2-17 一方的な蹂躙
カンザキ達が住む村から西に馬で半日ほどの場所。
崖が多く軍を隠すには最適だった。
「まさか1日で攻めてくるとは思っておるまい」
ファランディュア王国・大臣・ガラストナ。
カンザキと面会する前からすでに軍を引き連れてこの場所に置いていた。初めから用意周到に準備をしていたのだ。
大隊……およそ1000人の兵士。一般兵、騎馬、魔術師。欠点は神官、司祭に支持を得られず彼らが同行しなかったことだ。怪我人が出たとき薬などで対処するしかない。
仮にも軍隊なので応急処置くらいはできるから問題はないだろう。
おそらくは一方的な虐殺になるだけだ。相手はまだ準備もしていないだろう。今から会議で軍を編成……が関の山。
そう思うとガラストナの口の端は吊り上っていく。
夜が開ける少し前から、兵士が起き出し進軍準備を始める。
まだ暗い中、早い朝食を終え、隊列が組み上がっていく。しかしその編制の中には獣人とエルフはいない。
エルフは人間社会にほとんど いないことは分かっているので、部隊に配属されていないだろう。だが、獣人は奴隷として社会に組み込まれている。
特に軍事国家ともなれば歩兵の戦闘は獣人になることが多いといえるが、1人たりともいない。
それは、ファランディュア王国が完全に獣人を切った事に他ならない。
世界から獣人排除に動いたのだ。
ガラストナの軍は緊張感がまるでなかった。
すでに、グラン王国……村と言っていい大きさ。戦闘員はほぼ皆無だが、一般人に戦闘力有。人数は1000人弱。防壁、城塞 無し。柵 有り。
この情報だけで、一方的に蹂躙していくだけになることは目に見えていた。だから、当初あった聖職者がいないことに対する不安も無くなっている。
むしろ、『取り分』が減らなくて良かったとさえ兵士たちは思っていた。
「今回はボロイい戦だな」
「まったくだ。注意するのはエルフを生け捕ることくらいか?」
「あぁ、エルフは美人が多いらしいから、たまらねーなぁ」
「人間に害をなす獣人を血祭りにあげられるのもいいなぁ。神様から恩恵が受けられるかもしれんぞ」
「教会はなんで反対してんだ?」
「神様が獣人を『人』と認めてるとかいってやがったぞ」
「神様が? そんなわけあるか! こんな害をまき散らしているのに……」
統率はいまいち取れていないが、ガラストナは気にしていなかった。1000人の訓練された兵が、力ある一般人に万が一にも後れを取ることはないと思っていたからだ。
ただ、夜明けが待ち遠しい……。
こんな戦を素面でやるつもりもない。ガラストナをはじめ、隊長格の人間はすでに一杯ひっかけている。なかには一般兵でも酒の匂いをさせている者がいるほどだった。
◇
「と、いうわけで、俺一人でやるからお前らは見ているだけでいい」
カンザキたちは敵勢力が見える小高い丘の上にいた。
見張りがいたが私が倒しておいた。てっとり早くいえば殺した。
カンザキは、どうも『人を殺す』ということに抵抗があるらしい。面倒くさい子供だ。
「何か言ったか、クロネコ?」
(別に……)
今いるのは、私ことクロネコ、カンザキ、エルフのネイビーと獣人のフェガートだけ。
ゼロスリーは念のため村で護衛……まだ、村と言ったところだね。
カンザキがネイビーとフェガートに『強いところを見せておく』と言って連れてきた。
「それにしても『人』って馬鹿なの? ここに兵を隠すしかないからって、本当にここに連れてやって来るなんて……」
ネイビーが呆れる。
戦争する気でやってくるなら、兵をココに待機させるだろうと私が見張っていた。案の定、ノコノコと大軍引きつれてやって来るのが見えた。
黒猫の姿をしていれば怪しまれず、観察できる。まーー、油断しまくりで、やる気もあるのか無いのか……。
で、昨日の話を聞いて、『呪壁の指輪』で転移してきて、一望できるこの丘に今 陣取っているというわけ。
昨晩の内に大きな岩を砕いた小石をたくさん持ってきているカンザキ。
「それで何すんだ? 投石?」
「まぁ、平たく言えば投石だな」
「そんなんじゃぁ、鋼の鎧は貫けんだろ?」
「コイツは弾 丸。『気』で囲むことにより鎧も盾も貫通する代物になる。まぁ、日の出の時に楽しみにしていてくれ。それまでにネイビー……」
「はいはい。精霊魔法で飛び道具を反らすようにしておくわよ」
飛び道具を反らす精霊魔法は10分程度しか持たないので、始まるギリギリまで唱えない。
(でも、その威力じゃぁ、死んじゃうんじゃないの?)
