表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士道プライド  作者: 椎名咲水
2章【新入生編】
14/50

13.強キ者共

 武闘大会の詳しい内容が発表され、選抜メンバーが模擬戦を繰り返して実力を高め合っている中、俺はいつも通りのマイペースを保ち部屋でのんびりと寛いでいた。

 座学にはちゃんと出席しているし実技も腕が鈍らないように出席している。


 授業以外でも剣は振るって練習をしているので向上心がない訳じゃない。

 一人でやっても仕方がないのでオズマン先生に付き合ってもらっていたりする。

 単に他の選抜生徒よりも向上心が高くないだけだ。


 選抜生徒の中に混じっていたら他の生徒の向上心も削りかねないので、そういう意味でも先生達の判断は正しかったのだと思う。

 お互いがお互いを高め合っている向上心の塊にはなれそうにない。

 痛いのは御免なのだ。



 発表された武闘大会の詳細だが、今年は三校の選抜生徒が戦いを繰り広げると書かれていた。

 敵となる相手学校の特徴は選抜生徒達に先生から教えられたそうなのだが補欠の俺には何の報告も無かった。

 なので剣の練習に付き合ってもらっていたオズマン先生に直接聞いてある。


 まずクライム学園、剣士育成校の中でも幅広いジャンルの武器を取り扱っていて、弓や鎌等を使用している事が最大の特徴である。

 その特徴的な武器の対処が難しいので注意する必要があるとのこと。


 次にフィストランド校、こちらはやや魔法学科寄りの指導をしていて基本的な事はニューギストグリム・アカデミーと似た所がある。

 ……というか、自分の学校が剣術に寄り過ぎなだけでフィストランド校の方が普通らしい。

 つまりこちらが異常なのだ。

 剣に拘り過ぎなのである。


 フィストランド校はこちらよりも設備が良く、銃の射撃訓練とかも授業にあるんだとか。

 ちなみに銃とは言ってもハンドガンみたいな技術的な兵器ではなく火縄銃みたいなもので、魔法のあるこの世界では実用性はないように思える。

 魔法があるせいで科学の進展速度が芳しくないのだろう。

 小回りが利く魔法の方が堅苦しい科学よりも使いやすい。



「シャロル様?……きゃっ」

「フィオナ捕まえた。ふふ、今日もモフモフしようかな」

「あっ…、ああっ……もう…っ!そ、そんなとこ触らないでください!」

「そんなとこってどこかな。私は胸しか揉んでないんだけど」

「し、下……って胸?あれ、じゃあ……」


 フィオナが奇妙に思いながら自分のスカートの辺りに視線を落とす、どうやらその辺りに触られた感触があったらしい。

 うん、成功だ。


 俺はフィオナから離れるようにソファーから体を離し、数歩歩いてから振り向いた。

 フィオナは主人が立ったのに自分が座っている訳にもいかないと立ち上がるが、俺はその場で待つように指示する。

 ……さて、もう一度試してみよう。



 まずはダンベルを持つ感覚で何もない空間を握る。

 少し手を下げて握れているか感覚で判断し大丈夫だと思ったら準備終了だ。

 この腕を全力で真上にあげれば俺の新しい魔法の実力を見る事が出来る。



「せいっ」

「きゃ、きゃああああああああっ!?」


 俺が腕を上げるとフィオナのわりかし長めのスカートが重力に反して持ち上がった。

 薄らと青色の入った白のパンツだった。

 白っぽい水色と言うべきか、何とも可愛らしい。


「な、何なんですかこれぇ!」

「空間制御系の魔法だよ、新しく覚えたんだ」

「じゃ、じゃあさっきのもやっぱりシャロル様がやってたんですね!許しませんよっ!」


 フィオナは珍しくしかめっ面になって俺の元に小走りでやってきた。

 俺も笑いながら部屋の中を小走りで逃げ回った。


 空間制御系の魔法。簡単に言えば風と光を合わせた魔法だ。

 俺が魔法に触れ始めた頃から使える魔法、風を起こす魔法に光の力を加え、魔力量の出力をかなり上げたのがこの魔法になる。

 出力はかなり不効率に上げたので俺と同じように発動出来る人間は少ないだろう。


 剣ばかりではなく魔法の方も少し模索していたのだが、ようやく実用的な魔法を一つ覚える事が出来た。

