1-28 預言書の悪意
獣人のアトリーヌが表面上は仲間になった。
パーティーメンバーとして あとで登録することにして、ひとまずカエナに預ける。このあと国内上層部会議に引っ張り出されるので、連れて行くわけにはいかない。
不安そうなアトリーヌを置いていくが、カエナとは年齢も近いし大丈夫だろう、たぶん。
会議の方は国王はじめ、宰相にほとんどの大臣、教会側の高司祭の大半が出席。その中に5歳児の格好の俺。
議題であるホワイトドラゴンについての話をもう一度、一から説明し罵声を浴びせられる。会社の会議でも良くある光景だが、結構応える。しかも、この議題自体、俺の発案でもなんでもないのにな~。本の作者が怒られるべきじゃね?
俺を処刑する話も出てくるわけでして……。国家転覆を狙っているのではないか? などと因縁つけられる。普通に考えれば始祖のドラゴンが現れる……ってことがすでにおかしいから当然である。
この世界の住人の認識として始祖のドラゴンはドラゴンの最強バージョン程度の認識らしいが、前に読んだ本を参考にすると、神レベルじゃないのか? と思うわけだ。勝てるわけがない。
おそらく俺をこっちの世界に呼び出した5級神・ウエルディーより強いだろう。あいつの強さは知らんけど……。そうなると『ブナケデスがどうのこうの』したところで倒せる可能性は低い。
本をもう少し読み進める必要がある。
会議では3日後の備えは最小限ということになった。
国民の避難も無ければ、他国どころか国内の領主に援軍も要請しない。王都内の兵に緊急配備程度である。たしかに、こんな不確定情報で大規模には動けるわけがない。
ここに居る国王、宰相をはじめ大半は疑っている。むしろ緊急配備だけでも良くするものだと思える。その理由は第一位司祭・ビギヌスが全責任を取ると言い出したからだ。
教会側の動きは王国側とはまるで違う。完全にホワイトドラゴンが来ると信じきっている。……そーいえば、俺が神の使者みたいな勘違いがあったっけ? 神の使者の言葉なら否応なしに信じるんじゃないか……神が実在する以上……あれ? 俺のせいで教会側が責任を取るはめになってない?
おそらく、これが覇権争いにも関わってくる。第一位司祭・ビギヌスが全責任をとる……ということは、もしドラゴンが来なければ失脚のうえ教会側の力が削がれる。来れば地位が盤石になるうえ、信者獲得にもつながる可能性がある。とくに弱っている時に力を貸す神がいれば信者になりやすいだろう。
もっともそんな単純なことではないだろうが、デブの司祭と俺は二人三脚の状態なわけだ。本に書かれていることであって、神の言葉じゃないのに思い切ったな、このおっさん。
会議は夜遅くまで続いたが、その一度きりであとは会議が行われることはなかった。
要は3日後、ホワイトドラゴンが来た時点で考えるってーことだ。それにノーマルドラゴン自体はこの国で打ち取ったこともあるそうだ。
そんなレベルじゃないと思うけどね~。
◇
次の日から教会内は慌ただしい。物資の確保や治療班や戦闘班の編成などを行っている。……のに……。
「なに? お前ら暇なの?」
「暇……というか、カンザキ様の護衛 兼 監視なので我々はあの中に含まれません」
「そんなわけで、クソガキが暇なら、俺らも暇 出来るわけだ!」
バセリオンとロッサ。
俺の監視が無くなるわけがないか。逃げられたら、それこそ一大事だろう、あんな議題を吹っかけておいて……。俺のせいじゃないにしろ、何かしらの責任を取らせるつもりはあるだろうからな。
「聖騎士はわかった……お前たちは?」
「ん? コーラを飲みに来た。ついでにアトを返しに来た。この娘ダメだわ~。怯えて話なんてまともにできやしない」
「お嬢様が初めから高圧的に出過ぎなのではありませんか?」
「当然じゃない! まずは相手に舐められちゃ~ダメよ! 威圧しないと!」
カエナとセバスチャン。その後ろにクロネコを抱えたアトリーヌ。現在は人間に化けている。
餌付けの成果か、俺を見つけるとすぐに駆け寄り俺の後ろに隠れる。他の人間にも慣れてもらわないと困るというと泣きそうな顔で頷く。俺が悪いことしてるみたいじゃん?
