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騎士道プライド  作者: 椎名咲水
2章【新入生編】
23/50

22.“告別”と終業式

 シャロルは私にはない才能があった。

 優美で聡明で、声質も良く、人魚が心を惹かれ一緒に歌った経験のある少女。

 両親は北の竜を倒した名のある冒険者で、彼女は幼くしてその父から剣を学び、母から魔法を学んだ。

 加えて学もあり、人族と魔族を区別も差別もしたがらない、それ故に友人関係は乏しいが、魔族からすれば素晴らしい感性の持ち主だった。


 私から見た彼女は全てを持ち合わせている天才だが、故に才能の幾つかを切り捨てなければならない人物だ。

 (シスイ)の様に天才シンガーと言われた“だけ”の人間とは訳が違う、彼女は剣士の才があり、魔術師の才があり、学士の才があり、歌の才がある。


 でも人はその全ての道を進む事はできない。

 人がしたいと思った事を全てやるには生きている時間が短すぎる、そして一つの事を貫くには長すぎる。

 私もいずれ声が枯れて引退する時期が来るのだろう。

 その後の事は考えていない。



 いつからか私は彼女を好きになった。

 彼女は私の知らない歌ばかりを知っていて、そして誰もが知っている歌を知らなかった。

 ピアノの曲を知っているのにピアノの弾き方を知らないし、協奏曲を知っているのに管弦楽団を一つも知らないし、聞きに言った事すら無いという。

 不思議な彼女は実に面白く、話す内容はタメになる事が多かった。

 彼女は常に私を感心させたのだ。

 オリジナリティーのある曲調を中心に構想を練り、常識に捉われない音楽性を編み出す。


 ……一体この半年、彼女にどれだけ助けられたのだろう。

 どれだけ私は進歩したのだろう。

 彼女と出会ってから仕事の頻度は減ったが、私の実力はシャロルの教えてくれた幅広い音楽のジャンルによって成長している。

 私がシャロルに魅せられたように、今度は私からファンに曲を届けるのだ。

 与えてくれた知識と曲がどこまで通用するか試してみたい。


 だから私は公国を出る。

 きっとシャロルとレベッカは剣で大成する。

 だから私は歌で大成するのだ。

 今思う、ちょっとした夢だ。



「それじゃあ、また唄の聞こえる頃に」

「ああ。しばらく離れ離れだけど、また今度会おうね」

「……また遊ぼう」

「シスイ様、行ってらっしゃいませ」


 迷いは無い。今はただ歌の道を突き進みたいその一心だ。

 それはどうやら私だけではなく、シャロルもまた……この半年で変わった。

 一緒に歌ってみないかと誘うつもりだったが、もうそんな事を考えつけないくらい今の彼女は剣がよく映えて見えた。

 彼女も何かを見付けたのだろう。



 ――――――――――


 シスイが国を渡り歩くと言って公国を出てから数ヶ月が経った。

 冬はまだ過ぎていないがもう三月になった。六年生が卒業前の剣技式を終え、残りの大きなイベントは卒業式と終業式となった。

 セルートライからわざわざやって来てくれていたユーリックとの合同練習も今日が最後となる。

 終業式は今日だというのに、中々ユーリックに勝てないレベッカがゴネて再戦を申し込んだのだ。

 ユーリックはシャロルも呼べれば構わないと言ったらしく、レベッカの必死のお願いを聞いて今試合場にいる。


 今回の試合場所は武闘大会が行われたスタジアムだ。

 スタジアムの役員やフィオナもいるので回復役は充分いるし、スタジアムは人の手によって作られた魔法の強力な障壁があり中級魔法まで使用が許可されている。

 何度も失敗している中級魔法の大風玉(おおかざだま)をそろそろ使ってみたい。

 失敗した時に片腕を骨や筋肉ごとちぎり飛ばす人もいる、異名として片腕飛ばしなんて呼ばれているが、何度も失敗していれば上手い失敗の仕方も分かってくる。


 上手い失敗の仕方とはつまり怪我のしにくい魔法の使い方という意味だ。

 柔道でいえば受け身が上手くなったという事である。

 投げるのが上手くなった訳ではない。

 しかしこれは大きな成長だった。



「…シャロルには勝って帰りたいぜ」

「悪いがけどお断り。

 武闘大会のケリはまだ返せてないと思っているからね」


 数ヶ月の間ユーリックの相手はあまりしていなかったようにも思えるが俺の勝率は五割以上だ。

 ユーリックの切り札でもある機械槍の変形が原因である。

 槍の先が割れて収納され銃口が出現する銃モード、そしてただの槍となる槍モードの移行が分かりやすい隙となっている。


 肉体強化は元々できるし、移動速度の上昇くらいは風属性の魔法を練習していれば何となく分かってくる、それに光風を使って質量のある風に背中を押してもらえば俺の移動は短期的にではあるがかなり速くなるのだ。

 変形するのが見えてから移動しても隙が突けてしまうのだからどうしようもない。

 というか銃モードの時に急接近できれば変形する暇を与えずに叩けるのでユーリックには銃モードという選択肢が無いに等しい。



「じゃあ試合開始だな、行くぜ!」

「掛かってこい!」


 ユーリックの機械槍には機械で作られている武器特有の特徴がある。

 まずは前方の左右に二つ、後方に四つある加速器だ。

 ブースターといえば分かりやすいかもしれない。

 特別な方法で生み出した高濃度の魔力の液体を詰めた媒体が槍にセットされており、それを消費して戦っている。


 ただし魔法というのは本来様々な情報を汲み取って魔力を物質に変換するもので機械では完璧に処理ができず、結果として四割以上の魔力は加速魔法として発動する事無く魔力素として空気中に分散されてしまうらしい。