 風に質量のようなものを与える魔法。

 これで対戦相手を転ばせる事ができるかもしれない。

 なかなか素晴らしい魔法だ。


 フィオナは俺を背中から捕まえて体をくすぐり始める。

 俺は泣き笑いしながらフィオナに謝った。

 ぷんすかって表現するくらい怒ってる。……つまり全然怒ってない。

 頬膨らませてるのも可愛いな。


「はい、ごめんのちゅー」

「……私はそんな軽い女じゃありませんよ?んっ」


 軽いキスして和解。

 トウヤマキバと戦った模擬戦以来フィオナとキスを交わす意識の敷居が低くなった気がする。

 嬉しいから良いんだけど向こうは子供扱いしているのかもしれない。

 ……それはそれで良いか、こんな事を無邪気に出来るのは小学生までだしな。


 無邪気を装って出来るだけえろい事をしておこう。

 出来なくなる前に後悔が残らないくらい、ね。

 しっかしキスに慣れた小学生って意味が分からないな、家庭環境がどうなっているのか気になって仕方がない。

 俺の事なんだけどな。



「この魔法のお陰で色々と出来るようになったんだ。

 細かい操作は難しいんだけど、例えば……こう」


 タオルを風で浮かせ、宙に保つ。

 そしてそのタオルの上に自分が乗っかって魔法の絨毯のようにゆっくりまったりと宙を移動し始めた。

 フィオナは驚いた顔をしつつも目をキラキラさせて興味を示している。


 空間制御系の魔法とはいったものの凄い事が出来ると聞けばそうではない。

 魔法には様々な術があって、この魔法は難易度が高いものの有力な魔法ではなく多くの魔術師達から敬遠されてきた。

 空を飛ぶにはもっと実用的な魔法があるし、空間制御を主とするならば他の魔法もある。

 魔法を纏めた本にこの魔法が空間制御系の魔法という枠組みに当てはまっているだけで実際の内容は結構違う。


 風に質量を与えるイメージだ。

 これを使えば何もない場所に壁や足場を作る事が出来るし、乗って移動する事も出来る。

 だが魔法の本質は風なので安定性はなく尚且つ質量を持たせるには大量の魔力が必要となる為、土等で壁を作ったり足場を作ったりした方が間違いなく良い。


 燃費が悪い器用貧乏タイプな魔法と捉えて概ね正解だろう。

 魔力の消費量を考えなければ上位互換にもなり得るかもしれない。

 俺は魔力総量だけは馬鹿みたいにあるので助かった。

 ……まあ、まだ上手く発動は出来ないので要所要所で使えていけたら良いなと思っている程度である。



「凄いですシャロル様っ!一体いつの間にそのような魔法を?」

「魔法の才能は無いと思ってたんだけど光の魔法は結構得意だったみたいでさ。

 今まで使えた魔法から派生みたいな感じでこれが生まれたんだ」


 光神レグナクロックスを呼べるだけの何かしらがあったのか、それともレグナクロックスが俺に光属性の力を宿してくれたのかは不明だ。

 魔法の名前は『光風(ライトニングウェイブ)』。

 拘った魔法名を付けてずっこけるよりは綺麗に纏まった名前にした方が都合が良さそうだと思って名付けた。


 ちなみに俺が前に使ったもう一つの魔法、土人形生成や地表に泥を生成する魔法に光属性を付与すると水分が蒸発し始めて乾いた大地になる。

 乾いた大地はいくら魔力を注いでも土が動く事は無かった。

 つまり土と光は相性が悪いという事なんだろう。

 良い物と良い物を掛け合わせても良い物が出来るという保証は無い。


 魔法を解除して地に足を付け、タオルを畳みながら元居たソファーに座った。

 ソファーの前には長テーブルがあり、ずらっと今の自分に必要な物が並べられている。

 主に魔法学に関して纏められた本、即ち魔導書だ。



 光属性の魔法には様々な可能性がある。

 魔導書によれば光とは現象であり正義の意味を持つ煌びやかな存在とされていて、他の属性と違って相性が悪い属性が少ないらしい。

 土属性は例外なんだろうか。


 光属性は魔術師の中でも発動難易度が高いらしく、魔術師達は光を使いたい場合、光という現象を作る事ができる炎を扱うそうだ。

 その炎にも普通の炎と特別な炎の属性があるらしい。

