二日目 その八
飛び掛かるには若干距離があった。重心を低くすると同時に地面を蹴って一気に間合いを詰める。真っ正面には怒りの感情に任せて大口を開けた兵士が剣を大上段に振り上げて突進して来ていた。
膝に載せた勢いを殺さずもう一度地面を蹴った。振りかぶった斧をそのまま投げつけるようにして伸ばした左足が兵士の頬骨に思い切りめり込んだ。無遠慮に振り回した勢いはこの程度では止まらない。隣にいた兵士の鼻っ柱に踵が突き刺さる。鼻を潰された兵士が腰から崩れ落ちる。そこの真上に重心を載せると、余った右足に腰の捻りを加えて振り回した。右足の甲と膝がそれぞれ右隣にいた兵士の顔面に直撃した。
着地に合わせて曲げた左の膝を伸ばして後ろに跳ぶ。背後が完全にガラ空きになっている兵士の後頭部を足の裏で蹴り飛ばした。右足を下ろした反動を利用して振り上げた左足の甲と膝を右隣にいた兵士の顔面に叩き込む。少ない攻撃で仕留めなくてはならない性質上、その手段はある程度限られて来る。必然的に体捌きを多用する形になるから威力も上がるが当然気の毒などとは思わない。
踊るような軽い足取りで後ろに下がって距離を取る。こういう乱戦の場合、一撃離脱が基本だ。足を止めたらあっという間に取り囲まれる。相手に的を絞らせず、かつ確実に仕留める一撃を的確に叩き込む。その繰り返しだ。
斬りかかっていた残りの兵士がつんのめるようにして足を止めた。慌てて周囲を見回した何人かと目が合った。ギョッとして目を見開く者、何が起こったのか理解出来ていないのか茫然自失とする者と反応は様々だが、事態を正確に把握しているとは言い難かった。いや丸っきり判っていないと断言してもいい。斬りかかった直後、その相手に背後を取られたばかりか半数近くの仲間が既にやられていたとなれば愕然とするのも反応としては自然だろう。見えていなければそんなものだ。
振り向いて剣を構え直したがさっきまでとは雰囲気が違う。威勢どころか虚勢すらない。何人かは明らかに怯えていた。また溜め息がでそうになった。だったら最初っからやるなよ、こんな事。だから警告したのに。あ~あ。衝動を堪える事はせず素直に口から出した。我慢する必要もない。
「で、どうすんだ? まだやんのか?」
返事はなかった。隣にいる仲間の顔を覗き込もうとしている恥知らずもいる。及び腰丸出しの態度だった。意を決して自分を奮い立たせたのか、一人が悲鳴に近い叫び声を上げて斬りかかって来た。やっぱり上段だった。工夫の欠片もない。剣が振り下ろされるのと同時に相手の真横に立った。元々防御の対象として考慮されていないガラ空きの膝を斜め上から踏みつける。
「がっ……!」
落とし穴の底から響くような不気味な呻き声だった。見ると折れた骨が皮膚を突き破って飛び出していた。それはさぞ痛かろう。
次の瞬間には膝を抱えて甲高い声で悲鳴を上げ始めた。鳩尾の辺りを爪先で軽く蹴り上げる。悲鳴に代わって血の混じった泡を口から吐き出すと静かになった。
「来る者は拒まずだけど、どうする?」
去る者は場合によっては追う。金がない時、虫の居所が悪い時、何となく殴るか蹴るかしたい時、逃げる背中に蹴りを入れるのは差して珍しくはない。腹は立っている。だが、今は蹴り飛ばすよりもさっさと逃げてくれた方が助かる。無駄にしつこく粘ろうとするから逆に苛々する。空気はおろか顔色すらロクに読めない大馬鹿者が剣を袈裟斬りに構えて突っ走って来た。切っ先が空を斬るよりも速く、ガラ空きの土手っ腹に体の捻りを加えた右足を叩き込んだ。空気を入れすぎた皮袋が破裂するような音を立てて後方にぶっ飛んで行く。骨は言うに及ばず、内臓もいくらかイカれたに違いない。何日かはまともに飯も食えないだろう。砂煙だけが名残のように尾を引いていた。誰も助け起こそうとはしない。
一人が破れかぶれで突進して来た。何の工夫も凝らされていない突きを体を捌いてかわした。軽く足をかけると途端に重心を失った。前のめりに倒れそうになった後頭部を思い切り踏みつけるとそのまま地面に叩き付ける。鼻骨くらいは確実に砕けているはずだ。歯も何本か折れているかも知れない。すっかり潰れて二目と見れない顔になっていたとしてもおかしくはない。知った事ではないが。
腕の中で震えていたカティが僅かに目を開けた。
「もうちょいで終わるから、あと少しだけ目ぇ閉じといてくれるかい?」
目に涙を溜めたまま必死に頷く。つくづく悪い事をしたなあと思う。
さて。ならばその憂さを何処にぶつけようか。両腕に僅かに力を込めた。軽くカティの肩を叩く。
「本当にもうすぐ終わる。だからあとちょっとだけ辛抱してくれ」
