2-21 嫌な予感
さすが王様、玉座から動く気が無い。
ドッシリと構えている。中肉中背、髭を蓄え玉座に肘をつきこちらを眺めている。年齢は40~50くらいだろうか。髭が生えていると分かりづらいなぁ。もう少し若いかもしれん。
「我々、四天王の一角を不意打ちで倒したからといっていい気になるな。アイツは我々の中でも最弱の将軍だ!」
王の前に並ぶ将軍の一人が俺に語りかける。だが、彼らが襲い掛かってくる様子はない。
将軍の一人が俺に向かい手をかざすと、近衛兵が周りを取り囲む。
一見すれば、俺を逃がさないようにするためのモノに見えるが、実際は視界を塞ぐものだ。『気』の気配で近衛兵の後ろを素早く動く者がいることが察知できる。
人数は4人……体術に長けている感じはしない……なんだ?
先制攻撃で蹴散らすのが最も安全だろうが、今回はそんな無粋なことはしない。彼らの全ての手段を真っ向から受け止め全て撃破する。そして、勝てないことを教えなければならない。この場で心を折る。
でなければ、大掛かりな戦争に発展することも想像できる。
突然、床が輝き出し魔法陣が展開された。
その状況になり近衛兵の裏にいたのは魔法使いだと気づいた。ただ何の魔法かはわからない。魔法について知らないことが多すぎる。
攻撃魔法ではないし、特段に体の変調は見られない。一体何をされた……?
俺が不思議がっていると将軍の一人が丁寧にも教えてくれる。
「もはや、この部屋では一切の魔法が使うことは出来ない。先程、最弱の将軍を倒したようなことはもう出来ないということだ」
「な……に?」
魔法が一切使えない……いや、俺、魔法使わないし……『気』も使えないのかと思って体内を確認してみたら使えそうだ。そりゃそうか、魔力を使ってないから魔法の部類には入らんだろうしな。
俺がビックリしていると、将軍たちはニヤリと笑った。
完全に、ビックリしている理由を間違えているんだが、あえて教える必要もない。
「魔法が使えなければただの子供……だが、我が国の国王の首を狙ってきたこと後悔させなければならん。町の中央に晒し首にしてやる。捕まえろ」
ゆったりとした口調だった。
魔法が使えなくなった……元から使えないが……俺に興味を無くした将軍の一人が『これで終わりだ』というように兵士たちに命令を下す。
大臣たちも『生きのいい生贄』が入ったと思いニヤニヤしている。
まぁー、人を小馬鹿にした顔をしくさってからに……。まるで『魔法が使えなかったら終わりですよ~』と言わんばかりだ。
初めに手を伸ばしてきた近衛兵の手をへし折る。
喚き声が上がるが、一斉に俺のところに来ていたので、大抵の近衛兵はそれに気づくよりも早く次々と腕を折られていく。手首、二の腕、手の甲……前方で起こる悲鳴に、出遅れた兵士たちは慌てて退く。そして、俺の周りで腕を折られ呻き悶えている兵士を見て血の気が引いていく。
「どうなっている!」
近衛兵の一人が叫んだが、将軍たちはまだまだ冷静のようだ。
「慌てるな。無防備に手を出すからだ! 魔法が使えぬからといって攻撃手段がないわけではない」
「し、しかし、相手は無手の子供ですよ、メナエツ将軍! 無手の攻撃方法など……」
「無手に攻撃方法はない……という常識を捨てよ! その小僧、獣人に育てられたのかもしれん。そうなれば、無手や噛みつきなどで攻撃してくる可能性も考えられる。剣や槍を抜き、この場で処分することも許可しよう!」
うーん、面倒くさいな。チンタラ、チンタラ行動しくさって……。魔法を無効しても俺には効かない所をお見せしますか!
