけなら、ここ最近続けてきた訓練のお陰で、だいぶ粘れると思うけどね」


 テフランは剣と鎧の魔法紋を起動させ、じりじりと相手へと近づいていく。

 狙う相手が自分から近寄ってくるからか、黒髪の個体は剣を構えたままじっと動かない。

 そうして両者の距離が、剣の間合いまであと二歩というところになった瞬間、テフランと黒髪の個体は同時に剣を振るい始めたのだった。

新年を迎えまして、昨年私の作品群をご贔屓してくださったお方々へ、改めて御礼申し上げます。


当作品ならび他の作品について、今年も変わらぬご愛顧くださりますよう、お願いいたします。

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