囁くように呟く。体の振動で頷いたのが判った。
顔を上げた途端、残った兵士連中が音を立てて後退った。すっかりビビっている。完全に戦意を喪失しているのか、それとも往生際が悪いだけなのか。単に逃げる機を逸しただけだろう。任務を全うしようなんて忠誠心は欠片も窺えない。引き際すらロクに心得ない身の程知らずなら出方を待つよりこちらから引導を渡す方が余程話が早い。
よし。軽く前屈みになった瞬間、一気に加速した。兵士連中が音を立てて身を逸らした。こちらの一挙一動に過剰反応している時点で負けは決まっているようなものだ。ビビってしまっているせいで冷静に状況を把握出来ていない。統率の取れた集団ではない。そんな訓練を受けた事もないのだろう。もう底は殆ど見えた。残っている問題はまだいくつかあるが、一つを除けば差して大きな障害にはならない。それはこれからじっくり考えるとして、今はこいつらを片付けるのが先だ。
カティを抱えたまま跳んだ。呆然と正面を見詰めている者、頻りに周囲を見回す者、それらを上からしばらく見下ろす。奴らからしてみれば目の前で突然消えたようにしか見えないのだろう。視覚で捉える事が出来なかったから的確に反応するにまで到らない。混乱振りが窺える。やれやれと内心で溜め息を吐きながら、必死にキョロキョロしている兵士の横っ面を落下の勢いを加えた左足で蹴った。反動を利用して反対側に跳ぶ。蹴る瞬間、兵士と目が合った。虚を突かれたように愕然と目を見開いていた。どうしてそんな所にいるんだよ。目が如実にそう語っていた。捻りを加えた右足の踵で頸動脈を、足の裏の前半分で鎖骨を踏みつけた。骨が粉末のように砕けた感覚が靴底を通して足に伝わる。脆いなどとは思わない。体の中で一番折れやすい骨だ、大して力を加えなくても粉砕する事など造作もない。
着地してしばらくしてから残りの三人が慌てるような足取りで周囲を取り囲んだ。多少距離があった事は否めないが、それでも反応が遅すぎる。踏み込めば一瞬で詰められるような距離の間合いを、三人は少しずつ左に左に動きながら機を窺っている。面構えに余裕がない。大して動いた訳でもないのに肩で息をしている。ここで大声出してビビらせたら股間がホカホカになるだろうなあ、と何の疑問もなく思った。汚いだけだからやらないけど。見ると、まだグルグル回っていた。他にやる事ねえのかよ、と思うと改めてウンザリした。こんな事しか出来なくても本人は必死なんだ。それだけは確かだった。評価する気は更々ないが。待っていたら本当に日が暮れそうだった。すぐに時計を出せたらあとどれだけグルグルしているのか計ってみるのも面白いが、今は両手が塞がっているし明らかに時間の無駄だった。駆け出すと同時に低くしていた重心を前に傾ける。沈めていた頭を斜め上に突き出した。硬く、それ以上に鈍い独特の衝撃が額から体を伝って流れていく。顎の骨が砕け散ると同時に意識も綺麗に昇天しているはずだ。脳を下から上に揺さぶられる感覚は並の人間ではまず耐えられない。しかも体の中で一番硬い骨が思い切り加速してぶつかってきたのだ、立っていられたら中々のものだ。誉めてやってもいい。
前に踏み込んだ勢いを、今度は真上に向ける。背後にいた兵士が斬りかかって来たのはその直後だった。振り下ろされた剣が空を斬る音が微かに聞こえる。あの調子では体勢を整えるのにまだ少し時間がかかるだろう。と言ってもホンの数秒に過ぎないが。それだけあれば充分だった。
そのまま後方へ宙返りして二人の背後に降りた。勿論休む事などしない。一気に間合いを詰める。足の裏全体で綺麗に背中を蹴飛ばすと、向かって左にいた兵士は悲鳴を上げる事もせずに砂煙を上げながら豪快にぶっ飛んで行く。
最後の一人がこちらに向き直ると慌てて剣を構え直した。震えながら周囲を見回す。うずくまるか横たわるか、その何れかで立っているのはその一人だけだった。剣が手から落ちそうなくらいにガタガタ震えている。それでも手放そうとしない根性だけは買う。意地かプライドの成せる業か、だがこういう場ではそれが吉に転じる切っ掛けにはならない。むしろ逆だった。武器を放り捨てて逃げる事も一つの勇気であり、立派な選択だ。勝てる見込みがないと悟って逃げるならば下手に手出しはしない。ただ物事には必ず例外がある。
