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ブナケデス  作者: あるばいと
クロネコ師匠編
35/57

2-03 混乱

 ホワイトドラゴンのグオルドーラを退けることが出来たが、脅威が去ったと思っている人間はいないようだった。それどころか、グオルドーラの置き土産『獣人と共に歩むか、獣人を完全に排除するか』の選択のせいで街中の緊張感が一気に高まってしまっている。


 日が登る僅か前にグオルドーラが去り、軍隊も貴族も市民もぐったりとしていた。まだ家々が燃え盛っていたり、城が崩れてきているが、それらに気配りするほどの余裕がない。大抵の者は多少 安全と思われる場所でへたり込み呆然としている。

 死者もかなりの数が出ているが、何が起こったのか理解できていないというのが実情だ。


 そして日が登り始めたときに、ようやく泣き声が聞こえ始めた。

 救援活動が始まる。

 王城は全壊している。見る影もない。中に人がいたとしたら絶望的だろう。


 緊急の会議所を教会に設けることにする。運がいいことに教会は城から離れた場所にあったために被害は少ない。


(運がいいのかしら?)

「違うだろうな~」


 私とカンザキの意見は一致しているようだ。グオルドーラは教会を狙わなかった……ということだろう。彼が来た理由はあくまでも始祖のドラゴンの恐怖と『獣人をどうするかの選択』をさせることが目的だった。


 恐怖が無ければ現状は変わらなかっただろう。獣人は奴隷のままか、獣のように狩られるか。

 だが、今日のこの出来事で世界は一変する。人と認めるか、全て狩るか。


 そのための会議が教会の一室で行われている。

 さっきから重鎮たちが怒鳴りっぱなしだ。王様、王子をはじめ、宰相、大臣に将軍は獣人排除の考えらしい。


「当然だろ! 獣人を全て排除するべきだ! たった一年しかないのにあんなドラゴンがまた来てみろ。今度こそこの国は終わりだぞ!」

「国どころか世界を滅ぼすと言ってるんだぞ! 獣人なんぞと手を組んだところで、高が知れておる!」


 人間の考えそうなことだ。私たち獣人を皆殺しにしようと考えている。

 意外なことは教会側は反対の意向を示していることだ。その筆頭がデブの第一位高司祭・ビギヌス・サトリアス。

 見た目で胡散臭さNo.1の彼だ。豚の獣人と言っても疑う者はいないと断言できる容姿の男が獣人擁護だ。……本当に獣人なんじゃないのかしら?


「獣人を排除などありえませんなぁ~」

「なにを呑気なことを言っておる! 人間が皆殺しにされるんだぞ! 獣人くらい生贄にするべきだ!」


 最高司祭・ベルモンドのおじいさんが口を挟む。おじいさんと言っても私よりは年下だろう。


「獣人も人間ですぞ?」

「ふん! 最高司祭ともあろうお方が耄碌(もうろく)したもんだ! アイツらは魔族だったんだぞ! それに未だに人間を襲って喰っていやがる! 第一位司祭も忘れたのか? 自分の妻が食われたのを! それを」

