2-06 エルフ
エルフの案内で世界樹を目指せるようになった。
監視していた二人のエルフに手紙を見せたら、一人がそれを持ち連絡に行き、もう一人が待機……のちに世界樹への入場許可が下りた。
「エルフが監視しているのがわかった時点で、手紙を見せていれば楽でしたね」
嫌味か本音かわからないバセリオンの声。
私自身は森に入った時点で、エルフの気配に気づいていた。おそらくカンザキも気づいていただろう。他は怪しい。ロッサやカエナあたりなら本当に嫌味だろうが、バセリオンだと思ったことを口に出しただけだろう……余計に性質が悪い。
二人のエルフは両方とも美少女といって問題ない。両者とも金髪で青い目をしている。緑色のお揃いの皮鎧。
だが、双子ではない。金髪、青目、は一般的エルフの特徴でもあるし、緑の皮鎧もおそらくこの辺では一般的な装備なのだろう。顔はそれ程 似ていない。
「なぁ、エルフって森の中だけに住んでるのか?」
カンザキが誰に問うでもなく意外な質問をしてくる。
これは誰が答えるべきなんだろう? 知識的に言えば私だが、エルフのことだしエルフが答えるべきか?
エルフたちは道案内だけで、口を開く気はないらしい。じゃぁ私一択だ。
(知りたい? 結構、長いし面倒よ?)
「まぁ、そこまで知りたいわけでもないんだが、世界樹に着くまでの暇つぶし?」
納得いく答えだ。
カエナたちは『エルフは森の中だけじゃないの?』とか言っていた。最近のことしか知らないようだ。ダークエルフの名を出すと、エルフたちは露骨に嫌な顔をする。まぁ、彼女たちにとっては最も忌み嫌う一族ともいえる。それこそ魔族以上に……。
(そもそもエルフは、この世界の大半にいた初期の人間といえる存在ね)
エルフたちは、再び面白くなさそうな顔をする。エルフが人間に似ているのではなく、人間がエルフに似ていると主張したいのだろう。
(大雑把にいえば、エルフは黒エルフと白エルフに別れていたわ)
「あー、それがダークエルフってやつね!」
カエナがしたり顔で声をかけてくるが、全然 違う。
(ダークエルフは別種族よ。エルフに言ったらぶっ殺されるから気を付けてね。白エルフは森エルフ、川エルフ、海エルフ、草原エルフなど。黒エルフは山エルフ、沼エルフ……くらいかしら……他にもいたと思うけど、まぁいいや、が主ね。そんで、今、生き残っているのが森エルフくらいなのよ。で、森エルフ=エルフというイメージになったわけよ)
「その説明だと、森エルフ以外は絶滅したのか?」
(たぶん、絶滅してんじゃない?)
「原因はなんなんだ?」
(ダークエルフが皆殺しにしたから……まぁ、神々の戦争で大半のエルフは死滅したわよ。僅かに生き残ったエルフたちも後に死んでるしね~。森エルフだけが、辛うじて残った感じ。さらに繁殖能力は低いから数は増えずらいしね~)
「今も森エルフ以外が生きている可能性はあるのか?」
(無いとはいわないけど……程度よ。だから今いるエルフの大半は森に棲んでるし、森に最も適応しているわけ……って、こんな疑問を持つ人間も珍しいけどね)
カンザキは預言書らしきものを指す。なるほど、あれに何か書いてあったわけか。あの文字が読めるのはアトリーヌかカンザキだけだ。
時代背景からいえば私も読めるハズなんだけど外国語なのよね~。一般語で書いてもらいたかったわ。
(なんならもっと詳しく話せる……)
「お断る!!」
と、言ったのはカエナ。こんなところで歴史の勉強はしたくないとのことだ。したくないだろうね~。勉強好きの子供なんて見たことない。
エルフに連れられて、数時間。その間、缶ジュースを飲むご一行。エルフは何を飲んでいるのか気にはなるが、知らないフリして頑張っていた。
一言いえば、飲ませてやらんことも無かったのに……。私のじゃないけどね。
「着いたぞ」
世界樹の麓だ。
巨木などと言う生易しいレベルではない。城が丸々入る大きさ? 否、街が丸々入る大きさだ。
「あの中に街がある」
本当に丸々街が入ってた! 直径数十kmあるだろう。 デカすぎだ。
木の下の方に大きい門があり、そこに馬車が止まっている。
「世界樹の中は馬車で移動する」
樹の中を馬車で移動って!
