1-3 異世界特典
さて、なにからツッコんでいいやら……。
まずは異世界に来たことだな。
次に俺の身長がやたら低いことだな……おそらく5歳前後だろう、どうしてこうなった?
そして、道の真ん中で寝かされている。左は草原、右は林。地平線が見えるほど広い。せめて宿屋くらいで目が覚めたい。
状況を説明してくれる人間もいなそうだ。
どうする?
とりあえず、叫んでみることにした。誰もいないし……。
「おーい、神様(仮)! 状況を説明しろぉっぉ!!」
目の前に30cm程度の大きさの真っ白い立方体が現れると、地面に落ちそうになる前に拾い上げる。
「?」
「あ、あ~、もしもし、聞こえますか~。神様でーす」
とりあえず白い立方体を岩に力の限り投げつける。
しまった! 怒りにかられて思わず投げつけてしまった。壊れてないだろうな?
岩がバラバラに崩れたが『W B(仮)』は無傷だった。
危ない危ない。今現在、神様と通信できるのは『W B(仮)』だけだ。
「いろいろ説明してもらおうか、神様」
「もちろんそのつもりだ」
だろうな。そのつもりじゃなくってこんな『W B』を送りつけてこないだろう。携帯電話代わり……といったところだろうか?
「その四角い箱は俺に経験値を送る魔法の道具だ」
違った!! 説明の為じゃなかった!!自分の経験値の為に『W B』を送りつけてた! この神様、自分の事しか考えてなかった!!
まぁ……まぁいい、それより一番重要なことを聞かなければならない。期待はしていない……。異世界に連れてこられたんだから……。
俺は重い口を開いた。
「元の世界には……帰ることが出来るのか?」
「すぐにでも帰れるよ」
「なに!? え!?」
これは意外な結果だ!異世界に来たら帰れない可能性が大。または帰るために悪戦苦闘しなければならないと思っていたからだ。
「ちゃんと最後まで神様の話を聞けばすぐにでも、元の世界に帰れるであろう~……ぁろぅ……」
「聞く聞く、ちゃんと聞く」
『W B』の前で正座してコクコク頷く俺。
なんだ、帰る方法が用意されているのか! それなら安全だ……安全か? 魔王を倒したらとかじゃないだろうな? 疑り深いな俺。
「まずは、この世界で生きて行く上で必須であり、最高のチート能力」
「全ての会話および読み書きだな」
「俺が言おうと思ったのに~。まぁいいや。それから『W B』。俺に経験値を送る箱。あとはオマケ能力として、いくらでも荷物が入れられる異次元ボックスだ。さらに、お前の家のモノが無限に取り出すことが出来る」
うん? それは会話能力よりも遥かにチートな能力な気がするんですが? そんなことを言うと拗ねそうなので黙っているが、使用方法だけ聞いておこう。
「えーっと、物の出し入れはわかるとして……俺の部屋のモノが無限に取り出せる……ってーのがよくわかりません、先生!」
「うむ、良い質問じゃ、カンザキ君。まずは自分の部屋のイメージじゃ。そして箱を開ける。すると、自分の部屋を箱越しに見ることが出来るのじゃ」
WBは開けることが出来るらしい。取っ手がないが開けようと思うと、手が引っかかり開く。何にもイメージしていなかったので、空っぽの広い空間だ。
今度は自分の部屋をイメージする。
おぉ、俺の部屋だ! ……? 『無限に取り出せる』って言ってたけどどういう意味だ?
冷蔵庫のコーラを取り出してみる。
異次元世界にコカコーラの缶が出てきた! あれ? 冷蔵庫の中に、まだ残ってる? うん?
