1-20 王子様と俺と獣人と
夜と言っていい時間帯に王様の兵に連行されたわけだが、どーも怪しい。
何がどう怪しいかというと
「面を上げい」
その言葉に面を上げて王様の顔を見る……非常に若い。20代前半、あるいは10代後半という可能性すらある。本当に王様か疑いたくなる……が、若い王様がいないわけではない。
ただ、ちょっとガラの悪そうな雰囲気があるのがいただけない。こんな感じで王としてやっていけているのだろうか? 実質、最高司祭が国の祭りごとを行っているのかもしれない。
王との謁見の間に通されていると思うのだが、少々 狭い気もする。兵が左右に3人ずつ並んで、王の横には将軍らしき人物もいる。
そして俺の後に、見張るように2人の兵士。両方ともムチを携えている。何に使うつもりだ……てーか俺にだろうけど、なんだ、この待遇? 状況がよくわからないぞ?
俺の疑問を無視して、将軍らしき男が声高らかにさえずる。
「こちらにおわすは、第一王子・レグイア・ラ・グレンドリアント様にあらせられる」
「は?」
王子? 王子なのか? 俺は王様に呼ばれたと思ったんだが聞き間違いか?
目の前の王子と呼ばれた男は足を組み、薄ら笑いを浮かべて俺を見下し言葉をかける。
「俺の専属翻訳家にしてやる。お前は一生、俺の本だけ訳していろ」
「何、言ってんだ?」
バカなのか? バカそうな雰囲気だが……。
だが、そんなことを思っていると後ろの二人が俺にムチを放った。
軽快な音がして服が破れ背中に激痛が走り、前へと倒れる。
「ぐっぅ!!」
容赦ないな、このクソ王子。
ムチは回避しようと思えば簡単に回避は出来たし、『気』を張って防御することも可能だった。ただ神様の言う『不老不死』に興味があってわざと食らってみたのだが、普通に痛い。本当に不老不死なのか疑いたくなったが、回復が早いようだ。痛みが急速に引いていく。
これは超回復であって不老不死なのか疑問に思う。首を切られても回復するのだろうか。怖くてそんなことは試せない。これからは出来るだけダメージを食らわないことを考えた方がいいかもしれない。
「言葉遣いに気を付けろ、クソガキ。お前の意見なんぞ聞いていないんだ。お前はただ、何も考えず翻訳していればいい。翻訳していれば生かしてやる。しなければ、飯を抜き、ムチを打つ。それでも使えないようなら首を刎ねて魔物のエサにする。何か質問は?」
あー、こういう奴いるよね~。営業に出ると山ほど会うわ~。鞭打ちとか首刎ねとかは無いけど、こっちが立場低いと高圧的に出る奴ね~。
「質問したいことが多すぎるな。まずは俺は王様に呼ばれた気がするんだが?」
「クソガキが知る必要はない」
そう言って指を鳴らすと、再びムチが飛んでくる。今度は『気』でガードするが打たれた振りをするために前に倒れる。
『ガチャリ!』……倒れた後に首輪をはめられた。
これは引きづり回すのに便利だな。
「次の質問はこの首輪はなにかな?」
クソ王子は指を鳴らし鞭打ちを命令する。
答える前に鞭打ちかよ。どうやら、一つの質問に鞭打ち一回だということを覚えさせるつもりらしい。奴隷扱いだな。『黙って言うことを聞け』ってことだろう。
王子が顎で俺を指し示すと、代わりに将軍らしき男が答える。
「その首輪は魔法を封じる首輪だ。酒場で聖騎士と争っただろう? そこでお前が魔法使いだということはバレている。そして、無理矢理引きちぎろうとするか、または、こちらの操作で爆発することが出来る。お前にわかりやすくいえば、獣人たちに付けている元と一緒だ」
分かりづらいですが?
獣人は何でこんな首輪が着けられているんだ? 地位は奴隷なのか? 奴隷じゃなきゃこんな首輪着けないか。……てーことは、俺の現在の地位も奴隷なのか?
「ちょっと待て! 俺が何をしたって言うんだ? なんでこんな扱」
言葉の途中で王子が指を鳴らす。
チッ! ようするに理由なんかないわけだ。とりあえず翻訳させるだけが目的ってーことで罪人とかじゃなくても好き勝手するようだ。
「クソガキ、他に質問は? 無いな。無ければ牢獄で一生、翻訳しろ」
山ほど質問があるけど答えないだろう。ならもういいや。
さて、問題はここで暴れるか、おとなしく従うか……だが、暴れるには この首輪が気になるんだよなぁ。おそらく『気』を張れば防げると思うんだけど、最悪 首が生き別れになりかねない。
もう少し様子をみてからにしよう。場合によっては神様に相談だ。命がけになりかねないからな。
もはや話は無いと、謁見の間から首輪を引っ張られ連れ出される。
そんなとこ引っ張ったら、切れたら危ないだろ! だが、かなり丈夫だ。得体のしれない皮で出来ているのか、切れそうにない不思議な感触だ。
王との謁見の間と勘違いをしたが、どうやら王子の謁見の間らしい。ひょっとしたらどこかの一室かもしれない。
王の名を語ったとなると問題になるだろうが、証人は俺と聖騎士のバセリオンだけ。もみ消すのはわけないだろう。
あとはバセリオンに期待するしかないが、今一つ、どうにか出来る気がしない。神聖王国だから司祭の力は強いはずだが、王族もそれなりの力があるだろう。王宮内を調べることなど簡単にはできまい。
そーなると、自力で脱出も視野に入れなきゃならない。もーこんな世界 放っておくか? 命が危なそうだ。
