12.選抜
見所の無い試合と分かっていたのか、見学しにくる観客は少なかった。
公開試合として剣聖の息子を見学できる前期の最後の機会だっただろうに、結果が見えている試合には行く価値も無いって事なのだろうか。
所々にいる向上心の高いAクラス以上の生徒、物好きな上級生、夢見る低クラス生徒。
少年は見に来た観客を馬鹿にするように笑いながらステージに立っていた。
こんな試合を見に来てご苦労。
彼の立ち姿はそんな言葉を連想させた。
…そんな彼は、そのステージに入って来る少女を見た。
手に兜を持ち、自分と同じ笑い方をしている少女の姿。
それを見てからは少し身震いを覚えた。
対戦相手が笑って入場してきた事なんて今まで一度も無かったのだから。
「待った?トウヤマキバ」
「フルネームで呼ぶのはやめろ、トウヤと呼べ」
「嫌だよ。どちらかというと苗字で呼びたいけどそれじゃ祖先に失礼だ」
「どういう意味だお前」
挑発に対しては免疫がないようだ。
まあ、知っていた事だが。
『あー……二人共良いかな。
それではAAクラスの最後の模擬戦、シャロル・アストリッヒ対トウヤ・マキバの試合を始めます。両者、構え』
放送に近い、声の拡散魔法のようなものでオズマン先生が声を掛ける。
俺は先生の言った通りに剣を引き抜き構えたがトウヤはそれに応じなかった。
「どういう意味だって聞いてんだよオイ」
「……」
「俺は常に勝ってる、お前は不戦敗だらけだ。
それなりに腕のある親の元に生まれて恥ずかしくないのか?」
「……」
「何も言えねえのか?なあ、この試合も無意味だろ。やめようぜ?」
「……おい猿、構えなくていいのか?」
「あ?今何て言ったんだお前?」
……コイツ、兄のルワードと会わせたら仲良く出来そうだな。
『シャロル君。彼は剣を差した状態がニュートラルなんだ』
「そ、そうですか……」
抜いてない状態で準備万端とか…どんな主人公だよトウヤマキバ。
アニメ系抜刀術でもするつもりか?
『では始めます……―――始めッ!』
まずは様子を見よう。
………と思ったんだけど先生が始まりの合図を出してもトウヤは一向に攻撃を仕掛けて来ない。
トウヤはどうやら俺の返答を待っているらしかった。
調子狂うなあ。
「……もういいや、面倒くせえ」
トウヤは左手で頭を掻きながら刀を引き抜き、刀を寝かせ、左の掌を俺に向けて突き出したかと思えば、刀の剣先を親指と人差し指の間に乗っけた。
うーん……何か微妙な構えだけど、大丈夫。
その技は“知っている”。
「……顕現せよ、――『光神』。レグナクロックス」
「終わらせてやる!『魔王波』ッ!」
トウヤの左手から薄ら黒く色付いた衝撃波が物凄い速度で俺の体を目掛けて押し寄せてきた。
そしてそれは障害物に跳ね除けられた風の様に俺の体を避けて消えていく。
俺の黒き鎧が徐々に光を帯び始め、剣は黒色だった事すら忘れるほど白く輝き始めた。
いわゆるエンチャント……魔法の力を武具に付与したのだ。
だがこれは敵の攻撃を跳ね除けたのには何の関係もない。
跳ね除けたのは光神レグナクロックスそのものの力だ。
そう、まるで霊体が現れたかのように薄らとレグナクロックスが俺の目の前に出現していた。
幽霊のように存在感が無く実体が無い。
会場はどよめきが上がっているが、俺だって内心動揺している。
『お前の魔力は多量だが我と相性が悪い。故に負担の少ない形で戦う』
「あ……そ、そうか」
普通に喋れるんだ、知らなかった。
『ふむ、あれがマキバか。思ったよりも小さいな』
「おい。何だそれは……それよりお前どうやって俺の技を…」
トウヤが何故か動揺していた。
どうやら波動には絶対の自信があったらしい。
見た限りだと全体攻撃だったみたいだから性能が良いのは俺も評価する。
俺も自分で何で喰らわなかったのか詳しくはよく分かんないけどトウヤが悔しそうにしているならいいや、気分良いし。
多分レグナクロックスが守ってくれたんだろう。
「さて、次はこっちの番か?」
「んな訳ないだろ!『魔王波』!」
第二波。