「まずは2日後の準備かぁ~」
カエナとセバスチャンにコーラを渡す。当たり前のように飲む二人。
バセリオンとロッサも手を出す。
「なに?」
「俺らの分も~」
「聖職者がこーいう交換条件とかどうなのさ。無償で働け」
そうは言っても、さらに二人分のコーラを取り出してやる。
アトリーヌには午後ティー。彼女の胃には炭酸は まだ危険だ!。
俺はファンタオレンジ。
「なにそれー!!」
「ファンタだ」
「ずるい! 私もそれが欲しい!!」
「何にもズルくない! そんなことより」 「そんなことじゃない! ファンタよこせぇ」
首を締め上げてくるカエナ。羽交い絞めで取り押さえるセバスチャン。
「カンザキ様、ここは一つお嬢様に『ファンタ』なるものを差し上げるべきですぞ。さもなければ命の保証は出来かねます。ついでに私の分もなければ命の保証はできかねます」
カエナの分はともかく、セバスチャンもかよ! なんだ、命の保証って!
「お前らコーラ飲んでるだろ! そんなに飲むな。お腹がタップンタップンになるぞ」
「その程度なら、覚悟の上よ!」
「そんな覚悟いらないから! まったく。ファンタをやってもいいが教会の手伝いをするように……。他人事のように聞いているがアトリーヌお前もだ。教会の人の指示に従い働け。バセリオンがアトリーヌの面倒を見てくれ。カエナとセバスチャンで行動を……俺とロッサで行動する。仕事が一段落したらファンタだ。以上、質問は?」
「一段落しなかったら?」
「ファンタは無いモノだと思え」
その一言でカエナの行動は早かった。
「いくわよ、セバスチャン! 教会の仕事を終わらせるわよ!」
「ハッ、カエナお嬢様!」
だが、セバスチャンはさらに大人げなかった。カエナを抱えて廊下を駆け仕事がありそうなところへとすっ飛んで行った。
アトリーヌとバセリオンも仕事を求めて歩き出す。バセリオンが何をしたらいいか知っているだろう。クロネコは俺に預けられる。
残ったのは俺とロッサ。
「クソガキが俺と組むとは思わなかったな? クソガキ呼ばわりするのが気にくわなかったんじゃないのか?」
「選択肢が無かった。カエナとセバスチャンは仕方ない。ロッサにアトリーヌを任せると不安が残る。俺とアトリーヌだと監視がついてないのでダメだろ」
「消去法かよ」
それぞれが仕事に就くが、俺とロッサは大したことはしない。
本の翻訳だからだ。この期に及んで、解決策をこの本から探し出そうということだ。俺は翻訳、ロッサは寝てる。どっか仕事に行くべきだと思うが監視が出来ないと言われればそれまでで、俺の近くだと やるべき仕事は無いそうだ
翻訳していくと前のページと話が食い違っていくことが発覚する。基本的な流れは変わらない。
『3日後ドラゴンが来て世界を滅ぼす』
だが、次のページとの兼ね合いから、世界を滅ぼすのではなく人類を滅ぼすの方が正しい訳なのだとわかる。似ているようだが、だいぶ違う。
この本の作者の悪意を感じる。ワザとニュアンスを分かりづらくし混乱を楽しんでいる。正確に訳せる俺ですら前後を読んでいないと、意味合いが変わりかねない。腹立たしい。
今の所、ドラゴンが3日後来ることは間違いない。人類を滅ぼそうということも間違いない。
ただ、力を示せば撃退できるのではなく『試練』を提示し去っていくらしい。
こりゃー、一度 本を本格的に全部読まないと色々と不備が出てきそうだ。それどころか一度くらいじゃぁ作者の悪意を見逃しかねない。
さらに、この作者がこの本一冊しか書いていないのかもわからない。もし二冊、三冊と出てきたら、合わせて読まないと、また誤解させる話があるかもしれない。
ロッサを蹴り起こす。
「ぐはっ!!」
「仕事だ」
「脇腹を蹴る……な」
涙目になりながら、うずくまり立ち上がることが出来ないロッサに仕事を依頼する。
「解読する本を一通り持ってきてくれ」
「あーん? うんなもん無理に決まってるだろ。ついてこいクソガキ。あと、寝ている時に蹴るな!」
まだ脇腹を押さえている。よっぽど痛かったのだろう。痛いように蹴ったのだから当然だが……。
ロッサの後に従いついていくことにする。
「クソガキ、一介の聖騎士が教会の最重要品を持ち出せるわけがねーだろ」
「そーか、ロッサは階級低そうだもんな。無理に決まってるか」
「腹立たしいな、腹も痛いし! 許可を取って中で確認しろ。監視が俺以外にもう一人つく上に、本の読解もその厳重な室内だけだぞ」
「とーぜんの処置だな。この本だって王子の所から持ってきたわけだし、本来は厳重に保管するべきモノだろうからな」
前に助けた女の高司祭が馬車で移動していた時、聖騎士の護衛が何人もいたもんな~。
扉の前まで来るとロッサが門番らしき人物と話しはじめる。
長いこと話していたが、こちらに戻ってきた。
「駄目だとよ」
「なんで!?」
「理由は簡単だ。許可が取れない。高司祭は走り回っているからな。翻訳してもらいたいのは山々だが本以外のモノもあるので門番ごときが許可の有無は出せないんだ」
「それもそうか……翻訳よりは生き残る方が先だもんなぁ」
「もう少し交渉してみるか? 本の中に生き残る可能性が書いてあるかもしれないんだろ?」
「うーん、可能性はあるが、高司祭の仕事の邪魔をしない方が生き残れる可能性は高いんじゃないかな? 俺の予想だともっと違うことが記されているんじゃないかと思う。今回、生き残った後のこととか」
この本によると今回は生き残れる可能性は高そうだ、が、それは俺がドラゴン戦に参加することが含まれているのかわからない。
個人的には参加したくないし、国も教会もさせる気はない。ガキが一人増えたところで邪魔なだけだろう。
だが、俺自身は自分がある程度 強いことは最近 理解した。聖騎士なら二人でも相手して問題ない。ただ始祖のドラゴンとなれば話は別だ。神レベルと闘うというのだ。国家が全力出しても勝てる見込みがないといえるのではないだろうか? そうなると俺の『気』の力が必要なのか? それもと他に方法があるのか?