「死ぬだろうね。当たり所が悪ければ。でも、覚悟してきてるんだろ。いや、相手の命を奪うつもりで来ているんだ、返り討ちに遭うのは覚悟してもらってないとな! ただ、追い打ちまでする気はない」
(そんなら『リューゲキショー・イチシキ』とかで、いっぺんに片付けちゃえばいいじゃない?)
「そうは言っても死人が少ない方がいいだろ? 『龍撃掌』を使ったら降伏の暇なく壊滅しちゃうだろうからな。チャンスはやらないと」
コイツの正義感がいまいちわからない。全部、片付けた方があとくされなくってイイだろうに……。どうやら、その考えはフェガートも同じようで、苦い顔をしている。
もっとも、彼の場合は人に対する恨みが含まれているからだろうけど。
「あー、モノに『気』を纏わす技の名前を考えてなかったなぁ。……とりあえず『朱雀装』と名付けておくか……」
名前なんて何でもいいのだが、カッコ悪い名前は後々後悔する。代々受け継がれていくのだ。慎重に考えた方がいいだろう。仮の名前らしいけど、どういう意味かわからない『スザクソウ』? 古代下位語だろうか?
地平線に光が差し込んでくる。
ザッザッと兵が整列していく音が聞こえる。点呼を取る掛け声。あと数分で夜が明ける。
彼らは疑わないだろう。この道を進み完全なる勝利を掴むことを……。
彼らは知らないだろう。これから起こる惨劇を……。
◇
「全隊、前進!!」
「「全隊、前進」」
戦闘から全隊が動き出した途端、中央付近から怒号と悲鳴が上がった。
「なっ!? なにが起こった!?」
ガラストナが隣にいる全軍隊長に尋ねる。
ガラストナは一番先頭部隊にいたために、現状が理解できていない。それは隣にいるのだから全軍隊長も同様なのだが尋ねずにはいられない。
すぐさま、中隊長の馬が走ってくる。
「申し上げます! 丘の上より奇襲! 投石による攻撃です!」
その言葉を聞いてガラストナと軍隊長は安堵と同時に叱咤する。
「その程度の攻撃で悲鳴を上げるな! 丘に中隊を回せ! 他は前進する」
「投石の威力が強く、すでに分断されています!」
「投石ごときの威力にオタオタするな!」
そう言っている間にも次の報告が上がる。
「第一、第二、第三魔術師部隊壊滅! 至急、援護と撤収の許可を!」
「後方、第二弓矢部隊半壊!」
「中央、第一槍部隊半壊、第二槍部隊全壊」
わずかな間に上がってくる後方の壊滅的な打撃。
ガラストナの顔が青ざめる。
軍隊長がすぐに新しく、前方の歩兵盾部隊を中央に置き投石を防ぐよう指示を出しつつ確認する。
「敵の数は?」
「不明です。が、見える範囲では10人以下。ただ攻撃の数から申しまして200~300人の部隊ではないかと推測されます。さらに投石なのですが鎧を貫通いたします」
「貴様、バカか! 石が鉄を貫けるか! 魔法で硬化しているとでも言うのか、投石1つ1つを!? どれだけの魔力が必要になる!? 燃費が悪すぎる。それだけ魔力があるならファイアーボールを打ち込んでくるわ!」
もっともな意見だ。反論の余地もない。だが、その燃費の悪いことを行っているとしか思えない。
「もういい! 後続を切りはなし前進する! 死になくなければ着いてくるよう命令しておけ!」
ガラストナはおよそ500名だけで村を制圧する策に出る。そもそも1000人もの部隊はいらない。ただし、この場合 後方は見殺しにするつもりだ。
騎馬隊を戦闘に変え突っ切ってしまおうとする。が、その前方でがけ崩れが起きる。前方への抜け道が急遽塞がれ馬が次々と転倒していく。
転倒した馬に加速をつけていた後続馬が折り重なるように倒れていく。
前も後も退路を断たれる。
「なにが……なにが起こっているんだ」
自らの金髪を掻き毟る。
こんなはずではなかった。どこからか作戦が漏れたのか……。もしそうだとしても、ここまで大規模な反撃を出来るハズなどなかった。
崖を崩すタイミングが良ければ、前の500人も消えていた。しかし、それは只 死ななかっただけだ。今は袋の鼠。逃げ場所などない。
初めに分断されたのが痛かった。連絡に時間がかかり、反撃の判断が遅れた。次に遠距離攻撃を潰されていた。後方から狙った理由だろう。
そして最後に崖崩れで全滅するはずだったのだろう。
1000人もの部隊がものの数分で壊滅的打撃を受けてしまった。
こんな場所に兵を待たせておくなよ…
でも 一日でがけ崩れが起こせる仕掛けなんて思いつかないし
一日で 丘の上まで来るとなるとガラストナと
同時期に村(国)を出発している計算になるから仕方ないのです
でも 見張りが返ってこないことを気にしろという話もありますが
小隊長が酒で見逃していたんでしょうねー




