2-01 クロネコ行進曲
私の名前はクロネコ。しかし猫ではない。姿かたちも猫そのモノだが……。
黒猫という名前も子供たちが勝手につけただけだ……いや、黒猫だからそう呼んでいるだけか……。
◇
始祖のドラゴンのドラゴンブレスを、正面から撃ち合う子供の肩で待機していたが、結果的に正解だったと思う。
ドラゴンブレスは放射線状、直線状、霧状の三種類に分けられる。今回は直線状。範囲は狭いが威力が大きい。こんなモノとまともに張り合うバカがこの世にいたとは信じられない。
そもそもドラゴンブレスは基本、魔力と物理で構成されている。まぁ、その他にもいろいろ混ざっているのだが……。それは速さと重さと熱量を伴う。こちら側も対等な代価を支払わねば相殺できないのは道理。しかも対等な代価を支払ったとしても相殺できるとは限らない。
だが、この子供はギリギリまでやってのけたと言っていい。足りないのは魔力だけだ。始祖のドラゴンのドラゴンブレスが『龍撃掌・零式』を突き抜けたのは純粋な魔力だけだ。
ようするに、この魔力部分も防げれば完全相殺となる。そして、今の私なら……魔力なら……完全に美味しく頂けます!!
迫りくる魔力に魔法陣の盾を展開!
怒号とともに激突するが、魔法陣の中に吸い込まれていく。そしてその魔法陣と同じような魔法陣を私の体内に開く。入り口と出口だ。私の体内にドラゴンブレスの魔力を直接流し込んでいく。
濃厚! 濃密! 純粋魔力……これだけでこの神聖王国を破壊できそう。だけど、今は私の美味しいご飯になっている。
そう、私は魔力を吸収できる体質だ。体質という表現もいささかおかしい。この身体自体が魔力で構成された物質だからだ。
全部吸い込むと、子供の肩の上でゲップをする。
あら、やだ、はしたない!
子供が私の顔を見る。
「お前が……やったのか?」
「にゃーにゃにゃーにゃー」
「何言ってるか、わからんなー」
あー面倒くさいわー。ネコの振りしてニャーニャー言ってるけどネコ語じゃぁないのよね~。私、猫じゃないし……。子供の頭に魔力を使い直接、語りかける。
(そうよ、私がやったわけよ。天才でしょ?)
「!? 念話!?」
(念話? あぁ、テレパシーね。今の魔力吸収で使えるようになったからね。魔力不足で何にもできなくって困ってたところよ)
「お前だけでも、あのドラゴンブレスを止められたのか?」
(うんなこたぁー無い!)
「お前はタモさんか!」
(誰よ、タモさんって! バカにしてるでしょ!)
「タモさんは一流のエンターテイナーだ! タモさんをバカにするはずがない。彼の多彩な芸の数々を舐めるなよ!」
(いや、舐めてないけど知らないわよ! そんな奴!)
「そんな奴だと! あのお方をどなたと心得る」
(タモさんでしょ? 見たことないけど……あー私、物理は無効化できないから! それ食らったら私たち終わりだからね?)
ドラゴンの爪を何度か子供が回避する。素早い。ネコである私より早いので乗っていた方が安全だ。いや、私、猫じゃないけどね。格好は黒猫だからさー身体能力的には猫なわけよ。
「アイスジャベリンは無効化できるのか?」
長さ十数mの氷の槍がドラゴンの周りに、何十槍と宙に浮いている。アイスジャベリンの魔法だ。
(あー無理無理! アイスジャベリンの魔法の説明を一からしないと駄目? それくらいわかるでしょ?)
「わかんねーよ! 魔法は無効化できんだろ。どー見ても魔法だろ!」
(魔法で物理を作り出してるのよ。ようするに周りの氷が無くなれば推進力部分と、内蔵されている魔力部分は無効化できるわよ?)
「氷がダメージ大なんじゃねーのか!?」
(ほとんど氷のダメージじゃないかしら?)
「無効化できてねーじゃん!」
(だから、そう言ってるでしょ!)
アイスジャベリンに対し、走り回り、時には『龍撃掌』で破壊しながら回避していく子供。
家々に氷の槍が突き刺さり、一撃で粉砕されていく。バカみたいな威力のアイスジャベリンだ。普通は人間を貫くくらいの威力。といっても、鉄の鎧でも来ていれば、それだけで貫通するのは難しくなる。あとは魔力量次第で威力は変わるが、似たり寄ったりだろう。
ところが、かのドラゴンが放つアイスジャベリンは天災レベルだ……いや、氷の槍が降ってくる天災なんてないか……。『雨が降ろうが槍が降ろうが』というが槍が降ったら死ぬから表に出ない方がいいことが実感できるね!
