殺意
※今日は二話投稿します
「どうなさるおつもりですか?」
震える声で、私は真剣に尋ねた。
打ち明けられた秘密は、私たちへの毒だった。
ラウル様は私たちの血筋を心底恨んでいるのだし、そして、こう思っている。
〝もともとは同じ家の者であった。立場も逆だったかもしれないのに”
「あなたは、私たちに、復讐のために近づいたのですね」
じっとラウル様の目を見つめる。
ラウル様の目は感情を映していなかった。ラウル様が私の頬に添えていた手が下がり、私の首にゆるやかにかかった。
だから、今までも度々、ラウル様は聖女の頬に手を添えてきたのだ、と、分かった。
首に手をかけたくて。頬のところで止めていた。
ボロリと、泣けた。聖女の心が耐えきれなくて涙を落とす。聖女にはどうしようもない。どうするのが良いのか、本当に分からない。
殺してしまいたいというのも、ラウル様の本心だろう。
ただし、ラウル様の殺意は、私よりは、兄の方に向いている。古代において、男性が役割を担っていたからだ。男に呪いがかけられたのもそのせいだし、その呪いをかけたのも男だから。
困ったな、と私は思った。
純粋培養な聖女様の私が、ボロボロボロボロ、泣いている。私の目から涙が流れる。
ラウル様の手に力が入った。軽く首がしめられた。
それでも好きだなんて、困ったものだなぁ、と、私は思う。
ラウル様がクシャリと泣き笑いの顔をした。
「あなたは、どうして私を好きになったのです」
その言葉に、精一杯優しそうに笑ってみせる。
「ラウル様こそ、私を大切に思ってくださっているではありませんか」
ラウル様までどうして良いのか分からないとは、困ったものだ。
「・・・試してみてはいかがですか?」
と私は言ってみた。今から言い出そうとしている言葉に、私の中の聖女様が慌ててヒァアア、と焦ってきたが、無視しよう。
「私と結婚しまして、子ができましたら、兄と弟の血筋が一緒に戻りますでしょう。呪いは適用されないかもしれません」
サラリと言ってみる。
聖女の涙をそのままに、まるで見守るような気持ちで提案をした。
ラウル様の手から力が抜けて、
「あなたは死ぬかもしれませんよ」
コツリ、と、額をつけてきた。
こんなに好きになってくれている。なのにな。
私は言う。
「呪いが邪魔ですね」
「・・・」
ラウル様は無言だ。
私はさらに言った。
「呪いを取り消せばいいのです。・・・兄と、呪いを消しに行かれるのでしょうか?」
「・・・難しいでしょう」
と、ラウル様が、言った。
「あなたがたの魔力はもう質が変わっています。儀式の方法すら受け継がれていない。自分の祖先が何を行ったかさえ知らない。だから、難しいでしょう」
では、何を今から、兄と一緒に行おうとしているのか。
ラウル様から懺悔の気持ちが伝わってくる。誰にでもなく、私に対して。私から、兄を奪う事に対して。
「・・・兄を殺すおつもりですか?」
「・・・」
ラウル様は無言で、すっと私から身を離した。
・・・兄は、きっと、知っている。殺意の読み取りに疎い私にですら分かったぐらいだ。兄は、ラウル様の根底の願いを知っているはず。自分への殺意を知っているはず。
お兄様。一体、何をどのようにするおつもりですか?
頼りにして良いのでしょうね?
むざむざ、殺されるようなことには、ならないでくださいませね。