ジュエルクイーン
天井にはシャンデリア。壁には有名な名画。
大理石の床に立ち、彼女が眺めるのはそれらではない。
部屋の中央に置かれたガラスケース。その中に並べられたあまりに多くの宝石である。
見つめる彼女は恍惚の表情を浮かべている。
背は高く、175センチといった所か。出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。素晴らしいプロポーション。
顔立ちもまた、美しい、という一言が相応しいものだ。
彼女はゆっくりとガラスケースに歩み寄り、ガラスと台座の境目に付いている指紋認証の機械に指を当てる。
ロックが解除された。点灯している小さなランプが赤から緑へと変わる。
彼女はガラスケースを持ち上げ、外してそばに立て掛けた。
色とりどりの宝石を目の前に、彼女の呼吸はつい荒くなる。
身体は火照り、目元もとろんとしている。
さながら、ベッドで男性と行為に及ぶ前かのようだった。
ゆっくりと手を伸ばす。少し震えていた。
興奮による震えである。
色とりどりなそれらの間を、行ったり来たりする。
どれを手に取るのか迷っているのだ。
しばらく、およそ1分ほど、悩んだ末に、彼女は緑色の大きな宝石へと手を出した。
手が宝石に触れる、そのわずか数ミリのところで、突然部屋に音が現れる。
『アレクシア様、強盗事件です』
彼女はうんざりとしたような表情を見せ、そのアナウンスに答える。
「あぁ、もう!何よ、今いいところだったの。しょぼい店だったら許さないわよ」
僅かに怒気を孕む声にも、アナウンスは淡々と答える。
『エルモンド通りの宝石店でございます』
「すぐに行くわ!報告ありがとうスチュアート!」
場所を聞いた彼女は嬉々として答える。ガラスケースをそっと戻すと、機械パネルを操作し、ロックをかけた。
着ていたドレスを足元へすとんと脱ぎ落とすと、下着だけの姿で、後方にある名画の前へと足を運ぶ。
『強盗は4人から5人。武器はそれぞれ拳銃を所持しています。現在、アーノルド橋の方角へと自動車で走行中です』
アナウンスを聞きながら、彼女は絵の中央に描かれた女性の唇へ手を触れる。
センサーが指紋を読み取り、絵の飾られた壁が上へゆっくり上がっていく。
壁の向こうに現れたのは、ガレージのような空間。
中央に飾られる黒い衣装を素早く纏い、側面の棚に並べられた拳銃を手に取る。
『南口のドアを解錠しておきました』
「流石ね、スチュアート」
『ありがたきお言葉です。それでは、お気を付けて』
蝶の意匠が見て取れるマスクを目に付け、彼女は部屋の南側にあるドアをくぐる。
エンジンのかけられている黒のバイクに跨ると、開かれたシャッターから飛び出していった。