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目的地

ラウル様と兄には、目的地があるみたいだ。

そして、その場所は、私たちにとってとても重要な場所なのだろう。旅が進むにつれて、何も知らされていない私も、強い魔力がある場所にどんどん近づいているのが分かった。


ある日、その日寝泊まりする、組み立て型の簡易住居の中を整えていたら、

「アリリエル」

とラウル様が静かに呼んで入ってきた。

敬称無く呼ばれたのは初めてだったので、ドキっとした。

純粋培養聖女の意識が強まって本当にドキドキする。

しっかり座り直した私の前に、ラウル様が美しい所作で座ってきた。


「・・・あなたに、話しておこうと思う」

「はい」

私は真剣な表情で頷いた。


ラウル様は私の頬に手を伸ばした。ラウル様は、いつもそっと頬に触れてくる。私はその手に触れる。


「ここから先に踏み込むのは、危険だから。あなたはここで待つか・・・帰りなさい。アリリエル」

「どうしでしょうか?」


「・・・話す順番が乱れてしまうだろうけれど、よく聞きなさい」

ラウル様の言い方は、まるで、父や私たちより上の指導者が、年下の者に言い聞かせるような言い方だった。

おかしい、と、思った。

確かにラウル様は私より8歳も年上、25歳の人だけれど。もっとそれ以上の差を感じさせた。

ラウル様は、見た目通りの、年齢の人では無い・・・? そんな可能性が、ふと脳裏に浮かんだ。

桁違いで質の違う魔力・・・。


構えた私に、しかしラウル様は、今度は情けない絞り出すような声で言った。

「でも、お願いだから、笑わないで、聞いて。本当の、事だから」

「はい」

泣きそうな様子に、胸が締め付けられた。


「・・・本当は、何も知らず、幸せに生きていて欲しい」

「・・・」

本当に話す順序がグチャグチャで、まだラウル様は迷っている最中なのだろうな、と、私は思った。


「あなたは・・・」

ラウル様が、急に抱きしめてきた。

えっ、と動揺して私も赤面した。けれど、同時に残酷な声が脳裏に響いた。

〝殺してしまいたい”

ヒヤッとした。

抱きしめられていて、動けない。ラウル様の顔が見れない。

ドキドキする。状況に赤面する動悸と、身の危険を感じる動悸と。

聞こえたのは紛れもなく本心だ。触れられたから、普段は聞き取れない心の奥深い声を、拾った。

純粋な聖女様な自分が、心の中で、絶望に悲鳴を上げている。

あぁ、だから、自殺なんて決行したのだ。

・・・待て! 生きろ! 話を聞け! 前世な私は純粋な聖女様を励ました。


「ラウル様・・・」

「私は・・・呪いを受けた身です」

唐突に、ラウル様がそんな事を言った。

「え?」

「・・・そうなのです」

「・・・そう、でしたか」

嘘偽りでは無いのが分かった。


「血を引く者が生まれるまで、年老いず、死ぬ事も出来ません。生まれたなら…今度は死ぬ運命です」

「え?」

私を抱きしめたまま、ラウル様が静かに語る。

何を言われるか分からなくて、不安がどんどん募っていく。


少し無言になってから、告げられた。

「これは、あなたがたの血筋がかけた、呪いです」

聞いた瞬間、恐ろしさでドクリと心臓が跳ねた。

ラウル様は、抱きしめていたのを緩めて、私の表情を確認した。強張っているはずの私の顔を見つめ、見た事もない皮肉げな、それでいて悲しげな顔をして、ラウル様は笑った。


「・・・どう・・・話しましょう。あなた方には、もう伝わりさえしていない。かつての兄の血筋が、弟の血筋にかけたのです」

話しながら、時折、瞳の中に憎悪が揺れているのを、私は声を無くして見つめていた。

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