 特別な炎は闇属性と光属性の両方と相性が良い存在と書かれているが詳細は一切書かれていない。

 伝説みたいな存在なんだろう。

 いつか光魔法でレーザービームとか撃てるようにならないかな。



「シャロル・アストリッヒ!今日は俺の相手をしてもらうぞ!」


 ドンと急にドアの開いた音が響き、変な男の声が聞こえてきた。

 トウヤ・マキバだ。

 俺に模擬戦で負けてからというものリベンジしたいらしく執拗に誘ってくる面倒くさい奴だ。


 選抜生徒の一人であるトウヤには出席しなければならない特別な授業があるはずなのだがそれを無視してやってくる。

 どんな事があっても毎日毎日。



「あれ?シャロル・アストリッヒ、どこだ?」


 ……そう。

 毎日俺の隣の部屋にやってくるのだ。

 フィオナと俺は声や音を出さないように黙り込み、大声を出して俺を呼ぶトウヤの声を聞き続ける。


「くそ、またアイツは外出中か!……っ!授業か!」


 トウヤはそう言うとドタドタと走り出して廊下に向かい、隣の部屋が俺の部屋とも知らずに部屋から離れて行ってしまった。

 ちなみに両隣の部屋は空室なのでトウヤが隣の住人に迷惑を掛けた事は無い。

 下の部屋の生徒はドタドタと足音が鳴って嫌がっているかもしれないが時間帯的に授業で寮にはいないはずなので何とかなっていると思う。


 俺はトウヤの足音がしなくなってから大きく溜息を吐き、フィオナも俺を見て苦笑いを浮かべていた。

 馬鹿を絵に描いたような馬鹿だなアイツ。ええ全くですね。

 アイコンタクトだけでトウヤに関する会話が終わった。



 ――――――――――


 数日経つとトウヤはこちらの部屋の近くまで足を運ぶことはなくなり、平穏な時間が続くようになった。

 そしてそれが始まった同時期に先生から模擬戦にたまに足を運んでほしいと告げられた。

 どうやら色々と面倒くさい事になっているらしい。


 トウヤ絡みかと聞くと苦笑いでそうだと答えたので俺も気が乗らず数日くらいは顔を出さずにいた。

 本番の武闘大会の試合が始まるまでもう二週間もない。

 出場する場合を考えてそろそろ自分の実力も調整する必要があるかもしれないと思い、模擬戦の授業に出席する事にした。


 模擬戦を行っている場所はコロシアムみたいになっていて地面は固い土で出来ている。

 自分の戦闘が来るまで待機している生徒や先生は観客席にいる。

 先生は数人座っていて、何かが書かれている板を立て掛けているのが見えた。

 ……どうやら、戦闘能力のランキングらしい。


 三位には知らない人の名前があり、その上にはトウヤ・マキバの名前がある、そして一位の場所には……レベッカ・エーデルハウプトシュタットの名前があった。

 トウヤは一位じゃ無いのか。

 ちょっと驚きだ。



 俺がフィオナと共に観客席に座ると会場の空気が急にピリピリし始めた。

 ザワザワと話し始める生徒達に静かにしろと一人の先生が叱り喋り声はある程度収まったが俺へ向けられる視線は一向に止む事が無い。

 フィオナは何も言わずに俺の為に紅茶を淹れてくれたので取り敢えず平然と飲みながら余裕がある事をアピールしておく。

 場に呑まれて精神的動揺を生む訳にはいかないだろう。

 逆に相手を動揺させるくらいの平然さを見せていかないとな。



「ようやく来てくれたのかシャロル君…」


 ティーカップ片手を片手に持ったオズマン先生が俺の座っていた観客席の方にやってきた。

 俺が紅茶を飲んでいるのに対して先生は珈琲らしい。

 俺も実は珈琲派だったんだけど父上と母上が紅茶派だったので数年飲まされて紅茶の味に慣れてしまった。

 今は紅茶を飲んだ方が何となく落ち着ける感じがする。



「トウヤは二位なんですね、驚きました」

「ああ……そうだね。レベッカ君も相当の実力者だったって事かな。

 トウヤ君は潜在能力や特別な力を所持する代わりに技量が些か不十分だ」

「じゃあレベッカさんに技量で負かされたんですか?」

「うーん……まあ、そうなるね。

 トウヤ君は極端に知識が少ない、だから君のような魔法という技術のある人間や意外性の高い武器を対処するのが難しい」