迫り来る黒い波動を霊体のレグナクロックスが剣で切り裂き、俺の目の前で二分して攻撃が当たらないように守ってくれた。
レグナクロックスの霊体は右手に剣、左手には盾を持っている。
それなのに盾で守らず剣で守っちゃう辺りがとても格好良い。
もう全部剣だけで良いんじゃないかな。
むしろ左手も剣にすれば良いと思う。
「な……」
『詰まらん攻撃ばかりするな。次はこちらから行くぞ』
「勝手に決めないでほしいんだけど……っね!」
霊体が前進したのを合図にして、地面に魔力を捻じ込ませて土自体をエスカレーターのように動かし、更に追い風も付けて人間離れしたスピードでトウヤの目の前まで走った。
レグナクロックスの霊体は消え去り、自分の動きに残像のような物が纏わり始めた。
俺が速いから残像が付いている訳じゃない。
霊体が纏わり付いてそう見えているんだ。
ロングソードをぶっ叩き、どっしりと足元に力を入れながら左右に剣を振り始める。
トウヤはその剣捌きを全て刀の刀身で受け切っているが、纏わりついている霊体が俺と同じように剣を振るい始めた。
どうやらそれは質量ある攻撃らしく、トウヤはかなり苦戦している顔だ。
……冷静に考えると二人分の剣を苦しい顔しつつも一人で、しかも刀で抑えきっているのはかなり凄いと思う。
流石AAクラスだ。
いや、コイツだけはAAAクラスでも良かったのかも知れない。
そんな事を思いながら、俺は剣を強く握り締めて最後の一撃を与える隙を伺う。
霊体と動作が噛み合った時、全力で真横に剣を振り抜き、刀に重い一撃をぶつけてやった。
刀身は半身を残して空を舞い、彼の手には折れた刀が残った。
自分が持っている剣が折れるなんて経験滅多にないだろうからレアだぞトウヤ。
今回は運が悪かったと諦めてくれ。
人が神に勝てるわけがないんだ。
……父上は、例外だったみたいだけどな。
「は、はは……は?」
『試合終了。勝者、シャロル・アストリッヒ。
この試合を持って大会選手選抜の模擬戦を終了させて頂きます』
案外、呆気なかった。
俺は剣をしまって引き攣った笑いをしているトウヤに軽く会釈をし、控え室の方に戻って行った。
勝った時はトウヤを馬鹿にしてやろうと思っていたはずだったが、その時の俺はフィオナとキスする事しか頭になかった。
あと、真剣試合じゃなくて神剣試合だったなあと思う事ぐらいか。
波動が効かなかったのもレグナクロックスのお陰だし。
神剣試合って件は言葉遊びというより何だかしょうもない親父ギャグっぽいな。
……父上はこういう事思ったりするんだろうか。
こんな父親譲りは嫌だから聞かない事にしておこう。
「快勝、おめでとうございます」
「ありがとうフィオナ。……苦戦すると思ったんだけど思ったり…だったね」
「集めた情報ではブレイクストール様以上に強そうだと聞いていたのに驚きです。
それほどシャロル様が強くなったという事でしょうか」
「父上とは経験値が違ったんじゃないかな。
父上は全体的に強いし経験を積み重ねて考え抜かれた剣術だけど、トウヤは見た限りだと波動しか秀でた物がなかったみたいだし」
そしてその秀でた波動が一切通らないんだからどうしようもない。
父上は一技目が駄目だったら二つ目の技に移行するけど猿にはその能力さえなかったらしい。
それほどまでにあの波動は優秀だったのだろうか。
確かに全体攻撃の波動を盾で全て抑え切れるとは思えないが、生徒の中にはあれを抑える魔法を使える奴はいなかったのか。
……というか今更だけど、思い返してみれば魔王波って名前、如何にもだよなあ。
勇者の一族っぽくない。
どう考えても敵が使いそうな名前だ。
――――――――――
試合を終えてから授業は数日休みになった。
聞かされていた休日は一日だけだったはずなのだが学校の施設にちょっとしたトラブルがあったらしく休みが伸びたらしい。
とはいえ三日程度である、フィオナには体調が悪いと思われているのでこの休日は存分に休むつもりだ。
優等生選抜発表後は練習試合の予定が入る。
無論選ばれればなので自分が選ばれるなんて確証はどこにもない。
