1-17 カンザキ VS 聖騎士
私はカンザキ様に対していくつかの勘違いをしていました。
おそらくカエナお嬢様も私と同じだったでしょう。
二人の若い聖騎士を挑発してカンザキ様の実力を見せること。それは聖騎士だけでなく冒険者ギルドの人間にもカンザキ様の実力を知らしめる絶好の機会だと思われました。
いわば布石。
これから先、何を行うにしても子供と思われ、まともに取り合ってもらえないであろうカンザキ様の為に力を示させる場を用意したということです。
ゴブリン退治をした あの実力を見せれば話はかなり変わってくるはず。
もし、私たちの監視下……つまり、カエナお嬢様の許嫁にならなかったとしても、冒険者として活躍しやすいようにしておくことは重要です。
第二位司祭レイ様の監視下に置かれる可能性もありますが、その監視役がカンザキ様より弱いという印象も与えられます。
クランに入るにしても、作るにしても聖騎士を倒せる実力が認められれば行動しやすいでしょう。
もしも、老齢の聖騎士がこの場に来ていたなら成り立たない策でもありました。
カンザキ様の監視役で来たのは若い聖騎士。
彼らはこの役が『ハズレ』だと思って面白くなかったでしょう。子供のおもり……そう思ったに違いありません。出世街道から大きく離脱させられたと、解釈しているかもしれません。実際は違いますが……。
そんなカンザキ様が大きな態度をとれば当然面白くないでしょう。
さらに、挑発するとは私にとっては意外なことでしたが『ロッサはどれくらい強いんだ? Cランク冒険者より上?』とは……。
もっとも彼らの実力で言えばCランクとBランクの間というのが妥当だと思いますが、プライドの高い聖騎士に、そのことを直接 言い放ってしまうとはいやはや何とも……。
しかもさりげなく『自分は無手だ』と更なる挑発と策略。
カンザキ様は風の魔術師なので『無手』であることは嘘ではありません。しかし、誤解を与える。まるで魔法が使えないような……そして、それは私とカエナお嬢様の思惑に一致します。
『リューゲキショー・イチシキ』でしたかな?
見えない遠距離攻撃魔法。軽く放つだけで、聖騎士ロッサの不意を突き気絶させるに十分でしょう。
しかし、曲がりなりにも聖騎士。
カンザキ様が魔法使いだと読んでいる可能性もあります。そのため素早く懐に入り込み呪文詠唱をやらせない手段をとることも考えられますが、カンザキ様は無詠唱。懐に飛び込む前に魔法を放つことが出来ます。
すなわち、どう足掻いても赤髪の聖騎士ロッサに勝ち目はない。
一撃で終わるはず……でした。
ですが、カンザキ様は赤髪のロッサが剣の間合いに入っても『リューゲキショー・イチシキ』を放たなかったのです!
「なんで!?」
お嬢様の焦った声が響き渡ります。
私もなぜ、カンザキ様が何もせずに剣の間合いに入ってしまったのかわかりませんでしたが、思い当たる節がありました。
「まさか、魔力切れでは!?」
「え!?」
「ゴブリン・ホブゴブリンを屠るのに魔力を使い過ぎて『リューゲキショー・イチシキ』が使えないのでは無いでしょうか?」
「そういえば……ゴブリンを倒していくたびに威力が落ちていったような気がするわ」
紙一重でロッサの攻撃をかわすカンザキ様でした。
カンザキ様が叩きのめされるであろう攻撃が繰り出されているのを、大勢の野次馬が固唾を呑んで見守っていました。
しかし、わずかな時間で自体は大きく動きました。
ロッサがモノを壊すように大きく剣を頭上に振り上げた瞬間、カンザキ様はロッサに密着し、剣の間合いのさらに内側に入り込み股の間に足を入れ、ロッサのベルトに手をかけました。
その近い距離は振り下ろすのには剣では狙いづらい位置、一秒にも満たないロッサの迷いの間にカンザキ様はベルトを掴んだまま、体重をかけ腰を腰を落し足をかけると、ロッサは当たり前のように『ストン』と尻餅を着き目を丸くしました。
ロッサの顔の位置はカンザキ様の顔の位置と一緒の高さになると、驚いているロッサの顎に目掛けて真っ直ぐに放つパンチを放たれました。
わずか一撃……。
ロッサ撃沈。
呆気にとられているのはロッサだけではありませんでした。
私はもちろんのこと、カエナお嬢様をはじめ、ロッサの同僚の青髪の聖騎士バセリオン、それに冒険者ギルドの面々、酒場の野次馬……声を上げる者がいません。
何が起こったのか理解が出来ない……というのが正確な表現でしょう。
魔法で攻撃力を上げたのか? という疑問すら浮かびます。
大の大人が簡単に尻餅をつき一撃で気絶など、しかもそれが無手でありながら、どうすればできるのかがわかりません。
が、カンザキ様は平然と言い放ちます。
「無手との戦い方を知らなかったから、今の聖騎士は負けたんだ」
『無手との戦い方』とカンザキ様はおっしゃいましたが『無手』で闘うというのは自殺行為とわが国では思われています。魔法使いでもなければ絶対に勝ち目がないと……。
確かに殴る・蹴るなどできますが、ただそれだけ。次の瞬間には切られるか貫かれるか……勝つはずがない戦い方のはずなのに……。
「どうする? 青髪の聖騎士の人? もういいんじゃない?」
いい訳がありません。
聖騎士が無手の子供にやられたのですから、何が何でも勝ちたいでしょう。
