1-30 ホワイトドラゴン戦
会議室でドラゴニュートと2個小隊との睨み合いが始まった。
王様以下、宰相、大臣、教会の偉い人は慌てて飛び出し、それを一個小隊が護衛する。ドラゴニュートが大暴れすれば、この場で数人のお偉いさんは死んでいただろうが椅子に座って足を組んだままニヤケているだけだ。
残っている将軍と二個小隊、それと俺と黒猫……黒猫はいつの間にか やってきて俺の肩に飛び乗っている。
俺は残っているというよりは扉の外から見ていると言った方が正しい。この戦いに参加しなくていいと言われている。むしろドラゴン戦では軍隊で動くため、多少強いぐらいの子供は邪魔だということだ。
「小僧、邪魔だ! どっかいってろ!」
将軍の声が響く。小隊とドラゴニュートとのにらみ合いが続く。いや、睨んでいるのは小隊だけだ。ドラゴニュートは余裕の表情で、ようやくノンビリと立ち上がろうとした。
だが、その立ち上がろうとする行動が、切っ掛けになり将軍が命令を下す。
そこからは、将軍も俺に構っている暇はない。ドラゴニュートへの攻撃を事細かに指示していく。
ドラゴニュートを袈裟掛けで切る兵士、槍で貫こうとする兵士、メイスで叩き潰そうとする兵士……。それらをドラゴニュートは止めるそぶりも見せず、全て受ける……が、当然のように立ち上がる。
当然のように無傷だ。むしろ剣や槍は折れ、メイスも曲がってしまっている。
「さて、人間たちの強さを見せてもらおうか?」
「ば、化け物め!! いったん下がれ! 武器魔法付加を使用! 急げ、敵は待ってはくれないぞ。回避を怠るな!」
「いや、僕は待つよ。君たちが万全な態勢で闘ってあげるよ」
「くそっ! ふざけやがって!」
小隊は隊列を組み直し呪文を詠唱しようとするが、それを俺が止める。
「将軍、外で闘った方が有利じゃないですか!?」
俺の方を見向きもしない。
当然、そんなことは分かっていると言いたいのだろう。外に出れば中隊か大隊くらい用意できているハズである。
ただ、それが出来れば苦労しない!
「だから、俺がそのドラゴニュートを外に出します! 外で待機していてください」
「バカか! ガキがそんなことできるわけねーだろ!」
「絶対に出します!」
「くっ! 任せてやる! 本当に出せよ! 絶対だぞ! 絶対だからな!?」
なんだ……ダチョウ倶楽部のあれか? 出しちゃいけないのか?
兵士を早急にまとめあげると、その場を離脱する。そうすれば残ったのはこの部屋に二人と一匹。
「君だけで僕をどうやって外に引きずり出すんだい?」
「え? いや、なにもしませんけど? 10分くらいしたら外に出てくれればいいです」
「なぜ、僕が君の言うことを聞かなきゃならない?」
ドラゴニュートがゆっくりと俺に向かって歩き出す。クロネコは威嚇もせずに、俺の肩からジッとドラゴニュートを見つめている。
「君を殺してこの城の人間も殺せばそれで終わりだろ?」
「俺を殺して城の人間を殺せば、外に出るだろ? 10分くらいで終わるから結果は一緒だ。俺らを殺しても殺さなくても、お前は城の外に出なければ帰ることも出来ないからな」
「興味を持たせて僕をはめたわけだ」
「いや、そもそもさっき程度の奴らと遊ぶ気すらなかっただろ? 万全の態勢でも余裕で勝てるんだから……この国の全軍隊を蹴散らす目算でここまで来たんだろ」
「まぁね。人間たちに徹底的に絶望を味わわせてやろうかと思ってね。最初の血祭はさっきの将軍を予定していたけど、まずは君からかな?」
「子供相手に? 大人げないでしょ? 三級神と同じだけ生きてるのに」
「よく知ってるね」
「俺が死ぬ前に名前を教えてもらっていいかな?」
「僕の名前かい? 僕はグオルドーラ。グオとか気軽に呼んでくれても構わないよ。生き残れたらね」
「じゃ、グオ。そろそろ外に出てもらおうか!『龍撃掌・一式』!」
この世界に来て初めての全力で『龍撃掌・一式』を放った。見えない力が部屋の中いっぱいに広がっていき机も椅子も部屋そのものも押し潰し破壊していく。
完全に不意をつかれたグオルドーラは吹き飛ばされるようにして、壁を突き抜け外へと押し出された。
俺より目の前がポッカリと削り取られたかのように何もなくなっている。発射された威力が強すぎて何もかもが粉砕され粉みじんの塵と化しているのだ。只一つドラゴニュートのみを残して……。
両隣の部屋も、上下の部屋も剥き出しになっている。人間がその部屋に居たら巻き添えを食らっていた可能性はあるが、避難したと判断していた。
そして、今の俺にはあまり余裕が無いことも自覚できた。手の平に汗をかいている。ドロリとしていて自分が怯えているのがわかる。
ドラゴニュートのグオルドーラに渾身の一撃を与えたつもりだった。第一の目的は部屋から出すこと。あわよくば、手傷を負わせられれば良かった。もっといえば不意を衝いたこの一撃で終わらせたかった。
この部屋からは出した。もっとも部屋は無くなっているが……。
そして……それだけだった。部屋から追い出すだけ……俺の『龍撃掌・一式(全力)』はコイツを押し出す効果しかなかったのだ。
「いやぁ、ビックリしたよ。まさか僕の知らない攻撃方法が存在したなんて!」
竜の翼を広げボロボロのタキシードを脱ぎ捨てる。
まったく無傷かよ……勝てる気がしねーなオイ!