構え直した剣を大上段に掲げて突進して来た。予想の範疇の行動だった。振り下ろせば脳天を両断出来る距離まで一気に間合いを縮めた。振り下ろそうとした剣はそのまま宙に跳ね上げられた。兵士は愕然と目を見開いている。両手が塞がっている相手に、それも足で剣を弾き飛ばされるなんて考えもしなかったのかも知れない。振り下ろす瞬間に柄を蹴飛ばしたのだ。動きが見えて、かつ呼吸も読めれば不可能ではない。相手の力量にも依るが。武器を手放し、万歳でもするように両手を上に伸ばしている。足を下ろすと体を反転させる。半分背中を相手に見せるような体勢で右の踵をガラ空きになった鳩尾に突き刺した。残っていた体のもう半分を前に戻す勢いに左足を載せる。完全に無防備になっていた兵士の横っ面を左のスネで覆い被さるようにして蹴り飛ばした。真横にぶっ飛んだ兵士は、何かを訴えるように一度だけ大きく痙攣するとそれっきり動かなくなった。
所々から茶色く膨らんだ砂煙が名残りのように漂っている。どいつもこいつもピクリともしないが、加減はしているので死んでいる事はない、と思う。確かめようとは思わないが。無関係な人間を巻き込んでしまった以上確実に片付けるか完全に戦意を喪失させる必要はあったが、そこまでムキになるような相手ではない。ただ殴りたかった気持ちは往々にしてあったから、そういう意味では幸いだった。ボコボコにする大義名分があった方が殴りやすい。殴ったのではなく蹴ったのだが。屍のように転がっている兵士連中(断じて刺客などではない)を順繰りに数えて行く。ふう、と溜め息を吐く。気にするような事でもないか。最初の段階で数え間違えていた可能性も否定出来ないのだ。全員綺麗に片付けた事だし、今はこの子を恐怖の真っ只中から出してやるのが先だろう。
腕の中で身を縮めている彼女は目が眩んだ時よくそうするように思い切り目を閉じていた。唇を真一文字に結んで歯を食いしばっていた事に少し感心した。あれだけ目まぐるしく動き回っていたら、下手に口を開いたりすると舌を噛みかねない。単に怖いのを懸命に耐えていただけなのかも知れないが。健気だなあと思う。
「終わったよ」
前を向いたまま、囁くような声で言った。この姿勢で彼女の顔を見下ろすのは気が引けた。だが顔を背けたままと言うのも彼女に失礼だった。そもそもこんな事になった原因は他ならぬウォッカにある。視線を落とすと、カティは立て付けが悪くなった戸をこじ開けるようにして瞼を上げた。その拍子にガラス玉のような滴がいくつか目からこぼれ落ちる。まだ僅かに体を強張らせたまま我に返ったように辺りを見回した。髪が揺れ、滴が舞う。目が虚ろで焦点が定まっていない。
「もう大丈夫」
笑ってみせると途端に顔がクシャクシャになった。幼子のように声を上げて泣き出す。懸命に堪えていたものを、胸の奥にしまっていた恐怖を吐き出すようにして泣き続けた。落ち着くまではまだしばらく時間がかかる。ウォッカはカティの肩をそっと抱き寄せるとしゃくり上げる度に震える背中をそっと擦った。
「大丈夫、もう大丈夫だから」
それでも一向に泣き止む気配はなかった。時折滴が腕に落ちる。それを拭う事もせず、黙ってカティの背中を擦っていた。
悪漢をぶちのめした事は腐るほどあったが、女性を腕に抱いたのはこれが生まれて初めてだった。
何が起こったのか、それをまともに理解する事すら出来ていない。危うく殺されそうになったところを助けられた、それだけは辛うじて判った。目を開けて助けてくれた人物を見る。ウォッカは照れ臭いような、気不味いような曖昧な表情で頬を掻いている。
太くて分厚い腕に背中を抱えられているせいで寒さは全く感じない。なのに体の震えは一向に収まらなかった。その兆しすらない。どうしたらこの震えが止まるのか教えて欲しかった。縮こまっていた体を延び上がらせた。体を起こして両腕でウォッカの首にしがみつく。こうして何かに触れていないと怖くて堪らなかった、不安で死にそうだった。ウォッカは何も言わなかった。黙って背中を擦ってくれていた。たったそれだけなのに、信じられないくらいに気持ちが楽になった。心が軽くなった。でも、まだ心は安らぎを求めていた。それくらい怖かった。本当に生きた心地がしなかった。そこから救ってくれた事がただただ嬉しかった。
どれくらいの間そうしていたか判らない。いつの間にか、こんなに声を上げて泣く自分を恥ずかしいと思えるくらいの冷静さは取り戻していた。あんな目に遭ったんだからまだしばらく泣かせて欲しいと甘える自分と、早く立ち直りなさいと叱咤する自分に挟まれていたけど、そのどちらも現実に引き戻すきっかけにはならなかった。
「少しは落ち着いたかい?」
