2-02 ホワイトドラゴンの試練
半壊している街には黒猫の群れで溢れている。私に触れずに歩くのは不可能なほど……。その数は数百万匹。
さて、ここからは私が攻撃させてもらう。始祖のドラゴンだか、神祖のドラゴンだか知らないけど、ずーっと私のターン!
と思ったら私の所にドラゴンの爪が振り下ろされた。回避は間に合わない。引き裂かれる私の身体。
「クロネコ!?」
(なに?)
「あっぁ?」
数百万匹の内の一匹が子供の声に応えて上げる。
「え? 今、殺されたのがクロネコで……憑依能力か?」
(そう思う?)
「……マジかよ。これ全部 お前か?」
(百万回、殺されたって私は死なないわけよ。だから……やりたい放題よ!!)
私の分身の黒猫軍団が一斉に始祖のドラゴン・グオルドーラに飛び掛かる。黒猫ごときに見向きもせずに、進んで来ようとしたグオルドーラだが、そんなに甘い攻撃をすると思っているのかしらね~!
黒猫達は飛び掛かった空中で10匹一塊になり形を変えランスになる。その槍が鱗を貫通しグオルドーラの身体に突き刺さっていく。このままいけば倒せるのではないかというほどの、黒いランスの雨。
ブスブスと鈍い音を立てて、次から次へと刺さっていく。爪で何本かは砕いていくが、分裂して黒猫に戻り、また、飛び掛かりランスと化す。
だが、グオルドーラもそのままやられっ放しなわけではない。ドラゴン特有の呪文を唱えシールドを展開する。それだけでランスの一撃では通らなくなる。もちろん何発も当てればそのシールドも破れるだろうが、爪や尻尾で数千単位で私たちが薙ぎ払われる。
(ドワーフにエルフ! ボサッとしてないで手伝いなさいよ!)
「まさか、猫ごときに使われるとはのぉ」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんがね!」
私の声でようやく、我に返った二人がドラゴンのシールドに打撃を与えていく。エルフの弓は光属性があるためか、ドラゴンの呪文シールドと相性が悪く破壊に至らない。
それに比べてドワーフの斧は闇属性なのだろう。特技を放てば2撃でシールドを破壊する。ただし、その2撃を放つのが難しい。近づくことが容易ではないからだ。
(埒が明かない! もっと効率よく出来ないの!)
「とんだ我儘なお姫様じゃのぉ。老体に鞭打って出てきておるというのに……。あのドラゴンの反応速度とアイスジャベリンを掻い潜っているだけでもすごいと思うんじゃがのぉ」
「しかし、呪文のシールドを壊した後には、すぐに新しいのを作られてしまいますからね~」
(もー、役立たずどもが! いいわ、私が力をそっちにも振り分けてあげるわ!ドワーフのジジイはクロネコ一中隊が道を作ってあげるからシールド破壊に集中しないさい! エルフは弓に黒猫を纏わせるからその辺の黒猫に矢を浸しなさい! それで闇攻撃になるわ! もしドラゴンが属性を変えるようなら……)
「また、光の矢を放ちますよ」
(よろしい!)
などと話し合ってる間にも、グオルドーラの攻撃は止まない。町も黒猫も押し潰されていく。……といっても黒猫は魔力の塊なので霧散するだけだ。回収は出来ないのが辛いが、痛みは伴わない。私が死ぬとすれば、一匹残らず黒猫が霧散してしまった時だ。
黒猫たちは逃げることも素早いし、纏まって違う形をとることも出来る。
ドワーフの道を開けるために数万匹が壁となり、ドラゴンの猛攻を一時的に抑え反らす。その衝撃で壁になった黒猫の何千は消滅するが、その分ドワーフの爺さんが呪文シールドを破壊しやすくなる。
エルフの方も黒猫にバラバラと弓矢を落す。溶け込むようにして、矢が黒く輝きエルフの手元付近に浮かび上がる。それを4~5本まとめて放つ。四方に曲線を描きながら全弾シールドに命中すると一撃で粉砕する……4~5撃かしら? そのまま、出来た隙に矢を放ちドラゴンの身体を射ぬいていく。
さらに、私たちの防御力が知らないうちに上がっている。ドワーフの壁役の黒猫たちの消滅が激減する。
何が起こったのか理解するのは、そう難しい事ではなかった。
最高司祭・ベルモンド。忘れていたが、彼が全体魔法で私たちやドワーフ、エルフの防御力を上げている。
数百万いるのに……だ。私を1匹と数えられるのか、それとも本当に数百万匹いっぺんに魔法をかけているのかはわからない。
これで私たちの方が有利に動き出しただろうと思った。思ったが……。
グオルドーラの口の周りに光の粒子が集まっていく。魔力の圧縮も感じられる。
(またドラゴンブレス!?)