だが、外に出した。 俺の役目は終わったと言ってもいいくらいだ。
外から大勢の声が聞こえる。
動くよりも早く、下から光の鎖がグオルドーラに巻きつき地面に引きずりおろしていく。そして、聖騎士の一斉攻撃が繰り広げられた。
聖騎士と国軍と鎧が違うので一目瞭然だ。聖騎士の方が正規軍より多い。
どうやら、光の鎖は司祭の魔法らしい。第二位高司祭・レイを中心に100人単位の司祭が一斉に詠唱しているようだ。ただ、ドラゴニュートは人間とさほど変わらない大きさだ。一斉にかかっていったとしても、剣を通せるのは4~5人程度。こちらも攻撃しずらいが大きな被害も出にくい……と、上から見下ろしていたが、グオルドーラが次第にドラゴン形態に変形していく。
異様に筋肉が盛り上がったと思うと、急に手足が伸び腹や胸がさらに一段階大きくなっていく。
剣や槍の攻撃をするよりも早く大きくなっていくため、兵士が全員退避を余儀なくされる。それでも逃げ切れず大きな肉塊に潰されていく聖騎士や国軍。まだ、満足に戦い始めてもいないのにすでに死人を出している。
接近戦をしたモノは退避、魔法や弓矢の者が一斉射撃。魔法はもちろん弓矢にも何かしらの魔法がかかっている。中には輝くような矢を無数に連射している者もいる。なんだ、あの技! それをもってしても有効打があるようには見えない。
宮廷魔術師十数人が長い詠唱に入る。魔術師と国軍兵が圧倒的に足りない。司祭、聖騎士はかなりかき集めてきたようだ。千人は超しているのではないだろうか。さらにバリスタを用意している。攻城兵器じゃねーか。アホみたいにデカい弓がバリスタ。城に風穴を開けるくらいの威力。それに魔法も加えている。
バリスタが用意されるよりも、グオルドーラのドラゴン形態の方が先に完成する。
デカい!
頭の先から尻尾まで入れれば、100mは優に超す。いや、東京タワーくらいあるんじゃねーか? 333mか?尻尾の一撃で……いや、ドラゴン形態になって、その場所に城があったわけだが半壊している。
急がないと、バリスタが壊される。
ホワイトドラゴンの手が大きく持ち上がったが、宮廷魔術師がその攻撃より早く呪文を完成させる。十数人掛かりのライトニングストーム。電撃の檻に閉じ込める。かなり巨大なライトニングストームだが、グオルドーラの全身は入らない。しかも悠然と動いているし、鱗の一つも傷つかない。
「そんな馬鹿な!」
地上部隊が足元から、身軽に身体中に登っていく。意外とフットワークが軽く達人級の剣士や魔法戦士などがいるのだろう。彼らの剣や槍は見た目からわかるほどの魔力が溢れている。
そのうちの一人が頭まで登り切り目玉に向かいランスを突き立てる!