だいたい、俺はいてもいなくてもいい存在のハズだ。俺が出ることで、預言書(?)の予定が変わる可能性もある。逆に俺が出ないことで変わる可能性もある……ってーか、その辺しっかり書いといてよ。
仕方ないので、この本一冊だけで理解できることを確認しておくことにする。
前後の文章の関係で、大きな違いはない。が、やはりこの本を書いたやつには悪意というか、イタズラというか明確に困らせようとしていることが伺える。
ブナケデスなど書かずに誰が必要か書けばいい。しかもその選択に翻訳者が必要とか、何をすればブナケデスが満たされるのかとか『重要なことはお前が調べろ』的に何もわからない。
ドラゴンが3日後に来ることまでわかる奴が、この辺のことをわからないだろうか? いやそんなハズはない。
楽しんでいるのか、話せないのか、他の本に書いてあるのか。
それと、この本には俺に選択肢を託している部分もある。相変わらず胃が痛くなるような選択肢だ。
この本によると、ドラゴンの襲来は獣人のせいと言うことになる。
ドラゴンたちは善神と邪神の裁定者だった。
善神が勝ち、人々に地上を与えた……まではドラゴンも納得していたが、ライカンスロープは邪神側になる。その者達を善神が認め地上に住ますことは、ドラゴンたちが認めていないらしい。
結果、地上の人間と認められるか見定めようという見解らしい。この本によるとだが……。
この話を国にするべきかは俺に任されるわけだ。
いや、本が『判断を任せる』とは書いていない。書いてあることをあるがまま話せばいいという考えもあるが、そうすると地上の人間はどうするか?
獣人の排除を行うんじゃないだろうか? そうすればドラゴンは裁定することもなく今回の事件はなくなるわけだ。
だが、俺としては獣人を追い払うことがいいとは思えない。そもそも、神が決めたことだろ? 神とドラゴンが話し合うべきなんじゃないか? 待て、俺、神からこの世界に連れて来られてるぞ? 俺が話し合うのか?
いや、違うな。すでに話し合いの結果、人間の実力を確かめることになったと考える方が普通だ。そして、獣人と力を合わせて乗り越えろ、ということなのだろう。
そこまでわかっているはずなのに、本はそのことを書いていない。理由は獣人と争うか手を組むかは、お前ら次第、と言うことなんだろう。嫌な奴だ。俺の見解を国に話しても意味をなさないから、獣人を滅ぼす方に動く可能性が高い。
結局、黙ってるのが一番だという考えに辿り着く。
別に嘘を吐いているわけではない。不利になることをあえて自ら進言することはない。今のところは俺は、獣人側の人間と言うことになるのかね~。
このドラゴン戦をスキップすることも出来る。俺にはその能力がある。だが、それは無責任すぎる気がする。本を解読した上に、力もある程度あるのだ。もし、国の手に負えなければ微力ながら手伝うべきなのではないだろうかと思ってしまう。
勝つ必要はない。ドラゴンに認められればいいのだ。そんなに難しくは……いや、難しいだろうな~。イヤだな~、面倒だな~。
結論は出ない。
その時になったら考えることにした。
そしてドラゴンが来るという日になった。
わずか3日で……いや2日? でアトリーヌは教会の人と、ビックリするくらい馴染んでた。




