1-7 異世界の神話?
馬車に乗る、というか乗せられる、というか詰め込まれる。
強引にハーニル司祭に馬車の中に押し込められたたが、中は意外と広く椅子もクッションが敷いてありすわり心地は悪くなさそうだ。
それに内装にも凝ってあり、明るい色を基調とし光が差し込みやすい作りになっている。
椅子は向かい合わせにあり、六人掛けのゆったり空間を二人きり占領することになる。
俺は馭者側、ハーニル司祭は向かいに座る。
それでも小さい机一個分の間は空くぐらいの余裕のスペース。
座ると同時に、ガタンと馬車が揺れ動き始める。
事あるごとに護衛騎士たちが代わる代わる窓から馬車の中を確認してくる。
そんなに信用できないなら馬車の外でもいいんだけれども……。
ハーニル司祭の格好は全体を白い感じの神官着と言った感じにワンポイントのラインが赤と緑。清楚な感じでありながら目立つ色彩だ。ラインがもう少し広めにとられていたら派手になっているだろう。
紫のウエーブの髪と白い神官着は意外とマッチしている。
手には古めかしく結構大きめの本を持っている。具体的に言えば週刊誌くらいの大きさでハードカバーだ。しかもハードカバーと言ったが金具や宝石などが表紙にあしらわれている。
ちょっと興味を引かれたが、その前にハーニル司祭が話しかけてきた。
「カンザキさんはどこから来たのですか?」
「遠いところですね」
「? 自分の住んでいた村の名前などは知らないのですか? まぁ、子供なら無理もありませんか……。受け答えがハッキリしているので、つい色々なことを知っているのかと思ってしまいましたが……」
「いえ、自分の住んでいる街の名前などは知っているのですが、説明がややこしいので省略させてください」
「不思議なことを言いますね? まぁ、構いませんが……」
納得いっているのかいないのか……いってないんだろうけど……聞いても答えないだろうとハーニル司祭は考えたらしく他の質問に移った。
「では、どんな街だったか教えてもらってもいいですか?」
「うーん、特に面白味もない町でしたね。森や林は無く、魔法使いもいませんでした。僧侶はいましたね。かなりの人数の市民が住んでいると思います。店も色んな店がありました。食べ物屋、服屋、八百屋。大抵揃っていて便利でしたよ」
「なんとなく、的を射ない回答ですね? それはともかく僧侶は魔法使いの一種ですよ? まだ子供だから知らないのかもしれませんが……」
と、言って説明してくれた。
どんな魔法でも魔法を使う人を『魔法使い』というらしい。
古代語魔法を使うのが魔術師、魔導師など
神の奇跡の神聖魔法を使うのが僧侶、神官、司祭など
精霊魔法を使うのがシャーマン、精霊術師など
これらを全てひっくるめて『魔法使い』
「それは知りませんでした。まぁ、田舎者で常識知らずの小僧だと思っていただければ間違いありません」
「うーん、子供にしては喋り方が固いんですよね~。カンザキさん、もう少し砕けた喋り方でもいいですよ?」
「いえ、砕けた喋り方をすると、途端に荒くなりますからこのままで結構です。それはそれとして、先ほどから気になっているのですが……」
色々と質問されるのが面倒なので、こちらから話題を振って誤魔化すことにする。気になっているのも事実なので……。
「その本は聖書ですか?」
「あぁ、これ?」
大きくって重厚感があり派手な装飾の古い本。
題名が書いてある。
『魔力の始まり』
「聖書じゃないようですね?」
「どう、読んでみます?」
「でも、お高いんでしょ?」
「大丈夫ですよ。ただ、子供が読んで面白い本じゃないとは思いますけどね」
何をおっしゃるウサギさん! 魔法に関することなら面白いに決まっているじゃないですか! やったー!
