2-07 観戦するエルフの女王様
私の名前はハル・D・エアルナ。エルフの女王です。
現在は楕円形闘技場にて、エルフの精鋭と子供たちの模擬戦を見ることになっています。
どうやら、バセリオン殿たちは初めから国を立ち上げる気は無さそうだと判断せざるを得ません。
世界樹にやってきた人数にしても、これからの模擬戦にしても本気でやることを示すものは何一つないのですから……。
いいえ、ただ一つだけありました。勇者エリス様からの手紙……蝋封されていなければ疑う所ですが、これは間違いなくエリス様の印。
なぜエリス様が、このような遊び半分の者たちに力を貸すように書いたのかわかりかねます。
「バセリオン殿、おやめになるのなら今の内ですよ」
女王の席と来賓の特別席で語り合う。周りには私の近衛兵とバセリオン殿のお仲間二人が座っています。
ここに座れるのは特別な人だけです。
観客の人数はかなりおりますが、スペースがあるために比較的 静かに観戦が可能です。多少、魔法的障壁も作っているので防衛も完備しております。
「えぇ、あれを見たらそう思いますよね。でも、お気になさらずに」
私たちの目に映っているのはミスリルを着込んだエルフの精鋭部隊と貧弱な装備の子供たち。
そもそも、私は子供たちが戦うなどと微塵も考えていませんでした。むしろ、ココに残っているメンバーが根こそぎ出るはずだと確信していました。バセリオン殿、ロッサ殿、セバスチャン殿……全員、この席に座っています。
あとは、可能性的には未熟ではありますが、今 出場しているレグイア殿で4人。5対5にしたのは戦力が足りないことを案に示したかっただけなのですが、私の意志は伝わらなかったようです。さらに子供だけにやらせるという下策。やはり人間の考える行動は見るに堪えません。
勝負をする前に止めるべきではないかと、再度促してみたものの全く取り合う気はないらしいです。
いくらなんでも、彼らも本気で勝てるとは思っていないでしょう。懸念は負けた後、何を言いだすつもりなのかと言うことくらいです。しかし、負けてしまって条件など付けられるはずも無いでしょうに……。
闘い開始の銅鑼が響き渡ります。
それと同時に、素晴らしい速度で動いたのはレグイア殿。若い彼の動きは精鋭のエルフにも劣らないのではないかと思いましたが、不可解な行動でした。
反転し、味方に剣を振り下ろそうとしたかに見えましたが、大きく飛び退き、壁に激突し戦闘不能となりました。
私の周りの近衛兵たちもどよめきが起きます。
「今のは……なんですか?」
「さぁ? 私もわかりかねますね。作戦ではないので、予定外のことが起きたのでしょう」
バセリオン殿に聞いても、何が起こったのか教えてもらえませんでした。何が起きているか理解しているのでしょうが教えてくれない所を見ると、ひょっとしたら続行中の作戦なのかもしれません。
精鋭部隊にも一瞬だけ動揺が見えましたが、すぐに前衛3人、後衛2人の隊列を組み、子供たちに襲い掛かかります。
子供たちはほぼ一直線。槍を持った女の子、その後ろに弓を持った女の子、さらに後ろに一番小さな男の子。その肩には黒猫。
状況は5対3……大人が5人というところが後味がよろしくありません。
それどころか、子供たちは戦いに関して素人なのは傍から見ていてもわかるほどです。あっという間に槍を反らしてしまうと、弓に近接していく精鋭たち。
弓の女の子がまっすぐ飛ばない攻撃を2度ほど放って、接近されてすぐに降参してしまいました。
セバスチャン殿はガックリ肩を落としていますが、弓に自信があったののでしょうか? どうみてもエルフの子供よりも下手です。……というか急遽、持たされた感じしかしない腕前でした。
槍の娘も『槍を振るう』というよりは『槍に振るわれている』といった感じで、あと少しで制圧されてしまうでしょう。
男の子は……今頃、籠手を着け始めています!? 楕円形闘技場に入る前にはめるのを忘れていたようです。魔法の光も感じないので、ただの皮の籠手ですね。
槍の娘の槍が払い落とされました。これで槍の娘も降参かと思ったら、とんでもない隠し玉が用意されていました。彼女は突如、獣人化して精鋭に爪で襲い掛かったのです。
人間体の時とは比べ物にならないスピードで、精鋭の鎧に爪を立てます。ギリギリと嫌な音を立てるモノのミスリルで出来ているために傷をつけることは出来ません。
が、完全に一矢報いた形になりました。大人のエルフの、さらに精鋭に尻餅をつかせていたのですから。
それも、そこまで2人のエルフが取り押さえ、降参してしまいます。
「なるほど、獣人の国、と、エリス様の手紙にも書かれておりましたが、獣人の力を見せるために子供たちだけに戦わせたわけですね?」
印象が違いますからね。
大人の中に彼女が混じっていたら、不意を衝くことは難しかったでしょう。なにせ油断しなくなります。獣人の力を見せる機会が無く終わってしまっていたかもしれません。
けれども、子供たちだけなら、圧倒的な差が隙を生みます。とくに槍を払って無効化したと思った一瞬は最大の見せ場となるでしょう。
何も考えていないわけじゃありませんでしたね。多少は『国を建てる』ことを考えていたのかもしれません。しかし、これだけで危険を冒してまで獣人の為に動こうとは思いません。
「え? 獣人……あぁ、アトリーヌですね。いえ、違います。アトリーヌ、カエナ、レグイアは只、経験を積ませるためだけです。本番は一番小さい男の子のカンザキです」
「あの籠手の子ですか?」
「バセリオン。クロネコも足しておけ! あとでどやされるぞ!」
バセリオン殿の言葉にロッサ殿が付け加えます。
子供とクロネコが強いと……。
本気で言っているのでしょうか?