「3度目じゃぞ!」
普通のドラゴンはドラゴンブレスをこんな短時間で連発しない。魔力も体力も消費するからだ。回復には時間がかかる。
(そういえば、始祖のドラゴンはドラゴンブレスの威力を節約してるのかしら? 力 抑えれれば……)
「連射も可能ですかね」
嫌な気分だ。
こちらが押してくるとドラゴンブレスを吐かれる。数百万匹の黒猫の壁でも、弓矢でもドラゴンブレスは抑えられない。ご存じの通り、この黒猫たちは魔力でしかない。物理が足りないのだ。
ドワーフは論外……肉弾戦をドラゴンブレスに突っ込ませるとかは無い。
エルフの弓は範囲が狭い。真ん中を貫通するだろうから、相打ち覚悟なら使えるが防ぐことはまず無理だろう。
「俺の出番だろうな」
(そーなるわね、死んでも『龍撃掌・零式』を放ってもらうわよ)
「『死んじゃうからやめて!』とかないの?」
(アンタが死んでも一向に構わないわ。ただ、ドラゴンブレスが来るたびに蘇ってくれるならだけどね)
子供が起き上がった。
ベルモンドの治癒魔法のおかげで、傷は治っている。……傷は……体力はどうだろうか。おそらく戻ってはいまい。先程と同じだけの『龍撃掌・零式』が使えるのだろうか?
「なぁ、提案なんだが……」
子供は『気』と言われる力を手の平に集めていく。
その間も、互いの攻撃の手は緩めない。ドラゴンも攻撃しながらドラゴンブレスの準備をしている。ドワーフやエルフが時間を稼いでいるといった感じだ。
(提案?)
「初めから、俺の『気』に魔力を乗せられないか?」
(できるけど、吸収が出来ないから嫌ね! 私の魔力が増えれば黒猫がさらに増えるわ!)
「お前とドワーフとエルフと最高司祭の魔力も乗せたらどうだろう?」
思わずニヤリと口が吊り上ってしまう。面白いことを考える子だ。全部の力を合わせるなんて……いや人間なら普通の発想なのかしら?
その全部が効かなかったときの絶望とかは考慮に入ってないんでしょうけど……ワクワクする。
(面白いわ! どこまで通用するか試してみましょうか! ただし全力全開でお願いしたいわ)
「一撃必殺……ってーやつか。効かなきゃ終わりだな」
(勝ち目はあると思う?)
「ないね!」
キッパリと「ない」と言い放った。絶望的状況なわけだ。ならば延命の為に、この勝負をするべきではないと思う。
そうすれば、少しでも長く戦うことは出来る。ここで全力を注ぎ込んだらそこで終わりなのだから……。
でも、私も延命なんて興味が無い。ただ追い詰められていくだけなんて、面白くもない。ならば一矢報いる。窮鼠猫を噛むってヤツだ……私は黒猫なわけだが……。
時間が無いので、ドワーフ達3人には手短に念話を送り魔力をカンザキとかいう子供に送るよう説明する。闘いながらだがそれなりに魔力が送られていくが……。
(なんでアンタはは魔力が枯渇してるのよ!? それに魔力を入れる場所が無い? 魔力無し?)
「いや、わかんねーけど、みんなから魔力がきてることは分かるぜ。『気』にも魔力が溜まって威力が上がってるのもわかる!」
(当たり前でしょ! アンタ、ストローと一緒で筒抜けなのよ。直接、魔力が『気』に乗っかってるのよ!)
「問題か?」
(問題はないけど……。そんな話は後回しよ!)
説明しようとしたとき、ドラゴンブレスが放たれた。クロネコたちが被害を被る。数十万単位が消滅していくのが確認できる。ワンテンポ遅れてカンザキが『龍撃掌・零式』を放つ。
魔力は含まれている。その威力は凄まじい。今までと同等の威力のドラゴンブレスをものともしない。
ドラゴンブレスを切り裂きながら、『龍撃掌・零式』がグオルドーラの顔面を捕える。物凄い爆音が響きドラゴンの数百mある身体を爆発が包み込む。ドラゴンの後ろにあった城の塔が崩壊し崩れ落ちていく。城壁が爆破で拡散する。
ドラゴンの身体が無ければ城は跡形もなくなっている威力はある。
始祖のドラゴンにはどれほどのダメージか……。
想像以上のダメージをグオルドーラに叩き込んだのは明白だった。頭の右半分骨が剥き出しになり煙を吐いている。だが、それが致命傷になっていないことも明らかだ。まだ活動している。ドワーフもエルフもその姿に油断したのだろう回避が遅れ、ドラゴンの攻撃を掠めていた。
受け身がしっかりしていなければ、体が真っ二つか、骨が粉々に砕けているかのどちらかだっただろう。歴戦の勇者の二人は致命傷にはならない程度には回避できたが、撤退せざるを得ないほどの傷ではある。
ベルモンドが早急に回復魔法を遠距離から唱えている。
(頭、剥き出しでもいきてるなんて、どんな生き物なのかしらね~?)
