2-23 クロネコと魔法の唱えられない部屋
「ふ……ふはっはっはっはっは」
王様が突如、笑い出した。
狂ったわけではないだろう。その理由は想像がつく。
「獣に隷属するくらいなら死を選ぶわっ!」
プライドが許さない……ってことだろうな。
体力も身体の傷も癒えていないのに根性だけで立ち上がる王様。それにつられるように将軍や兵士も立ち上がる。大臣たちは応援するだけ……仕方ないだろう、戦う力が無いんだから……。
(あー、あとはアタシらがやるわ~。コイツラに首輪着けるだけでしょ?)
クロネコがしゃしゃり出てくる。
確かにコイツの言う通り首輪をはめるだけだが、味方(?)の獣人も大半が手負いだ。さっきまで処刑寸前の奴らだろうし、見るからに栄養も足りていない。
それでもクロネコが居ればどうにかなるか。
「そんじゃぁ、まぁー、頼むわ。俺は城下町の様子を見てくる。わかってると思うけど……」
(『重鎮は殺さない』ようにするわ、出来るだけね。ただ、彼らもいきり立ってるから、勢い余って……ってーのは諦めてちょうだい)
「待ち合わせ場所は、教会でいいか」
(O.K! 教会で殺されていないようにね!)
俺が謁見の間から出ていこうとするが、2人の兵士が立ちふさがる。もちろん『龍撃掌』の一撃で弾き飛ばし道を開けてもらって、さっさと出ていく。
指を鳴らし『W B』を出すと、コーラを一缶 開ける。
階段を下りながら、迫ってくる兵士を適当にあしらう。
相手は俺が敵だと認識しているようだ。子供だというだけで人間だからバレていないかと思ったら、『子供が敵』という情報が流れているらしい。
クロネコの為にも多少、倒しておいてやってもいいか……。
なんか、忘れている気がする。なんだっけ?まぁ、大したことじゃないだろう。
俺が大丈夫だったんだから、アイツでも大丈夫だろう。むしろアイツの方が上手く立ち回れそうな気がする。
それにしても、城の中は散々だった。
俺が吹き飛ばした兵士は加減しているために、気を失っているか、呻いて動けない程度だが、クロネコたちの歩いた後は文字通り死屍累々。奴隷としても使う気が無いほどの恨みが感じられる。恨んでいるのは獣人かクロネコかはわからないが……。
一番下に降りるまでに幾人かの気配を感じていたが、闘志はないらしい。一般のメイドや貴族、政治家たちはすでに避難しているようだから、兵士だろうと推測できるが恐怖で動くこともままならないようだ。
逆に動けるような奴は、クロネコたちに挑んですでに殺されているか……。
のんびり城門から外に出て、街の中へと溶け込んでいく。数分もすれば、ただの町の子供と変わらなくなる。ただし、服装が若干 ボロくなってしまったのが気がかりではあるが……。
◇
カンザキが謁見の間から出ていった。
獣人たちに重鎮だけ捕えて、あとは好きにしていいと命令を下す。無理して殺さなくてもいいことも伝える。一番大事なのは獣人が生き残ることだ。
関係ないけど獣人と重鎮って似てるよね~。
呑気なことを考えていると、動きがいいのが将軍と王様。この国の王様は武闘派か!? 邪魔そうだから2~3発 魔法を撃ち込んで動きを封じておこうかしらん。
(うん?)
なんだろう、この状態? 魔力が結合しないというか、結合しすぎるというか……。
呪文を唱えることは出来る。魔力が集まらない。いや、すでに集まっている。
ぅん?
「姐さん! 強い奴がいるんでアイツラの足止めを!」
(えぇ、そうしようと思ったんだけど、魔法が使えないのよ。なんでだろ? あれ? このフレーズで歌とか作ったらヒットしそうじゃない!?)
「しませんよ! そんなことより早く何とかしてください!」
象の獣人(身長2m70cm)が、焦りながら私に援護を求める。
求められてもなぁー。魔法が使えないんだもん。無理なモノは無理だ。どーなってるか聞いてみよう。
(ちょっと、そこの王様! この部屋 魔法が使えないんだけど、どうなってんの!?)
