1-24 倒された兵士ですけど、今、目が覚めました
ガキに倒された俺が何とか立ち上がった。
状況は王子がガキと対峙している。同僚は魔法により、まだノビているようだ。もう一人の獣人の奴隷は端で大人しく震えている。
このガキの強さは、半端なモノではないことは理解した。錆びた剣とはいえ一撃で折れるような代物ではない。自分の身体を魔法で強化したのだろうが、問題は強化したことではなく、魔法を唱えたことだ。……いや無詠唱だったか?
奴が着けている『隷属の首輪』は魔法を使えなくする能力と爆破の能力が備わっている。一般兵である俺が原理など知るはずもない。なので、魔法が全く使えなくなるのか、詠唱できなくなるのか、魔力が枯渇するのかはわからない。だが、通常の枠を超えているガキなのは間違いない。
しかも、遠距離魔法も何の苦も無く俺たちに放ちやがった。首輪が効力を発揮していないことは明白。とてもじゃないが抑えられない。
あとは爆破であのガキを脅すくらいしか方法は無いが……有効なのだろうか疑問が残る。
しかし、王子が実践してくれるようだ。
王子の手には首輪の鍵が握られている。鍵 兼 爆破スイッチ……あのガキはどうやってこの状況を乗り切るつもりなのか。
当然、爆破されるかもしれないことを念頭に入れ、俺たちに攻撃してきたのだろうから、その方法を篤と拝ませてもらおう。
まず話しはじめたのは王子だった。
なにかと主導権を取るのが好きな胸糞悪い王子だ。ただ俺も雇われ兵なので金さえもらえば文句はない。普通なら自国の兵を近くに置いておくだろうになぁ。
「くっくっく、クソガキ。これが何だかわかるか? 分からないわけがないよな~。お前の命を左右するカギだ」
「……」
「どうした? 急に無口になって……あぁ、死ぬのが怖いのかぁ」
若干、ガキが震えているようにも見える。怖くないはずがない。しかし、何の考えも無しに王子にデカい口を叩いたとも考えづらい。
「なんていうか、いまいち この首輪がどういうモノかわかんないんだよね~。恐怖も半分?って感じ。その鍵っていくつもあんの?」
「俺以外の奴が持っていれば、そいつから奪おうという魂胆か? 残念だが一つの首輪に一つの鍵しかない。いうなれば、お前の命はこの鍵以外では助かり様は無い」
「じゃぁさー。もし遠くに逃げても爆破できんの? さすがに隣の国まで行っている奴を爆破とかできないでしょ? 逃げられたら終わりじゃない?」
「そんな問いに答えると思ったか? どこに逃げても爆破できると思っていた方が楽しいだろ?」
「あんまり楽しくないな~」
「そうか? 俺とは趣味が合わないようだ」
ガキも王子もニヤケた笑いをしている。どこか壊れているような薄気味悪さがある。
主導権は王子にあるように見えるが、ガキの方の切り札は見えてこない。が、おそらく魔法だろう。ただ何の魔法を使えばこの場から逃げ切れる?
ガキは攻撃系魔法を使うようだから、神官ではないのだろう。そうなると回復は出来ないのではないだろうか? そもそも、首が無くなってしまえば魔法自体が唱えられまい……それより早く死がやってくる。
王子も考えをまとめたらしい。一歩、ガキの前へ歩み寄る。
「さて、運命の選択だ。この場で首を爆破されるか、切り刻まれて辛うじて生き残り俺の奴隷として生き残るか? 好きな方を選べ」
「理不尽な二択だな~」
「世の中、理不尽なことは多いだろ?」
「ごもっとも! でも、この場合 第三の選択があるんじゃないかなっ?!」
ガキが体をバネのようにし、一気に王子へと間合いを詰めた。
しかし、それは悪手としか思えない。どんなに速くとも王子に辿り着くより早く爆破は行われる。流石に無茶過ぎだ。
「どうやら『死』を選択したようだな!!」
室内に物凄い爆音が鳴り響く!
閃光と煙で一瞬、ガキがどこにいるのかわからなくなる……いや、ガキだったモノか?