すぐ耳元でウォッカの声が聞こえた。初めてウォッカに抱きついていた事に気付いた。それまで当たり前のように抱きついていた事が信じられない。でもすぐに体を引き離す事は出来なかった。ウォッカに対しても明らかに失礼だろう。指先から、腕から少しずつ力を抜いて行く。絡んでいた糸がほどけるようにして、何の抵抗もなく体が離れた。見上げるとウォッカは奥歯の間にほうれん草の切れ端が挟まったような顔をして頬を掻いている。
「あの、有り難うございました」
声が震えている。完全に落ち着きを取り戻すにはまだ時間がかかりそうだった。
ウォッカは首を横に振った。僅かに下がった目尻にホッとするものを感じる。
「下ろして頂いていいですか?」
腰を屈めると爪先をゆっくりと地面に下ろした。積もった砂に足を突っ込むようにしてバランスを崩した。まだ背中から脇を抱えられていたせいで倒れこそしなかったけど、山を大急ぎで駆け降りた直後のように足元が覚束ない。
「手、離しても大丈夫かな」
精一杯頷いたけど、どれほど説得力があったかと聞かれると応えに詰まる。生まれたばかりの小鹿でもここまで危なっかしくはない。そんな自分を情けないと恥じる余裕もなかった。上げたはずの顔を赤くして俯ける。
「立てるかい?」
「だ、大丈夫です」
ウォッカが手を握ってくれているから辛うじて立っていられるけど、離したらあっという間に引っ繰り返る。ふと五歳の頃、池に張った氷の上に立った時の事を思い出した。あの時もこうしてイリナが手を握ってくれていた。さっきまで当たり前に立っていた事が逆に信じられないような錯覚に陥る。だから最初は地に足が着いた感覚を随分と新鮮に感じた。
立ち上がった姿を見て、ウォッカもホッとしたように笑った。さっきまでどんな顔をしてあいつらを蹴散らしたのかは判らない。でも絶対にこうして笑っていてくれていた方がいい。
「危ないところを助けて頂きまして、本当に有り難うございました」
改めて頭を下げる。声もさっきほどは震えていない。いくらか落ち着きを取り戻して来ている。
ウォッカは帽子を脱ぐと頭を下げた。
「本当に済まなかったね」
申し訳なさそうな顔で深々と頭を垂れる。かなり混乱した。どうしてウォッカがここまで神妙な顔をして頭を下げなければならないのか。その理由が判らない。それが何故だか哀しくて涙が出そうになった。積極的には聞きたくない言葉だった。
「どうしてウォッカさんが謝るんですか? 何も悪い事なんてしてないじゃないですか」
「何もしてないって事はないだろ」
一点差で合格点に到達しなかった答案を前にした教師のように、ウォッカは躊躇う事もなく首を横に振った。ダメなものはダメなんだよ。
「あいつらは飽くまで俺に用があっただけなんだ。それに無関係な人間を巻き込むような事はあったらいけないんだよ」
絶対にね。キッパリと言い切った。妥協を許さない見えない一線が明確に引かれている。誰かを巻き込む事はそれを踏み越える事に他ならない。それがウォッカにとってのルールなのだろう。
「でも、こうして助けてくれたじゃないですか」
「それは当たり前だよ。経緯はどうあれ、無関係な人間を巻き込んだんだからその人に危害が及ばないようにするのは当然なんじゃないのかな」
だから何も特別な事はしていない。ウォッカの中では果たすべき最低限の義務を消化したに過ぎないのだ。特別な事など何一つない。
「だから、そんなに改めて頭下げなくていいよ。悪いのは俺なんだから」
「そんな事ありません」
自分でもビックリするくらい毅然とした態度だった。ついさっきまで声を上げて泣いて、震えてまともに立てなかったのが嘘のようだった。
「逃げた先に私がいたなら巻き込んだ事になるかなとも思うけど、今は違いますよね?」
「どう違う?」
「あなたが追われていたところに私が飛び込んで行った、そうですよね?」
ウォッカは目を閉じたまま肩を竦めた。口元が優しそうに笑っている。
「それも、私が追い付くかなり前から追われてた。私の事も追っ手の一人だと思ってましたよね?」
「どうしてそう思う?」
カティは気持ち少しだけ背筋を伸ばした。先生に遅刻した理由を説明する時のように、ちょっとだけ緊張する。
「あの時、こう言いましたよね。『君だったのか』って。それって私だとは思ってなかったって事ですよね? なら一体誰だと思ってたんですか?」
返事はなかった。困ったような顔をして首を小指でコリコリ掻いている。
「私も追っ手の一人だと思っていた」
「ま、そういう事かな」
降参するように少しおどけて両手を上げた。ようやく雰囲気が和んできた。
「それを巻き込まずに守るなんて無茶な話ですよ。ウォッカさんは何も悪くありません。ご自分の責任もしっかり全うされてます」
「それじゃ、お言葉に甘えてそういう事にさせて頂こうかな」
