願い事
心の奥で、警鐘が鳴った。純真無垢な聖女様が、警告の声を上げたのだ。
待ってください、いけません! 神を殺すなど! してはいけません!
余りにも強くて、私は止まるしかできない。
じゃあ、どうすれば良いって?
早くしないと、お兄様もラウル様も、死んでしまうのに!
それでも私は黒塗りの剣を握って、なんとか石舞台の上に這い上った。
お兄様とラウル様の血の色の池に浸ったせいで、染まった服が私の動いた後に赤黒い軌跡を残していく。
上空の主神は、聖女が「待って」と告げた場所で止まったままだった。
そう、ずっと待っているのだ。
その様子に、聖女様が必死に主張した。
あの方には、声が届いています! 私たちの声が届くのです! そんな方を殺すなどあってはいけません!
・・・うーん。どうする。
とにかくこのままでは上空の神に遠すぎる。
「あの神様のお近くに、行かせてくださいませ」
白い筋がふわっと私を包んで、上に運んだ。あの五人の神様の力だ。ありがたやありがたや。
黒い剣での攻撃が可能、と判断できる近さまで近づく事に成功した。
それでも主神は、ただ待っている。
・・・ううむ。
いけません、と、聖女様が訴える。
うーん。・・・分かった、聖女様。
では・・・まずそっちを試してみよう。
聖女様の方の意識を強める。聖女として、上空に留まる主神に告げた。
「お願いごとがございます。ラウル様への呪いを解いてくださいませ」
『諾』
と、すぐに返事が来た。
その返事の早さにも、内容にも喜びながら、聖女はさらにお願いをした。
「加えて、お兄様と、ラウル様のケガを治してくださいませ」
『諾』
聖女は嬉しくてパァっと頬を染めた。
「ありがとうございます」
顔がほころんだ。
一方、前世の記憶の部分で、ゾクっとした。
なにこの神様。ものすごい。なんでもお願い事を聞いてくれる。全部『諾』だ。『分かった』って事だ。万能なんだろうか。人間なんてとても叶わない存在なんだ。
敬いと感謝の気持ちが湧きあがる。
有難う神様。何か感謝の気持ちを差し上げたい。
・・・そう、だから。古代の神官は、とてもとても大切な、替えのきかないものを神様に差し出した。それが身内だったのだ。
とても大切で貴いものだったから。代償として相応しいと思ったのだろう。
どうする。と、私は思った。
・・・これ、絶対、本当に、何か、捧げものが必要だと思う。
願い事を叶えてもらう。お礼を差し出す。そんなルールが出来上がっている気がする。
どうしよう。
お兄様とラウル様が流した血では足りないかもって、言っていた。
それに聖女は今、呪いの解除と、怪我からの回復、つまり2つも願い事をした。
願い事2つ分。・・・つまり、絶対、今流されている血では足りないはずだ・・・。