だが、煙の中に動くガキのシルエットが見える! なるほど強化系の魔法か……だが、それだってダメージが無いわけじゃぁ無いだろ。回復魔法が無いガキには動脈まで達していればお終いだ。
煙が薄くなってきたとき、王子は蹴り倒され、ガキは首を抑え出血を止めようとしている。神官がいれば治せるかもしれない。強化と回復が出来れば首輪を強引に外せないわけでもない……ということか。
もっとも、首輪を付けている時点で魔法が唱えられないはずなのだが……。
王子はすかさず立ち上がり、宝剣で応戦しようとガキに振り下ろすが、片手で止められる。いや、手で止めないと王子は考えていたハズだ。出血しているのだから……。だが、実際には傷ついているはずの首は煙を吐きながら回復していっている。
「バ、バカな! 何故、魔法も唱えず自然に回復している!?」
「知らない? リキュアという回復魔法。攻撃後に発動する自然回復。首輪の爆発は強化で堪えて、残った傷はリキュアで回復。これが俺の首輪の脱出方法」
再び王子に蹴りを入れ石の床に転がし、容赦なく殴りつける。宝剣すら止める腕から繰り返されるパンチはかなり強力だろう。血反吐を吐き、鼻も折れているようだ。
数分 殴っていれば王子の意識も飛んでしまう。いや、むしろ数分持たせたと言った方が正しそうだ。このガキなら一撃で王子を沈めることも出来ただろう。
気を失った王子に黒猫が近づいていき、ポケットの中を漁ると先程と似た鍵を咥えてガキへと持っていく。
「あー、アトリーヌの鍵か。よく覚えてたな」
「ニャー、ニャニャ、ニャー」
「何を言ってるかわからん……わからんが、なんかバカにしてるだろ、お前」
指を鳴らすと白い箱が現れる。その箱から何か飲み物だろうか……を出し美味そうに飲んでいる。
一体、このガキは何者だ?
飲みながら、獣人の震えている方のガキの首輪を外す。
ここで、ようやく俺が動き出す。ボーっとしていたわけじゃない。呆気にとられていただけだ。うん? 一緒に聞こえるだと。だって、怖いじゃん!『隷属の首輪』が効かないガキだぞ?
「待て、お前! お前はともかく その獣人を逃がすわけにはいかない!」
「安い給料なんだろ、命 張るにしては? 俺とやるか?」
「残念だが、王子から直接、けっこういい金額 貰ってるんでな。寝てばかりもいられない」
「そうか、傭兵か。なら、王子が納得すればいいわけだ」
つかつかとガキは王子に寄っていこうとするが、さすがに通すわけにはいかない。
「大人しくしろ。さもないと、大人の本気を知ることになるぞ?」
殺気を放ち剣を抜くとガキは軽く後ろに飛び退いた。
「さすが傭兵……って感じだ。今まで戦った中では一番強そうだ」
笑っている。が、余裕のある笑みとは言えない。警戒していると言った感じだ。俺自身もそこそこの力があると思っている。魔力量で言えば そんじょそこらの魔導師などに勝るとも劣らないと自負している。
そして、このガキからは一切 魔力が感じられない。あれ? 魔力が感じられない? 使い切ったのか?
「お前も俺が戦ってきた中では一番得体が知れないガキだよ」
ジリジリと円を描くように互いの位置を入れ替えながら、相手の出方を伺う。隙を見せれば一瞬で終わりそうだ。
互いの間合いには、まだ遠いというのにガキは突っ込んできた。その特攻では簡単にかわし、さらに剣で後ろから追い打ちがかけられる!
想像以上のことはなかった。
ガキを躱し、背中に向けて剣を振り下ろす……が、硬い! 錆びた剣でも感じたことだが、このガキの強化系魔法は普通の剣でも体まで到達しない。
俺も考えればわかりそうなものだ! 『隷属の首輪』の爆発でも堪えきるほどの強化魔法だ。剣に魔法が無い限り、そう容易くは傷つけられるはずがない。
ガキの狙いは初めから俺じゃなかったってことだ。
場所の入れ替え……要は王子を狙っていた。王子狙いの暗殺者か? だとしたら俺の仕事は失敗に終わったと思って間違いはない。
が、ガキは気を失っている王子の前に行くとしゃがみこんだ。
「人質だ」
「王子を人質に逃げるつもりか? ならこっちは獣人のガキを……」
「そいつが俺と何の関係があるんだ?」
「ずいぶんドライな考え方をするなぁ。でも、嫌だろ? 自分のせいで誰かが死ぬのって」
「とはいっても、背に腹は代えられないからな。本来なら見捨てる……が、今回はその獣人?ライカンスロープ?を離すことになるぜ。王子の命令でな」
「気を失ってるから人質として成り立つんだぜ? その王子を起こしたら暴れるぞ」
「ところが、どっこい!」
「なる……ほど……」
ガキは王子に獣人から外した首輪をはめる。暴れたところで外すことは出来ない。いや、無理に外せばドカンだ。
「そーいやぁ、お前『王子を使う』とか言ってたな。ここまで予定通り……ってことか。もはや王子に逆らう手立てはないわけだからな」
「さて、どーだろうな。それは さておき、俺とライカンスロープの娘とをこの塔から出してもらう。王子の首輪の鍵は別の場所を設け受け渡ししてやる」
「くっくっく、文字通り 王子に首輪を付けたわけだ! まったく災難だ。お前みたいなガキのせいで俺の給料が無くなりそうだ」
俺の言葉などお構いなしに気絶している王子を蹴って起こす。
半狂乱になりそうな王子をガキが首輪の話一つで押し黙らせる。あとはガキの言いなりだった。王子の考えはおそらく復讐だろう。押し黙ったままガキの要求を呑んでいるが、鍵を取り返せば反撃に出ることを考えているのは明白だ。
だが、この塔からの脱出はガキらは成功した。