ズルズルと2人の兵士に引きずられるようにして薄暗く細い螺旋階段をドンドンと登っていく。細い螺旋階段でここが塔だろうと推測する。ときたま螺旋階段の途中に空気穴用の低い位置にある小窓が見える。
そこから入ってくる月明かりと、街並みでこの塔の高さがうかがえる。
3~4階分くらい登っているのじゃないだろうか。この世界にしてはそこそこ高い場所だ。
頂上まで来ると鉄でできた頑丈そうな扉の鍵を開け、中に誰かいるのだろう、威嚇するように声を張り上げる。
「新入りだ! コイツと一緒に翻訳を進めるんだ!」
どんな同居人だと思い、中を除こうとしたら兵士に持ち上げられ、部屋の中へと放り投げられ、石の床に叩きつけられる。
『気』と受け身で、ダメージを流す。
立ち上がった時には、すでに鉄の扉は閉められていた。
脱出は後で考えるとして、部屋と同居人の確認が先だ。
辺りを見渡すと、寝るには痛いそうな木のベット。それと机が一つ。鉄格子の窓に鉄の扉……それで全部だ。部屋の大きさは6畳ほど……一生を過ごすのは勘弁してもらいたい場所だ。
そして、その部屋の隅に汚い布みたいなモノが震えている。そいつが同居人だろう。
丸まっているのでどんな人物だかわからないが、大きさから判断するに子供だろう。子供なのに翻訳家か、頭いいな。
「あー今日からとりあえず、ちょっとの間、一緒に住むカンザキだ。よろしく」
「ごめんなさい! ぶたないでくださいっぃ!!」
握手をしようと手を伸ばしたら、頭を抑え さらに震えだした。
声からして、どうやら女の子らしい。金髪でボサボサの髪、頭を抑えた手は異常に痩せている。
ハッキリ言って、どーしたらいいかわからない。
「とりあえず、落ち着け、な」
「いやぁ……ごめんなさい。ぶたないで……」
「叩かないから、まず、話をしよう」
「……ぃ」
頭を押さえながら、ちょっとだけこちらを見る。
だいたい、俺の見た目は5歳児なわけだ。こいつは丸まってるから、よくわからないが10歳くらいだろう。それなのにこの怯えようはなんだ? 5歳児に苛められてたのか? 少なくとも、あのクソ王子と兵士らは鞭打ちはしただろうな。
この調子なら提案すれば拒まないだろう。拒めば殴られると思っていそうだからな。
「まずはベットに座って」
震えながらもベットへと移動する。
「名前は?」
「ぁ……アトリーヌ」
アトリーヌが着ているモノは布の服……と言えば聞こえはいいがボロの布きれ、といった方が表現としては正しそうだ。
「俺はカンザキ。俺もココに閉じ込められて翻訳するように言われた」
「カン……ザキ?」
「カンザキは名前だ」
「カン、ザキは獣人じゃないのに閉じ込められたの?」
「と、いうことはアトリーヌは獣人なんだ」
女の子のようだ。アトリーヌの頭に目をやると獣耳……猫か?……が指の隙間からピコピコ動いているのが見えた。そして慌ててアトリーヌは自分がしてしまった失敗に震えだす。
獣人だとバレると殴られると思ったらしい。
「ぶたないで! 獣人だけど、ぶたないでくださいぃ! ごめんなさいぃ!!」
「大丈夫、触りもしないから」
俺は拳銃でも突きつけられたように両手を上げる。その行動を恐る恐るアトリーヌが眺める。
この部屋にも鉄格子付きだが小窓がある。子供には少し高く風景は斜め上となる。そこに目をやりながらアトリーヌと会話を進める。
「獣人だと苛められるのか?」
「……ぅん。人間の人、みんな、叩く」
「飯は食べてるか?」
「本が少し読めたときだけ貰える」
殆ど読み進んでいないのだろう、ゆえに食事がもらえていない。痩せている理由はその辺だろう。
仕方ない。
指を鳴らし『W B』を出すと、アトリーヌが震えだした。指を鳴らすと、あのクソ王子が鞭打ちするのを思い出すのかもしれない。が、いちいち それにビビっているようでは この先生きて行くのに不便だろう。逆にいいことがあると思わせるのがいいだろう。
午後ティーを出す。
キョトンとしているアトリーヌ。
何が行われているか、わからないのだろう。わかったら只者じゃないがな。
ペットボトルのふたを開けて渡す。
「あ……ぁのぉ……」
「飲み物だ。毒じゃない。飲め。飲んだら寝るぞ」
「は、はぃぃ」
小声で返答する。質問してこないのも あのクソ王子のせいだろう。質問すれば鞭打ち。それりゃー質問せずに、言うことを聞くようになるわ。
初めは『弁当でも食わすか?』と思ったが、しばらくぶりに食べるなら胃に優しい物じゃなきゃ戻すだろうと考えった。
そのため、一度、元の世界に戻る必要がある。すなわち『寝る』必要があるのだ。
「ぷはぁぁ!! おぃしぃぃ……ぁ、ごめんなさい」
「謝らなくていい、あまり慌てて飲むな。噴き出すぞ?」
俺の話も聞かず、慌てて飲んでゴホゴホと咳き込んでいる。
背中をさすってやろうかと思ったが、触れることを極度に恐れているので近づくのもやめる。
咳き込んだことにアトリーヌは謝るが、適当に流し飲み終わったら寝るよう促す。
本当はこのあと翻訳をやるつもりだったのだろうが、俺の提案に黙って従う。翻訳しないと食事が出ないので心配なのだろうが、それよりも暴力を振るわれる方が怖いのだろう。
疲れていたのか、寝ていなかったのかわからないがアトリーヌは横になるとあっという間に寝てしまう。俺も明日の異世界に備えて、元の世界に戻るため寝る。
この異世界を放棄するにもこの状況は少々 心苦しいから、これくらいは解決しておきたかった。