中は街が広がっており、天井までの高さが20mくらいありそうだ。道幅も4頭立て馬車が余裕ですれ違うことが出来るほど悠々としている。店や住宅は木造が中心で作られているが、中には石造りのものまである。
ときおり、ぶっ太い木が柱のように立っている。世界樹を支えるのと同時に、看板も兼ねているようだ。
さして入り組んでもいない街並みを進むこと数十分、石造建築の城が見えてくる。樹の中に城とかどういう感性をしているのか疑いたくなる。
その中に入っていく馬車。
馬車から降りると、エルフの衛兵が二人 待ち構えている。案内役の交代らしい。彼女たちについていくこと、さらに数分。ウンザリしてくるころに、ようやく王の謁見の間らしい。
外壁は石造なのに室内は木造になっている。なんというか不思議空間。あいかわらず無駄にだだっ広い。王の前に行くまでに何人ものエルフの兵士が左右に並んでいる。
王の前……いや、女王らしい。ロングの金髪の青い目のエルフ。豪華な服装。年齢は若く見えるがエルフなので言い当てるのは難しい。
彼女の前に私たち一行は膝を折る……私はカンザキの肩の上で見ているだけだけど……。
「おもてを上げてください。私の名前はハル・ディ・エアルナ。内容につきましてはエリス様の手紙により伺っております。蝋封の手紙でアナタたちの身分も保障されています」
私たちの代表者はバセリオン……しかいない。
カンザキ、カエナ、アトリーヌは子供。
私は猫。
セバスチャンは明らかに執事。
ロッサは口が悪い。
レグイアは現在 奴隷。
「では、私たちがグレン平原に国を立ち上げることにご協力いただけますでしょうか?」
「無理ですね」
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「理由を聞かかければわかりませんか? その人数で国を建てることは不可能だからです」
バセリオンは別に驚いた顔もしない。当然、言われるであろう予測はついている。普通に考えればこの人数で『国を建てる』とか、頭がおかしい。
エルフたちだけでなく、私たちだって無理だろ……って思ってる。カンザキを除いては……。彼の考えがいまいち見えない。
「当然の返答だと思います。ですが、あの土地に国を建てることを『許可』していただきたいのです」
バセリオンが交渉に入る。
初めは私たちだけ住んで、徐々に大きくしていく。まぁ、国の成り立ち的に考えればそうだが、建国には程遠い。
しかし、エルフの『許可』が降りれば、私たちに攻め込む国はグッと低くなり、人は集まりやすくなる。
交渉はバセリオンに任せて、私たちは出番を待つことにする。
エルフの女王はため息を吐く。許可も出したくないということだろう。余計な火の粉が降りかかってくるのだから……。
「では、アナタたちの実力を見せてもらいましょう。軍事力まで私たちは面倒はみきれません。もし、実力が認められるレベルに達していたならば、許可しましょう。見定める方法は2つ。まずは1つ目から……」
『自分の村くらい自分たちで守れ』ってことでしょうね。許可が出たら、また細々した交渉をすることになるんでしょうけど。
『実力の見定め』これが私たちの仕事になるはず。
「エルフの精鋭と、そちらの実力者の対決方式で行います。人数は5人以下、武器、魔法、全ての使用を許可します。勝敗は相手側の全員 降伏、または戦闘不能とします。ただし死者のでないようにお願いします。そちらからは条件はございますか?」
「場所と日時は?」
「場所は世界樹内のコロシアム。時間は明日の正午でよろしいでしょうか?」
「問題ありません」
謁見は終了する。実力を見せるまでは話し合うことはないと言ったところだろう。
客室に案内される。だだっ広い部屋を2部屋。男性用、女性用。もっとも今は1室に集まって作戦会議。
「さて、誰が出る?」
「お前とクロネコ以外で……ってことか?」
「その二人で決まりでしょ。あとは足手まといになるでしょ?」
(足手まといになるけど、アンタ達も訓練しないと駄目じゃない?)