「怒鳴り過ぎじゃ、将軍殿。そもそも三級神・ガナス様が獣人を人間とお認めになっておる。そのお考えを否定なさるおつもりか?」

「ぐっ……しかし……しかし、それなら何故、ガナス様はお知恵をお貸し下さらない!? それこそ司祭の役目だろ!」

「神に頼ろうとしている時点で神は答えぬ」

「綺麗事を言っている場合じゃない! 力を貸さぬ神など……」

「言葉に気を付けられよ、将軍。今、この教会でどれほどの兵士が治癒魔法を受けていると思いか? それらが全て神の力だということもお忘れなきよう」


 まったく力を貸さない神ではない。魔力と交換で神聖魔法の使用が出来るわけだから、神を信じないわけがない。

 私も信仰すれば使えるようになるのだろう。もっとも信仰する気はないが……。


 そのとき首輪を付けた王子が発言する。

 あーそういえば、この王子 首輪つけられてたね~。猫獣人の娘を酷使していたっけ、ブッ飛ばしてー。カンザキがブッ飛ばしてたけど私がブッ飛ばしてー。

 だけど、今 ガス欠な私。対グオルドーラで魔力を使い切ってしまった。残ってるのは実体の維持と念話用の魔力くらい。どっかで魔力補給しないと魔法は使えない。


「最高司祭様、獣人は人間と認めますよ。神様の意向ですからね」

「王子、なにを!」


 その答えに驚いたのは将軍たちだが、彼らを無視し話を続ける。司祭側は王子の言動の真意を見抜こうと微動だにしない。


「人間と認めたうえで、皆殺しにすれば問題ないでしょ? そもそも国同士でも戦争は起こるんですから。戦争ですよ、戦争。人間同士の対立」


 将軍などは納得するが、そんなモノ詭弁でしかない。それに……。


「獣人を一人残らず、排除することなど不可能じゃろ? それなら共存を選ぶのが自然の流れと思わぬか、レグイア王子?」

「最高司祭・ベルモンド様、獣人を一匹残らず殺すことなど訳ないのですよ! まずは」


 そう言って王子は拳を握り絞め机の前に出す。すると、遠くでドンっという爆発音で教会がかすかに揺れる。


「何をした、レグイア王子!」


 会議室にいる全員が王子の顔を見る。

 得意そうに鼻を鳴らし笑う王子。

 ダメだコイツ、今すぐぶっ殺さないと!


「なーに、簡単なことですよ。私の獣人の奴隷を10人ほど首輪を爆破しただけです」

「何のために!?」

「この手段を使って、獣人たちを誘き出すんですよ。一匹残らずね。あとは捕まえて拷問にでもかけて居場所を聞き出す。これを全ての国で行えば一年もかからず獣人を排除できますよ。それに余った時間で確認作業もできます。素晴らしい考えじゃぁありませんか、最高司祭様?」


 カンザキが私を抑えつけている。

 抑えつけられてなければ、残るすべての魔力でこのバカを撃ち殺していただろう。いや、今すぐにでも獣人に仇名なすコイツを仕留めるべきだという考えは変わらない。


「認められんの。人間同士の戦争を認める国家ではありはしない」

「認める、認めないなんて聞いていないんですよ、最高司祭様」

「どういうことじゃ?」

「我が国がやらなくとも、他の国が実行するだろうって話ですよ」


 私はギリギリと歯軋りする。この薄らトンカチを今すぐ黙らせたい。が、彼の言う通り、彼が発案しなくとも誰かが獣人を排除する方向は変わらない。


 カンザキが私を肩に乗っけたまま、椅子から立ち上がった。相変わらずちっこい。……が素早い。

 ガンッと音がしたと思ったら、レグイア王子の頭を机に叩きつけていた。レグイア王子の額から血が流れる。


「まぁ、テメーらの作戦はどーでもいいや。だが、お前は俺の奴隷だ。俺の許可なく、他の奴隷に手出ししたのは許せないなぁ」

「い……今はそんなことを言ってる場合じゃ、ぐあああっぁああぁ」


 バギンっ!! と腕が砕ける音がした。床に転がるレグイア王子。


「誰のおかげで、この国が今あると思ってるんだ? 王様か? 王子か? 正規軍か? 違うな、俺とクロネコ、最高司祭とドワーフとエルフだ。貴様らは俺たちのおかげで生きられているんだ。この国の方針は獣人擁護だ。文句があるなら俺が相手になる」


 辺りは静かになる。腕が折れた王子すら歯を食いしばり声が漏れないようにしている。それほどの威圧感がある。

 だが、彼は小心者らしい。心臓の鼓動が肩に乗っている私にまで聞こえてくる。よくやるよ。


「ふざけるなぁ! 俺は、俺は、この国の為を、未来の為を思って獣人を皆殺しにするべきだと」

(残念だけど、アンタは獣人の奴隷に決定よ。いや、残念なのはホント。獣人である私もアンタみたいな使えない奴隷なんて処分したいけど、カンザキが許さないだろうから、渋々、奴隷にしてあげるわ。感謝してもらいたいわね)


