2-25 緑竜の試練
小さな戦争から数か月。あの戦争を知っている者は極わずかな人間だけだった。
『植民地』と言う言葉が先行していたが実質的にファランディュア王国は、発展途上のグレン国の支援と獣人擁護が主な役割となっただけである。
だが、これは国の方針を180度変更したことになり、大半の貴族の反発を買うこととなる。当然、内乱が起こると国民は思ったが、そのほとんどは未然に防がれ知らない間に処理されていった。
ファランディュア王国の反対派の貴族たちが圧倒的な武力により制圧された……と言う噂が立ったが事実はクロネコが目を光らせ、カンザキがぶん殴るという物凄く単純なモノだった。
この一件により、世界的に獣人擁護派の国が増えていくこととなる。軍事国家であるファランディュア王国を正面から敵に回したくない国は多い。
しかも外から見ればグレン国も取り込み、領土が拡大しているのだ。あまり表だって敵対しようという国は少ない。
さすがにファランディュア王国から離れた国々では意見が分かれるところだが、時間が足りず獣人排除の動きは鈍くなってくる。そうなると逆に早めに取り込もうと高待遇の国も出てくる。
次に来る真祖のドラゴンの試練を恐れている国々が戦力を上げようとする結果、獣人を味方にすることを選択せざる得ない状況になったと言えよう。
そんな中、グレン王国……王国? では、会議が行われていた。
丸太小屋から一新して石造りの簡易砦。ファランディュア王国の建築家とグレン国の大工が急ごしらえで作ったものである。
発展途上国の支援……と銘打っているが実際は住民の移住と技術の提供といったところだ。色々な技術者が無理矢理グレン王国に移住させられている。もっとも何一つ不自由することはないのだが……。
会議室にはお菓子と飲み物が置かれ、むしゃむしゃと口の中に放り込んで、これからのことを話し合っている。
「そんなこと言われてもね~。ドラゴン対策? そんなもんできるわけないじゃない」
カエナは会議に参加しているが、意見をいうよりもお菓子の方が重要である。とりわけポテトチップスがお気に入りだ。
だが、ポテトチップスがお気に入りなのはカエナだけではない。その好き加減からいえばゼロスリーの方が上である。
「ふぉらごんふぁいさくなら、ほらをひをつけへへまいばしょへほいこむようにしていへばらいじょうぶれふよ」
「何を言っているかわからん。喰うか喋るかどっちかにしろ」
黙々と食べだしたゼロスリー。
カンザキも『喋るor食べる』なら『食べる』を選択する方なので文句は言わない。それにカンザキ本人も自覚しているが、カンザキ、クロネコ、ゼロスリーのドラゴンへの対策は他の人間の役に立たない。なにせ攻めるも守るも規格外。
「しかし、本当にそんなことが起こるのか? ドラゴンの襲来……いや、襲来するだろうけど……その本に書かれていることが本当なら、人間が生きていくことは不可能じゃないか? 獣人がいようがいまいがそんなレベルの話じゃぁない!」
「本当に起こるかどうかは俺は知らんよ。文句ならこの本に行ってくれ。俺は翻訳しているだけだ」
ロッサが納得いかないと抗議をしたところで、カンザキは取り合わない。自分の意見じゃないことはわかっているはずだからだ。アトリーヌにも本の内容を確認させている。
最近ではアトリーヌもだいぶ翻訳できるようになってきている。
「とりあえずは ある程度、ドラゴンと人類とが戦える形はとった。とったが、このままだと一方的な蹂躙になりかねない。だから、俺とクロネコとゼロスリーでドラゴンを数多く狩るつもりだ」
『数多く』……一匹ではないということ。神祖のドラゴンが次に出す試練、この本に書かれた内容は空を埋め尽くすほどのドラゴンが飛来してくるということだった。