明るい声で笑った。カティは首を竦めたまま周囲を見回す。完全に伸び切っているのかピクリともしない。それが十人以上もいる。たった一人で、しかも人一人を守りながらこれだけの事を易々とやってのけてしまった。多少老けてはいるけど何処にでもいそうな青年そのものだ。ちょっと信じられない。
それにしても。
誰かをを抱きかかえたままだったら両手は使えない。剣を持った人間を一体どうやって相手にしたのか。ウォッカの腰元を見て目が点になった。
「ウォッカさん、剣は?」
「さっきヨハンのところに預けて来た」
ずっこけそうになった。だったら完全に丸腰ではないか。
「じゃ、ずっと素手で戦ってたんですか?」
「素手と言うか厳密には足だけど、どちらにしてもあの状態じゃ武器は使えないからね」
たった今考えていた事がもう頭から飛んでいる。腕の中にはカティがいた。当然武器を握る事なんて出来ない。武器を手にした、それも明確な殺意を持った連中を足技だけで片付けるなんて普通絶対に有り得ない。
「随分、お強いんですね」
つくづく間抜けな発言だなあと思うけど、他に相応しい言葉が見つからない。
「ただの護身術だよ」
十五人もの相手を足技だけで片付けて何処が護身術なのか。説得力の欠片もない。
「それに相手の力量にも依るな。まとまりなんてものはまるでなかった。連携するような頭もな。ただの烏合の衆だよ」
「でも多勢に無勢とも言うし、数で勝れば相手もそれだけ有利ですよね」
「集団を形成する個の実力がどれくらいかにも依るな。なまじ人数が多いとその分油断もする。少なくともそういう気概を持った奴は一人もいなかったな」
個々がしっかりしていなければ寄り集まったところで発揮出来る力など高が知れている。ウォッカには取るに足らない相手でしかなかったのだろう。
「武器なんか必要ないですね」
「あればあったで役に立つ。それに使う用途が違うんだよ」
「用途が違うって、さっきみたいな時には何の武器も使わないんですか?」
なら何を使うのだろう、と咄嗟に思ったけど聞くまでもなかった事にすぐ気付いた。素手で充分なのだ。
「間抜けな輩の血で剣を錆び付かせるくらいなら素手で相手にするな」
それを可能にする力量がウォッカにはある。身を以てそれを証明してくれた。
「歩けるかい?」
力一杯頷くと、ウォッカは下ろしていたリュックに手を伸ばした。その隣に立とうとした時だった。
突然手首を強く掴まれた。そのまま強引に引っ張られる。それだけではない。前のめりに大きくバランスを崩した。この時になって初めて足を引っ掛けられた事に気付いた。ひどい、と素直に思った。何故こんな事をするのか判らない。それが知りたくて倒れながら首を捻って後ろを振り向いた。
白い何かが空を薙いだ。それが剣の切っ先と気付くまで然程時間はかからなかった。必死の形相をしたさっきの兵士の一人がこっちを睨み付けている。ウォッカは剣が降り下ろされたところとは丁度反対側にいた。既にかわしていたのだ。体を横に開いた姿勢のまま、ウォッカは半歩踏み込んだ。斬りかかって来た兵士の鼻っ柱に肘を叩き付ける。何かが砕ける嫌な音がした。ウォッカはそこから更にもう一歩踏み込んだ。
「お仕置きな」
豪快に降り下ろされた左の拳が兵士の顔面を撃ち抜いた。顔から地面に叩き付けられる。頭から血が出ているけど、可哀想などとはとはちっとも思わなかった。
ウォッカが手を引いてくれなかったら、足を引っ掛けていなかったら、胸から上が体から切り離されていたかも知れない。考えただけでゾッとした。
「大丈夫かい?」
人を何の躊躇いもなく殴り飛ばした後にこういう言葉をかけてくれるとどういう顔をしていいのか判らなくなる。でも嬉しい事に変わりはない。
「だ、大丈夫です」
取り敢えず、当たりも掠りもしていない。だから怪我はしていない。軽々しく大丈夫とは言いたくないけど、ウォッカにあまり気を遣わせたくはなかった。
「当たってないよね?」
「はい」
目の前で膝を折ったウォッカは心底ホッとしたように胸に手を置いてゆっくり息を吐いた。その手が目に見えて赤く染まっている。次の瞬間、本気で悲鳴を上げていた。当の本人は別段驚いた様子もなく胸元を見下ろした。
「あ」
胸に真っ直ぐ赤い筋が一本走っている。そこを中心にして赤い血溜まりが少しずつ広がりつつあった。
「掠ってたか」
露骨に顔をしかめたウォッカは小さく舌打ちした。初めて負った傷らしい傷だった。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。これくらい何て事ない」
