2-18 ココで終わらせると思ったら大間違い!
ファランディュア王国軍に諦めムードが漂う。
投石の攻撃が来る丘の上に向かった中隊は壊滅。そもそも、丘の上に中隊を送り込むこと自体が難しい。移動スピードが落ち、石弾の餌食となり次々に倒れていく様が丘の下からでも確認できるほどだ。
だからといって、あんな凶悪な弾丸の中、小隊で行く気もしない。
中隊が倒れている間にも、上から石弾の雨が降り注いでいる。
鋼の盾や鎧すら貫通するのだ。岩陰に隠れるが動くこともままならない。
初めの意気揚々とした雰囲気はすでになく、兵士の大半は生きた心地がしなかった。
石弾が降り始めてから、わずか20~30分で兵士の3分の1は地面に倒れている。生きているか死んでいるか確認することも出来ない。下手に岩陰から出ていけば石弾の的になってしまう。
しばらくすると、石弾の雨が止んだ。それでも恐ろしくて顔を出すことができない。
そこに大声で叫ぶ少年の声が響き渡る。魔法で声を拡張しているのだろう。軍隊の端から端まで聞き漏らす者はいない。
「降伏するなら命は助けてやろう。ただし、グレン王国の奴隷となってもらうがな。死ぬか奴隷か、好きな方を選べ!」
ファランディュア王国の大臣・ガラストナは歯軋りを立てる。その音は隣にいる軍隊長にまで聞こえそうなほどだ。
「あのクソガキっぃぃ! 俺の軍隊をコケにしやがって!」
しかし、同時にチャンスだとも悟る。
どれだけの軍を率いて石弾を降らせたのかはわからない。が、バカなクソガキがこの場にいるのだ、もう石弾を落すことは出来ないハズ。
確かあのクソガキは仮にも王だったはず、いや、代表か? どちらでもいい、重要人物ごと攻撃されることはない、と判断する。
我々を奴隷にしようと欲を出したばかりに、こちらにはチャンスが回ってきたと、ガラストナは自分の強運に笑いが込み上げそうになる。
「その小僧を捕まえろ! グレン王国の国王だ! 石弾で巻き込むようなことはすまい! 逆転のチャンスだ!」
ガラストナの声に一瞬、兵士たちは顔を見合わせる。
そして言葉の意味を反芻して、ようやく歓喜の声を上げる。こんなクソガキ一人を捕まえて形勢逆転の可能性があるのだと……。
カンザキの頭の上で、クロネコは 襲い掛かってくる彼らが『冷静さを失っているなぁ』と分析していた。
まず第一に、こんな子供を国王だと疑わないこと。
第二に、何の策もなくこんなところに降りてきていると思っていること。
第三に、どうやって降りてきているか考えていないこと……まぁ、もう幾つかあるのだがどうでもいいだろう。
カンザキだけにやらせていても面白くないと、クロネコは魔法詠唱を始める。
襲い掛かってきた兵士たちが その呪文を見て足が止まる。
直径4~5mはあろうかという巨大な火の球が少年の頭上に浮かび上がっていた。逃げまどう暇もなかった。少年の数m先で爆発が起き、その範囲にいたものは吹き飛び範囲から外れていても爆風だけで被害を被っていた。
小さなクレーターが出来上がり、何十人もの黒焦げの死体が積み上がっていた。
「お前なぁ、俺まで巻き込むつもりかよ」
(アンタは大丈夫でしょ)
当たり前のように鼻を鳴らし、少年の顔を猫パンチで叩く黒猫。
「さて、もう一度問おうか? 死か奴隷か」
青ざめた兵士の一人が叫び声をあげて少年から逃げようとした。だが、次の瞬間、足の太ももから血を拭き出し転げまわっていた。
石を投げ、逃げ出そうとした兵士の足を撃ち抜いていた。
「残念だが逃げる奴は死を与えることになる」
兵士たちは、この少年が投石の張本人だと初めて知った。上から投石が降ってこないのは、少年を巻き込むからではない、彼が撃ち出すのだ。目の前に脅威があるのだと……。
しかも、ひょっとしたら少年一人だけではないかもしれない。丘の上に似たようなことが出来る奴がいるのだろうと考えれば兵士たちは一歩も動くことは出来なくなっていた。
「あぁ、逃げ出そうとするな。次は投石じゃなくさっきのファイヤーボールが降ってくる可能性が高いから、周りも巻き込むことになるぞ?」
そう言われて、兵士たちは顔面蒼白になる。