どこかに飛来してくるのではない。全てに飛来してくるのだ。
念のため各国に連絡を走らせたが、そんな情報を信じる国はほとんどありはしない。カンザキ達にしてみても信じるとは思っていないが、眉唾程度の警戒でもしてもらえるなら それに越したことはないという判断だった。なにせロッサやバセリオンですら半信半疑なのだから、他国が信用するはずもない。
「そもそも、国の代表がドラゴン狩りに専念するなんておかしいだろう。討伐隊を編成した方がいい」
「バセリオンの言うこともわかる。だから、俺が代表である必要が無い。誰か適当に決めてくれ。それに討伐隊編制してもしばらくはこの国の治安維持の方が急務になるから動けないだろう」
「もっともな意見だな。もし本当にドラゴンが大量発生するなら狩りに出している場合じゃない。今から編制して訓練しても遅いくらいだ。しかし、生まれてこの方、一度たりともドラゴンを見たことも無いし、噂でも聞いたことが無いのに、そんな数のドラゴンが世界を襲うなどとあり得るのだろうか?」
フェガートの疑問はもっともな話だ。
そもそもドラゴンの数が圧倒的に少ない。真祖のドラゴンは7匹と決まっているが、今の所、カンザキはそれ以外のドラゴンを1匹たりとも見てもいないし、噂も聞いていない。
だからといって、この本が嘘だとは思えないため、会議を難しくしている。
建国したばかりの国の予算をいい加減なことに割くわけにもいかない。ゆえに「カンザキ遊撃隊」というわけだ。
「小回りも効くし、攻撃力も最大。予算もほとんど喰わんときておる。やはりそれが一番良案と言えよう」
ドワーフの神官が髭をなでながら結論出す。ぶっちゃけていえば、他に案が無い。
「ポテトチップスが尽きました」
ゼロスリーがムシャムシャ喰っていた皿は空となっていた。ゴーレムなので栄養はいらないはずなのだが、分解しエネルギーやら肉体やらに変換できるらしい。しかも、食べ物じゃなくてもいい。
「その辺の石とか武器でも肉体に変換できるのな、ゼロスリーは。……その名前、やっぱり呼びにくいなぁ」
「そうですか?」
「そうです。番号ってーのが性に合わん。何か名前つけようぜ」
「いや、名前は後回しにしてドラゴン対策を考えろよ」
もっともなロッサの意見。
大まかなことが決まっても、それは対策とは言えない。具体的に見張り塔や城壁、兵士や魔術師の配置、民間人の避難所。決めることはたくさんある。
「それは、この国の人間が決めてくれ。俺たちは所属的にはグレン王国になるだろうけど、一国民の冒険者兼ドラゴン討伐隊になるわけだからさー」
「クソガキが……相変わらず身勝手な野郎だ」
そう言いながらも、初めから当てにしていないようなところのあるロッサ。
バセリオンが会議を仕切り直し始める。
そして、それから数か月後、真祖の緑竜の声が世界に響き渡る。
今回はカンザキ達もその姿を見ることはなかった。ゆえに、本物の真祖の竜かはわからない。
『世界の人間たちよ。新しい種族を取り入れるための試練を与えよう。我が生み出す1億のドラゴンを世界に解き放とう。生きるも死ぬも、抗うも諦めるも好きにすると良い』
大陸の上に真っ黒い雲が現れた。
否、雲に非ず……全てがドラゴンの影。
カンザキ達はグレン王国よりはるか北の地に来ていてその光景を眺めていた。
日の光が一切差し込まず、まるで夜になったような感覚。
「1億匹とか、無茶苦茶な数だなぁ」
(世界をドラゴンで覆い尽くせるんじゃない?)
「とりあえず、何匹か撃ち落としますか」
ゼロスリーことシャーリーと改名した彼女はドラゴンの群れ……というか塊に呪文詠唱を始める。
カンザキが決めた名前だが意外と定着していた。
「そんじゃ、まぁー俺も『零式』で」
(アタシもメテオとかやってみよーっと!)