選ばれない場合はいつも通り休みの多いのんびりとした授業が続くので自分としては選ばれない方が嬉しいのかもしれない。
しかし選ばれないと後々行われる武闘大会に出られないらしい。
出てみたいとは思っているので選ばれても選ばれなくても嬉しいかなーとは思う。
学校は六年制なので選ばれないなら来年出れば良いさ。
上位クラスの中には選ばれたいからといって頑張っている生徒も多いらしいが自分はあまり利点が見付からなかったので興味が無い。
……辞退しても良いかもしれないよなあ。
AAクラスにあるまじき考えを抱いているのは分かるけど…楽はしたいからなあ。
はあ。
と思っていた翌日。
先生から選抜に落ちた事を伝える校長先生からの手紙が届けられた。
馬鹿な……とは思ったが、単純にただでさえ回数の少ない授業を二回欠席したのが原因となってしまったらしい。
戦闘評価は満点、出席点が平均以下となり選抜から落とされていた。
一学年から数人ずつ選抜されるみたいで全学年の選抜生徒の名前や、惜しくも届かなかった生徒の名前が載っていて、自分はその惜しい組に入っている。
喜んでいいやら悲しんでいいやら微妙な顔をしていた時、二年の選抜生徒の中に懐かしい名前を見付けて顔が緩んだ。
セイス・アストリッヒ。
出来の良い長男の名前が載っていた。
「やはり兄さんは凄いね、選抜生徒の中に載っていた」
「シャロル様は如何でしたか?」
「残念ながら。フィオナも見る?」
眉間をピクリと動かしてから手紙を見ていた俺の元に急ぎ足で駆け寄り、その手紙を受け取って視線を揺らしながら変な顔を浮かべていた。
「シャロル様がいないとはどういう事なんしょうか…。
実力も証明したのにこれでは不公平ではありませんか?」
「実力の乏しい生徒も選ばれる可能性があると考えれば良いバランスで評価されていると思うよ。
出席が七割、実力が三割くらいで判断しているんじゃないかな」
「う……で、でも…」
「フィオナにも思うところがあるんだろうけど私は満足だよ」
「そう…ですか。なら私は、何も……」
フィオナはしょんぼりと肩を落としていた。
別に判定に怒りを覚えている訳じゃない、でも不満は結構あるように見える。
当人である俺よりもその不満は深そうだ。
自分でも間違いなく受かるとは確信していた。
選抜に選ばれて「俺別に選抜に選ばれたかった訳じゃないのになー」とか優越感に浸る気満々だった……と思う。
慢心していた自分を一蹴された感覚だ。
だけど冷静になればこれからの授業が楽になったという事なので楽観視して良いだろう。
ゲームみたいに特殊イベントとか無いからな。
逆にフィオナとの時間が取れるのでフィオナとの交友を深めていこう。
寮以外の場所でゆったりと一日過ごしてみたいというのもある。
家事をしてもらっているフィオナに一日くらい休みをあげたいのだ。
家事の辛さは身を持って体感しているからな。
しょんぼりしてしまったフィオナに気分転換させようと思いちょっと散歩をしようと提案したのだが、少し悩まれた後に断られてしまった。
シャロル様が散歩されている間に部屋を掃除している方が冷静になれるだろうとの事だった。
一人で行動する事も滅多にないし良い機会だと思う事にして、俺は早速身形を整えて寮や学校の敷地内をぶらりとする事にした。
入学してから行ってなかった場所とかも多いから行き場所に困る事はない。
寮に備わっている食堂に寄るとざっと三百人くらいの沢山の生徒が食事している姿が見れたし、校庭の見れる場所に行けば素振りをしている生徒が見られた。
高い場所に行けばニューギスト公国を一望できる。
風当たりも良かったりして一人でも散歩を楽しめている自分に内心驚いていた。
やっぱり自分はあんまりショックとか感じてないんだなと再確認する。
ショック受けてたら散歩とか楽しめる訳ないからな。
街を一望できる場所でのんびりしているとどこからか女の子の声が聞こえてきた。
こちらに向かって二人の女の子が歩いて来ている。
