1-27 獣人とライカンスロープ
さて、オジヤの作り方だが、こんなもん我流以外にない。
本当は鍋の後に作るのがいいのだが、残念なことに鍋を食べてからじゃー 時間がかかり過ぎる。
『W B』から取り出したモノ
ガスコンロ、土鍋、塩、水、醤油、ご飯、卵、ダシの元、鱈
材料はこの程度でいいだろう。
まずはダシ汁が必要だ。この辺は好みによるが、土鍋に水、ダシの元を少々、それに鱈を煮る。なぜ鱈をいれるか? 俺が好きだから……。しばらく煮詰めてダシを濃くする。場合によっては鰹節などを使用する方法もある。煮干しは苦味があるので個人的には好みではない。
と、オジヤの作り方を説明していても仕方ないので、アトリーヌと仲良くできないかの話し合いに戻ろう。
「とにかく、アトリーヌはブナケデスとして、ドラゴンと闘う事になるかもしれない。彼女と敵対するということは、世界を滅ぼす可能性がある、と言うことになるわけだ」
ある程度、ダシを濃くした後にご飯を土鍋に入れ、煮ながらかき混ぜる。万遍なくご飯にダシをしみこませるが、ココはあまり時間をかけてはいけない。ご飯を入れてから煮詰めるとドロドロになりノリみたいになってしまう。
「し、しかし、獣人の危険性を無視するわけにはいかない」
「たしか、さっきもそんな話をしていたな、バセリオン。もう少し詳しく教えてくれないか?」
「詳しくも何も、さっき言ったことと大差ない。300年前に起こった魔王侵攻があった。この時、ほとんどの人間、ドワーフ、エルフが魔族側に倒されていく。およそ7割から8割の人口が減ったと言われるほどだ。その魔族たちの王を倒したとされるのが7人の勇者とされている。人間、ドワーフ、エルフはもちろん、その中に獣人がいた。それまで獣人は魔族側……ライカンスロープとして人間を食い殺しているとされていた」
卵を鍋に入れかき混ぜながら、バセリオンの話を聞く。
カエナをはじめ、室内位にいるメンバーは話を聞かず、鍋に集中している。そんな昔話は、当たり前なのだろう。
俺は中の鱈を細かくバラして醤油を入れる。少し味見をして、塩を足したりする。
「その功績を称え獣人たちも、地上に住むことを許し人として扱うと、神々が認めたわけだ。もし、その獣人がいなければ魔王を倒すことは出来なかっただろうということで……。ただ、神々は多くは語らない。彼らを人と認めただけで、どう扱うかまでは言われていなかった。いや、神々のルールで言えないらしい。そのため、人々は初め友好的に接しようとした。が、それが間違いだった」
「食い殺された、ってわけだ」
「そうだ。奴らはライカンスロープとしての本能を忘れてはいなかった。地上に住む魔族ともいえる存在となった。それから人とドワーフは獣人との長い戦いが始まる」
「う、ん? エルフはどこに行った?」
「エルフたちは姿を消した。獣人との戦いが始まる頃には、ほとんどエルフの姿を見る者はいなくなっていた。理由はわからないが、噂では獣人の味方だとか、影で操っているとか、獣人を恐れて逃げ出したとか、良い噂は無い」
だいたい完成したオジヤを取り分け、そこに氷をブッ込む。そして、それをアトリーヌに渡し、食べるように言い渡す。
「ちょーっと、待ったぁ!! あたしの分は!?」
「なんでカエナの分が必要なんだ? それよりも獣人の話が……」
「そんなのは後回しよ! あたしの分の、その怪しげなドロドロの食べ物をよこしなさい!」
「命令系かよ!」
「はっはっは、カンザキ様。カエナお嬢様は我儘なので諦めてください。そして、ついでと言っては何ですが私の分もお願いします」
「何のついでだよ!」
「じゃぁ、俺の分も頼むぞ、クソガキ」
「なんで、クソガキ呼ばわりする奴に作らなきゃならないの!? 一人分しか作ってないよ! また一から作るの!? お前らの飯のことなんか知らないよ。俺は獣人の話を聞いてるんだよ」
「なら、俺の分も頼む。獣人の話と交換条件だ!」
「バセリオンの分まで! そんな美味いもんじゃないよ! ただのオジヤだよ。どっかで適当に夜食でも食べてよ! っくっそ~!」
仕方ないので、改めて4人分作ることにする。だったら初めから多人数分作ればよかったよ。
ブツブツ言いながらガスコンロで再びお湯を沸かし始める。
「うんで? エルフはどうでもいいとして、獣人だか、ライカンスロープはどうなったんだ?」
「え? オジヤは……。まぁ、出来るまで話すか。獣人は人間側についた者の名、ライカンスロープは」
「魔族側の名前……ってことね」
「結局、1匹たりとも人間側につくことはなかった。それどころか、人間、ドワーフが追い詰められることになる」
「そんなに強いのか? いや、強いか。そもそも知識的には人間に匹敵しそうだし、獣の力を持ち合わせていたら手に負えないか……」
「それもあるが、ライカンスロープは人間に変身できる能力がある。これが一番のネックだった」
「人間の軍内部に潜り込んだりして、情報が筒抜けだったわけだ」
「そういうことだ。軍内部ならまだいい。街中に平気でうろつき回る。場合によっては普通に生活していたりする。これを撃退する方法は早々見つからない……だが『隷属の首輪』などが開発されて一転する」
「そんなわけで出来た首輪か。魔法が使えない……つまり、人間に変身できないってことか」
「そういうことだ。これのおかげで一斉に国内外にいる人に化けているライカンスロープを探し出せるようになった」