 オズマン先生はここ最近のトウヤの動きについて色々と教えてくれた。

 トウヤの勝ち方は自身の持つ波動を使ってゴリ押しする……つまり火力に支えられた戦法で、技量の差も速度の差も武器のリーチも火力だけで何とかしているようだ。

 そして現にその戦法で何人もの相手を倒して二位になった。


 それだけ彼の持つ波動は有力で、トウヤの実力を支える柱になっていた。

 しかしその波動という柱が役に立たなかった時、或いは対処されてしまった時のトウヤの戦闘力はそこら辺の生徒と同等かそれ以下に陥る。

 剣技の技量自体はあんまりないって事か。

 今のところトウヤの波動を対処できるのはこの学校の生徒で三名だそうだ。


「俺以外には誰が喰らわないんですか?」

「完全にガード出来るのは君だけだと思うけどね。

 レベッカ君は波動を切り裂き、セイス君……シャロル君のお兄さんが魔法で多少防げた」

「セイス兄さんが魔法で……ですか」

「君と同じように魔法の才能があるようだ、彼も降魔術を使えるみたいだしね。

 まあ君の様に強力な精霊を使役している訳ではない」


 そういえば駄目な兄の方のメイドが言っていた事が正しいならセイスは魔法学科に転科するんだっけ。

 トウヤの波動を対処するのがどれほどの難易度かは分からないけど先生が才能があると言うならそうなんだろう。


 ……というか、降魔術ってあんまり凄い魔法じゃないのだろうか。

 さらっと先生が口に出した辺りから察するにあんまり難易度の高くないっぽい。

 本来の降魔術は精霊と心を交わして協調してくれる精霊と契約してようやく力を借りたり召喚したりする事ができるようになると本で読んだ。


 先生にセイス兄さんがどんな精霊と契約したのかと聞くと下級精霊と契約していたと答えてくれた。

 故に契約も簡単だっただろうと言葉を添えて。

 降魔術の難易度は契約する精霊の強さによって変わるようだ。


 弱い魔術師の元にホイホイ寄って来る物好きな精霊も少ないはずだ、雇い主は優しくて強い方が断然良い。

 俺のレグナクロックスは契約している訳じゃないので色々と例外だ。

 あの神様が降魔術という形を取って、召喚されているように見せているだけである。

 超強い召喚獣というより実際は呼んだらやって来てくれる日曜朝の特番ヒーローって表現が自分的には一番しっくり来る。

 本人にそんな事は当然言えない。



「シャロル、久し振り」

「お?……お!セイス兄さん、久し振り」


 先生と話していると控室の方から重そうな鎧を着たセイスがやってきた。

 隣にはセイスの専属メイドの眼鏡お姉さんが立っている。

 眼鏡お姉さんはセイスの額にある汗をタオルで拭き始めたがセイスは足を止めずにこちらにどんどん近付いて来る。

 歩きながらだと拭きにくいだろうと思っていたが、拭いているメイドも拭かれている本人も不自由な雰囲気を出していなかった。

 俺とフィオナには真似できそうにない。


 確かセイスの専属メイドはアストリッヒ家の雇っているメイドの中でも一番ベテランだったはずだ。

 ……ああいう小さな事にちょっとしたコツがあるんだろうなあ。


 セイスがゆっくりと観客席に座るがメイドの方は座らなかった。

 むしろ俺の隣に座っているフィオナをキッと睨んだ気がする。

 メイドは立っていろというのだろうか。

 フィオナもその視線を感じたみたいでちょっと手が震えていたが、俺はフィオナの背中に手を回して立たせないようにした。


 そっちのメイドとこっちのメイドは違うのだ。

 余所は余所、ウチはウチである。



「シャロルの噂は聞いてるよ、凄いらしいね」

「あはは……ザックリした感想だなあ。

 セイス兄さんも降魔術を使えるって聞いて驚いたよ」

「凄い大変だったよ。――降魔。『新緑』コノメ」


 セイスは降魔術を使って精霊を召喚した。

 ……全長20cmくらいの人間型の精霊で、服装はカーディガンを着ていて長ズボンと妙に人間らしい感じだった。

 目は丸、口は四角、まるで絵に描いたような顔付きをしていて頭には葉っぱが一枚乗っかっていた。

 いや、これは生えているんだろうか。

 どこからどう見ても非戦闘員な感じの精霊である。


「どう?土属性の精霊なんだ」