「ハッ! ここで失敗したらお終いだぞ? リスクを犯していいときじゃねーって時くらいわかれクソ猫!」
「いや、練習にリスクは少ないな。俺とクロネコが出れば、あとは練習できる。そこでカエナ・アトリーヌ・レグイアを出してみようと思う」
「えぇ、私 無理だって!」
「あの、がんばります」
「……ふん!」
実戦経験……というには無謀すぎる人選だ。カエナは分からない、アトリーヌはダメそうだ、レグイアくらいだろう、まともに戦えそうなのは……。それでもエルフの精鋭に何分もつかわからない。
もっとも、私とカンザキで何とかすればいいわけだ。
(そんなわけで、バセリオンとロッサは私に魔力を明日のギリギリまで注入しなさい)
「命令系かよ、クソ猫!」
「仕方ない。明日は負けるわけにもいかないしなぁ。でも、俺一人でいっぱいになるんじゃないか?」
「バセリオン、このクソ猫の魔力喰いは異常だぞ、俺が100人いたって満タンなんて程遠いぞ」
「本当か? すごいな!」
(そうよ、凄いのよ! 褒めなさい、そして崇めなさい!)
私が聖騎士 二人の前でふんぞり返っている間に、カンザキが三人の武器を聞いている。武器は貸し出してくれるらしい……が、自前で持っていない時点で笑われている。
明日までの作戦会議……前衛レグイア(剣)、中衛・アトリーヌ(槍)、後衛・カエナ(弓)
作戦会議とは名ばかりで、今から武器の扱い方を教えている。おーい、大丈夫か……いや、ダメだろうけど……。私たちは、その作戦に合わせて指示を出す係り。いわばブレイン!(キリッ)
すでに、三人が瞬時に敗北するところしか思い浮かばないんですが……。
結局、夜遅くまでレクチャーと魔力供給。
熟睡しているのはセバスチャンだけ! このおっさん、この状況で良く寝れるなぁ。
◇
そんな感じで次の日。
睡眠時間が短い。ちょっと早めの昼飯を食べ終えて、欠伸をしながらコロシアムに入場していく。ご存じどこにでもある円形闘技場。若干、楕円だけれど十分な広さはある。数百人の観客が入っている。ここって樹の中なんだよね~。忘れそうになるわ~。
私たち5人がコロシアムの廊下を歩いていく。バセリオン達は上の女王の傍で見学になるとか。いまごろ色々ツッコまれていることでしょう。『子供に戦わせて恥ずかしくないのか』とか『初めから国を建てる気が無い』だとか……そっちはそっちで頑張ってくださいな。
対局面からエルフが5人出てくる。
鉄甲冑に身を包み……いや、あれミスリル甲冑だ。魔力を分散しないから、魔法も使える甲冑。本当に精鋭部隊出してきたよ、あの女王!
こっちの武器は鉄……鎧は皮。自分たちで用意してないのが一番悪いんだけれども、こりゃーすごい差だ。
戦いの合図はデカい銅鑼が鳴らされる。
真っ先に動いたのはレグイアだった。私が想像したよりも素晴らしい動きだ……素晴らしい動きだが、切りかかったのはカンザキにである!
ドゴォンと鈍い音がしてレグイアは壁まで吹き飛ばされていた。本当にどうしようもない男だ。
こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
山エルフはエルフに比べて大柄らしいです。
あと気性が荒く怖い奴らだとか……。




