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旅の始まり

ラウル様は、とても素敵。とても優しい。気遣いがある。品がある。何より私が大切で特別だと目で訴える。

キャァ。


頬を染めて、前の騎馬に乗るラウル様を見つめていると、すぐ後ろ、私を馬に同乗させてくれている兄が、プププと笑った。

「アリリエルは、本当にラウルが好きだなぁ」

「あら。お兄様だって、ラウル様の事がお好きでしょう?」

「うん、ラウルはなんていうか、こう、魔力の流れが真っ直ぐで・・・力強くて感心するよね」

「そうですわね・・・」

私は兄の言葉に首を傾げた。

「お兄様の魔力よりも・・・どうしでしょうか、源流のような深さを感じますわね、ラウル様」

兄は、この国の神官長だから、魔力の質は誰よりも良い。

なのに、ラウル様は桁が違う。質が違う。

だから、私たち兄妹は、魔力のせいで、ラウル様に惹かれてしまうのだろうか。


「俺は、ラウルも好きだし、アリリエルと幸せになってもらいたいなと思う」

「・・・お兄様、不安になったのでお尋ねいたしますが、お兄様はお友達としてラウル様の事をお好きでいらっしゃいますよね?」

ぷくく、と兄がまた笑った。20歳にもなっているけれど純粋培養な兄は、まるで子どものような質を持ち続けている。

「アリリエル、嫉妬かい? 珍しいね」

「私だって嫉妬すると思いませんか」

「・・・思わないよ。アリリエル。おまえは聖女なのだから」

兄が静かな目で、私を見る。魔力がゆらりと滲んでいる。私を見ようとしている。

私は目を細めて笑った。まるで聖女らしくない笑みだと自覚しつつ。

「お兄様。私だって、大人になりますのよ」

「大人か」

兄は目を細めたままで、言った。


***


聖女と神官長が、異国の来訪者と一緒に、他の供も連れずに三人旅。

一体誰が許すだろうか。

だが、この国において、神官長も聖女も権力者であった。我儘をゴリゴリ押し通して、泣き落としも使って、もぎ取ったこの度の旅行だ。


私たち兄妹は、旅がやっぱり嬉しくて楽しくて、終始ニコニコはしゃいでいた。

ラウル様の方が緊張していた。この度に最後まで反対していたのもラウル様だった。

世間知らず二人をつれて旅なんて負担が大きすぎるはずだ。


でも、兄がこう告げていた。

「こういう旅、ラウルも望んでいただろ?」と。

ラウル様は絶句していた。


私は、兄が何を知ったのか、ラウル様の秘密は何か、まだきちんと話してもらっていない。

ラウル様に詰め寄ったけど結局苦しそうにして言ってくれなかった。

ラウル様が言ってくれないから仕方なく兄に聞こうとしたら、ラウル様が話してくれなかった事が見抜かれていて、だったら自分からは話せないと教えてもらえなかった。むむぅ。


それにしても、本当に純粋な聖女様の状態なら、こんな旅は本当に絶対無理だったと思う。お世話の人が一人もいないなんて。でも今の私には、何人もの家族をしっかり世話をしてきた前世の記憶がある。少なくとも自分の事はなんとかなるのが幸いした。

まぁ、純粋な聖女様は、こんな我儘は絶対思いつきさえしなかっただろうけど。


旅の間、体力が一番無い聖女様はとても大切にしてもらった。

でも、どうしても、体力が無くて、一番早く眠りに落ちるのはやっぱり私だった。

どうも、私を先に眠らせてから、兄とラウル様で秘密の話をしているような気がする。

それなのに、聖女様の規則正しい生活がすっかり身に染みているのも影響して、とても起きていられない。

くやしい・・・。

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