表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

甘味処のお客さん(改訂版)

作者: 凹 露(クボ ロシア)

 細い道を通り抜けると、静かな隠れ家のような甘味処があった。甘味処には、毎日いろんなお客さまが来る。


 今日も何やら事情がありそうな、20歳の女性が2人来店した。

 全体的にスラッとした印象のある黄色いワンピースを着た、おだんごヘアの女性。もう1人はパーカーにジーパン、ポニーテールとカッコイイ方だが、何処かで見たことある気がしている。

 お越しいただいたお客さまの顔は覚えている方なのだけれど、そろそろ歳かしら?


 ポニーテールの女性は泣いていたのだろうか?目は真っ赤に腫れ上がり、涙のあとがしっかり残っていた。

 席へ案内すると、すぐメニューを見ずに

「ヨーグルトパフェ2つ下さい」

 とおだんごヘアの女性が注文した。


 ヨーグルトパフェは、この甘味処で1番人気の商品。

 パフェ用の少し大きなグラスにヨーグルト味のアイスとシャーベットが入っており、途中には味に飽きないようにストロベリーソースが隠されている。1番上には生クリームが絞ってあり、イチゴやブルーベリーなどが飾り付けられていてる。

 甘ずっぱいヨーグルトアイスとストロベリーソースは相性抜群。そしてシャーベットは夏を乗り切れるほどシャリシャリしており生クリームと合わせて食べると、アイスとは違ったまったり感が楽しめるなどで女性を中心に人気である。


 ヨーグルトパフェを持っていくと、ポニーテールの女性は目に涙を溜めた。泣くのを堪えているように見えた。

「さ、食べよ?」

 とおだんごヘアの女性が言うと、目をゴシゴシと拭きうなづいていた。

 とても目が痛々しいポニーテールの女性に温かいおしぼりを渡した。

「少しの間、目に当てておくといいですよ」

「あ、ありがとうございます......」

 彼女は目におしぼりを当てると、こう話してきた。

「あの、ありがとうございます。このお店は弟と弟の彼女さんが気に入っていたお店でした。2、3週間に1回は来ていたらしくて、ここのヨーグルトパフェは美味しいと嬉しそうに話していたんです」


 私はここまで聞いて、やっと思い出した。

 この甘味処に、高校生のカップルが来店したことがあった。とても仲の良い2人で、豆大福とヨーグルトパフェを1口だけ食べあいっこしていた。彼女はイタズラをするような悪い顔をして、自分が頼んだヨーグルトパフェをスプーンですくい、彼の口元まで持っていった。彼は真っ青な顔をして、深呼吸を数回する。

 しばらくすると意を決したのか、ヨーグルトパフェをパクッと食べ、すぐに驚いた顔をした。

『うまっ、ヨーグルトってこんなうまい味だったけ?』

 それからは、来店する度にヨーグルトパフェを頼むようになった。


「ヨーグルトは食べ物じゃない、なんていってたのが嘘のようでした。1週間前にも彼女と食べに行くんだと嬉しそうに。なのに、交通事故で......」

 息をつまらせながらも、辛そうに1つ1つ言葉を紡いでいく。近くにあるイスに座り、彼女の背中をさすった。

 おだんごヘアの女性は「早く食べよ! これ、ほとんどがアイスだから溶けちゃうよ?」とポニーテールの女性に声をかけた。

 ポニーテールの女性が少し落ち着いて、食べ始めると「バカ」と呟き出していた。


 会計の時「お金はいらないよ」と言ってから、ポニーテールの女性に少し大きめの箱を渡した。

「これは......なんですか?」

 と彼女は唸る。

「これは弟さんの好きな豆大福ですよ。良かったらご家族の方と食べてみてください」

 数回弟さんと話したとき、豆大福が大好きで自分の中ではランキング1位だったけれど、今はヨーグルトパフェが1位なんだと聞いていた。

「とんでもないです」

 と恐縮そうに言った。

「いえ、これは私からの気持ちです。お姉さんのあなたが元気になって貰えるように。そんな些細な気持ちですが受け取っていただけませんか?」

 そういうと少し考える素振りをしてから、3000円を置いて大福を受け取った。

 ヨーグルトパフェは1つ480円で渡した豆大福は12個入り1350円。でも今回は豆大福代を抜くので......いくらなんでも多すぎる。そう思い声をかけようとしたが、私より先にポニーテールの女性が声を出した。

「これは私からの気持ちです。優しくしてくれてありがとうございます。家族といただきますね」

 おだんごヘアの女性がクスッと笑い、ポニーテールの女性もクスッと笑った。

 おだんごヘアの女性は「おつりはいりません。私からのちょっとした気持ちです。ありがとうございました!」といいなから1000円置いて、甘味処を後にした。


 数日後、あの2人の女性が甘味処にやってきた。

 ポニーテールの女性は完全に吹っ切れた訳ではなさそうだが笑顔が素敵だった。

「豆大福、美味しかったです。あの時は本当にありがとうございました!」

 少しでも役に立てたのなら、私は幸せだ。

「元気になっていただいて、こちらこそありがとうございます!」


 さて、今日も元気にいきましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読んでみましたよ。 前作も拝見しましたけど、基本ストーリーをそのまま生かし、各所描写を付け加える形で、上手にまとまってますね。 行スペースも少なくなって、とても読みやすくなりました。 いわ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