焦っている感じがしません。
もし本当ならすごい自信ですが、なにか裏がありそうな気がします。交渉が目的でしょうか?
「精鋭に怪我をさせるのは忍びないと思いませんか?」
「で『代りに……』というわけですか? いいえ、続けましょう。まだ始まって5分とたっていないのですから……」
本当に交渉してくるとは思いませんでした。わかりきった手です。
ロッサ殿とセバスチャン殿は口を押さえ笑いを堪えています。
どうやらバカにされたようですね。これが交渉材料になるとは初めから思っていないようです。
あの子に恨みがあるわけではありませんが、現実の厳しさを思い知ってもらいましょう。
私は深く椅子に座り直し、楕円形闘技場全体を見下す。
エルフの一人が男の子に降参するように説得に向かったよう……で……す?
ドンッと激しい音と共に、降伏を呼びかけていた精鋭が壁に叩きつけられています。
次の瞬間、男の子を見失いました。こんな高い全体が見渡せる位置にいるのに……。
右へ左へ移動し、精鋭たちに居場所を特定させません。おそらく肉体強化系の魔法か風の精霊魔法のスピードアップかどちらかでしょう。
上から見ていてもわからないのであれば、現場はさらに見つけられないのかもしれません。
1人やられたことで、多少の間があったもののすぐに態勢を立て直す精鋭たち。己らも風の精霊魔法を詠唱し男の子に対応します。
さらに、子供相手に呪文を立て続けに使用。呪文は炎 の 矢のようです。後衛2人で計18本を撃ち放ちます。いくら速くても魔法の回避はほぼ不可能! 子供の体力では勝負ありでしょう。
が、男の子は魔法の盾を展開して防ぎきりました!
あんな子供が、あんな凄まじい攻防をやってのけるとは夢にも思いませんでした。
バセリオン殿たちの顔色を伺いますが、動揺した様子はありません。あの子は普段からあれだけのポテンシャルを持っているのでしょう。正直ゾッとします。
三人の前衛が男の子を取り囲もうとしますが、籠手でいなされ隙間からスルスルと逃げ回わっています。そして、彼らを指さし何かを言っていますが、ここからでは聞き取れません。
が、次の瞬間、男の子が魔法を展開しました。魔 法 の 矢です。
展開された魔 法 の 矢の数が尋常じゃありません。
通常、初心者は1本、中級者で5本、上級者で10本が妥当でしょう。
しかし、彼が展開した数は無数にあります。数えきれません……100本は超えているのではないでしょうか? これを打ち込まれたら、ミスリルの鎧だろうと一溜りもないでしょう。
私は今さら自分が椅子から立ち上がっていることに気が付きました。いつから立っていたのでしょう?
観客を見渡しますが、みなさん呆然とし、一切声が上がりません。恐怖か……それもと現実と受け止められないのか……。
「あぁ! あの魔 法 の 矢はおそらくクロネコの方ですよ」
「……猫が……魔法をつかうのですか……?」
「信じられませんか? なら男の子が使ったと言ったところで真実味は変わらないと思いませんか?」
「…… ……」
答えられない。
答えられるはずもない。
エルフの精鋭たちは降参しています。幻影かと思い、確認の魔法も試していたようでしたが……。
とんでもない戦力です……男の子にしても、黒猫にしても、すでに単純計算でも上級魔術師10人分の力は間違いなくあるわけです。彼らと闘うなら、少なくともエルフでも中隊くらい出したいくらいに強いのは間違いありません。
「はじめの3人は普通の子供でしたね」
「えぇ」
「囮……ですね?」
「考え方によっては、油断を誘うための囮とも言えますが、そんな必要があると思いますか? 本当に実践を積ませるだけの考えですよ」
「……。一つお聞きしてよろしいですか? あなた方はあの子たちより強いんですか?」
あの子とはもちろんカンザキと言う少年とクロネコのこと。あの子にも師匠がいるハズ。この3人の中にいるかと思いましたがハズレのようです。
「はっはっは! 冗談でしょ! 勇者エリスや勇者ドギニと肩を並べて戦える存在ですよ? 彼らより強いはずがない。何よりあのホワイトドラゴンを追い返した張本人ですからね」
「あの、ホワイトドラゴン?……。まさか、この前の第一の試練と言われた……」
私もあの声を聞きました。そして第一の試練は越えたと言っていたハズ。この男の子とクロネコが超えたのでしょうか? バセリオン殿の話からすればそう言うことになります。
獣人の国……第一の試練……強力な魔法……。
エリス様が私に手紙で協力するよう求めてきた理由が少しだけわかった気がします。少なくとも敵に回したいとは思えません。
だからと言って全面的に信用するわけにもいかない、とんでもない爆弾を背負わされたみたいです。
男の子たちが楕円形闘技場を引き上げようとしていると、一人のエルフの子が入場して来ました。連戦になるという話は聞いていませんでしたが……?
!?
まさか!?
「その子と闘ってはダメです! 止めなさい!!」
私の声では楕円形闘技場にいる人間まで届きません。近衛兵たちが慌てて楕円形闘技場へと向かっていきました!
あのエルフの娘は最凶の精霊使い・パルミラ・パラリス。
最強ではありません
厄介ごとの匂いしかしない娘です