本当に全然痛くなさそうだった。蚊に刺された程度のものなのかも知れない。
「でも、血が……!」
「皮が切れただけだよ。血が出てるから多少派手な怪我に見えるけど大した事ないから」
首を思い切り左右に振って全力で否定する。素直に頷けるはずがない。
「血が出てるのに大した事ない訳ないじゃないですか! 早く血を止めないと」
「ま、それもそうか」
ボタンを片手で外すと血で赤く濡れたシャツを脱ぎ捨てた。突如として込み上げた猛烈な吐き気を抑えるため両手で思い切り口を塞いだ。さっきのように悲鳴を上げなかったのは吐き気に妨害されたからだ。だから厳密に言えば上げなかったのではなく上げられなかった。血が流れていた事は勿論だけど、それ以上に驚いたのはウォッカの胴体に出来た窪みに不気味な血溜まりが出来ていた事だった。体に入り込んだ巨大な芋虫が肉を食い破ったような醜い傷に、胸から流れた血が溜まっている。そこから出血しているようにも、そこだけ独立した生き物さながらに不気味に蠢いているようにも見える。右胸の下の辺りから左の脇腹にかけて、肉を無理矢理削り取ったような傷痕に血が流れ込んでいた。食後だったらまず間違いなく吐き戻していた。そうでなくて良かったと胸を撫で下ろしながら、それでも絶えず込み上げて来る吐き気を懸命に堪える。
ウォッカは何も言わずに背を向けた。
「見てて気分のいいものじゃないよな」
応える事も、首を横に振る余裕もなかった。喉まで込み上げて来た酸っぱいものを無理矢理胃に落としながら顔を背ける。とても直視する事など出来なかった。
でも。
ここに私がいなかったら、いやそもそも来なかったら、ウォッカは無用の戦闘をもっと有利に進める事も出来たはずだし、こんな怪我など絶対にしなかった。誰のせいでもない。他ならぬカティにその原因があった。色んな感情が鍋に放り込まれてごった煮にされているけど、顔色は単に赤一色だった。それ以上のものがない交ぜになっていても、見た目でそうと判る事は難しいだろうなと思う。カティだったら絶対に判らない。見た目の変化なんて些細な事だ。
このまま顔を背けていたら、ウォッカに誤解されてしまいそうな気がした。違う、あなたのせいじゃない。それは、それだけはどうしても伝えておきたかった。顔を上げた。まだ血が流れている傷口に手を伸ばす。指先が温かい何かに触れた。それがこれ以上下に流れないように両手で強く押さえ付ける。目を逸らしている場合ではない。一体誰のせいでこんな事になったのか。
「ごめんなさい」
顔を俯けたまま、震える声でそれだけ呟いた。顔は逸らしているけど、さっきまでとは意味合いが全く違う。指や手に生暖かい何かが絶えずまとわりつく。普段だったらまずこんな事はしない。でも、今はこれくらいしかやれる事が見当たらない。ごめんなさい。胸の中で何度もそう呟いていた。
手首に何かが触れた。掌全体をすっぽりと包み込んでいる。温かかった。ウォッカの胸に押し当てていた手がゆっくりと離れていく。顔を上げた拍子にウォッカと目が合う。悩みや不安の種を何処かに置き忘れたような顔をしていた。どうしてこんなに無邪気に笑っていられるのだろう。
「人の血ってのは、みだりに触れていいもんじゃない」
手や指にまとわりついていた血を丁寧に拭っていく。飼い慣らされた犬でもここまではしないと言いたくなるくらいに念入りだった。何より気持ちがこもっていた。
「だから、この手は引っ込めてやってくれ」
強張っていた両手から力が抜けて行く。掌の所々には微かに血に触れた名残りがあった。それが完全に消え去るまでは、きっとこうして手を握ってくれているんだろうな。
ウォッカは何か考えるように額に手を当てて俯いた。ふぅ、と息を吐いて顔を上げる。
「いいかい。これから見るものは一切他言無用だ、絶対に誰にも話さないでくれ」
一瞬キョトンとしてしまった。何を言っているのか判らない。これから見るもの? この傷の事だろうか。だとしたら最初から誰にも話す気なんてない。
傷口に宛がっていたウォッカの手が微かに光を帯びているように見えた。床に積もった埃が日の光を浴びてようやく細やかな自己主張をするように、僅かだけど確実に光っていた。それが少しずつ強くなっていく。ウォッカは光をまとった人差し指と中指の先端でもう一度傷口に触れた。真新しい傷口をそっと撫でる。傷は綺麗に消えていた。まるで傷など最初からなかったかのように、滑らかな肌があるだけだった。
「こんなもんか」
出来映えに対する評価なのか、ウォッカは塞がった傷口から指を離すとまだ湿り気のある血を舌で舐めた。