ちょっとした魔女狩りだな。魔女狩りとは違うか、あれは冤罪しかないし……。だが、隣人が突然、獣人として連れて行かれるのは似たようなもんだろう。
ダシを取った後、ご飯を混ぜながら考えている。
「そして、捕まえた獣人は全て奴隷にするか処分するかの二択となった。ここで形勢は逆転する」
「逆転? それはおかしいだろう。情報を得る方法が減っただけで、逆転できるとは思えない」
「いいや、彼らは町を持っていなかったのさ。人間として紛れ込んでいる者がほとんどで、自らの町を作らなかった。個別に村 程度なら存在していたが、人間の街のライカンスロープとの交流で成り立っていた村だ。大きな街を作らなかったのは一点集中で狙われないようにするためだと考えられている」
「そうなると、獣人同士で連携を取るのが難しくなる、と言うことか。しかも町中からの情報も破壊工作もできない。物資の供給もない」
「あとは狩るだけの簡単な仕事となっていく。初めは大隊で大規模にやっていたが、そのうち中隊、小隊規模でも問題なく狩ることが出来るようになる。捕まえれば首輪をはめて奴隷にする。が、逆らって首を飛ばされる獣人も多い。だが、その争いも近年になって獣人たちが諦めてきて奴隷としての地位を認めはじめ争いが減ってきたわけだ」
「話合えばなんとかなるんじゃないか?」
再び出来上がったオジヤをみんなに配る。
「ねぇ! なんで氷 入れないの!!」
「いや、普通は入れないの! アトリーヌは猫舌だから仕方なくいれてるの!」
なにか納得しない感じでカエナはスプーンでオジヤを掬い上げてフーフーする。見るからに熱そうだから注意しなくとも大丈夫のようだ。
「話し合いは無理だ。……あちっっ!!」
オジヤを口に着けた途端、火傷したのだろう。慌てて口から離すバセリオン。話ながらだから、熱さに不注意だったのだろう。
「300年前ならそうだろうけど……今なら大丈夫じゃねーか?」
「逆だな。あっつっ!!」
ロッサも一口食べて、口を素早く離す。ここまで熱い食べ物はないのだろうか?スープと違いご飯自体が熱いからな~。こんな食べ物は日本にしか……パエリアとかはどうなんだろ? あれも熱いぞ? この世界にあるかは知らんが……。
「300年前なら話し合いも出来たかもしれないが、人間も獣人も殺し合い過ぎた。もはや取り返しはつかない。いまさら仲良く手を繋いで……てーのは無理だな」
「じゃぁ、しょうがない」
別に俺にはどうでもいい話だ。この世界で差別が起きていることなど……俺が解決することでもないし、そんな根深い事解決できるわけもない。それに、この世界の人間が気づくべきことだ。外から言われてやったことなど長持ちしまい。
俺だって『勉強やれ』と言われてやるのと、自主的にやるのでは意味合いは変わってくる。
「獣人だか、ライカンスロープと敵対なりなんなりしてもらってもいい。だが、アトリーヌは別にしてもらう」
「話を聞いていたのか! あと、このオジヤ熱いぞ! 美味いけど」
「話はきいていた。 オジヤが美味いのは良かった。 良く聞け。アトリーヌは獣人だが凶暴じゃない。お前たちは獣人と一括りにするが、例外もある。彼女が例外かどうかわからないという不安があるんだろうが、その保証は俺がしてやる。もし、彼女が俺たちの誰かに危害を加えるなら俺の首を切り落として構わない」
「しかし! そこまで信用する根拠は何だ! 1日か2日しか一緒にいなかっただろ」
信用してないんだけどね……こう言うと、命を賭してる感じがするけど、不老不死だから首切られても死なないと思うんだ~。だから『殺しても構わない』とは言わない。もっとも首切られるのでも相当怖いですけど~。
みんなが俺を見つめる。
一番不安そうなのは、むしろアトリーヌ本人。
「アトリーヌ。仲間を傷つけることはないな?」
「は……はい」
少し戸惑いながらも、力強く頷く。あと、口の周りにご飯粒 多っ!!
「まぁ、人柄かな? 時間が無い、俺の首で納得できないなら他の意見を聞こう。どうすれば、彼女とパーティーを組む?」
それにカエナが素早く手を上げる。
「コーラちょうだい!!」
俺はカエナの前にコーラを置く。
「今、真面目な話してるから、な?」
「私もコーラーを頂けますかな、カンザキ殿?」
セバスチャンもコーラを催促する。たしかに、爽やかになる一時、コカコーラ―だ。
そして、俺もそんなに鈍くない。
「まさか、コーラ一本で折れてくれるのか?」
「まっさかぁ! 10本くらいは貰うわよ! 私はそれで、その獣人の娘を仲間にしてもいいわ」
「私もです。カンザキ様の首をもらったところで、調理法を存じ上げませんからな~」
切ってもいい、とは言ったが調理は困る。
ともかく、カエナとセバスチャンはコーラ10本で手を打ってくれるらしい。なんと男らしい二人だろう。カエナは女か……。
「カエナお嬢が認めるんじゃぁ、しゃーねーなぁ」
「いいでしょう。私たちも仲間に加えることを認めましょう。ただし、私は万が一の場合は、カンザキ様の首を所望します」
「あと、俺らもそのコーラーとかいうモノをくれ」
「コーラーの上、首も……か。俺の首が高いのか安いのか……」
二人にもコーラを差し出す。
これで、表面上はアトリーヌも加えてパーティーを組めることになった。
ちなみに、バセリオンとロッサのコーラの一口目は豪快に噴き出していた。
感想とか評価とかあると嬉しいです
あと前書きとか後書きってあった方がいいんですかね?