声を出せば殺されてしまうのではないかと思うほどの脅威が兵士たちに蔓延していく。ガラストナさえ、歯がかみ合わないほどガタガタ震え声を出すことすらできなくなっている。
「降伏の意志があるものは武器を捨て鎧を脱げ! 戦うモノはそのままでいろ。60秒 時間をやる。60…59…58…57…」
死へのカウントダウンが始まる。
もはや、誰一人反抗する気力はなかった。支配するのは圧倒的な恐怖。
我先にと武器を捨て、鎧を脱いでいく。まるで最後に脱ぎ終わった者は殺されることが確定しているかのように……。
その間にカンザキの仲間のエルフのネイビーと獣人のフェガートが大きい宝箱を抱えて丘の上から降りてくる。
蓋を開けるとぎっしりと『従属の首輪』が入っている。
鎧を脱いだ者への次の指示は、自らこの首輪を首にはめることだった。
当然、躊躇する。鎧を脱いだ時点で奴隷になる覚悟があったはずなのに、いざとなってみれば、そう簡単にいくわけがない。
だが、フェガートが大きな斧をチラつかせれば、武器も鎧もなくした兵士たちは慌てて首輪をはめるしかなかった。
この期に及んで、鎧まで脱いだのに逃げ出す兵士もいたが、先に忠告されたとおりファイヤーボールで焼け死ぬこととなった。周りにいた者たちは急いで逃げたが巻き込まれる者まで出ていた。
兵士を奴隷にしていくのはネイビー、フェガートに任せてクロネコは逃げる奴を焼き払う役を買って出ていた。もちろん、1匹で目の届く範囲は高が知れている。軍を囲むように何匹も構えている。むしろ逃げ出してもらいたそうな顔をして……。
その間にカンザキはガラストナを探す。
探すと言っても一声 叫べばすぐに見つかる。
「ガラストナはどこにいる!」
人の波が真っ二つに分かれる。ガラストナまでの道の出来上がりだ。
もともと好かれていなかったガラストナは誰に庇われるでもなく、みんなから死神が近づいてくるが如く避けられる。
「我が国に宣戦布告をしたんだ。只で済むと思うなよ、ガラストナ」
「き、貴様……こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」
「ずいぶん強気だな。お前は服もパンツも全部脱げ」
「なっ!? 貴様ぁ!!」
「この場で死ぬか?」
カンザキは鎧を脱いでいる最中の男に石弾を当て、肩を貫く。叫び声が上がり、周りにいた兵の顔が青ざめる。
「60秒過ぎている。早く脱がなきゃ次は殺すぞ?」
その言葉はガラストナにも言っている。
否応なしに全裸にされたガラストナに『従属の首輪』を投げて着けるように指示を出す。
「これで終わったつもりじゃないだろうなぁ、ガラストナ」
だが、ガラストナは答えない。歯を食いしばりカンザキを睨み付ける。
カンザキはネイビーとフェガートに指示を出し、後を任せることにしてクロネコと相談する。
もちろんネイビー、フェガートだけでは足りないので村人……国民ともいう……が何十人かクロネコが連れてきている。
(それにしても、宣戦布告状なんて貰えてラッキーよね~)
「早々、手土産 持って出かけますか?」
クロネコは転移魔法陣を開き、そこへカンザキがガラストナの首輪に鎖をつけて引きずって歩く。
行先はファランディュア王国。
攻め込んだだけで、戦争が終わると思っていたのだろう。ローリスク、ハイリターンだと思って舐めていたんだろう。だが、大隊一つ潰したくらいで終わらせるつもりなど、初めからない。
国の中枢までズタズタにしてやるつもりである。
理由はいくつかある。
殴られっ放しで黙っているほどお人よしじゃないということもそうだが、それよりも我が国が圧倒的脅威だと知らしめる必要がある。そして、その国が獣人擁護派だとわからせる。
特にファランディュア王国は獣人排除派だから見せしめにはちょうどいい。それだけで他国には牽制になり、我が国には獣人たちが集まりやすくなる。
国としてまず欲しかったものは『宣戦布告状』だったのだ。
こんな喧嘩を吹っかけて呑気に寝ている王族を黙って見過ごすほど甘くはないカンザキとクロネコであった。
クロネコ(敵の首都に乗り込むぞ!)