 だがユーリックの機械槍には空気中の魔力素を吸収する機能がある。

 吸収能力を効率良くするためにユーリックは小さな長方形の機械から魔力素を空中に放出させて戦っている。


 こうする事で槍にセットされている媒体の魔力消費を抑えるらしい。

 セットされているという事は魔力切れになったら一々リロードしなければならないという事だ。

 リロードする時間を短縮する為にこんな面倒くさい方法で戦っているのだろう。

 空中の魔力素を吸収する能力の効率上、短期戦で一気に魔力を大量消費して戦うよりも長期戦に持ち込むのがユーリックのスタイルになる。

 レベッカも長期戦型なのだがユーリックとは相性が悪い。


 実力はレベッカの方が上かもしれないが槍の機能性が違い過ぎる。

 加速器付きの槍なと加速器のない槍なら多分付いている槍の方が強いと思う。

 まあレベッカは薙刀なのだが……。


 対して俺は短期決戦型だ。

 良く動き早く叩く。ユーリックが対処するには大量の魔力を消費しなければならず、槍の性質から判断すればユーリックが不利だ。

 だが実際、短期的にでもユーリックが魔力を大量に使用して俺と互角に渡り合えれば六割くらいの確率でこちらが負けるだろう。

 俺がユーリックに対して良い勝率を上げられているのは相性云々ではない。


 ユーリックが短期戦に慣れていないのだ。

 自分の長所である長期戦のみを練習してきたのだろう。時には短所も鍛えておかなければならないという事をしっかりと教えてやらねばならない。

 俺はこの合同練習で得た物があった。

 だからユーリックにも教えてやるのだ。



「せいっ!」


 ユーリックの先制攻撃、突出された矛先の軌道を盾で上にずらし屈んだ。

 剣を振り上げるか、脚を払うか、はたまた腹を狙うか。

 選択肢が多いというのはそれだけで強さに直結する。


「…っ、ふっ!」


 俺はタイミングをずらして行う攻撃した。

 更に良く言えば、剣の威力を上げるために溜めを行ったのだ。

 この数ヶ月の間で俺は様々な技術を会得した、これもその一つである。

 だがこれはただ剣の威力を上げるだけじゃない。

 ユーリックの隙を突こうとした場合、このままいけば優位を取れたかもしれないがどうしても手数で圧倒しなければ本当の勝利は獲得できない。

 タイミングをずらしたのは更なる優位を取るために別の準備を行ったからだ。


 中級魔法の大風玉(おおかざだま)の準備である。


 魔法を発動するにはどうしても頭を使う時間が必要なのだ、詠唱無詠唱問わず咄嗟に発動するには経験が足りなさすぎる。

 中級魔法は自身の腕を飛ばしかねない火力を誇っているのだ。

 失敗しないように気を遣うのは当然だろう。


 何の為に俺がいつもの場所ではなくてこのスタジアムを借りたかを彼等は理解していない。

 お別れの最後の戦いだから最初に戦ったこの場所で決着を付けるとかそんな格好良い建前なんてなかった。


 スタジアムで戦うのは、ここが唯一、中級魔法の使用が許可されている場所だからだ。



「魅せよ、人非ざる風王の一撃――――」


 無詠唱よりも詠唱した方が威力や距離の調整が効く。

 とはいえこれでも安全と言える確証はないし、詠唱している間にもユーリックからの反撃が二回飛んで来ている。