「確かに『無手』の割には少しは出来るみたいだな。そして、先ほどまで俺も『無手』を軽んじていた。だが、慎重に行けば攻略するのは難しくない。要は間合いだ」
さすがに若いとはいえ聖騎士。
すぐさま『無手』最大の弱点を突くことを思いつきます。
子供であるカンザキ様の一歩……これが密着する一歩にならなければ常に剣の間合いが保てる。二歩あるいは三歩 詰めなければ無ければベルトに手をかけることも、足をかけることも敵わない。
すなわち『無手』を無効化したのと同じ……カンザキ様が大人なら、剣の間合いから一歩で無手の間合いに近づけたでしょうが残念です。
「カンザキ……勝てるわよね?」
「……。難しいですね。間合いに入らなければ『無手』は使えないでしょうから……そしてバセリオンは間合いを大きくとるでしょう。負けるわけにはいきませんから。それこそ剣の間合いの外ギリギリでジックリ攻撃を繰り返すでしょう。一歩でも近づけば間合いの外に出るでしょう。決して無手の間合いに入らない戦い方をするはずです」
「そんなの卑怯じゃない!?」
「卑怯とは言えないでしょう。武器の間合いで闘うのは基本です。弓なら弓の間合い、槍なら槍の間合い」
「でも!」
そう、相手は子供なのだ。普通に考えれば殴り合ったって勝てるだろうと野次馬も考えているが、さきほど赤髪ロッサを倒したことが頭をよぎり、それを声にする者はいません。
まるでこれから達人同士が戦うような緊張感の中、バセリオンが広場の真ん中まで進み カンザキ様と向かい合わせになります。
ロッサ同様、鞘のまま剣を構えます。もとより痛めつけるだけで、殺す気があるわけではないので当然の処置といえます。
構えからカンザキ様へ真っ直ぐと突っ込んで一気に剣の間合いまで詰めようとしますが、それと同時に今までその場からさほど動かなかったカンザキ様も向かっていきます。
「!?」
バセリオンの想像以上に間合いが詰まってしまい慌てて、仕切り直しをしようと後に飛び退いてしまいます。
「カンザキ!?」
お嬢様が叫んびました。
おそらく間合いを詰める最高のチャンスだったハズです。しかし、カンザキ様はタイミングを間違えました。もう一歩、バセリオンの踏込を待てば『無手』の間合いに入れたかもしれません。
バセリオンを逃がした、そして もう同じ手を仕掛けても無駄でしょう。
バセリオンの顔には急襲を回避できたと安堵が浮かんでいます。
「龍撃掌・一式!」
「え!?」
バックステップで着地する前に『ドンッ』と低い音が響き渡ったと思ったら、バセリオンが軽く吹っ飛びました。
そのまま、気を失ったらしく起き上がる気配はありませんでした。
一瞬 何が起こったのか、再び理解が出来きません。
まさか、魔力は残っていようとは! 『リューゲキショー・イチシキ』は使えたのです。
誰もが言葉を失い口が開いたままになっています。
カンザキ様が私とカエナお嬢様の所に戻ってきました。
「え? 『リューゲキショー・イチシキ』使えたの?」
「何回も使ってるじゃん?」
「てっきり魔力切れなのかと思いましたが……」
「ん? あぁ赤髪に使わなかったからね。あれは青髪のバセ……なんだっけ? まぁ、二人戦うだろうと思ったから初めに見せちゃうと次の奴に『見えない飛び道具』があるのがバレちゃうだろ? それに『無手』を舐めているなら初めに使った方がよかったしな。あの二人、普通に戦ったら強そうだ」
わずか数分で聖騎士二人を倒しているのに汗一つかかずに『強そうだ』と言われても信憑性がありません。
魔力切れかと思われましたが、どうやら奥の手を隠していただけらしいです。
むしろ、そうなると魔力がどれだけあるのかが気になってきます。
そう、私はいくつもの勘違いをしていました。
しかも、勘違いに対する勘違いまで……魔力があると思っていたら、魔力を使わず、しかし奥の手として取っておいた……私はこれだけでも、何重にも間違いを犯し、さらには接近戦は苦手だろうと思っていたらそんなことはなく、『無手』は『剣』より弱いと思っていたことも考えが甘かったとしか言いようがありません。さらには戦い方は経験がものをいうと思っていましたがカンザキ様は子供……。
はてさて、私は冒険者を何年やっていたのでしょう。まさに私の眼は節穴と思えて仕方ありません。
しばらくして、我に返った野次馬たちが『うぉーぉ!!』歓声を上げ上げていました。
あっさり負けた聖騎士でしたが、彼らが弱かったと思う者はいません。むしろカンザキ様が強すぎるという印象を与えたでしょう。
二人の聖騎士は酒場に運び込まれ椅子の上で休むよう運ばれています。
カンザキ様の話では両方とも軽い脳震盪で気を失っただけだから、すぐに治るだろうとのことでした。
私とカエナお嬢様はカンザキ様の活躍に笑みを浮かべていましたが、予想よりも大ごとになってしまいました。
酒場に連れられて、根掘り葉掘り聞かれるカンザキ様。答えが適当そうでしたな~。
そして監視役の聖騎士二人はグッタリしているので、帰るに帰れない私とカエナお嬢様。
ただ、強い子供が冒険者ギルドにいるという噂が立ち、このあと大変なことになっていくとはこの時は考えてもいませんでした。




