1-14 サクサク行こうぜ ゴブリンの洞窟
町から少し離れたところ。そこにゴブリンが住む洞窟がある。
「2時間15分」
「2時間15分ですな」
「「イエ~イ!」」
カエナとセバスチャンがハイタッチしている。アホなのか? アホなのだろう。
腕時計を5分おきに確認し、ゴブリンの巣の近くに着いた時間をみて喜んでいる。
カエナとセバスチャンは自分たちの時計が互いに同じ時間を指していることに歓喜しているのだ。時計なのだから当たり前なのだが、この世界の時計はまだそこまで正確に時を刻まないらしい。
日に5分から10分ズレるくらいなら正確な方、酷いものは1時間あたりに5分はズレるらしい。
もっとも、時計自体があまりないので基準になるのは日時計らしい。
別にこの世界の時計に興味もないので、ゴブリン退治の話を進めた方がいいだろう。
木陰に隠れながらゴブリンの巣の様子を確認するが、後ろで「いえ~い!」とはしゃいでいる二人がいるのでゴブリンに見つかるか気が気じゃない。
いい加減に腕時計を取り上げるか? そう思った瞬間、二人は急に真面目になった。
「カンザキ様。気を引き締めていきますので」「腕時計を取り上げないでよね?」
凄い感だ。エスパーの領域じゃないか?
ちゃんとやってくれるなら、エスパーでもなんでもいいんだが……。
再び巣の方に目をやる。見張りのゴブリンが二匹。洞窟の入り口の前を行ったり来たりしている。
身長は子供の俺よりは高いが、大人のセバスチャンよりは低い。140cm弱だろうか。
「さて、どうやって倒す?」
俺一人でも、倒せると思うが3人パーティーで来ている。役割分担が必要だろう。
「カンザキ様がお一人で倒してもらいます」
「……」
あれ~? 役割分担しないのか?
それどころか、子供だと思われている俺に一人でやらせるのか? 確かに俺の力を確認してもらおうと思ったが、パーティーとして組んで活躍を見るんじゃないのか、普通?
俺が臆病風に吹かれていると思ったのか、カエナが俺一人にゴブリンと闘っても大丈夫な保険があると後押ししてくる。
「万が一、カンザキがピンチになってもセバスチャンが戦うから大丈夫よ。こう見えてもBランク冒険者なんだって」
「こう見えてもBランク冒険者でございます」
確かにBランク冒険者には見えない。国家以外の依頼を全て受けられるほどの大物なのか疑わしい行動を多々 目にしているからな。コーラ噴き出したり、腕時計ではしゃいだり……。
「しゃーない、じゃぁ俺一人でやってみるか。武器をくれ」
「ないわよ?」
「ありません」
「……」
手ぶらで来ていたなぁ。なんで冒険するのに手ぶらで来てるんだろう俺らは……。俺含めバカすぎる。
いや待て、Bランク冒険者が問題じゃないか?
「セバスチャン!」
「おぉっと、私は自分の武器は持参しておりますぞ。これはカンザキ様の試験ですので、全てカンザキ様の落ち度……と、いうことになります」
そういうと、手の平に拳を当てると そこから手品のように剣が引き抜かれる。まるで魔法みたいだ。魔法か? なら納得だ。
「俺の試験なんて聞いてないよ~。そういうことは先に行ってくれよ」
「見苦しいわよ、カンザキ。諦めて『僕は無能でした。すみません』って言えばゴブリン退治はセバスチャンにやらせてもいいわよ」
相変わらずお得意のふんぞり返るポーズをとるカエナ。別にお前は何もしないだろ。
「だいたい、冒険の用意も何も『文無しだ』って言ったのにな~。用意しようもないだろう。もっともそれでも問題あるわけじゃないけどな」
「へー」
「ほぅ、では、お手並み拝見と参りましょうか」
お嬢様、執事コンビは高みの見物と言った感じだ。
手ぶらの子供がゴブリン相手にどう戦うのか興味津々なのだろう。もっとも、俺がピンチになればセバスチャンはすぐに助けるだろう。助けてくれるだろう。助けてくれますよね? お願い助けてください。ヘルプ、ヘルプミー!!