(せめて、もう少し魔力が欲しいわね~。それでもさすがドラゴンブレスの魔力。身体の維持と念話するだけなら困らないわね!)
「ドラゴンブレスの魔力って物凄いよねぇ!? ってーかドラゴンブレスは物理じゃないな!?」
(説明は省くけど、アンタの『龍撃掌』で物理部分は完全に排除できたのよ。おかげで、私が魔力吸収することが出来たわけ。もう一発くらいドラゴンブレスの魔力がくれば、私も戦えるようになるんだけどね~)
「マジかよ……。あんなのもう一発来たら、防げるかわかんねーよ。『龍撃掌・零式』で全開だったんだぞ? おかげで体がボロボロだ。もう一発撃つとか勘弁してもらいたい」
(んなーこと言っても、攻め手も欠いてるこの状況でどーすんのよ!)
さっきから子供は防御・回避を主に行っている。たまに繰り出す遠距離攻撃の『龍撃掌・零式』だがドラゴンブレスと相打ちにしたときの威力は、体に負担がかかるために出せないらしい。それでも始祖のドラゴン・グオルドーラの鱗を貫通し血飛沫をださせている。が、数分でその傷は癒え、鱗も再生していく。
(なんかデカい一撃を加えないと、押し切れないでしょ!)
「わーってるよ! タイミングが無いんだよ!」
グオルドーラの尻尾が子供 目掛けて飛んでくる。家も地面に刺さったアイスジャベリンも一掃し、あっという間に大広場の出来上がりだ。城でも作れそうなスペースを一撃で作り上げる。
その一撃を直撃は避けたものの、掠っただけで私と子供は50mくらい吹き飛ばされた。
子供は『気』とかいう防御方法を用いていたが、無傷とはいかなかったらしい。私の方は子供が食らう直前に肩から離脱して無傷だ。
「テメーだけ逃げんのズリーだろ! 俺たちは一蓮托生だろ!」
(冗談じゃないわよ! こんな身体で あんな一撃喰らった塵になるでしょ!!)
「喰らってみないと わかんねーだろ!」
(喰らってからじゃぁー遅いのよ!! なに、あんたバカ? バカなの?)
すぐさま子供の肩に乗る。すでにグオルドーラの追撃が始まっている。この国の軍隊らしき者たちは、完全に近距離を捨てて遠距離援護にまわっている。
弓と魔法……剣や槍は近づけないと判断したのだろう。私たちが囮になっているおかげで、彼らに向かうことも無ければ、遠距離攻撃もしやすいのだろう。だけど、助けて~!
彼らの攻撃は鱗を貫通することは ほとんどない!
ジリ貧だ。
魔力を集める方法がない!
(やっぱ、ドラゴンブレスを打たせないさいよ!)
「俺の身体が保たねーよ」
(大丈夫! アンタの犠牲は無駄にはしないわ! 私が代りに生き残るから!)
「腹立たしいクロネコだな! さきにドラゴンブレスの魔力を吸収して、その後 物理部分は回避とかはできねーのか?」
(で・き・な・い!)
キッパリと言い放つ。出来ないモノは出来ない、期待させてもしょうがないしね。
「お前が魔力吸収すれば勝機はあんのか?」
(勝機なんてあるわけないじゃない!! 相手は化け物よ。勝つことは不可能)
「ある程度の手負い……なら?」
(そっちの方よね~。ぶっちゃけ、あんな化け物 見たことないからわからないわ~)
「そんな薄い可能性に、俺に命を張れと?」
(アンタの命なんて安いBet料金よ!)
「俺の魂の値段、勝手に決めないでくれる!?」
そんなことを言いながらも、子供はグオルドーラと正面から向かい合う。そして、こちらから先に『龍撃掌・零式』を放つ。グオルドーラが撃ち合わない、という選択肢もあるが、その場合グオルドーラのダメージがかなり大きいだろうから結果オーライ! 回避は間に合わないだろう。
案の定、ドラゴンブレスを放つ。威力はさっきと同じ……手加減ブレスだ。
あぁ、言い忘れてたけどグオルドーラが放っているドラゴンブレスは、私の見立てでは本来の一割程度だろう。なぜ、手加減しているかは知らない。……制約があるのか、封印されているのか、こちらの様子を見ているのか……しかし、そんなことはどうでもいい。足掻くことが出来る要素が増えるのだから!