鏡があるなら自分がどんな顔をしていたのか見てみたかった。自覚しているのは目も口も全開になっている、その程度だった。空いた口が塞がらない。断じて呆れたのではない。とても信じられなかった。一体何が起こったのか。何故手が光るのか。どうして傷が治るのか。夢でも見ているような気分だった。
尻餅を突いた姿勢で呆然としていたら、ウォッカが右手を差し出した。
「立てるかい?」
立ち上がろうとしたけど腰が抜けてしまって足に力が入らない。今度こそ本当にダメだった。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
顔を俯けたカティにウォッカは笑いながら首を横に振った。リュックの口を開けると中を両手でまさぐる。
「あった」
くすんだ枯れ葉のような色をしたシャツを頭からすっぽり被った。
「これ、着ておきな」
手渡されたそれを広げてみる。外套だった。それも極端に馬鹿デカい。ま、この大男が着るのだ、デカくない訳がないか。裏地に毛皮がついている。見るからに温かそうだった。
「あの、これは?」
「まだ震えてるみたいだから。今は少し体を温めた方がいい」
さっきようやく落ち着いたと思ったのに、治りかけていた風邪がぶり返すようにして体のそこかしこがまたガタガタし始めていた。このままではボタンも留められない。
「これは処分するか」
シャツを右手に握る。しばらくすると僅かに煙のようなものが上がって来た。いや、間違いなく煙だった。突如として噴き出した真っ赤な焔がシャツを瞬く間に呑み込んだ。手を開くと真っ黒い灰に姿を変えたシャツが足元に落ちた。吹いた風が灰を押し流す。そんな事も出来るのか。
「あの……」
遠慮がちに声をかける。両手を叩いて残った灰を叩き落としたウォッカは先を促すように小首を傾げた。
「内緒って、この事ですよね」
「内緒、か。出来る事なら忘れてくれると非常に助かるんだけど」
言った途端苦笑いした。真剣というには程遠い表情だった。でもふざけてるようには見えなかった。
「ま、無理だよな、忘れるなんて」
これだけ印象的な出来事を忘れろと言う方が難しい。頷くと、ウォッカは困ったような、それでいて何処か憎めないような顔で愛嬌たっぷりに笑った。
「約束、守れるかい?」
力一杯頷いた。ウォッカは肩を上下に揺らして笑った。今度こそリュックを背負う。
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「今の、一体何なんですか?」
真顔なのか、真面目にふざけようとしているのか判らない表情でしばらく考えていた。考えるフリなのかも知れないけど。
「魔法、みたいなものなんですか?」
腕を組んだまままんじりともせず宙を睨んでいたかと思ったら、事の他アッサリと首を横に振った。
「魔法ってものがどんな代物なのか俺にはよく判らないけど、それとは全く異質なものだよ」
「どう、異質なんですか?」
「何でも出来るなんて事はない。崩れた瓦礫を元通りにしたり、焼け野原を花畑に変えたりなんて事は出来ない。何と言うか、必要に応じたものを形にしてるだけなんだよ」
必要に応じたもの。それが何なのかさっぱり判らない。想像すら出来なかった。
「例えば、」
右の掌を上に向ける。空間が微妙に歪んでいるように見えた。それが熱気による陽炎だと言う事にはすぐ気付いた。程無くして掌より少し上に焔が灯る。
「こういう事も出来る」
パチンと指を鳴らすと焔が徐々に勢いをつけて渦巻き始めた。焔を纏った風が腕の周りで激しく旋回している。
「これを逆に作用させると、」
焔は何かに吸い込まれるようにしてあっという間に姿を消した。風も止んでいる。不意に肌寒さを覚えた。未だに残っている震えとは明らかに質が違っていた。純粋に寒い。ウォッカの掌の上に氷の塊が浮いていた。よく見れば、ウォッカの腕を中心にして細かな氷がいくつも漂っている。空気そのものが凍りついていた。今は浮いているだけだけど、これも風を纏う事も出来るに違いない。全く以て訳が判らない。
「出来るとすれば精々これくらいだよ。これ以上の事は相応の修練を積まないと」
「練習次第ではもっと凄い事も出来るようになるって事ですよね?」
ウォッカは肩を竦めると首を横に振った。
「必要ないよ。そもそもそんな事をするためのものじゃないんだ」
「じゃ、何のために必要なものなんですか?」
膝を折って腰を屈めると額の上に手をかざした。
「本当に痛いところはない? 怪我はしてないよね?」
「はい」