呼吸を整える。ピンチになったら助けてくれると信じて、戦闘準備。
『気』を使えば、ゴブリンくらいどうということはないはずだ。だが、どれくらいの力を加えればいいかわからない。
ゴブリン自体は大した『気』の力は感じだない。それに合わせて倒せる程度の『気』で、手加減の遠距離攻撃『龍撃掌・一式』にする。
再び二匹のゴブリンを目視。こちらには気づいていない。
『気』は撃ち放った後もコントロールできるので、多少の動きは誘導弾として敵を追える。気づいていない相手なら、まず外すことはないだろう。
構え、手の平を前に突く。
「龍撃掌・一式!」
『ドン!』という激しい音とともに、空気を固めた『気』の弾がゴブリンに叩きつけられる。
ゴブリンの体に見えない球体で凹まされ、岩肌に叩きつけられ血反吐を吐いて倒れ込む。
ちょっと威力が強すぎた。
もう一匹のゴブリンは目を丸くし、何が起きたのか理解できていない。倒れたゴブリンに近づき揺さぶっているが返事が無く、ただの屍のようだ。
仲間の確認よりも、攻撃であろう音の方に向かうべきだったが後の祭りだ。
俺はもう一つの遠距離攻撃も試してみる。
「龍撃掌・二式!」
こちらは風を切る音だけで比較的 静かだが、刃の形がハッキリと見える。しかし、ゴブリンがそれに気づいた時には真っ二つになっていた。
こちらも威力があり過ぎる。もう少し押さえないと、使いどころが難しいぞ。
予想通りゴブリンは弱い。黒騎士と比べても遥かに下だ。この調子なら俺はこの世界では、そこそこ戦える部類の人間と思って問題ないだろう。
少なくともゴブリンに負ける要素は見つからない。
簡単に倒したのでちょっとは二人が見直しているだろうと、後ろを振り返る。
「な、なに、今の?」
「まさか、無詠唱の風魔法をお使いになるとは!?」
「た、確かに弓でもないのに遠距離で攻撃する方法なんて、魔法以外考えられないもんね」
そう言いつつも、二人ともこちらに説明を求めるようなまなざしを向けてくる。
「説明は面倒なので省くが『気』という魔法とは違う能力だ……と思う」
「『だと思う』?」
「詳しくわからないのですかな?」
「『気』はわかるんだけど、魔法の方はわからないんでハッキリ違うとは言えないんだよね、これが」
「そうしますと『魔法である』という可能性も捨てきれないわけですな」
「なるほど、だから『だと思う』なわけね~。じゃぁ魔法と同じ効果なら魔法でいいんじゃないの?」
「そうですな。魔法ということにしておきましょう。面倒ですし」
ダメだと思うけどな。俺が決めたわけじゃない。勝手にそう解釈しているのだ。これ以上の解釈は自己責任でお願いします。
ゴブリンを倒したので巣穴の入り口まで近づいていく俺たち三人。
見張りが声を出す前に片付けているので中から新手が出てくる気配はない。ただし、ただ単に外に出ようとする奴に鉢合わせる可能性はあるけどな。
セバスチャンはゴブリンの亡骸を確認している。
「片方は一刀両断……もう片方は肋骨が砕けて内臓までイッてますな」
「ねぇねぇ、セバスチャン。剣で切らなくても『一刀両断』でいいの? 『真っ二つ』とは違うの?」
どうでもいい会話をカエナがしているな~、と耳を立てながら巣穴の洞窟を除き見る。
暗い……真っ暗だ。
夜目が効かないと、とてもじゃないが見えない。
「セバスチャン。松明かランタン、持ってない?」
一刀両断の説明をカエナにしていたセバスチャンだが俺には厳しい。
「その辺はご自分でご用意なさるのが今回の目的でございます」
「俺の強さはゴブリンである程度わかっただろ?」
「いえいえ、準備も含め一人で冒険できるかを見るのが目的でございます」
セバスチャンは適当なことを言いだした。明らかに動揺している。
要するに忘れているのだ。武器は魔法剣があったが、明らかに他のモノまで出す気配はない。その責任の全てを俺になすりつけて誤魔化しとおすつもりだ。大人って汚い。
「カンザキ、魔法使いなら『灯り』の呪文唱えればいいじゃない?」
「全くですぞ、カンザキ様。なにごとも大人ばかりを頼ってはいけませんぞ。ささっ、ここは一つ『灯り』の呪文を!」
「だ・か・ら・俺は魔法使いじゃ……いや、待てよ?」
セバスチャンが魔法剣を出すのと『灯り』の話でピンッときた。『WB』があるじゃないか!