それと同時に魔法付加のバリスタがグオルドーラのドテッ腹に射ち込まれる。
耳をつんざく轟音と閃光。
煙が晴れる前に、すでにバリスタの二撃目を用意している。聖騎士たちは今の一撃で倒せたとは思っていない。いや、大きなダメージがあったとも考えていない。
「急げ! 反撃がっぁあっぁ!!」
煙の中からバリスタに向かい手が伸びてくる。辛うじてバリスタを動かし壊されることを回避したが、その指揮官は犠牲になった。
煙が晴れて、唖然とする聖騎士たち……。
「どうなっていやがる……」
無傷だった。
バリスタの一撃も、目玉を狙った魔法戦士のランスの一撃も弾き返されていた。
倒せるとは思っていなかったが、ある程度の傷は負わせられる予定だったはずだ。無傷とは予定外だろう。
「この程度で倒せるなんて思っていない! バリスタを、魔法を、弓を、剣を、全ての攻撃を行え!」
将軍が士気の回復を図る。
レイ高司祭も次の術式の準備にすでに入っている。
「ドラゴンスレイヤー中隊投入!」
上空からヒッポグリフに乗った中隊がホワイトドラゴンに突入する。彼らがこの国でドラゴンを討ち取ったことのある部隊なのだろう。100人前後の結構な人数だ。切り札と言えよう。
ヒッポグリフは前が大鷲、後ろは馬の空飛ぶ幻獣。ユニコーンやペガサスは女しか乗せないから男性の飛行ユニットはこれになりやすい。
俺は下手に攻撃が出来ない。聖騎士・司祭と国軍兵が連携を取っているため、遠くからの援護射撃すら味方に当たりそうだ。バリスタの位置に兵が行かないような工夫や、あまり高い位置まで登りきらないようにして、ドラゴンスレイヤー隊の上空攻撃などが考えられている。
黒猫は俺の顔をパシパシと猫パンチで叩いて、肩から降りると「ニャー」と一言 鳴いて走りだし、途中、振り返る。
「ついてこいってことか?」
「……」
「下で待機か?」
「ニャー」
下で待機らしい。
部隊が壊滅したら、俺の出番ということなのだろう。……俺の出番か? あの魔法のバリスタだって、相当な威力のハズだ。俺の『龍撃掌・一式(全力)』以上の威力があるんじゃないのか?
どっちにしろ、この部隊が全滅したらこの国は終わりだろうしな。それどころかこの世界がヤバいかもしれない。宰相とか今頃、泡喰ってんだろうなぁ。
そう思いながら、城から外に向かう。急ぐ必要はないので歩いていく。さすがに俺が出る前に全滅とかいうことはないだろう。というか、アイツらやられたら俺、逃げた方がいいんじゃないか?
ただ、下手に力があると『逃げる』という選択肢が薄らぐ。妖刀持ったら使ってみたい感覚と似てるんだろうなぁ。強くなったら、その力を遺憾なく発揮したくなる。
外に出るまでに10分ちょっとかかった。
大丈夫、全滅はしてない……ピッポグリフが半数になっただけ……震えてない、震えてないよ?
町の方にもだいぶ繰り出している。
ドラゴンが歩いただけで、建物は壊れ、広範囲が焼け野原だ。住民の避難は大丈夫だったのだろうか? 教会側が色々やっていたので大丈夫だと思いたい。
ドラゴンスレイヤー部隊が投入されているのに、相変わらず傷一つないグオルドーラ。
部隊の後ろにいる俺と目が遭うと大きく息を吸い込み始めた。
将軍の声が飛ぶ!
「全員退避! バリスタも捨てろ!! 全力で走れ!」
隊員のほとんどが、その声より早く走り出している。
ドラゴンのその行動は最も恐れられている技、ドラゴンブレスの予備動作。
ここで回避すれば、城も町も兵士もほとんど失うことになる。
「なら、相殺するしかないか! 『虎撃拳・零式』プラス『龍撃掌・零式』!!」
『龍撃掌・零式』の全力全開に身体が耐え切れるように『虎撃拳・零式』で身体の筋力と防御録も上げた。
グオルドーラのドラゴンブレスとほぼ同時だった。
俺の『気』の塊は金色の光の筋でドラゴンに向かい、グオルドーラのドラゴンブレスは俺に一直線に向かってくる。
双方の中央で激突し激しい閃光が飛び散る。鼓膜が破れそうな轟音!
その衝突の衝撃だけで建物や木々が粉々に砕けていく。
俺が全力を出しているというのに、ドラゴンブレスを押し切れない。
「くっそっぉおぉお」
全力を出しているせいで身体中に圧がかかり身体の皮膚が切れ血が飛び散り出す。
押し切れない! ドラゴンブレスが『龍撃掌・零式』突き破りやがった!
次回から新章
キリが悪いのに・・・話は普通にこの続きなので安心設計!




