1-4 異世界は『気』で溢れています
結局、神様からある程度の説明を聞いた後、すぐに異世界で寝て元の世界に帰ってきた。
それはそうだろう。元の世界に戻れるかが一番重要なのだから……。結論からいえば問題は無かった。ただ、寝ないで朝になっているのに『スッキリした目覚め』という奇妙な感触は残る。
その日は会社帰りにコンビニに寄り、冒険に必要そうなものを適当に買いこむ。……とはいっても、何が必要かわからないので基本的には食材。
いざ、冒険に持っていく道具となると何を持っていっていいのかわからないモノだ。
銃火器とか買えればいいのだが、この国では違法なので無理。
最悪、足りないモノが出てきたら、すぐに冒険を終えればいいので問題はない。
家に帰ると、部屋の中を整理してから睡眠の準備をする。できるだけ『W B』で見つけやすいようにしておいた方がいい。
では、冒険に行ってみようか!
◇
目を覚ますと予定通り、昨日(?)と同じ場所と思われるところに出た。
だが、5歳児程度なのは変わらない。わざわざ『俺は24歳だ』と念じながら寝たのになぁ。上手くいかない。
能力のことは、だいたいのことは聞いていたが気になっていることがあった。
この世界の『気』の量だ。魔力もあるのだが『気』の量が半端ない量、大気に溢れている。
『気』には二種類ある。
体内にある『内気』と空気中にある『外気』だ。
普通一般に使われるのは『内気』である。そもそも、一般には『気』は使わないんだけれども、それは置いておくとして……。『使える人』は『内気』を使うということだ。
『外気』は元の世界には少なく集めるのが難しいためである。
だが、異世界では『外気』は有り余っているようだ。こんなにあったら、いろんな技がやり放題じゃないか?
その辺でちょっと練習する。
腕を前後に動かし構える。『外気』を溜める……いくらでも溜まりそうだ。
適当なところで前に放出すると、ドン! と物凄い音とともに『気』で出来たの球、すなわち『気弾』が放たれる。スピードも速く一瞬で近くの木々を薙ぎ倒していた。
こりゃーすごく強いんじゃないか?! 元の世界ならちょっとした大砲レベルだ! いや、落ち着け。こんなに『外気』が溢れているんだ。俺みたいに使える奴がいる可能性もある。
神様に聞いてみるか? しかし質問できる時間制限がある。こんなことで使うのは勿体ないな。
次に『外気』で空気を固める打ち出す。
ほとんどが空気の為、『外気』だけより軽くなり威力は落ちるが、ほぼ透明で見づらくなる。
次は『外気』で空気を圧縮して打ち出す。
空気は刃のようになり木を切り倒せるようになる。ただし、威力は最弱。
遠距離攻撃はこれでいいだろう。名前はカッコいい方がいいに決まってる。『龍撃掌』にしょう。
龍撃掌・零式=『気』だけで固めたのも
龍撃掌・一式=空気を丸めたもの
龍撃掌・二式=空気を刃化したもの
接近戦用にも攻撃方法を考えなければならないが、そもそも遠距離よりも接近戦の方が得意なのだが、それに『気』を纏わせることによりさらに威力が上がる。
これは『虎撃拳』と呼ぼう。
虎撃拳・零式=『外気』と『内気』で外側と内側を固める攻防一体型
虎撃拳・一式=『外気』のみの防御特化型
虎撃拳・二式=『内気』のみの攻撃特化型
ぶっちゃけ、全部 虎撃拳・零式だけでいいんだが、なんか数字付けた方がカッコいい、俺的に……。それに無駄な体力を使わなくっていい。『気』を多く使えばそれだけ疲れる。
今もいろいろ試して疲れてしまった。
弁当でも食うか。
さて、攻撃方法を取得したが、これがこの世界では通用しない可能性も考えなければならない。まずは町に行って様子見だ。
ゴタゴタに巻き込まれないようにして、この世界の人の強さを確認してから『気』を使おう。カッコよく『龍撃掌!』とか言ったのに弱かったら恥ずかしいからな。細心の注意を払うに越したことはない。
そんなことを考えながらカレーライス弁当をW Bから取り出す。そういえばこの白い箱の正式名称はなんていうんだろうか? 分からないからWBでいいか。
このWBは念じるだけで、消したり現したりできる。手ぶらで旅ができるチートボックスだ。
コーラの蓋を開け、カレーを食いつつどこに向かうか考える。
まずは、街に向かいたい。
何をしたらいいかわからないが、神様が言う通り『不老不死』なら冒険者をやってみたい。財宝を探すぞ、おー。
食事が終わりかけたころ、一頭の生き物が遠くからやってくる。まだ見える位置にはいないが『気』を感知するとなんとなくわかる。
さて、モンスターか?
俺の『龍撃掌』が火を噴くぜ!
しかし、やってきたのは誰も乗っていない白馬が一頭。鞍付きで……。
なんだ? これに乗れってことか?
確かに歩くのも面倒だ。5歳児の徒歩能力じゃぁ大して進めないだろう。もっとも『気』を使えばチーターにも負けない速さになりそうだが……こんだけ『気』が溢れている世界限定だ……。
それにしても、神様も白馬を用意してくれるとは有り難い。走って早いからといって走りたいわけではない。
コーラーを飲み終えると、馬に文字通り飛び乗る。
5歳児では鐙にすら、足が届かない。
『気』で馬をコントロールしながら馬がきた方向へと向かうことにする。
楽ちん、楽ちん! 『気』が溢れてると大抵何でもできるな。だが、それはそれとして、魔法も覚えたいな~。火を付けたり便利だしな~。でも俺、ライターあるなぁ~。
馬に揺られること10分ちょっと……で、嫌な気配を感じる。この先で人が争っているようだ……人数は10人前後……。
あれぇ? この馬、神様からの贈り物じゃなくって、その人たちの馬じゃね? 引き返すか? いいや、争っているのなら この世界の人間の実力を見るのにちょうどいい機会だ!
強そうなら逃げて、弱そうならどちらかに加勢しよう! で、利益を得よう! お礼を貰おう! 道案内も頼もう!
そうと決まれば、戦闘が見える位置まで白馬を走らせる。こちらが見えるということは、あちらも見えるだろうが5歳児を相手にするとは思えないから問題はない。
先頭の様子が見れる場所までくると、馬車が一台と白馬の騎士 数人が立ち往生している。行く手を阻んでいるのは黒い騎士。見た感じは白い騎士たちが正義の味方で黒い騎士が悪い奴らじゃないかと思う。理由は色で!
もっといえば、馬車を襲っている形になってるから多分その考えで大体あっているんじゃないかな~。
戦闘の様子を見ている。剣と剣が火花を散らす。緊迫した打ち合いだ。が『気』を使っている様子はない。黒い騎士の後ろからローブを着た男がファイアーボールを飛ばし馬車を爆撃する。
おぉ! 本場の魔法だ! が、あの程度の攻撃なら『内気』でも防げそうだ。
ハッキリ言って、これなら余裕で勝てる。魔法がネックだったが、それでもあの威力だ。ちなみに馬車は一部 吹き飛んではいるが……。
俺一人でも、敵も味方もひっくるめて全員倒すのに5分とかからないだろう。
慎重を期して龍撃掌・一式のみで援護する形にしておこう。接近戦はまだ怖い。だからと言って全力で龍撃掌・一式をやったら死んでしまうだろうから加減はしておこう。はっきりと『悪いヤツ』と決まったわけではないし、人殺しはしたくないからな。
白い騎士たちを援護するように、俺は龍撃掌・一式を黒騎士の一人に放った!