一人は普通の私服を着た女の子で、もう一人は金髪ロングの白いローブを着た女の子、金髪の方は左目の下に泣き黒子があって可愛い。
俺が見ていると向こうがこちらに気付き黒髪の女の子が軽く会釈をしてくれた。
俺もそれに返すように会釈し、金髪の子も合わせるように頭を下げる。
黒髪の子は帯刀しているので剣士のようだが金髪の子はどこにも剣を持っているようには見えない。
魔法使いだろうか。
この学校は剣の学校として有名だけど魔法を専攻する学科がない訳じゃない。
多分金髪の子は魔法系の学科に属しているのだろう。
「貴女、剣士の人?」
「うん。今さっき武闘大会の選抜に落とされて気分転換しているところ」
「ふふっ…そうなの?私は受かったけど」
「私は魔法科なので元々狭き門で……落とされました」
白いローブの女の子が変な唸り声を上げながら俺の体を抱き締めた。
俺と違って落とされた事が悔しかったらしく、ううう、と唸っている。
……ちょっと体が二人共大きいので年上なのだろうか。
身長的には一歳か二歳差だと思うのでそこまでは離れていないと思うけど……間違いなく同級生ではない。
同級生なら模擬戦で何度か顔を合わせているはずだ。
「武闘大会は誰が受かったかって発表はもうされたの?
私達、他に誰が受かったのかよく知らないのよね」
「ん……えっと、レベッカ・エーデルハウプトシュタットとか、トウヤ・マキバとか」
「シャロル・アストリッヒは受かった?」
「い、いや、受かってないよ」
驚いた。
何でこの子俺の名前知ってるんだ?
俺がその本人だって事は分かってないみたいだけど、なんだかド直球に言われると心が痛む。
フィオナ連れて来ないで正解だった。
「そう。凄い人って聞いてたんだけど、残念」
「ねえ。もうそろそろ時間だから行こ?」
「あっ…ごめんなさい、もう行かないと」
「うん。また会えたら」
もうちょっと話して仲良くなったら友達になろうと思ってたんだけど彼女達には時間がないらしい。
ここで足を止めさせるのも悪いから諦めよう。
学校の生徒なんだからいずれ会えるだろう。
とは言っても自分の兄にすら会えてないがな。
武闘大会に出るとも言ってたし生徒の中から見付ける事は難しくないはずだ。
辿って行けばいずれ仲良くなれる機会ができると思う。
「じゃあまたねっ!」
「ばいばーい!」
そう言葉を残して元気良く二人は去って行ってしまった。
……急にやってくる静寂を感じ、何だか寂しくなってきた。
仕方ないので気を紛らわすためにもう一度そこら辺をぶらぶらと歩いて、最終的に寮の食堂で足を止めた。
兄にすら会えていない……というのは多分、自室に籠る事の多い俺の所為なのだからたまには探してみよう。
兄達は自分と同じ様にメイドを連れているのでメイドか兄かどちらかを見付ければ良い、そう考えれば普通の人よりも見付けやすいはずなのだ。
……はずなのだが、メイドを連れたお坊ちゃまは少なくない。
困った。
クッキーを買って食べながら食堂の端っこで隅から隅まで目線を移して探し続けたが見付からず、諦めてクッキーの袋を捨てて自室へと戻る事にした。
しかしまさか、これほど食堂を使っている生徒が多いとは思わなかった。
散歩を始めた頃はざっと二百人ほどいて、散歩から帰って来てからもその人数はあまり変わっていなかった。
気付かないだけで、この寮は俺の想像を絶するほど大きい建物なのかもしれない。
生徒数は一学年で四百人くらいで東京の高校よりも多い、そして更に六年制の小学校なのでその数を六倍するのだ。
全ての生徒が寮ではないと思うけど、幾ら何でも多すぎである。
「あ、あの。シャロル様ではありませんか?」
今度はロリっ子みたいな声に呼ばれた。
振り向くと中学生くらいの身長をした俺より大きなメイドさんがいて、目が合った瞬間に音速を超えそうな速さで頭を下げた。
その礼は風を切る音が聞こえる速さだった。
特徴的なその礼はどこかで見た事があったので彼女が頭を上げる前に自分の顎に手を当てて少し考える。
あ、そうだ。
「確かルワードの…」
「はいっ、ルワード様のメイドをやっているリュンヤンです!
