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おいしいカレーの作り方  作者: ヨシィ
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百匹目の猿

 最初の授業を終え、尋ねてみた。

「なぜ僕なんでしょうか?」

先生は僕を見たあと視線を下に落とした。

「ランダムだと言ったろう?条件を満たしている中から闇雲に引いたカードが君だったんだよ。」

然したる理由がないことが負い目であるかのように、言いながらチラリとこちらを伺う。なんだかかわいくもある。

もう少し突っ込んでみたくなった。

「では僕になにをさせようとしてるんでしょうか?」

う~ん、と唸りながら考え込んでしまった。そんな難しい質問したかな?

「私は君を何者にもすることができる。だがそれは君の力ではない。君自身が望み君のやり方で何者になるのかを見届けたい。」

 つまり僕は、先生の元で学び実践していくということか。

ただここでひとつ疑問が浮かんだ。先生にメリットはないだろ?ということ。

無作為に選ばれた僕が、夢を叶えて幸せな人生を送れたとしても、先生にとってはボランティアのようなものでしかない。

本当はもっと別の理由があるんじゃないか?僕じゃなくても先生は同じことをしただろう。

「僕がどんな行動をするか観察したいと?」

見届けたいという先生の言葉に対して、観察したいと?という言葉を使っただけなのだが、先生は観察に反応した。

「観察か。う~ん。本来は君に先入観なしで動いてもらいたかったのだが、仕方がない。君たちは端的にいうと実験台として選ばれたんだ。」

先生は続けて言った。

「日本の現状を変えるというテーマで我々は試行錯誤していた。君は日本猿の文明伝達を知っているかね?」

ん?なんだそれは?見当もつかない。

「一匹の猿が海水で芋を洗い始め、群れの中で定着し始めると遠く離れた場所の猿も同じ行動を始めるという話だ。」

「あ!聞いたことがあります!」

百匹目の猿、ある一定の個体数を超えると種全体に浸透していくという話だ。

「あれは確かフィクションではなかったですか?」

「よく知っているね。その通りフィクションだよ。遠く離れた場所への伝達方法を持たない猿がどのように文明伝達を行ったのか、という部分に夢があるだろう?だが君たち人間はどうだ?遠く離れた場所への伝達方法はいくらでもあるんじゃないか?」

 携帯電話、メディア、最近ではSNSで普通の人も不特定多数に向けて情報の発信源になることができる。

百匹目の猿よりも、遠くに情報を発信し共有することははるかに簡単だ。

「君たちは最初に芋を洗い始めた猿として選ばれたんだよ。」


 「ところでチョコレートは買ってきたかね?」

あのかごに入れるつもりのなかったチョコレート!?あれはこの人の仕業だったのか!?

「あります!ありますけど!ええ!?」

驚いた。この人本当に神様なんだなと改めて思った。

「以前に降りてきたときに気になっていたんだ。まだ食べたことがないんだよ。チョコレートをくれないか?」

もちろんですとも。猿呼ばわりされたのは気に食わないけど、比喩としてのことだ。水に流してあげますよ。

僕はまだ袋に入れたままのチョコレートを手に取り差し出した。

先生はチョコレートを受け取り一通り眺めたあとパッケージを破り始めた。

「この黒い固まりがねぇ。旨いんだろ?」

「はい。甘くて美味しいですよ。召し上がってみてください。」

先生はチョコレートを割り口に運ぶ。

「なんだこれは!?君たち人間はすごいものを作ったねぇ!」

おもしろい。この人これでも神様なんだよなぁ。

これからこの愛すべき神様の講義を受けながら自分がどう変わっていくのか、想像していた。

チョコレートを頬張る神様を、胸の高まりを抑えつつながめていた。

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