指を鳴らし『WB』を目の前に出す。
「!? なに!? コーラ!? コーラくれるの!?」
「お嬢様、常にカンザキ様がコーラをくれるわけではありませんよ?」
「そうだったわね。腕時計の方ね」
「そうでございますよ、お嬢様」
「そうじゃねーよ!」
「?? なにその細い棒は?」
「武器? にしては、短すぎますなぁ。手の平より少々、長いくらいですから……」
「懐中電灯……と、言ってもわからないだろうから、簡単に言うと携帯用『灯り』みたいなものかな?」
「うん? 何言ってんの? 光ってないわよ? バカなの?」
「まったくですな。ただの棒を取り出して、『灯り』などと戯言をいうなどとは見苦しいですぞ」
「『灯り』が使えない魔法使いがいても恥ずかしい事じゃないわ。でも、誤魔化そうとするその根性が恥ずかしいのよ! 反省しなさい」
なんで、コイツらに責めたてられなきゃならないんだ? てーか、どんな誤魔化しだよ、棒 出して「『灯り』です」って……。
「まぁ、いいから洞窟に入るぞ」
「良くないわよ。騙したんだからコーラちょうだい!」
「そうですぞ、コーラを所望いたします!」
「お前らちょっと黙ってろ。ゴブリンに見つかるだろ!」
そう言って巣穴の洞窟内に入り、懐中電灯を点ける。真っ暗な中でのLEDライトは抜群に明るい。
「うわぁ!! 光ってるぅ!! 『灯り』だわ! あの棒が本当に『灯り』だったなんて!!」
「信じておりましたぞ、カンザキ様! 私は初めからカンザキ様を信じておりましたとも! ですから、ちょっとだけ、その懐中デ……『灯り』を貸してくだされ~」
「あぁ! ズルいわよ、セバスチャン! そういうオモチャは私が先でしょ!」
「いえいえ、これはきっと危険な者でございます。不肖セバスチャンめが懐中デ……『灯り』の安全性を確かめてからですな……」
二人して、俺の懐中電灯に寄ってくる。まるで灯りに集まる虫のごとく……。
その騒ぎで近くにいたゴブリンに気付かれたらしい。「龍撃掌・一式」と叫び、倒す。無駄に拍手する二人。
「落ち着け。騒ぐとゴブリンが出てくるだろ! しょうがないから、腕時計と一緒に懐中電灯も一人一個ずつ貸し出してやるから……」
「「わーい」」
万歳して喜ぶアホ二人組。セバスチャンの万歳の似合わないこと、似合わないこと。
そして、懐中電灯を二人に渡し、点灯の仕方を説明。説明も何もスイッチのオン・オフだけ。
しかしこの後、彼女たちに懐中電灯を貸したことを後悔することになる。
「ジャキーーン!!」
怪しげなポーズをとって、ライトをつける二人組。
「カエナ!」
「セバスチャン!」
「「二人そろってカエセバーズ!!」」
「ひやっ!」「ほりゃ!」と叫びながら懐中電灯であちらこちらを照らしながらポーズをとりまくる。おかげでゴブリンが無駄に寄ってくる、寄ってくる。
彼・彼女らは只、懐中電灯を当てるだけで、倒すのは俺の『龍撃掌・一式』。
頼むから静かにしてくれ。
「見つけたわ! そこよ! 『リューゲキショーイチシキ』! ババーン!」
カエナが懐中電灯でゴブリンを見つけ出し、俺が『龍撃掌・一式』で倒す。
「私も見つけましたぞ! 『リューゲキショーイチシキ』!」
セバスチャンが懐中電灯でゴブリンを見つけ出し、俺が『龍撃掌・一式』で倒す。
「ふっふっふ、やるわね、セバスチャン」
「お嬢様こそ、Bランク冒険者の私と互角とは流石ですな~」
「お前ら何にもやってないじゃん! 懐中電灯 照らしてるだけじゃん! 全部 俺が倒してるよね!?」
「カンザキは細かいことを気にするのね?」
「そんなことでは立派な大人になれませんぞ?」
納得いかねー。
納得いかないが、ゴブリンの大半を片付けただろう。
そうそう、言い忘れていたが、ゴブリンを退治したら証拠に倒した魔物の部位を持っていくことになっているらしい。セバスチャンがその辺はやってくれていた。魔法剣で剥ぎ取り。
あと、ゴブリンからは使える素材は何にもないらしい。
ちょっと広い場所に出た。
まわりは松明でともされ明るい。懐中電灯が無くとも十分だ。
「『灯り』・オフ! どう懐中電灯の扱いもばっちりよ!」
「ほっほっほ、私なんぞ、すでにオフっておりますぞ」
「やるわね、セバスチャン……」
額に汗を流すカエナ……そういう状況じゃないんですが……。
何かいる。
ゴブリンより一回り大きいゴブリンぽい生き物。おそらくここのボスだろう。
「セバスチャン。あれはなんだ?」
「え? あっ! あれはホブゴブリン!」
「知っているの、セバスチャン!」
なんかセバスチャン、解説役の人みたいだな。




