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騎士道プライド  作者: 椎名咲水
2章【新入生編】
15/50

14.レベッカ

今回はとても短いです。

前回レベッカとの戦闘を書き忘れていたので早急に書きました。

 俺は他人の事をちゃんと見てきた。

 レベッカさんの戦闘だって見た事があった。

 だからこそ一層薙刀の存在は俺の脳裏に深く焼き付いた。

 俺が見た時のレベッカさんは剣を使っていたからだ。

 見間違いではない、剣と薙刀の両方を使えるのだろう。


 どうするべきかと少し悩む。

 相手を研究して対策を練って戦ってきた俺に事前情報無しで戦う力を問われても良い結果が出せる気がしない。



「降魔―――『光神』レグナクロックス……」


 試合開始前にレグナクロックスを呼ぼうとするが、いつもなら湧き出てくる力が体のどこからも感じられない。

 呼び出せなかった…なんて事今まであっただろうか。

 こういう日もあるのかと若干焦る。


 だが、レグナクロックスが無くても倒せない相手ではない。

 AAクラスとはいえ相手は六歳児か七歳児だ、構えや攻撃の所々に隙があり、その隙を突いていけば必ず勝てる。

 レグナクロックスがいなくても肉体強化や光風(ライトニングウェイブ)は使えるのだ、そう臆する事は無い。


 ……はずだ。



「では試合を始める。両者構え」


 オズマン先生の言葉で俺とレベッカさんは構えに入る。

 やはり、トウヤのような特別性はどこにも感じられない。

 負けるものか。


「始め!」


 その合図と同時に二人は距離を詰めた。

 俺は咄嗟に光風(ライトニングウェイブ)の準備をして頭の中で模索していた戦法を思い起こす。

 光の力で空間に質量っぽいものを作り出す凶悪な魔法。

 まずはこれを相手の足元に発動し転ばせる作戦だ。


「……光風(ライトニングウェイブ)!」

「…?おっ」


 レベッカさんの脚が何かに取られ一瞬前屈みになる。

 少しお互いの距離は空いているがその隙は大きい、体勢を立て直そうとした所を狙う為に俺は全力で駆け寄った。

 悪いが、これですぐにケリを付けてやる。



「っと。」


 レベッカさんは槍の先を地面に突き刺して空中に留まった。

 地面に刺さった槍を支柱として彼女は俺を蹴ろうと一度牽制を行い、慌てて俺が一度下がった所を見てからすぐに槍の先を抜いてニュートラルへと戻る。

 結局またスタートに戻るのかと口を歪ませるが、すぐにそれが違うと思い知らされる。


 レベッカさんは槍で俺の手元を突いてきた。

 後ろに下がりつつ盾と剣を使い分けて上手く対処するが、その攻撃の隙を突け入るタイミングが見えてこない。

 攻撃範囲が違うのだ。

 剣と槍では分が悪い。


 彼女は薙刀として槍を使っているはずなのに要所要所で感じる動きは堅実な槍と差して変わりない。

 もうこれは薙刀と考えない方が良いだろう。

 レベッカさんの戦術は学校で教わっている基本がキッチリと出来ていて、小さな隙はあれど初心者らしい大きな隙はどこにもない。


 トウヤと同じAAクラスに配属されただけの実力はある。

 舐めたらこっちの首が飛びそうだ。

 冷静にならなくては。



 一発大きな攻撃が飛んでくる。

 悠々と回避して相手の首元を剣で狙うが阻まれ、防御のフォームから滑るように矛先が付いてない方の先端を振ってくる。

 槍の逆の先端は石突って言うんだっけか。

 傘の先端と同じ名前だ。



「ふっ…う、うおお!」


 激しい攻防に思わず声が出た。

 レベッカさんが攻撃のスタイルを突きから払いに変えてきたのだ。

 それは槍でも薙刀でもなく棒術というのが正しい。


 槍は中距離戦を制するが近距離は苦手だ、それに比べて棒はどちらも得意とは言わないが不得意ではない。

 剣を対処する一つの可能性としてはアリなのかもしれない。

 その行動は充分こちらにプレッシャーを与えてくれた、自分の心に緊張と焦りが生まれてくるのが分かる。

 ペースを取られたのだ。


 既に攻撃のペースは相手の意のままで、こちらは防御が中心になってしまっている。

 ―――隙が無い。

 これは基本が出来ているどころの話じゃないな。


 “既に完成している”と感じずにはいられない。



「強いな!」