 これに対処出来るのはさっき優位を取ったお陰だ。

 詠唱に気を取られ手元が留守になりがちになり若干不利になりつつあるけど、一度取った優位をそう簡単に覆されるほど甘くはない。

 そして、左手に纏ったこの一撃は大きい。


「―――大風玉(おおかざだま)ッ!」


 左腕に纏っていた魔力を全て風に変換する。

 左肩の装甲が揺れ、体の内側と外側を通る魔力と風の力が籠手の装甲を空中に撒き散らしながら手の平に集まっていく。

 自身の怪我の確認をする余裕は無い。

 手の平に集まった凝縮された風の玉を殴るつもりでユーリックにぶち当てた。


 槍で防御しようとしたようで大風玉はユーリックの武器に当たってしまったが、その風は武器ごとユーリックを強く吹き飛ばした。

 その体は大風玉の圧縮から解放された暴風に乗って数十メートル後ろに飛ばされ、ユーリックはその途中で武器を落とした。

 顔面を擦り、体は地面に叩き付けられて大きく跳ね上がり、受け身を取るタイミングもなくその体は死んだ鹿のように横たわってしまった。


 だが死んでいる訳ではない、と思う。

 打ち所さえ悪くなければ死ぬ技ではないのだ。

 通常の大風玉自体に殺傷能力は無い。

 これは暴風を相手の体に突き当てるだけの作用しかないのだ。

 初級魔法の風槍(ウィンドスピナ)と大した差は無い。


 違う点は若干大風玉の方が飛距離が良くない事と、風槍よりも風の威力が高い事くらいだろうか。

 熟練度のせいかもしれないが、今は風槍の方が照準も定まりやすい。

 大風玉の利点は今のところ威力上昇のみで旨みは少なかった。



「……中級魔法か……う、痛ぇ……」


 ユーリックはよろけながらも立ち上がり左手を上げて降参した。

 手元に武器が無いので戦う術がないのだ、武器を取りに行けばすぐに風槍の追撃が飛んでくるのは目に見えている。

 もう風で痛い目を見るのはこりごりだろう。

 それは……俺も、だが。


「シャロル様!ユーリック様!すぐに回復を!」


 俺の鎧は左腕の部分の装甲が完全に削げ落ちていた。

 下に着ていた薄着も切れている部分があり肌は擦り傷が出来てしまっている、三か所くらい出血もしてしまっていた。

 ……まあ、片腕飛ばしと言われている魔法だから最初はこのくらい仕方ないか。


 俺の意識は正直そっちよりも自身の疲労度の方が気になっていた。

 魔力量が多いはずの俺はどんな魔法を使っても疲労なんて起こるはずが無いのに、自身の体は火照るように熱いし気分も良くない。

 例え怪我無く撃てるとしても二発目は発動できないと思えるくらい疲れている。

 疲労度と魔力量は関係ないのだろうか。


 …分からないけど、知らない事が分かっただけでも進歩か。

 中級魔法も使えたし今回の戦いでちゃんと得る物は得た、この経験は来年度役立てて行くとしよう。

 クローゼット内に永久就職が決まっていた鎧も早々に出番が来そうだな。

 無駄にならないだけ良かった。


「シャロル様、他にお怪我はありませんか?」

「腕だけだ。それよりユーリックを気に掛けてやってくれ」

「…いや、心配はいらねえ。

 顔を強打したくらいで大きな怪我は無いから…」

「……ぷっ、ふふふ!鼻血か、男前台無しだな」

