1-6 異世界で迷子
黒騎士さんご一行を倒すのに5分とかからなかった。
遠距離攻撃の『龍撃掌・一式』を撃ち込んでいるだけで終わった。魔法使いもいたようだが、詠唱時間のある魔法使い 対 詠唱時間のいらない『気』使いなら勝って当然ではある。
もっとも、白い騎士たちが白兵戦を行っているから、遠距離攻撃がバンバンできたわけではあるが……。
黒騎士たちを一掃すると、白騎士たちの隊長が指示を出し捕縛していく。その間に隊長が話しかけてきた。
「助かったぞ、少年。礼を言う」
「いえ、大したことではありません」
なにか、お礼を下さい。出来れば現金で! と言いたいのを我慢する。大人だから……。
「ところで少年。名前を聞いてもいいかな?」
「あぁ、名乗っていませんでしたね。カンザキです。あなた方は?」
「私たちは大地神ガナス教会の聖騎士たちだ。司祭様を護衛して旅をしていた。少年……ではなくカンザキはこの辺に住んでいるのか?」
「いいえ、旅の途中です」
「それで馬を……って、その馬は……」
どうやら、俺が乗ってきた馬は彼らのモノだろうな~。聖騎士たちは一人を除いて全員 馬に乗っている。彼だけ歩きだったということはないだろう。
それに、鞍についている紋章はおそらく大地神ガナスとかいう教会のモノだろう。
「先程 捕まえた馬なのですがお返しした方がいいですよね~?」
神様からのプレゼントかと思ったが、どうやら違ったらしい。
返さないわけにはいかないだろう。一人だけ歩かせるわけにもいくまい……しかし、彼のミスで落馬したわけだから俺が貰っても……。
「そうだな。申し訳ないが返してもらおう」
ですよね~。
「しかし、少……カンザキ、その状態で旅をしているのか?」
「うん? なんか変ですか?」
「家出か?」
「いえ、普通に旅ですけど?」
「荷物はどうした? 山賊にでも襲われ取られたのか?」
そういえば、手ぶらだ! 聖騎士ご一行は荷物をごっそり持っているところを見るとW Bはやはり、チート能力なのだろう。
なにせ神に仕える人たちが神から与えられていないのだから……。
神に仕えてない俺が貰っていていいのだろうか?
「荷物は……不思議な力でしまってあります」
「不思議な力で?」
「不思議な力で!」
訝しげに頭の天辺からつま先までを繰り返し目で追われてしまう。
本当の事だから仕方ない。説明すると面倒臭そうだし……。
すると、馬車の窓から女の人が顔を出した。いや、女の子? だいたい15歳前後だろうか、女の人というか女の子というか難しい年齢だ。顔立ちは整っておりウエーブがかった紫色の髪が肩まで届いている。
護衛が必要な司祭と聞いていたので、疑問なく お爺さんだと思い込んでいた。
それにしても、髪の色が色々だな。女司祭は紫だし、隊長は緑だし、馬を無くした聖騎士はオレンジだし……。
馬車の窓から顔を出した女司祭は、何があったのか気になって出てきたのだろう。なにせ、一向に馬車は進まないは、子供が隊長に駄々をこねているは、で様子を見にきたわけだ。
「どうしましたか? 彼になにか不備があったのですか?」
「あっ、ハーニル様。いえ、素性がわからない子供でして……対応に困っているのです」
「素性のわからない? 教会が派遣した魔術師ではないのですか?」
「そんな話は聞いていませんし、どうやら旅の子供のようです……ですが……その……荷物も持っていなくて、あと、この馬は先ほど逃げた我が隊の馬のようです」
彼女は俺が『教会が派遣した魔術師』だと勘違いしていたのか。魔法なんて一発も使ってないがな。
そんな話をしていると、とうとう女司祭自身が馬車から降りてくる。護衛対象であろうハーニルに馬車から出られて慌てる護衛の騎士たち。そりゃーそうだろう。俺が敵だという可能性もある。たまたま、黒騎士も敵で恩を売って近づいてくる可能性だってあるだろう。
そんな考えをよそに「助けてくれたお方ですよ」と一言いうだけで、護衛を黙らせる。若い割に司祭だからそれなりの地位にいるのかもしれない。
「このたびは、私どもを助けて頂きありがとうございました」
「たまたま通りかかっただけです、お気になさらずに……」
いや、気にしてください。出来ればお礼などを所望します!
路銀と町までの案内位は最低でも欲しいです。グダグダとここに居るわけは町までの道がわからないからです。あと、足になる馬もいないからです。
それじゃなきゃ、名前も名乗らずカッコよく去っていくところなんだが……。
「私の名前はハーニルと申します。大地神ガナスの司祭です。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「神崎です。旅人? ではないな~? 迷子です」
そうだな。まだ旅を始めていない。まずは町まで着いて準備を始めてからが旅だろう。現状は町まで辿り着けない只の迷子でしかない。
「迷子? カンザキさんは親御さんとはぐれてしまったということですね?」
「違います。 町に向かいたいのですが、どっちに行けばいいのかわからなくなっているのです」
「町に親御さんが?」
親は関係ないだろ。親は……。子供でも旅をすることもあるだろう。たぶん。
親のことは切り離して考えてもらおう。
「俺の親はこの世界にはいないので、その話は別にしてください」
「そうでしたか……申し訳ありません。知らなかったこととはいえ……」
うん? なんか誤解がある感じになっているぞ。だが、嘘は言ってないし、正確に答えると面倒なことになるのは目に見えているので、これでいいだろう。
あれ? 護衛騎士たちもなんか、憐みの目をし出したぞ? 罪悪感があるがここはスルーということで……。
「わかりました。では、私たちがお礼もかねて町までご案内いたしましょう」
「それは助かります。白馬も返さなければいけなかったので、移動手段に困っていました!」
「馬車にお乗りください」
その時、護衛隊長が慌てて私を引きとめる。
そりゃ、そうか。護衛対象にどこの馬の骨ともわからない小僧が乗り込んだら焦るわな~。
色々、ハーニルさんと護衛隊長さんが問答しているが、結局ハーニルさんが押し切って、俺は馬車の中に押し込められた。
そう、後ろからグイグイ押してくる。絶対に逃がさないといった感じだ。なんか、切羽詰っているぞ。