「くっくっく、そうか、そこの黒猫は魔法を使うのか。まさか、今さら効果が発揮されるとは思わなかったぞ!」
(いや、アンタの独白なんて興味ないから、さっさと回答を教えなさいよ!)
とは言ってみたものの、答えは出ている。だって魔法が使えないんだから、この部屋を魔法を使えなくしたんでしょう。方法はこの王様、知ってるのかは気になるところだけど……。
「先程の小僧、名前はカンザキ……と言ったか? アヤツの魔法を封じるためにこの部屋での魔法を禁止する魔法陣を宮廷魔術師たちが組んだのだ」
周りを見渡す。宮廷魔術師は……。
こうしている間にも、王様に獣人が切られてるわね~。獣人の持ち前のスピードで致命傷は避けてるけど危ないわね。早く答えが欲しいところだわぁ。
っと……いた いた!
(ねぇ、宮廷魔術師の人。どういう魔法陣なの?)
「敵にむざむざ教えると思うか!」
杖で殴り掛かってきた。
杖といっても丈夫で、鉄の剣でも一刀両断するのは難しい。そんなモノが猫に当たったら死んでしまいそうだ。私は大丈夫だろうが、一応 回避はしておこう。
(オリジナル魔法? それとも書物から?)
すると宮廷魔術師はニヤリと笑った。
それだけで、私の中で答えが出る。
……どちらでもない……。
オリジナルでも書物からの引用でもないのだ。 なら、あと何がある? 思いつくのは口授……口頭で教えるということ。
誰が? 宮廷魔術師も知らないことを? 天使か悪魔か……。まぁ、どちらかだろう。おそらく、私が探している奴で魔族側の奴だろうなぁ。
そうすると、この高等魔術の仕組みがわかってるく。
魔法を使えなくする空間には幾つかの方法がある。
1つ目は最もシンプルな沈黙魔法。
呪文を唱えるどころか、会話もできない無音にする魔法。範囲は10m前後で、この範囲から出れば解決する。それに無詠唱には効果が無い。
今現在、会話しているしカンザキは無詠唱、しかも低級魔法なので、これは関係ない。
2つ目 魔力枯渇魔法
これは恐ろしい魔法になる。最上位クラスの魔法だろう。人体にも影響は出そうだ。
魔力をこの部屋から完全になくしてしまう。魔力が無ければ魔法は唱えられないし、魔法の物品も効果を発しない。さらには体内の魔力すらも無くなる可能性がある。これをやられると、死者が出かねないし、私は消滅する。なにせ私の体は魔力体! すでにこの場にいないわな、はっはっはっは!
3つ目 魔力飽和
たぶん、これでしょう。
部屋イッパイに魔力が詰め込まれている状態。普通に考えれば魔法が使えそうな状態。でも実際は違う。張り詰めるほどに詰まった魔力は組み替えることができなくなっている。印を結んでも詠唱しても必要な属性の魔力が移動できない。魔力は感じても魔法が唱えられない。初めから起動している魔法の物品は威力を発揮することができる。
魔力が飽和状態になって魔法が唱えられないとは人間がそう簡単に思いつかないだろう。目に見えるモノならともかく、見えないのだから……。
私がこの部屋の魔法が使えない状況について考えている間にも獣人たちが追い込まれていく。意外と粘るなぁ、この国の人たち。
「あの小僧さえいなければ、あとは烏合の衆! いや、もとより獣人なんぞ相手にならん!」
王様をはじめ、将軍もだんだんと調子を上げてきている。
どちらも怪我人が大半だ。元気な奴は魔法の唱えられない私くらいだ。ネコの体じゃー攻撃力皆無だけどね。はっはっん!
「姐さん!」
(情けない声出すんじゃないよ! シャンとおし!)
と、姐さんキャラを押してみる。
その一言で獣人たちが意外にも頑張っている。怪我人はいても死人はまだいないようだ……まだ、ってだけだね。放っておけば全滅だ、コリャ。
「残念だったな、黒猫。あの小僧をこの場から退場させたことで、お前もお前の仲間もお前の国も全部失うことになった!」
王様が高らかに勝利宣言をする。
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ワクワクしてくる。
調子づいた人間を高いところから突き落とすのは、さぞ爽快だろう。