「微塵にも思ってない癖に……、くそ、負けだ負けだ。

 次は勝つからな」


 ユーリックとの総合戦績はこちらが六勝、向こうが四勝という結果で終わった。

 この試合でもし俺が負けていたら五勝五敗になっていたのでまだまだ実力は拮抗していると言って良いだろう。

 この合同練習を終えて各々は色々な課題と向き合う事になる。


 レベッカは槍及び短期決戦型の剣技、魔法の対処方法を。

 ユーリックは武器変形の隙や、勢いのある相手を冷静に抑え込む技術を。

 俺は総合的な剣術の技術力向上、中級魔法を発動できるようにする事。


 これが終わってもまだまだ課題は無くならないだろう。

 だがこの一年はユーリックとレベッカのお陰で有意義になった。

 これからも機会があれば試合はするべきだと思う。

 次にユーリックと会える機会がいつになるかは分からないが、きっと近い未来ですぐに出会えるだろう。



 ユーリックは公国を出る準備を終えて馬車を用意する手筈を整えてから俺に一つの封筒を手渡してきた。

 宛先は俺ではなく、ユーリック・シュラウドと書かれている。

 封も切られているしもう既に読んだ物のようだった。

 差出人は見た事のある名前レミエル・ウィーニアス、フィストランド校の生徒で、ユーリックと同時期に俺に手紙を送り、友達になりませんかと聞いてきた人だ。


「実はお前に手紙を送ったのは色々と経緯がある。きっかけはその女だ」

「…同じ時期に送ってきたのも理由が?」

「俺と彼女はお互いにシャロルが本気を出せていなかったのではないかと怪しがっていた。

 俺達はどちらかの手紙に反応くれればそれで良かったんだ。

 ……彼女は光の魔法を追い求めている。

 シャロルと友達になって色々と教えを乞いたかったらしい。

 悪い奴じゃないから会ってやってくれ」


 ……はて。

 武闘大会で魔法を使った思い出は無いのだが、一体その子はどうやって知ったのだろう。

 やっぱり怖いなぁ。

 あんまりレミエルって人に会う気力が湧かない。



「……俺の親父は『我陣(がじん)』の二つ名を持っていた。

 何でも、親父の師匠はとんでもない化物を倒した人らしくてさ、その人から免許皆伝の証として自身の二つ名の一文字を譲り受けて『我陣』ってなったらしい。

 俺はその親父から槍使いとして認めてもらって一文字譲り受けて『我槍(わがやり)』を名乗ってる」

「……!」


 急にユーリックは話し始めた。

 我陣、我槍……とんでもない化物、そして師匠。

 そこまで言われて気付かない俺ではない。


「親父はシャロル・アストリッヒには絶対に勝てないって試合前に煩くてな。

 いざ戦って圧勝するとイカサマしたのかって酷く罵られた。

 ……親父がそこまで言う相手ならと思って再戦を申し込んだ、その結果…まあ、納得したさ」

「私そんなに強かった?」

「武闘大会の時は運が悪かっただけだったんだろうって思ってるよ。

 親父が買っていたのも納得した」

「……そっか、でもあの時は運じゃない。ユーリックの実力だ」

「そうか。なら総合戦績は五勝六敗だな」

「それ含めるなら武器不調の不戦敗含めて八勝六敗にするけど?」

「じゃあやめる」

「…ふふっ」

「笑うなよ。全く、とんだ化物だったぜ……」