本当に怪我はしていないし、何よりこれ以上ウォッカに気を遣わせたくなかった。不意にウォッカが笑った。気が緩むような、何処かホッとするような笑顔だった。ウォッカの手が目に見えてハッキリそうと判るくらいに白い光を帯び始めた。離れていても温かさが伝わって来る。額に手が触れた。本当に温かかった。目を閉じたらそのまま眠りこけてしまいそうなくらいに自然で心地よい温かさだった。恐怖で冷え切っていた体の芯が少しずつ元の温もりを取り戻して行く。後ろに傾きかけていた頭に左手が添えられた。体が宙に浮いていると錯覚するくらいに心地良い感覚だった。
温もりが額から離れた。体が冷えた訳でもないのに寒気を感じた。それくらい温かかった。同時に凄く残念な気もした。折角温かかったのに。
「こうする事の方が遥かに大事なんだよ。このための力なんだ」
目を開けると目の前にウォッカがいた。堅苦しい表情が何だか凄く不自然に見えた。真面目な顔がここまで似合わない人も珍しい。でもそこが面白い。
「本当に、もう痛くないよね?」
ここで首を横に振ったらきっと良くなるまでずっと額に手を置いていてくれるだろう。そうして欲しいと思う誘惑に駆られながら、カティはゆっくり頷いて見せた。それは明らかに我儘だった。それにウォッカを無理矢理付き合わせるような真似は出来ない。本音は限りなくそこに近い部分にあるけど。
「じゃ、行くか」
両腕にカティを抱えたまま立ち上がった。外套越しにあの温かさを感じる。火や風を起こしたり空気を凍りつかせたりするよりも、確かにこうしてくれた方が遥かに有り難かった。ウォッカの言う通り、こうするための力なのだろう。本来の目的に沿って彼は力を使っている。そう、決して特別な事ではない。それを残念に感じた事に驚いた。だったら、一体何を期待していたのだろう。
不意に、ウォッカの表情が険しくなった。感情を無理矢理押し殺したような顔で辺りを眺め回している。さっき、闘う直前ですらこんな顔はしていなかったのに、一体何があったのだろう。
「ウォッカさん?」
呼び掛けにも応じなかった。腕の中にいなかったら声を掛ける事すら躊躇われるような表情だった。怖い。
「どうしたんですか?」
周囲を取り囲んでいる廃屋の方に視線を凝らしているように見える。誰もいるはずもないような場所だ、気に掛ける理由があるとも思えない。
突っ張っていた肩と肘から力が抜けた。軽く息を吐く。
「気のせいか」
腕の中にいたカティを抱え直した。それでも辺りを眺め回しながら歩き始める。
「気のせいって、何かあったんですか?」
「いや、別に何でもないよ」
何でもない。口にするのは簡単だけど、これほど説得力に欠ける言葉も他にない。何かがあったからこそ足を止めて睨み回していたのだ。それを訴えるように下から見上げるとウォッカは気不味そうに頬を歪めて見せた。
「悪い悪い。ちょいと人の気配を感じたような気がしたんだけど、俺の思い過ごしみたいだ」
「気配って、誰ですか?」
聞いた瞬間、我ながら阿呆な質問だなと思った。そんな事知る訳がない。こっちが聞きたいと言われるのが関の山だ。
「気にしなくていいよ。行こう」
横向きに抱えたままスタスタ歩いて行く。さっきもこの状態で飛んだり跳ねたり駆け回ったりしていたくらいだ、重くはないのだろう。少なくとも重さを感じているようには見受けられない。大した腕力だ。
「あの、ウォッカさん」
不意に手を引かれた子供を見るような目で文字通りカティを見下ろす。
「私も一つお願いしたい事があるんですけど、いいですか?」
「ああ。何だい?」
宿題を代わりに引き受けるような気安さだった。きっと故郷で仕事を引き受ける時もこんな感じだったんだろうなと思わせるものがあった。
「この事は、誰にも話さないでいてくれませんか?」
ウォッカが秘密を持つ事を求めたように、カティも二人の間で秘密を共有したかった。
だから、何故ウォッカが舌を思い切り噛んだ時のように顔を歪めたのか判らなかった。睨めっこでもするように無理矢理唇を搾めたまま前を向いている。
「努力するよ」
絞り出すような声でそれだけ言った。
「約束するのはかなり難しい。でも前向きに大いに頑張る」
取り敢えず。何が取り敢えずなのか判らない。どうして前向きに頑張らなければならないほど難しいのかも判らない。黙っていれば済む、それだけの話ではないか。
「きっと、ウォッカさんなら出来ますよ」
目が合った拍子に笑ってみせた。ウォッカはやっぱり困ったように苦笑いしている。人肌とはまた違った温もりが掌から絶えず伝わって来る。まるで毛布にくるまっているような温かさだった。体から力を抜く。しばらくそれに身を委ねよう。カティはゆっくり目を閉じた。