近衛兵が溜まっている先に右手を伸ばす。
「無駄だ。聞いてなかったのか? 魔法はこの部屋では使えないと言ったはずだ……」
「龍撃掌・一式!」
爆音を鳴らし、兵士が巻き込まれ爆ぜるように吹き飛んでいく。城の壁まで穴を空ける。
一応加減はしたが、今の一撃で死人が出たかもしれないが、そこまでは面倒見きれない。
「バ……バカな! 魔法は使えないはずだぞ!?」
見て分かるぐらいに狼狽している。
今度は反対側に目をやると、衛兵たちは一斉に盾を構える。
うん、それなら死ぬ確率は減るだろう。もちろん、加減はしますが……。
「龍撃掌・一式!」
反対側の壁まで穴を空ける龍撃掌。衛兵たちは見事に吹き飛び床に叩きつけられ呻いている。
まだ、何人も衛兵は残っているが今の2発で腰が引けて近づいてくる様子は無くなった。
俺は王様の元へ歩み出す。
「そこを明け渡して命乞いをするか、死ぬか、決まりましたか、王様?」
「ふむ、なかなかどうして、やりおるなぁ。さて将軍たち、第三の選択は無いモノか?」
「もちろんあります。どちらも選ぶ必要が無いという選択肢が……」
3人の将軍は剣を抜く。
短絡的だなぁ。……いや、この状況じゃぁ当然か。
しかし、見事な剣だ。魔法について詳しくない俺でも魔剣だとわかるレベルの代物。
それぞれ、赤、青、緑の淡い光を帯びている。おそらく属性付加、火、水、風とかなんだろう。当たると燃えたり凍ったりするのかもしれない。
周りを取り囲むように位置を取り始める。
1人ずつ片付けた方がいいだろう。連携を取られると厄介そうだと右手をかざした途端、その場から急速に動き正面から消える。
『龍撃掌・一式』を撃たせないつもりらしい。
「ちっ!」
「その魔法には弱点がある。魔法の時点で本来ならこの室内で効果を発揮することはないと思っていた。が、すでに付加されているのであれば話は別だ。だから、お前の魔法は使えるわけだな。その籠手のおかげで……」
「そして、動作と掛け声により魔法を発動させる。だが、そのおかげで我々にはその魔法は当たらない。正面にさえ立たなければいいのだからな!」
俺が手をかざそうとすると、その正面から確実に逸れる。
そして、この空間で魔法を唱えることは出来ないが、すでに付加されているモノは使用できる……将軍たちの武器・防具は魔法付加のものなのだろうなぁ。
よく考えられている。よく考えられているが……。
「ぐはっ!?」
赤い光の剣を持つ将軍が突然、壁に叩きつけられる。
「なに!?」「なんだと!?」
俺の動きに注意を払っていた2人の将軍は、吹き飛ばされた将軍を見て目を見開く。
俺は動きもせず、声を発することも無く『龍撃掌』を……いや『気』を使うことができる。わざわざ、格好や声を出すのはカッコイイってーのもあるが、見切ったと勘違いさせる効果も持っているのだ。
俺の手から『気』を飛ばしているわけではない。身体のどの部分からでも出せるのだ。
もちろん、籠手は只の皮の籠手……。つい、戦う前に嵌めるの忘れちゃうんだよね~。城に入ってくるとき付け忘れて、謁見の間で思い出した。
だが、2人の将軍はそこまで理解が及んでいないようだった。俺が素早く動いたか、別の手段なり魔法の道具なりを使ったと思い、より一層 真剣に目を凝らす。
おかげで隙だらけだ。
こちらが動かなければ、相手も動けない。俺の動きが見逃せないのだから動けるわけもない。
次の瞬間には2人とも壁に叩きつけられていた。鎧の方は無傷だが壁は音を立てて崩れている。意識は辛うじてあるようだ。
「ひょっとしたら、強い将軍なのかもしれないが、相手が悪かったと思ってくれ」
王は、うめき声を上げる将軍を眉一つ動かさず黙って見ていたが、ゆっくりと玉座から立ち上がった。
その顔から降伏する意思は感じられない。
「諦めた方がいいんじゃないか?」
「諦める?いやまだだ。認めよう。お前は強い……」
そこで俺は初めて構える。
この王様、何か奥の手を持っている。四天王を簡単に退けた俺を倒せると考えるくらいのモノではある。あまりいい気分はしない。相手の手の内が見えないのは気持ちが悪い。
タダの力技ならいいが……状態異常の類だったら防ぎきれるかわからない。
「余も一騎打ちは久しぶりだ。楽しませろよ、小僧」