さっきとまるっきり一緒の打ち合い。やはり寸分たがわず物理部分は五分五分! いい感じで純粋魔力だけのドラゴンブレスが突き抜けてくる。
そのとき、グオルドーラの声が響く。
「君たちドラゴンブレスだけに、気を取られ過ぎじゃない?」
「!?」
アイスジャベリンの団体さんが空中で私たちの周りを取り囲んでいた。
(マジか!?)
「落ち着け!!」
落ち着いている場合か!? 私も子供もドラゴンブレスに『気』と魔力を向けていた。ドラゴンブレスは完全に抑え込んでいるが、この状態では動くことは出来ない。
ドラゴンブレスの吸収前にアイスジャベリンに撃ち抜かれてしまう。子供は身体の方が限界か膝を付いて立ち上がれない。
その時、空中に浮いていたアイスジャベリン一斉に、こちらに向かって放たれる。『万事休す』という言葉がピッタリだ!
しかし、そのアイスジャベリンが光の矢によって次々と打ち砕かれていく。
宮廷魔術師か、聖騎士たちが撃ち落としたのかと思い振り返る。そんな威力の魔法があるのか? あるなら初めから使っておいてよ!
しかし、宮廷魔術師でも聖騎士たちでもなかった。
そこにいたのは老人と男のエルフと男のドワーフ……。老人には見覚えがある。たしか最高司祭ベルモンド。最近見ないと思ったら、どこに行っていたのかしら?
「ふぉふぉふぉ、なんとか間に合いましたな」
「本気かベルモンド殿? こんなドラゴン見たこともありませんよ?」
「あいかわらずエルフは臆病じゃのぉ」
「慎重と言っていただきたい、ドギニ」
ドギニはドワーフの名前だろう。エルフは光で出来ているのではないかと思われる弓を携えている。アイスジャベリンを撃ち落としたのはあれだろう。
彼らがゆっくりと近づいてくる……が、グオルドーラが彼らごと爪の一撃を放つ。
辛うじてエルフの足の方が速い。子供と私を担ぎ上げ、間一髪ですり抜けていく。地面が大きくひび割れ亀裂が入る。
そこにいつの間にか間合いを詰めていたドワーフが、グオルドーラの前足に斧で一撃を加えると鱗を切り裂いていく。
明らかに国の兵や聖騎士より強い。
グオルドーラはドワーフに食らいつこうとするが、身軽に身体を翻し回避する。だが、ドワーフは面白くなさそうだった。
「ワシの斧『ドイ』であの程度の傷じゃと? なんじゃあの生き物は?」
「斧のせいにしてはいけませんよ。アナタの腕が鈍ったのでしょう。だいぶお歳を召したようですし」
「うるさいエリス! 多少寿命が長いからといっていい気になりおって!」
「いい気になんてなっておりませんよ」
ドワーフとエルフは弧を描くようにドラゴンの周りをまわり始めた。回避と攻撃、ドラゴンの正面に立ってやりあうほど、バカではないらしい。熟練の動きを思わせる。
グオルドーラが彼らに構っている間に、子供を回復するベルモンド最高司祭。
子供は彼に任せよう。
彼らのおかげでドラゴンブレスの魔力は奪い取れた!
私はカンザキとベルモンド、エルフのエリスとドワーフのドキニに声をかける……念話の場合も『声をかける』でいいのかはわからないけど。
(さーて、ここからが反撃よ! ちょっと私に協力しなさい!)
「命令系かよ!」
回復中のカンザキのツッコミを無視して猫のような鳴き声を発する。
「ニャッァアッァアーーーーー!!」
その大声に私以外の全員の動きが止まった。別に動きを止める攻撃ではない。気になってしまったのだろう。クロネコの存在が……。
私ではない……町中から、一匹、二匹と顔を覗かせ現れる黒猫。道から家から煙突から次から次へと黒猫が現れてくる。
「なんだ……この数の黒猫は……?」
ドラゴンの周りを取り囲むように数百、数千、数万の猫、猫、猫、猫!!地面に壁にびっしりと隙間なく黒く彩られていく。まるで黒い絨毯に光る金色の目だけがあるように……。
一面が黒一色に染まる。空も大地も空間も……。