「ありがとう」

「礼を言われたくてっ!言ってるわけじゃ、ない!」


 こちらの手数が足りなくなり足元に一発、棒の強打が入る。

 その痛みが一瞬の遅れを生み、更に右腕へ一発強打が与えられた。

 矛先の突きじゃなかっただけマシだろう、ゴム製とはいえアレで攻撃されたら剣を持てる気がしない。


 振り、突き、払い。

 痛みによって若干反応が遅れているのを光風(ライトニングウェイブ)を使ってカバーする。

 これは光の魔力を捻じ込めば捻じ込んだだけ質量の度合いが高まる。

 俺の魔力を注ぎ込みまくれば簡易的な盾にもなるのである。


 レベッカさんは見えない何かに攻撃が阻まれたのを理解しつつ更に攻撃の手を早めた。

 上手い牽制で攻防逆転と行きたいところだが上手くいかない。

 負けるかもしれないという気持ちが心を過る。



「いや!」


 頭の中に過った物を振り払うように大きな声を出した。


「一発当てれば勝ちなんだ、冷静になれ」


 焦ってはいけない。

 堅実な戦いには堅実な対応をしなければならない。

 この状況を打開する為に動いたらそれこそ相手の思うツボだ。

 希望を捨てずにこの剣戟を続けていればきっと活路は見えてくる。



「…ぐっ!」


 俺の牽制攻撃を槍で受けたレベッカさんは仰け反った。

 表情は引き攣っている。

 牽制攻撃は力を込めていなかったので大きく仰け反る事は無かったが、それでも攻め入るチャンスはそこにあると踏んで前に出た。

 まずは突きの選択肢を潰す。

 その為に大きく前進しレベッカさんの懐へと入った。


 刹那。

 俺の体が大きく後ろに飛んだ。



「……ぐっ!いっ……な、に?」

「勝者、レベッカ・エーデルハウプトシュタット。

 君らしくないねシャロル君。レベッカ君の試合を見てから挑んだというのに同じ道を辿るなんて」

「……は、は…っ、はぁっ」


 息が出来なかった。

 後ろに飛んで倒れた時に大きく体を打ったらしい。

 肺がおかしいのか気管がおかしいのかは分からないが上手く呼吸が出来なかった。

 立ち上がる事さえできない。


 寝っ転がって息を整えようとしているとレベッカさんが上から覗いてきた。

 勝ち誇りたいのだろうか。

 それとも、煽りか。

 そう思ってキツい視線を当ててやると何も言わずに手を差し伸べてきた。

 その表情は穏やかで無表情そのものだった。

 煽りではないらしい。


 一応心配してくれたという事なのだろう。

 俺はレベッカさんの手を掴んで上半身を起こし息を整えた。

 観客席にいるフィオナには手を振って心配要らない事を知らせておく。

 俺の事になるとちょっと血相変えるからな。



 試合内容は自分でも何が起こったのかいまいち分からなかった。

 ……なので少し考えてみる。

 オズマン先生は同じ道を辿ったと言っていた、本当にそうなら俺は薙ぎ払われて空を舞った事になる。

 だが体の痛みは腕と脚のみだ。

 敗北の決定打となる攻撃の痛みは感じない。



「……もしかして、押し上げたのか?」

「そう」


 攻撃ではなく俺の体を持ち上げただけなら納得がいく。

 俺が受身を取ってもう一度剣を構えられれば試合は続行できたが着地に失敗した俺は呼吸困難になって続行不可能な状態になってしまった。

 試合の勝敗を決める決定打としてはぬるいように思えるがこういう戦い方もあるのだろう。


 相手のミスを狙ってくる基本的な戦い方だ。

 レベッカさんにとっては詰め将棋みたいなものだったんだろうか。

 俺は頭が回る方じゃないからこういう戦い方は神経にくるものがある。



「…まあ、仕方ないか。次は勝つよ」

「負けない」



 もう一度握手してお互いに控え室に戻る事にした。

 別れる際にお互いが浮かべていた表情を見てフィオナは理解が出来なかった。

 悔しそうにしているのはレベッカの方で、シャロルは溜め息を付きながらも笑みを浮かべていたのだ。


 オズマンは目を細めながらその様子を見ていた。

 そして、フィオナがシャロルのお出迎えをしようと席を外してから重く閉ざされた口をゆっくりと開いて呟いた。



「諦め、か。それだけでは、なさそうだが……」



 呟く彼の言葉を聞く者は誰もいなかった。


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