 馬車の御者は俺達をアーリマハットまで連れて行ってくれたおじさんだった。

 ユーリックは俺達に別れを告げ、馬車に荷物を載せてから自身も乗り、ゆっくりと俺達から離れるように馬車は出発した。

 ユーリックは笑顔でこちらに手を振ってくる。

 結局勝ち逃げされたレベッカの悔し顔とは違い、向こうは俺に負けていても表情には清々しさが残っていた。


「―――親父に良い土産話が出来た!元気でな!」

「ああ、今度はもうちょっとレベッカに勝たせてあげてくれ!」

「…っ!シャロル!やめてよ!」


 出会いと別れ。

 片方があれば絶対にもう片方がやってくる。

 シスイとも、ユーリックとも。

 ポワルとも、か。

 でも悲しくはない、まだ人生は長いのだ。

 学校生活一年目は濃い一年になったと思う。


 ……いいや、この異世界に生まれてから濃くなかった事なんてないのかもしれない。

 いつでも幸せって訳ではなかったけれど、それなりに楽しくて厳しくて辛くて面白い人生が続いている。

 そしてこの先、俺はまだまだ濃い夢を抱いているのだ。

 来年も再来年もずっとずっと……楽しみで満ち溢れている。

 俺はここに生まれて良かった。

 改めてそう思った。



 ――――――――――


 ユーリックの別れを見送ってから俺達は終業式の為に学校へと向かった。

 大きな校庭の中に整列し、声拡張の魔法を使いながら校長先生が長々と言葉を綴り始める。

 世界が違っていても校長は校長のようだった、長く詰まらない言葉をつらつらと重ね、校長の言葉が終わった頃には貧血で倒れた生徒が一人出ていた。

 ……いや、それは校長のせいじゃなくて寝不足が理由だと思う。

 俺もさっきの試合で疲れていて立っているのも少ししんどい。


「ではこれより今年度の優秀生徒の発表を行う。今年は男女二人ずついる」


 別の先生がそう言って四人の生徒を良く見える台に上げた。

 その内の三人は顔見知りだった。

 一人は二年生の女性生徒で全く知らない生徒で、最初にその人が紹介された。

 獣耳が見えるので魔族の血筋だろう。


「…次、魔法科二年、セイス・アストリッヒ。

 彼は幼いながら中級魔法を会得し、上級魔法の習得を今の目標としている。

 公国では滅多にない快挙だ」


 長男のセイスだった。

 今中級魔法を会得したって言ってたから努力は相当したんだろうなとすぐに分かった。

 今年一年で成長したのは自分達だけではないとすぐに思い知らされる。

 数学が出来て大人より魔法が上手なセイスって何者なんだろうか。

 俺じゃなくてアイツが転生者なんじゃなかろうか。


 公国内で滅多にないというのは魔法使いが少ないという意味だ。

 剣の学校なのに魔法に秀でた生徒が誕生する事自体が珍しいんだろう。



「次、普通科一年、トウヤ・マキバ。

 皆も知っているだろうが彼は武闘大会で優勝を果たした。

 これも公国内では珍しい」


 実はニューギスト公国はコリュードやセルートライ等に比べると若干弱い。

 だから武闘大会で優勝する機会というのはあまりないのだ。

 ニューギスト公国はハンター育成校という珍しいカテゴリの学校を始めて作った国ではあるものの、元々一般教養レベルで戦闘を教えるセルートライや騎士の多いコリュードとは違って普通の国だ。