 私の本音に対し、睨み付けるレグイア()王子。ドラゴンとの戦いが終わったら獣人の奴隷になることは決定していた。ドラゴンが来なければ無罪放免だったけどね。

 まぁ、1週間で死ぬくらいの勢いで酷使しましょう。そうしないと気が済まない。今すぐ拷問にかけて獣人たちに謝罪させながら処刑したいけど、カンザキの顔も立ててやらないといけないし、お姉さん忙しいわ~。


 会議はまだまだ、続いている。議題は尽きない。

 街の消火やら救済やら課題は山積している。教会や聖騎士、副大臣等が力を尽くしている状況だ。そんな中に奴隷の獣人を使い、瓦礫の排除などをしている。

 だが、すぐに獣人を下げることになる。町の人の反応が芳しくない。というか、殺そうとする者までいるとの連絡が入る。

 力を合わせた方が復興が早いが、獣人のせいで家族が死んだと思っている者も少なくない。


 そんな中でもアトリーヌは人間のフリして教会で働いている。顔色は良くない。教会の人間は働き過ぎの為だろうと思っているようだ。

 カンザキがカエナがアトリーヌの正体をバラすのではないかと危惧していたが杞憂に終わっていた。

 たしかカエナとかいうお嬢様は獣人に母親を殺されてたんだっけ? よくバラさなかったわね~。それとも仇は自分で討つつもりだとか?


 とにかく慌ただしい一日が過ぎていく。とりあえずの方針は獣人擁護国家、国の復旧・復興が当面の課題……だけではなかった。

 カンザキが獣人と国家の全く新しい方向性を決める。

 王様をはじめ、宰相、大臣たちの猛反対を受ける。教会側の第一位司祭・ビギヌスですら渋い顔をする。


「カンザキ殿、さすがにそれは如何なものかと思います」

「ありえん、そんなこと無理だ!」

「現状では我が国家は援助できない。その状態でそんなことをすれば、狙い撃ちだぞ。それとも獣人を皆殺しにするのが目的か? それならば納得できる」


 カンザキの提案は『獣人の国を作る』だった。

 今、この状況で!? という疑問しか湧いてこない。平常時でもかなりの問題だ。当然、獣人排除を(うた)う国が一つや二つじゃないだろう。そこに獣人が集まってくれば集中砲火は目に見えていそうなものだ。所詮子供の浅はかな考え……と纏められれば話は早いのだが、相手はカンザキだ。


 ベルモンドが代表して尋ねる。


「どういう考えかのぉ?」

「場所は世界樹の横のグレン平原に建国する予定です」

「エルフたちが良い顔はすまい」

「最高司祭様はエルフの人と知り合いでしょう。その伝手で話し合いを出来る場を設けて頂きたい。そうすれば、獣人とエルフの連合国家が成り立つ可能性が出てくる。南にはこの国・神聖王国が獣人擁護派であれば脅威は北と東に絞れる」

「簡単に言ってくれる! 建国する前に潰されるのがオチだ! そもそもエルフがその平原に人の国を作ることを認めないだろ! だから、あそこは大陸の中央でありながら平原のままなんだ!」


 将軍が机を叩いて喚き散らす。カンザキは『だから話し合う』と言っている。

 あんまりいい考えには私は思えない。難題が多すぎる。まずエルフの問題、それから獣人に抵抗する国、作り上げるまでの資金は当然、神聖王国からは出ない。そもそも、獣人すらいない。


 カンザキが会議室のみんなを落ち着かせる。


「安心してください。なにも神聖王国に迷惑をかける話じゃありません。この国に頼むのは二つ。獣人擁護派だということを貫くことと、世界樹に住むエルフを紹介していただくこと。あとは俺たちが勝手にやります。失敗しても神聖王国の名前は出しませんよ」


 俺たち(・ ・ ・)? それって私も含まれてない?

クロネコどころか、バカ王子もカエナもアトリーヌもセバスチャンもバセリオンもロッサも含まれている。

奴らも、まさか勝手にそんなことになっているとは夢にも思うまい。

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