重たい本受け取るとページをめくる。
この世界の言葉で書かれているが、神様曰く『読み書き、会話のチート能力』のおかげで日本語と同じようにスラスラ読める。
まずは神様の話から書かれている。
簡単に説明すれば……一級神が絶対神らしい。ようするになんでもできる神。
一級神が二級神を作った後、行方不明。二級神はわずか二人。彼らが世界と12人の三級神たちと精霊とドラゴンとエルフを創作して、あとは隠居。
はじめは平和だったらしいが三級神の間で喧嘩が発生。喧嘩の原因は秩序か混沌か……それで、エルフもそれぞれの神と一緒に戦うことになり、敵味方わかりやすくするために混沌側はダークエルフとなる。
エルフたちはあくまでも神の協力者であり信者ではない。二級神によって作られた時期が一緒の為、神を信仰することがないのだろうと、この本の作者の推測が書いてある。
精霊は中立を保ち、誰にでも力を貸すことを約束。
そしてドラゴンは神々の争いの調停者。悪でも善でもない。ドラゴンは混沌側かと思っていたけどそうでもないらしい。ただしこの時期にいたドラゴンの数は8匹しかいない。
キングドラゴンと呼ばれる1匹と側近7匹という構成らしい。
神同士では決着がつかず、互いに軍勢を作り出す。
秩序側の神々が人間を、混沌側の神々が魔族を作り争わせることになる。
この時作られた魔族は悪魔・獣変化人・ドワーフなどがいる。
ドワーフは魔族側だったらしい……が、秩序を重んじるためにすぐに寝返り人間と共闘するため、魔族だった時期はほとんどないらしい。
魔族には統率力の代わりに、個々の能力を高めるために大きな力を与えられた。これが魔力である。だが、この頃はただの力として使用していただけで魔法は使われていない。
魔法を使いだしたのは人間である。
魔族の魔力にある一定の法則を見つけて、火や風を生み出す方法を会得した。その結果、秩序側の神々が勝つこととなる。
勝った秩序側の神々が天空に住み、功労者である人間に地上を与える。
負けた神々は魔族とともに地下世界に押し込められ、それ以降、魔族の世界『魔界』と呼ぶようになった。
そして魔族が住む世界の空気は魔力を含むようになり、魔瘴気と呼ばれ人間には毒性を持つものとなる。もともと、魔力が人間に適していたモノではないからかもしれない。
しかし、その魔瘴気も魔界から地上に植物などの力により吸い上げられ、濾過されることで人間に害が少なくなり魔力となるらしい。
現在、自然から出てくる魔力をマナと呼び、一般に使用されるようになったモノがこれらしい。
余談となるが、四級神・マイナーゴットは人間や魔族の後に生まれることになる。武器や防具、道具などに精霊が宿り、信仰を受けることにより昇華したとされる。
五級神・ノンネームゴットは人間や悪魔が神に認められたり、強い力を得て後から神様になるらしいが方法は解明されていないとか……。
大雑把にいえばそんなようなことが書かれていた。
◇
読みふけってしまった。
ハーニル司祭を放っておいて……。様子を盗み見る……が、やることのないハーニル司祭がこっちを見ていないわけがない。
「面白かったですか?」
「えーっと」
少しだけ返答に困る。怒っている感じはしないが退屈であったことは間違いないだろう。かといって、そこまで、放っておいて『ツマらなかった』というのもどうかと思う。
「そうですね。知らないことだったので興味深かった……という所でしょうか。これは聖書ですか?」
「先程、自分で『聖書じゃないようですね?』って言ってましたよ」
「えぇ、でも、神々の神話的な事柄が書かれているので……」
「子供の割には、ホントに字が読めるんですね~」
「バカにしてます?」
「いえ、感心しているんですよ。よろしかったら私たちの教会にご招待しましょうか? そこなら珍しい本もありますよ。それに町に着くころには暗くなるでしょうし、少なくとも一泊はした方がよろしいでしょう」
「そこまで、お世話になるわけには……」
実を言えば、お金がない以上 泊まる場所など考えていなかった。渡りに船と言った感じだが都合良過ぎないか? と不安になっている。
「いいえ、本来ならカンザキさんは孤児なわけですから、教会の孤児院に入ってもらうのが良いと思うのですが、その意志は無さそうなので一泊でもという話です。それにお礼の件もまだですからね~。さすがに町まで送るだけでは申し訳ありませんから、ご馳走などを用意しますよ」
至れり尽くせりだな。
まぁ、異世界の料理とベットに興味もあるし、お言葉に甘えてみるのもいいんじゃないかとか考えてみたり。