覚えてくれていてとても嬉しいです!」
そうだ、出来ない方の兄ルワードのメイドだっけ。
頭を上げたリュンヤンは動作を付け加えながら嬉しい事をアピールし始めた。
……そうそう、アストリッヒ家で雇っているメイドの中では一番年下で、あんまり頭も良くなかったんだっけ。
専属メイド選びには色々と経緯があって、長男セイスは長男なので一番出来の良いメイドを、次男は元々フィオナが専属になる予定だったのだがフィオナは家事が得意だったのでフィオナに家事を任せ、手の空いていた新人のリュンヤンが専属になったのだ。
そして最後に生まれた末っ子の俺の専属メイドはフィオナが受け持つ事になり、他のメイドを雇うのは億劫という理由から家事はメイドが当番でやるようになった。
リュンヤンは黒髪ツインテールで特筆すべき事はない。
いや、特筆すべき事は黒髪ツインテールである。が正しいか。
「フィオナさんは最近お元気ですか?」
「うん。そっちはどう?」
「ルワード様は相変わらず……です。
セイス様とは廊下をすれ違ったりするのでお話をするのですがシャロル様とは初めてですね」
「そうだね…相変わらず苦労してるんだ」
「はい。でもでも!最近はよく名前で呼んでくれるんです!
前まではお前とか、オイだけだったのに……それがちょっと嬉しくて……」
……。
え、リュンヤンさん嬉し泣きしてる。
「えっと、涙…ハンカチ使う?」
「あっありがとうございます!シャロル様は相変わらず優しいですっ!」
君の主人が酷過ぎるだけだと思います。
「そういえばセイス様は来年から魔法科へ転科を希望されているようです。
そっちの方が性に合っている、とかで」
「へえ……色々考えているんだなぁ」
セイスは勉学を得意としていたし、魔法の才能があるなら感覚を磨いて腕を上げる剣技よりも学んで習得する魔法の方が似合っているかもしれない。
その才能は俺には無かったわけで、少しセイスが羨ましくなってくる。
結局何回本を読み返した所で土を動かすとか風を吹かすとか下級魔法しか上手く扱えてないし、魔力総量が多くても使い道がないんじゃ意味ないからな。
別に中級魔法が使えない訳じゃないけど……上手く扱えない。
いずれ使えればいいなあ。
近況を適当に報告し合った後リュンヤンさんと別れて部屋に戻ると、機嫌を取り戻して笑みを浮かべたフィオナが擦り寄ってきた。
「…何かあった?」
違和感アリアリであった。
話を聞くとどうやら先程オズマン先生がやってきてシャロル・アストリッヒが補欠候補として選ばれたと教えてくれたらしい。
補欠、ねえ。
どうやら選抜として選ばれた生徒のように特別な授業を受ける必要はないらしい。
フィオナは満面の笑みとは行かずとも喜びの表情を浮かべていた、だがどうしても疑問が残る。
何故トウヤマキバを倒した俺が補欠なのか、だ。
どうしてもその謎のせいでフィオナの喜びを分かち合う事はできなかった。
――――――――――
「先生、只今戻りました」
「……随分と早かったな?」
「ええ、レミエルのお陰で助かりました。
ニューギストグリムアカデミーの選抜候補の実力者はトウヤ・マキバ、レベッカ・エーデルハウプトシュタット。
一応、セイス・アストリッヒも注意するべきだと思います」
「ん?シャロル・アストリッヒはいないのか」
「はい。……もしかしたらトウヤマキバに勝ったというのは誤情報だったのではないでしょうか。
誰に聞いても落とされたとしか……」
「だと良いがな……今年も我々フィストランド校の勝利の為に奮闘するとしよう」
フィストランド校。
冒険者を生み出す剣士育成校であるニューギストグリムアカデミーとは別の道を行く、戦場で対人戦を行う騎士を目指す事を目標に定めた学校だ。
武闘大会に向けて動いているのは自分達の学校だけではない。
戦いに身を投じる全ての者が自分の強さを証明する為に全力で戦おうとしている事をシャロルは何も知らなかった。
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