もう一回とる。
異世界に二つのコーラ。冷蔵庫の中のコーラは無くならない。
「これは無限に取れるんじゃないか!?」
「だから、そういってるだろ。ただし、お前の部屋から取り出したモノは100m以上離れると自然に消滅してしまう」
「なるほど、飛び道具……具体的には拳銃なんかつかっても、半径100mまでってことか……だが、ゴミの後始末をしなくていいのは助かるな! しかも食べ物にも困らない……困らないか? 腐らないか? 何日も異世界を冒険していたら?」
「その辺は大丈夫。こちらで何日経とうが向こうの世界では数時間だから……その辺の話はあとでする。先に能力の説明をもう少しするぞ」
「イエッサー!」
早く元の世界に戻る方法が知りたい……戻ったとしたら、またこっちの世界に来れるのかとかも知りたい。
「『お前には類稀なる能力がある』って言ったのを覚えているか?」
「えーっと百人に一人くらいの能力だっけ? 類稀……か? どんな能力なんだ?」
「不老不死だな」
「……? ? ん? え? ……いやいやいや 類稀だが百人に一人とかいないだろ? 君は何を言っているんだ?」
「異世界に来ることで発動する能力。名前は……忘れた。完全な不老不死ではないけど、よっぽどのことがない限り傷つくことすらない。なぜなら、今現在おまえは二つの世界に体を持つことになったからだ」
「もうちょっと詳しく」
「『元の世界に帰る』というが、すでに元の世界にもいる状態だ」
「じゃぁ、精神と肉体が別れて」
「ちょっと違う。両方に同じ精神体が存在していて、向こうの世界で寝ている時こちらで働き、こちらで寝ている時、向こうで働く肉体が二つ存在している」
「よくわからんなぁ」
「簡単に言うと向こうとこっちとで肉体がそれぞれあって、精神だけ移動できる。そして肉体を同時に攻撃しない限り傷つかない」
「ぼんやり、わかった」
「そうすると、元の世界に帰る方法は」
「寝る?」
「そう、それだけだ」
「え? それだと俺の睡眠時間はどーなるの?」
「それは安心。なんとちゃんと グッスリと寝てることになってます!」
「精神磨り減ってるのに?」
「精神磨り減ってるのに! 違う世界では必要な時間に気持ち良く目覚められます。しかも、目覚しいらず!」
凄いな。異世界来ただけで不老不死だよ。
「あとはなんで身長が縮んでるんだ?」
「それは精神の置き換えが……まぁ、簡単に言うと不老の根源的なもんだな。自分で調整すれば好きな年齢になれる……ってことだ」
「どうすれば、元の姿に?」
「知らん。自分で適当に模索しろ。それに、その姿でも困らんだろ?」
「いや、いろいろ面倒だろ?」
「他に質問は?」
「力は強いのか?」
「自分で試せ」
ふむ、力が弱いなら別にこの世界で冒険しなければいいのか、異世界に来たら速攻 寝ればいいわけだし……。でも、死なないなら冒険してみたいわけだ……ただ、この神様が本当のことを言っているとは限らないのがな~。
「まぁ、とりあえずは他に質問は無い……いや、一度寝て、また来るときは同じ場所なのか?」
「基本的には。ただ、諸事情により変わる場合もある。それと先程 話していた時間。こちらで何年、何百年 居ようと向こうでは一定の睡眠時間だけで、同じ時間にはならない。さらにこちらで睡魔に襲われることはない。ただし『寝たい』と思えば寝れる」
「こっちで好きなだけ遊べるわけだ……チート特典いっぱいだな。あとは魔法が使えれば……」
「お前、魔力がほとんどないから無理じゃねーかな~」
「なんだと! 早速 俺の夢を潰しやがって!」
「あと、このWBでの俺との会話は時間制限があるから気を付けろ。合計50時間だ」
「どれくらいできるのか、いまいちピンとこないが、世間話に使わない方がいいな。じゃぁ必要になったら聞くから、もう切るぞ……どうやって切るんだ?」
「念じれば切」
会話を切った。一秒でも勿体ない。勿体ない精神だ。
さて、神様に経験値を注ぐのはイヤだが、この世界で遊びたい。
いったん、ログアウト(寝て)準備を整えたら(主に自宅の冷蔵庫に食品を買い足し)、この世界を遊び倒そう!