「お、思ったよりも可愛いね」


 精霊のコノメはきょろきょろと辺りを見渡して戦闘に呼ばれた訳ではないと分かると懐いた子犬のように座っているセイスの膝上に乗った。

 なにそれ可愛い。


 セイスは笑いながらコノメの頭を撫でたり頬を指でつついたりする、コノメはじゃれてくれていると思って楽しそうにその手にちょっかいを入れていた。

 ……おかしいな、何故か負けた気がする。

 俺の神様はそんな可愛くないぞ。



「こんな見た目でもコノメは色々と役立つんだ。僕に出来ない事ができたり」

「それは魔力の……流れかい?」

「えっ先生分かるんですか?」

「魔力の使い方が上手いと思ったんだ。息切れも魔力切れも無かったからね」

「僕も詳しくは分からないんですけど魔力の分散が格段に減ったんです。

 思い通りの魔法も撃てます!」


 魔力の分散とは自分の魔力を魔法に変換する時に、空気中に魔力が放出されてしまう現象だ。

 主に魔法のイメージが曖昧だった時や、魔力を魔法に変換する能力が低いと起こりやすいとされている。


 俺はこの現象のせいで一つの魔法を使うのに多くの魔力を消費している。

 セイスと俺が同じ魔法を撃った時に使う魔力量は倍くらい違うかもしれない。

 俺の魔力変換する能力が低いのが原因だ。

 これが原因で俺は未だに中級魔法の扱いが上手く出来ないでいる。



 セイスは自分の精霊の有能さについて説明を入れ始めた。

 土属性の魔法が扱いやすくなっただとか、魔法全体の威力が上昇したとか、他の魔法に土属性の付与がしやすくなっただとか。

 少し言葉足らずな七歳男子(セイス)の説明を聞きながら今のセイスと二年前のセイスを瞼の裏で重ね、成長したんだなとしみじみ思った。


 身長だけじゃなくて中身もちゃんと成長している。

 俺の知っているセイスはこんなに人前で喋らなかったし、何を伝えたいのか分からない子供だったはずだ。

 ルワードの方もこんな風に成長してくれていると良いのだが。



「シャロル君。次はレベッカ君の試合みたいだ……しっかり見ておくと良い」


 先生は急に目の色を変えてコロシアムの方に視線を移した。

 レベッカ・エーデルハウプトシュタット対……三位の剣士、みたいだ。

 三位の剣士の持っている武器は模擬戦用の仕様でちょっと固いゴムで作られているみたいだ。

 レベッカさんの持っている武器もゴムのようだが……刀身が妙に長い。


 というか、どう見ても槍だった。


 俺が見た時のレベッカさんは剣を使っていたはずなんだけど武器を変えてしまったのだろうか。

 模擬戦が始まり、剣士が先手を打つ。

 槍のリーチに苦戦しつつも相手の懐に入ろうとして必死なのだ。


 必死にプレッシャーを与えている甲斐あって何度か槍の使いにくい懐に入り込んだが、決めの一歩には届いていない。

 それはレベッカさんの槍の使い方に理由があった。

 突きを主体とした武器のはずなのに振り回しているのだ。

 まるでそれは槍ではなく、棒を扱っているかのように。


「……何ですか、あれは」

「ウチの学校には彼女の使っている武器の形をした模擬戦用武器がないんだ。

 だから代わりとして槍を使ってもらっている」

「代わり?」

「そうだ」


 剣士の捨て身の攻撃。

 完全に自らの体をフリーにして速度だけを取った攻撃のスタイルに合わせてレベッカさんは足元から槍の先端を振り上げ、敵を薙ぎ倒すように攻撃した。

 女子の腕力だけではどうしようもないはずの剣士の体が槍の勢いに乗って空に投げられた。

 それを見た俺とフィオナは言葉を失う。

 そんな俺達に先生は言葉を付け足した。



「薙刀……レベッカ君の使っているのは突く槍ではなく斬る槍なんだ」


 君でも苦労するかもねと先生は笑っていた。


『光風/ライトニングウェイブ』

風に光属性を付加する事で質量に近い力を与える複合魔法。

強度は光属性付加の魔力量に依存する。

汎用性は高いが魔力消費効率が極端に悪い。

なお、この魔法で触れた部位の感触を発動者が得る事は無い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