 土台とか、教える立場にある人の実力が結構違うのである。


 ……表彰状を手渡されるトウヤを見るのは悔しいが今回は運が悪かったと諦めよう、武闘大会では最下位だったし評価が低いのは当然だ。

 今更嘆いても仕方がない、来年度だ来年度。



「最後に、レベッカ・エーデルハウプトシュタット。

 トウヤ・マキバと並び、校内順位を一位にまで上り詰めた薙刀の勇士だ。

 その戦闘の手際の良さは評価に値すると判断した」


 そして最後はレベッカだ。

 ここまで自分の知り合いがいると選ばれなかったことが恥ずかしくなってくるな。

 評価は結果が全てだから今年は仕方ないと割り切るしかないだろう……、いや過程も授業サボってたりしたし評価する場所なんて無かったか。

 来年頑張れば良い。

 今年はまだスタートラインなのだ、ここがゴールではない。

 今が駄目なら後で追い付いてやれば良いのだ。



「……先生。私、シャロルがいないなら辞退します」


 レベッカが変な事を言い出した。

 声拡張の魔法が使われているせいで全校生徒に聞こえている。とっても冷静な声で優秀生徒を辞退するとか一体何考えているんだ。

 当然、レベッカの言葉で俺が選ばれる訳が無い。

 先生は頷いてしまった。


「では、この三人が…」

「すみませんが。俺もシャロル・アストリッヒがいないなら辞退します」

「……っ!」


 何故、と心底驚いた。

 レベッカの次にトウヤが辞退したのだ。

 アイツとは友達でもないし、ちょっとしたライバル関係程度にしか思っていなかった。

 もしも俺があの場所に立っていてトウヤが表彰されていなかったら俺はトウヤを見下して這い上がって来いと言うに留まるだろう。

 辞退なんて絶対にしない。

 そう思う。


 なのにあの二人はどうして俺にそこまで構っているのだろうか。

 先生も動揺を隠し切れず他の先生に視線を移していた、戸惑っていない先生は多分ウチの担任のオズマン先生くらいだろう。

 あの人は教室に初めて俺達を呼んだ時、喧嘩腰だったトウヤにとても冷静に当たっていたなあ。

 冷静過ぎるよ先生。


 学校側としてはトウヤがというより武闘大会で優勝した生徒を放っておいて別の生徒を選ぶ訳にはいかなかったんだろう。

 レベッカと二人で辞退した事が問題なのではなく、トウヤが降りた事が問題なのだ。


「と、トウヤ君……しかしだね」

「俺はまだ一度もシャロル・アストリッヒに勝ってない。

 だからまだ、アイツより高い場所には立てない」


 そう言ってトウヤは台の上から降りた。

 同じようにしてレベッカも台から降りる。

 凄い困った顔で一人の先生がオズマン先生に耳打ちを始めた。

 お前の生徒だろお前が何とかしろよって感じだろうか。

 オズマン先生も大変だ。



「ではトウヤ君とシャロル君を戦わせて勝った方が表彰状を受け取れる、という形にしましょう。

 どうですか、校長先生?」

「ふむ……まあ、良いじゃろう。

 トウヤ・マキバが手加減して負けるはずもない」

「し、しかし校長先生…」

「ありがとうございます。オズマン先生」

「トウヤ君にお礼を言われる日が来るとは思わなかったよ…どういたしまして」


 校長先生とオズマン先生のやり取りの後、トウヤは台の方からゆっくりと俺の方へと近付いてきた。

 ここにいる全ての人の注目を集めながら彼は腰に付けた刀を引いたり差したりカチカチと音を鳴らして俺の前に立つ。

 するとすぐにトウヤのメイドが走ってやってきて布に包まれた重い物を俺に手渡してきた。

 中に入っていたのはゴム製の剣と新品の鎧である。

 これを俺に…という事は。



「シャロル、試合だ」


 つまり、そういう事だ。


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