呪い
大昔。
その国は、神を崇め奉っていた。
儀式の時に、人を生贄に捧げる習慣があった。
血は尊いものとされていて、儀式をするのも、生贄を出すのも、最高位の神官の家からだった。
いつからか、役割分担になっていた。
儀式を行うのは、ある兄弟の、兄の血筋。生贄となるのは、弟の血筋。
初めは血の尊さを重んじていたから、弟の方が尊ばれていた。
けれど次第に、生贄になる事に恐怖と不安が起こる。当たり前だ、死ぬのだから。
その頃には、儀式を執り行う方が、生贄よりも偉いのだ、という考えに代わっていた。
「お前たちは死んで当たり前」なんて思われるようになっていた。
ある時、この状況に耐えられなくなった生贄の血筋の者が逃げ出した。
儀式を行う血筋の方は、神への冒涜だと怒り、生贄たちを探し出そうとした。けれど見つからない。
怒り心頭の儀式を行う血筋の者は、祭壇を前に、生贄の血筋に呪いをかけた。
生贄の血筋は、逃げていたからその事に気づいていなかった。
けれど、古代において神官の血筋の魔力は、本当に力のあるものだったのだ。
生贄の血筋は逃げ出して、逃げ出した先で結婚して家族を作った。
しばらくそれで平和に暮らしていたけれど、何代か経つと、異変に気づいた。
生まれる子は男児一人だけ、加えて、皆は、25歳になった時点で死ぬのだ。
25というのは、当時、生贄に捧げられる年齢だった。
母親は、子が25歳になった時に、同時に死ぬ。
それにハッキリと気づいたのは、ラウル様のお父様が25歳で突然亡くなった時だった。
話を聞いていたお母様が、それをラウル様に教えてくれた。
ラウル様たちは原因を調べた。お母様の方が怪しまれなかったので、お母様がとても活躍してくれたそうだ。
けれど、解除方法まで分からない。
ラウル様は、自分の血筋にかけられた呪いを憂いた。母も自分も、そして将来、好きになった相手も、子孫も、殺していく。
どうすれば良いのか分からなくて、呪いを終わらせるために、自分は子を作らずに死のうと思った。
25歳になった時。お母様は、亡くなった。
けれど、ラウル様は亡くならなかった。きっと、呪いを継ぐ子がいないからだ。
自分の成長のせいでお母様が亡くなったと思ったラウル様は、絶望して、自分も死のうと考えた。
子もいないから、自分で呪いも終わる、それで良いと思ったのだ。
だが、死ななかった。何をしても、自分を殺すことができなかった。
怪我をしても瞬時に治る。病になどかからない。
それから。
25歳から、歳を取らない。
不死身になってしまったのだ。
『逃げた者に厳罰を。己の役割を思い知るが良い』
そんな呪いを受けていた。
『お前たちは神への生贄。25の歳に神に捧げられるのだ』
けれどよく考えられていて。
『血は決して絶えぬように。その血は必ず受け継がれるように。必ず役割を果たしに戻るように』
血を絶やさない呪いのために、けれど25歳で死なせるために。25から、歳を取らずに生きている。
その国が別の国に取って代わられて、聖地が忘れられて、生贄を捧げる神さえ忘れられても。
呪いはかけられたままなのだ。