「生き物……じゃないんだろ。神殺しの竜だからな」
子供が膝を付く。体力の限界だろう。いや、限界などとっくに過ぎているはずだ。たぶん一発目の『龍撃掌・零式』を放った時点で……。
それでも私はこの子に魔力を託していた。そして頑張った……が、ここまでか。
万策尽きた……黒猫の数は激減している。ドラゴンにやられたのもあるけど、カンザキに注ぎ込んだ分がほとんどだ。
ドワーフとエルフも回復魔法をかけてもらっているが、まだ動ける状態じゃない。
やっぱりドラゴンブレスを吸収した方が良かったかな~?
だが、ドラゴンの攻撃は止んだ。
(どうしたん? さすがに死んだ、頭、骨剥き出しだし……)
「その程度で死ぬと思うか?」
(うんにゃ、思わない。新技かなんか放つとか?)
「おそらく、これで認められたんじゃないかな?」
(どーゆうこと?)
「これ以上、闘う必要はないってことだ」
よくわからない……確かなんか古い書物の話があったけど私が覚えているのはドラゴンが来て闘うってことだけだ。勝たなきゃ死ぬんじゃなかったかしら。
でも、そうじゃないらしい。それなら良かった、良かった!
ドラゴンの頭が煙を上げて再生していく。あんだけのダメージが直っていくのか、何だあれ?
ともかく、様子を見るよう念話でドワーフ、エルフ、ベルモンド……他に正規軍や聖騎士に言っておく。今が攻撃のチャンスのようにも見える。
カンザキの言う通りじゃなければ、この期を逃すのは非常に勿体ない。
ベルモンドもドワーフもエルフも戦闘態勢を解いてはいない。そんな中、なんとか力を振り絞ってカンザキが不用意に近づいていく。……私も肩に乗ってるんですけど、大丈夫なんすかねぇ?もっとも黒猫一匹はこの戦場からすでに離脱させている。死なないようにしとかないとね~♪
そんな私の考えをよそに、カンザキは始祖のドラゴンに話しかける。
「これで、どうですかね、グオ?」
いままで頭だけでも数mあるドラゴンが、だんだんと小さくなり人の形を成していく……ドラゴニュート化だ。白い体に白い髪……あんなに与えたダメージが全く見当たらなくなっている。さすがにタキシードは着ていない。
「う~ん、いまいちだよ。僕の考えではもっと大勢の獣人と仲間になってないと話にならない!」
「今はこれが精一杯なんっすけどね~」
「これじゃぁ、獣人が新たな人間とは認められないね」
「マジで? ……ってーか、これ以上 戦っても俺たちに打つ手はないけど?」
「まぁ、この程度なら人間を滅ぼすのに3日もあれば終わるね。だけど、この人数であれだけのダメージを与えたことに対して評価はするよ。だから、次の試練を許可しよう」
(あー、待った待った。何言ってんの? さっぱり分かんないんだけど? コイツを倒さないと世界が滅ぶんじゃないの?)
「僕を倒す? たしかに倒せれば人類が生き残るのは可能だろうけど、僕を倒すなんて君が完全体だったとしても無理だよ」
(カチンとクる台詞ね! さすが神の領域)
「わかっているとおもうけど、今回の件は君も少なからず関わっているんだよ?」
(獣人が人間になったこと?)
その問いに答えず、グオルドーラは世界中の人間の……エルフ、ドワーフ、獣人の頭に直接、念話を流し込んできた。
全ての人間がはっきりと聞こえる。
『さぁ、第一の試練は君たちは乗り越えた。第二の試練は一年後。始祖のグリーンドラゴンが行うだろう。それまでに準備をするがいい。獣人を人間にするための試練だ。獣人を新たな人間と認め、手を組み試練を乗り越えるか……獣人を地上から一掃すれば試練は無くなる。一年間の猶予がある。決めるのは君たちだ!』
嫌なことを言いやがる!!
すでにこれが試練だよ! 手を組みたい人間なんて少ない……かといって、一年間で獣人を一掃するなんて出来るわけがない。
人、エルフ、ドワーフ対獣人の戦争がこの一年で起きることは間違いない。同時に手を組もうとする動きも起きるだろう。
手を組まなければグリーンドラゴンの試練は乗り越えられないだろうに、こんな話をされたら追い出そうとする勢力が増すのは目に見えているだろう。そういう試練だ。性根が曲がったホワイトドラゴンだ!
こうして、私たち獣人にとって最悪の一年が始まる。
あー、私、黒猫じゃなくって獣人だから! 人間系になれって? 肉体 無いしなぁー。