そんな後先考えない攻撃で、ドラゴンの群れを切り裂いていく。
真祖の緑竜はどう思ってこの光景を見ているかわからない。確実に地上に降りる前にドラゴンの数を減らしていく3人……正確には1人と1体と1匹。
世界の人間はここで数が減っていっていることを知る由もない。
それに、この攻撃で全てのドラゴンを迎撃できるわけでもない。
結局のところ1000万も撃ち落とすことは出来なかった。
(やっぱ数は力よね~)
「呑気だなぁ。かなり力を使ったが距離もあるし、数も規模が違い過ぎる」
「まずは、大まかに狩っていきましょう。あと今の攻撃でエネルギーがなくなりそうです。ノリ塩を所望します」
「シャーリーはその辺の土でも石でもエネルギーの代用になるだろ?」
「代用になれば何でも良い訳ではありません。じゃぁなんですか? カンザキは昆虫でも食べられればそれでいいというんですか?」
「いや、そうは言ってないけど……まぁ、そういうことか……ぅん? 納得するところなのか?」
(アンタ達のエネルギー論はどうでもいいわよ。それにしてもこりゃぁ私たちでどうにかできる問題じゃないわよ。今頃、どこの国でも大騒ぎでしょうね。一国辺り数万匹のドラゴンが降り立ったことになるだろうから首都はともかく、村や町は壊滅するところも多数出るでしょうね)
「全部が全部、町や村を襲わないにしてもな……」
「でも、ドラゴン同士は縄張り意識が高いハズなので共倒れの可能性も多々あるかと思いますねぇ」
(に、しても、その争いに巻き込まれれば只じゃぁ済まないわよ)
取り急ぎ近くの町に直行する。
その途中、先ほど撃ち落としたドラゴンを発見。採取しておくことにする。ドラゴンの素材は高値で取引されるらしい……こんな数いたら値崩れしそうだが今のうちは大丈夫だろう。
ドラゴンの素材を『W B』に詰めて町に向かったが、大惨事だった。
ドラゴン同士が数体が争っていて、家々は軒並み破壊されている。火が燃え盛り、人々が逃げまどっている。すでに息をしていない人、火に包れている人も見受けられる。
「もう、いるのかよ!」
カンザキは『龍撃掌・二式』でドラゴンの首を飛ばす。
加減するのをすっかり忘れており、簡単に刎ねている。もっとも手加減する理由もない。
(町のみんなにはこちら側に逃げるように念話しておくわ~。ゼ……シャーリーが神聖魔法で回復するからって言っておく)
この街にはクロネコ分身体は置いていなかったらしいので、状況が掴めていない。すぐさま、無数の黒猫を放ち町の状態を確認しながら、人々に念話で誘導していく。
続々とやってくる怪我人を捌いていくシャーリー。
見た目が石像風な、一部金属を含むゴーレムで一瞬、怯む町人だがシャーリーは怪我人を引っ付構えて無理矢理、治癒魔法をかけていく。
のんびりと彼らと交渉するつもりなどない。そんな時間があったら1人でも多く助けることを優先する。
「お願いです! この娘を助けてくださいぃ!」
「ダメ、その子はもう死んでる。次!」
死んだ人間に見向きもしない。
シャーリーは人間に対して小さな感情しか持っていない。まだ、命というモノに関する重さを理解でいないのもある。
それよりも正確に数字で割り切って作業していく。このおかげで、より多くの命を助けることになるのは言うまでもない。
いまは、彼女が感情に左右されないことが良い方面に働いている。
カンザキが4匹いたドラゴンを全て片付け、人命救助に入ろうとする。
そして、一組の兄妹にであった。後に知ることになるが彼らは兄妹ではなかったのだが……。
このとき、カンザキはピンッときた。
彼らが、ドラゴン退治の役に立つ。彼らはすべて失った……いや『彼』は何も持っていない。剣の才能も魔法の才能も……才能が無い彼こそが今回のドラゴン退治の立役者になると……。
ちょっと 中断します
中断して この兄妹の話を別の題名で始めます
題名は「ハーレム・ハニービー」(仮)




